2022/12/18 のログ
ご案内:「落第街」に『ジェリー』さんが現れました。
■『ジェリー』 >
落第街では珍しい明るい騒ぎが過ぎ去った後。
夢の跡が芥と化した路地裏で蠢くモノがあった。
姿はなく、音もなく、しかし確かにそこに居る。
平和な喧騒だったとはいえ、ロケーションは落第街。
集った輩は裏町の爪弾き者に、不穏をスリルと笑う
有閑者。運営が如何に有能だろうとモラルの無さは
華やかな表舞台から離れた場所で表れる。
乱痴気騒ぎの名残、ゴミが散らばっていた一区画。
目視出来るほどの一線を境に、落第街らしからぬ
清潔さが広がっている。しかもその "線" はじわり
じわりと不潔な区画を侵食し、ゴミも汚れも全て
跡形も無く消し去っていく。
種明かしをすると、此処に居るのはとある学生の
『使い魔』である。所謂『スライム/粘体の怪異』に
近しいソレが持ち前の消化吸収能力を用いて清掃を
行なっているのだった。
■『ジェリー』 >
使い魔こと『ジェリー』の主は此度の一件に一切
関わっていない。未練がましく残る落第街時代の
連絡先から幾つか届いた協力要請は断っているし、
当日の催しに訪れもしなかった。
当時の立場から落第街に身を寄せるしかなかった
恵まれない者が居るのは知っているし、連絡先を
消し切れないのは未だ身を案じる者がいるから。
しかし、それを言い訳に再度落第街に足を向けたら
ずぶずぶと深みに嵌ってしまうのが目に見えている。
もう危ないことはしないと約束した相手もいるので、
"後片付け" を派遣するのが精一杯の妥協点。
学園からの依頼を受け、正式なアルバイトとして
清掃業務を行う打診もあったが、其方は落第街の
事情に明るい彼女に密偵の役割を担わせる首輪の
意味合いが強い。
従ってそれを受ける訳にもいかず、自分の意思で
無償奉仕をしている、というのがこれまでの経緯。
■『ジェリー』 >
薄暗い街の中、境界で認識するしかない不可視の
何かが侵食する光景は事情を知らない者が見たら
ちょっとしたホラー。
遅々とした清掃速度が業務感を薄れさせているのも
ホラーチックな雰囲気を助長する一因かもしれない。
とはいえ、諸事情あってペースはこれが限界。
まず、此処に居る『ジェリー』は本体ではなく
分体である。主人が持つ自衛能力のほぼ全てと
便利機能の大半を集約した使い魔をそのまま
送り込むには、落第街は危険過ぎる。
悪意そのものの存在は勿論だが、懸念すべきは
有害物質。『消化』というプロセスで清掃を行う
『ジェリー』は汚れを一度取り込む必要がある。
衛生環境が良くない上、表の街で流通させられない
クスリが出回る落第街では汚れの中に何が残留して
いるか分かった物ではない。
お陰で本体から離れてダウングレードした機能の
大半を自浄/自衛に割いているのが現状。
魔導具/コンピュータの機能も兼ねるこの使い魔が
うっかり毒物を取り込んで使い物にならなくなると
再培養に結構な時間と費用を要するのである。
ご案内:「落第街」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
「なーにコレ……」
その区画に立ち入ったのは、偶然。
当然お掃除しよう、なんて殊勝な心構えじゃない。
主催者ではなく、あくまで賑やかしでしかなかった女は、
あのあといいきもちで住処に戻って眠りについたものである。
「そういうことをやってるって人たちがいるのは聞いたことあるケド。
……いくらなんでも、綺麗過ぎじゃ……」
女が現れたのは、境界線の向こう側……日常から。
ずいぶんと綺麗に整えられた路地裏を遠巻きに見て、そちらに近寄った次第。
ゴミの類ならともかく、"拾える"ものに限らず清掃されてるなんてのは、
大掛かりな作業でもなきゃちょっとした魔法だ。
「っと――」
広い歩幅で近づいて。
ぶちまけられてまだ間もない飲料水の染みが不自然な形で途切れているのを目視して、
そこを踏まないように"境界線"の直前で立ち止まる。
その場にしゃがみ込み、頬杖をついて観察する。
明かりを背に伸びた影が境界線を侵犯し、"水"の上に濃いシルエットを描いた。
"生体"に対して、果たしてどんな反応をするのか。
■『ジェリー』 >
目視出来る汚れの境界、とりわけ目立つ飲料の
シミに視線を向けたなら、じわりとその "境" が
広がる瞬間も目撃することになるだろう。
それは紙の上に垂らした墨が染みる様に似ている。
汚れを駆逐するソレが異質である点を鑑みるなら、
黒い紙に白の塗料を垂らす行為がより近しい。
そして、もうひとつ。視覚以外に感じ取れるモノ。
ソレは美酒か甘露の如き蟲惑の薫りを有している。
不可視の境界は、落ちる影を知覚したかのように
一度動きを止め、中空に向けて『収束』していく。
其処にあったのはハンドボール大の『水玉』。
透明度こそ高けれど、広がっているのを見逃す
質感ではない。恐らく姿を消せると推測出来る。
ふよふよと表面をさざめかせながら浮遊する水玉は
しばしその場に留まって──
『清掃中』『通行可能です』
ピポ、と電子音を立てて半透明のスクリーンを
ポップアップさせた。敵対の意思は無さそうだ。
■ノーフェイス >
「地面は削れたりはしてないねー。
転送というよりは……吸収してる?ゴミの類もないし……
というよりは結界、あるいは捕食の類、か……?」
たとえば境に足を踏み入れた瞬間に違うところに出ました。
なんてこともありえるのが、この島、この界隈、この時代。
そうやってしげしげと観察していると――思わず喉が鳴った。
(……なんかこの感覚、前にもどこかで……)
魔力――精神力と密接な関係にある概念を生命活動のサイクルのなかで、
自覚的に行使する女には、そうした"糧"に満たされる感覚も知っている。
女の肉体もまた潤沢な魔力を宿した肉体ではあり、歩く霊酒めいている。
血や体液を分け与え、活力の源や魔力の媒体にする手管も持っている。
――けれど、しかし、ここまで匂い立つのは……、そうない。
誘蛾灯……むしろ甘い蜜を讃えたみずみずしい花か。
おなかがすいてくる。のどがかわく。
……どこかで、確か……?
「……さすがに地面ぺろぺろするほど落ちぶれちゃいないケド、ぉっ?」
禁忌に舌を這わせたいという誘惑を理性と尊厳がどうにか振り払った。
ところで素っ頓狂な声をあげたのは、形を成していくその変化に驚いたから、である。
まぶたを落としてまじまじと観察する姿は、
一見不用意なようで、対応する自信があるのか、実質不用意なのか。
凍らずとどまるシャボン玉に、しかし透明すぎて映らぬその貌は。
「うぇっ!?」
響いた電子音に驚きの相を浮かべた。
「……なーにコレ、すごーい!
なるほど、液体の使い魔(サーバント)か……」
自分が不得手とする類の、器用かつ複雑な魔術だ。
プリセットされた行動を取らせるというだけでも適正がなく困難。
自分がやる、という精神性が邪魔をする、自分にはないこの手管と、
まさしく未知との遭遇に、目を輝かせた。
「……いまの時代はコンピュータで制御されてる魔術も珍しくないとは聞くケド、
あらためて見るとびっくりするな、コレ……。
ありがと。ここらへん綺麗にしてくれるのうれしーよ。
あんまり綺麗過ぎるのも違うけど、誰かがやんないと積もっていっちゃうもんな……。
えーっと、んん……"ご主人さまは近くにいるの?"」
責任者に連絡は可能か、という類を、なるべくスタンダードな魔術言語で疎通を試みてみる。
いわゆるAI的なものがどの程度まで積まれているのか、だ。
そのむこうにいる術者の姿をおもいえがくように、対話を試みてみた。
■『ジェリー』 >
『×』
スクリーンに表示されたのはシンプルなバツ印。
(少なくとも申告上)術者は近くにいないらしい。
使い魔が対話可能レベルの自我を有しているか、
それとも術者が遠隔操作しているか。どちらを
想定しても、会話が成立するだけのレスポンス
速度を確保している辺り、高度な術式と言える。
清掃のプロセスは貴方の推察通り、捕食/吸収の
原理だろう。単なる水拭き程度の清掃能力なら
純水と見紛う透明度を保てているはずがない。
貴方に清掃を妨げる意思がないと認識したらしい
水玉は浮遊したまま2つに分裂する。掌サイズの
分体を空中に残し、残りの大部分が再び地面から
壁に掛けて広がりつつ不可視化。
清掃は続行するが、他にも確認事項があれば
小さい方の水玉が対応してくれるようだ。
■ノーフェイス >
「はー……こりゃスゴい。
やっぱいるんだな、優れた魔術師は……とはいえ、話は合わないかも。
最新の形態や言語の記述にはボクがついていける気がしねー……
うーん、ジェネレーションギャップか。やっぱ当世のことも勉強しなきゃだな……」
鳥獣の類でさえ、意思疎通可能な個体を仕込むのは、
女の価値観でいえば相当に困難かつ高度だ。随分と調教が行き届いてる。
立ち上がると、"侵食"の進行方向に半身を向け、時折"清掃"の邪魔にならないように歩を進める。
「マルチタスクなお嬢さんだこと。……お嬢さん?
まあイイか。ボクみたいなのの対応も想定済みってワケね」
ナビゲーション窓口を確保しつつ作業続行する程の、精緻なコマンド記述。
もし敵対行動を取っていたら……なんて考えると恐ろしいが。
かつて、日本を中心に"スライム"を可愛らしいマスコットとして取り扱う文化が広がったというが、
元来恐ろしい怪異だ。頭上から覆いかぶさられるだけで即死の危険性がある個体もいる。
人間を"苗床"にするものもいるという。
「ここまで仕込まれてる奴だと使い捨てじゃないよなー……?
お仕事終わったらご主人さまのとこに帰るカンジ?
メッセージは届けられるのかな、って意味だケド」
肩越しに振り返りつつ、小さい水球に問いかける。
傍目から見たら独り言だ。こいつがおかしい、なんてのはもう周知に近いけれど。
■『ジェリー』 >
『○』『対話による理解は業務の円滑化に好適』
『従って対話も業務の一環と見做されます』
この使い魔が敵対的な運用をされた場合どうなるか。
現時点で判明している性質だけを考えても恐ろしい。
まず不可視化出来る。浮遊出来る。この時点で危険。
頭に取り付かれたらそれだけで窒息死の危険がある。
消化吸収能力の上限がどの程度かは不明だが、並の
スライムレベルを想定しても人間くらいなら簡単に
溶かしてしまえるだろう。
ふよふよと浮かぶ姿こそ愛らしく、マスコットに
足る素養は確かにありそうだが、RPG序盤の雑魚と
侮るには危険。ゲームでなく現実に怪異が跋扈する
この島ならその手の誤解も少ないのかもしれないが。
『ご意見、ご要望があれば主人にお伝えします』
ぴょこ、と小さな水球から触腕に似たモノが
飛び出す。最低限の仕草ながら、やる気を出す
ジェスチャーを真似ているように見えるだろう。
■ノーフェイス >
「業務……」
誰かに依頼されたのか、こういう生業があるのか。
たとえば最近一緒にやってくれるようになった彼の、
落第街の"修繕"活動は、自発的な個人の行動だったはず。
(めちゃくちゃな綺麗好きかな。
もしくは、彼みたいに個人的な友誼からの行動。
――ふだんは表立って"清掃業務"を行ってるコ、とか)
こちら側の住人と考えるには、随分と利口な感じ。
きっと清楚で……多分胸も大きい……なんて妄想を育てながらも。
やりたいからやってるんだ、邪魔するならば覚悟はあるか、なんて。
という類の我道をゆくふるまいは感じなかった。
いや、悪意をもった妨害をしたらヤバそうなのも確かだし。
「そーだなぁ」
女は、この街に対して平和維持や改善という向きを求めてはいなかった。
単純に清掃が有り難いのもあるが、それ以上に、
潤滑油のように"あるきやすく"してくれることは、だいぶ意に沿っている。
でも――胸をときめかせ、手を組んで"ありがとう"と。
言う手合ばかりでないのが、落第街、という場所だ。
「キミのご主人さまの練度はどれくらい?
感覚でいいんだ。教えて欲しいかな」
振り向かせたままの顔が、思案から何かを思いついた笑みに代わり。
ポケットから取り出した短いカプセル状の器具を取り出した。
服を少しだけ捲りあげると、白く引き締まった脇腹に押し付ける。
瞬く間にそのカプセルは濃い紅で満ちた。
無痛針が仕込まれた血液採取キット。この女が受けている当世の技術の粋のひとつ。
傷も残らず流血もなく、痛みはほんのちくっとだけという優れもの。
ぱっと裾を戻せば、指でつまめるサイズのそれは一杯の血液で満ちてい
■『ジェリー』 >
返答に若干の間。ホロウィンドウに表示される
"Now loading" とでも言いたげなビジー記号。
機械生命染みたユニークな『考え中』。
『知識、発想力に秀でる一方で実践経験に不足』
導き出された回答/人物像は如何にも魔術師らしく、
反面魔術師らしくない。ありがちなのは早熟な天才、
温室育ち、或いは知識開拓だけから実践に転向した
学術派辺りか。無論、全く異なる経歴の可能性も
低くはない。"よくある傾向" で測った場合の仮定。
■ノーフェイス >
「忌憚のない意見をどうも、お嬢さん……お嬢さん?」
なるほど、この使い魔にも意思――知能があるようだ。
人口的なものか、天然ものを制御しているかはわからない。
「耳年増ってワケね、フフフ」
摘んだ真紅を満たすガラスのカプセルを顔の前で摘み、
片目を閉じる。開いたままの炎の瞳の前に、
十センチメートルほど離してそれを配置。
「二十四」
ちいさく、赤い唇がつぶやく。
「……いや、三十六くらいいけるかな?難しいかな?」
その唇が笑むと、瞳とカプセルの間に小型の立体魔法陣が展開する。
数十年前の、古い魔術形態だ。今の時代なら、この形態も更に発展している。
制御は人力。脳というCPUに依存する――しかし、それで十分と自負する。
修練によって身につけた己の血肉と手足、それが武器、ニンゲンの証と。
そう考える旧い魔術師は、現代にちょっとした挑戦をしてみた。
「ご主人さまにヨロシク」
瞬きをする。眼球が乾燥してしまったら後が辛い。
血液を媒体に仕込んだのは、三十六層にもなる術式解析パズルだ。
読み解くためには魔術の制御技術だけならず、
知能に加えて暗号を見つけ出す発想力と観察力も必要。
"基礎"というスペックが容赦なく試され、暴かれるような、
高難易度の謎解きをを仕込んだ血液を、
カプセルを開け、ぽたり――と、その水珠に垂らしておいた。
まずはそれをうまく"摘出"することから。超高濃度の魔力の塊を。
(短いお礼の言葉と、ボクの楽曲のURLだけ、なんだケド)
ちょっとした戯れ。素直なお礼にとどまらないひねくれ者なんて、落第街には珍しくもない。
■『ジェリー』 >
ぽつり、垂らされた紅い雫は一滴の悪戯心とでも
呼ぶべきモノか。面白いことに、真っ赤なソレは
混ざりもせず球体となって水玉の内に保持された。
再度ホロウィンドウに表示されるビジーマーク。
先の黙考よりやや短く済んだのは結論が出たから
ではなく、この場での解析が難しいと理解して
切り上げたからだろう。
では、何も分からなかったのかと問われれば
そうでもなく。
『ご挑戦、承りました』
それが『パズル』であると理解した旨の返答。
にょろりと空中で立ち上がり、お辞儀して見せた。
小さな紅い迷宮を受け取った水球はその場で揺らぎ、
姿を消す。とはいえ、すぐに届きはしないだろう。
落第街で渡されたモノに悪意が仕込まれていないと
楽観は出来ない。もっとも、その精査すら忘れて
飛び付くような考え無しに解ける難度のリドルでは
ないのだが……。
気付けば漂う甘露の薫りも失せていた。
もう片方の分裂体も清掃を済ませて去ったようだ。
ご案内:「落第街」から『ジェリー』さんが去りました。
■ノーフェイス >
「異物混入でいきなり溶かしに来られたらどうしようかと思った~」
にこー、と笑顔を見せても、この水球がそれを斟酌してくれるかは分からずとも。
なるほど中々ユーモアがあるようだ。
この向こうにいる人はどんな人なのだろう――なんて興味は、
インターネットにふれているかのようだ、不思議な経験をした。
うえんで遠回りな関わり。相手が気づくかもわからない。それくらいでちょうどよかった。今は。
「ん、いなくなっちゃった」
"業務"が終了したらしい。
喉の乾きや空腹に似た感触は癒えていない。
帰り、近くの屋台通りで串でも買っていこうか。そんな思推の傍らで。
「……なんていうか」
振り向いてみると、すっかり綺麗になった路地裏の一区画。
それをしげしげと眺めていると、心底からの声が漏れる。
「一家に一台欲しい……!」
ご案内:「落第街」からノーフェイスさんが去りました。