2023/07/03 のログ
ご案内:「『ラビット探偵事務所』」にシェン・トゥアールさんが現れました。
ご案内:「『ラビット探偵事務所』」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
■シェン・トゥアール > ラビット探偵事務所…付近に同業者がいないのもあって、ここらへんでは唯一の事務所だ。
仕事は猫探しから浮気の捜査、なんなら荒事まで。
当然、部屋の中はソリッドな感じに決めてあったりして、無骨なコーヒーメーカーと
擦り切れそうなソファ、大きな机が一つある…ぐらい。 のはずなのだが。
「ドールハウスになっとる……。」
探偵はうめいていた。 自分の体をメンテナンスしてくれる間に『ガラテア再現部』がやったのだろう。
サイバーアイで室内を眺めると、そこかしこに自分専用のモジュールなり端子なりが隠されているのがわかる。
つまり、この部屋にいれば安楽椅子探偵を気取ることができるのだ。 そんなのはごめんだが。
そしてこの内装がもっとごめんだが。
内装は柔らか甘い色に統一されており、”女の子”が喜びそうな装飾であった。
ふわふわのソファにベッド、ふかふかのラグにレースのカーテン…。
コーヒーマシンもジュースサーバーに置き換えられていた。
「まあいい、治すのは後だ、後。 お…おおっ…?!」
ため息を付きながらソファにゆっくりと腰掛ける。ふわふわとしたそれに身体がめり込むように埋まっていく。
気持ちいい。 これは人間がだめになってしまう。フルボーグだってだめになってしまう。
大きく深呼吸。 まあいい。 まずは依頼人を待とう。 探偵は焦らないものだ。
たとえ部屋がドールハウスみたいに改装されていたとしても、だ。
■紫陽花 剱菊 >
青田生い茂り炎天下が続く風情。
夏至も過ぎ去り炎暑。涼風は何処、肌を撫でるは宛ら濡れ手。
熱帯夜、と此の幽世では言うらしい。
幽世の奥地、根に兆す落第街を汗一つ掻かず練り歩く男。
名を、紫陽花 剱菊。公安の刃也。宵闇に目を巡らす成ればこその影。
幽世に溢れん魑魅魍魎を斬り捨てるのが役割であれば、必定の存在。
「……む」
然れど、毎夜地獄の業火が灼けるに能わず。
浩然の気。熱を気にしなければ長閑と思えば束の間。
ぽつり、ぽつり、と肌を叩く雨音の気配。お湿りとは、と気分も落ちよう。
ため息一つ、自然と早駆ける両足。付近の錆板を駆け上がり
鬼雨と成りえし前に頭上に櫓。雨宿りでも良いが、如何せん異様に暑い。
然るに、計らずとも傍らには戸があった。何ぞの店とお見受けする。
「…………」
濡れ鼠でうらぶれるよりは、一つ頭を下げると思案。
一つ、二つ、と戸を叩き、ゆるりと戸を開いた。
「……失礼致す。数刻、雨避けをさせて頂きたいのだが……」
早速断りを入れるのだが、自然と剱菊に眉間に皺が増える。
仰々しい程の人形の群れ。如何にも女子が好みそうな空間ではある。
店構え、ではなく、個人の住居である可能性も出てきた。既にやや、気まずいと感じずにはいられない。
■シェン・トゥアール > 小さくドアがきしむ。
すわ依頼人かと立ち上がったが、相手は神妙そうな男だった。
「……あー。 依頼人ではないな。 よし、わかった。
あんたは困ってる。 飲み物と、少しの時間を用意しよう。
濡れた上着は入り口の横にあるコート掛けにやってくれ。」
何もしないのも義理がすたる。さりとて慈善事業をするほど
甘いと思われたくない。 出した結論は『困ってる人を助ける』だった。
軽い調子で声をかけてから、ソファに座り直して…
相手にも反対側のソファを指し示した。
「自分の家にいるような感覚でくつろいで……。
いや、今のは冗談だ。 たいていの人間はこんな家に住んでないな。」
肩をすくめる。 こんな部屋で普通に暮らしていけるのは、
だいぶ女子力が高い人か人形だけだ。 やれやれ、とため息をつく。
この姿では格好つくものもつかない。
「シェンだ。 探偵をやってる。 ここは探偵事務所だ。
……探偵事務所らしいだろ?」
声色には、ちょっとだけ懇願の色が滲む。頼む、探偵と言ってくれ。
だれがどう見たってそう思えなくても、俺は探偵でここは探偵事務所なんだ。
■紫陽花 剱菊 >
眼の前の雌兎は些か落胆している。
此の住居の主であろう。見てくれよりは貫禄を感じる。
いみじくも異質な感覚に剱菊の視線は所在なく彼女へと向いた。
「……其方が主とお見受けする。突然の来訪、失礼致した。
お心遣いには感謝するが、たまさかの縁。ご覧の通り、詮無き男故」
「時雨の一刻、いさせて頂けるだけで良い」
幾許の梅雨が結んだ縁。
居丈高では毛頭なく、有り体に言えば"遠慮している"。
然るべき態度で有り、既に迷惑を掛けていれば必定。
静かに首を振り、戸を閉じれば唯窓の傍。人形に紛れ佇むのみ。
「……生憎と、つぶさに人並みを知らぬ身。然れど、斯様な数の人形は初めて見る」
其の"大抵"を知らぬ戦人。
つぶさに申し訳無さに眉を潜めた。
「其方の趣味では無いのだろうか?
……申し遅れた。私は紫陽花 剱菊(あじばな こんぎく)」
「武しか芸の無い男である。……然て、其の"探偵"とは如何様なものであろうか?」
■シェン・トゥアール > 「そう固くなりなさんなよ。 サムライ…さん?
ここの雨は身体に悪いもんじゃないだろうけど、当たってていい理屈もない。
…とりあえず座ってくれよ、な。 ずっと立たれてたんじゃ居心地もよくない。」
随分と古風な態度…。彼も自分と同じようにこの世界の人間ではないのだろうか。
そんなことを考えつつも、ものすごく厳かな態度に両手を広げてアピールする。
時雨といったって、ぱっと終わるようなものでもあるまいし。
会話の一つでもしようと立ち上がって、コーヒー…ではなくてジュースノサーバーに手をやる。
ご丁寧にリボルバー式の設計になっており、いくつかフレーバーが選べるようだ。
甘くなさそうなやつを選んで紙コップに注ぎ、ソファの元に戻る。
テーブルに二人分のコップを置いてから、ソファに座り直した。
「この身体が珍しいかい? たしかに、ここじゃあフルボーグは滅多に見ないな。
外見は人形だけれどね…”ここ”は人間だよ。 服を着るのと似たような感覚で、
俺たちは外見を…機能を変えることができるんだ。 ま、俺の場合はこの姿が一張羅だがね。」
指で自分の頭を軽く叩いてみせ、ニヤリと笑う。
会心のジョークだ。アイスブレイクにはきっとちょうどいい、はず。
「まあ…この部屋は色々事情がある。
アジバナ・コンギク…。 なかなか珍しい名前だ。 アジさんと呼ぼう。
探偵ってのは……。そうだな。 調べ物のプロで…生き様だよ。
人の大事なものを探し、場所を突き止めて…真実を啓く。
それがあんまり良くないときは…誤魔化したりもする。」
ちょっと驚いた。 探偵という職業すら知らないとなれば、
やはり彼はこの世界の人ではないのだろう。
頑張って探偵のことを説明しつつ、ちょっと盛る。探偵はかっこいいからだ。
「そんで、ここは探偵事務所というわけさ。
にわか雨の避難所でもある。」
だから存分に使ってくれ、と続けてから、紙コップを掲げて見せた。
一口含む。 死ぬほど酸っぱいレモンジュースだった。
それでも表情は崩さない。 探偵はこれしきのことで顔をしかめないのだ。