2023/07/04 のログ
■紫陽花 剱菊 >
「士道を語るには程遠い。私の刃に誉無し。
……然るに戦人で有り。此の常世には無用の長物」
「……然れど、其方の言い条も尤もだ。言葉に甘えさせて頂く」
士道を志す者には能わず。
戦人成れば、行住坐臥。
常時戦場に身を置く成れば、如何様な手段も外法に非ず。
其の数々は士道と呼べば片腹痛き所業であろう。
先ずは主に一礼。上着を掛け、促されるままに座席…ソファへとゆるりと腰を下ろす。
凛然とした居住まいを崩すこと無し。両手は膝の上。礼節は弁えている。
「体……?確かに"違和感"は感じたが……"ふるぼぉぐ"。
失礼。異邦より来たし流浪の身。私はその、"ふるぼぉぐ"とやらを知らぬのだ」
聞けば生身とは違い、人体に細工を施す術と見る。
暗器とは異なる気配ではあるが、如何なる術であろうか。
興味は惹かれている、と剱菊の視線は自然と雌兎の体をなぞる。
静寂の如く涼やかで、童の如く興味を抱いている。
尚、フルボークの発言は些か可笑しいが気にする事はない。
紙コップに注がれた液体に視線を落とした。
飲み物だろうか。玉露や茶では無さそうだ。
「名は如何様にでも読んでいただいて結構。……即ち、隠形か。
然れど、随分と難儀な生業と見える。謂う成れば板挟みのようにも聞こえるが……」
然れど、隠形程身を宵闇に堕とすような気配は無い。
耳朶に染みるは難儀な職業であると思わざるを得ない。
何方かと言えば"何でも屋"。傭兵。其の方が腑に落ちた。
「……時に、今は手漉きとお見受けするが……?」
他意は無き、詮無き一言。
■シェン・トゥアール > 「しかし丁重というか、惚れ惚れすぐ身のこなしだね…。 まあゆっくりしていってくれよ。
ああそうか、フルボーグがわからんか…つまり、俺の全身は機械仕掛けなんだ。
皮膚も、中の筋肉も、骨もだ。 ってことは、生身よりも強い…こともある。」
おちついて座ってくれたのを見て胸をなでおろす。
相手が礼儀正しい人間で助かった。 身体について問われれば、
なるべく頑張って相手が理解しやすいように答える。間違ったことは言っていないはず。
「同じ異世界仲間だ、コンギクさん、よろしくな。
その飲み物は…まあ果物の絞り汁だ。 あいにくお茶がなくてね。
飲みやすいから大丈夫だ。 俺のは…あんまり大丈夫じゃなかった。」
お互いまだこの世界がわかっていないのだ。 なんとなく親近感も湧くし、
リラックスもできようというもの。 自分の仕事に付いての言葉には、少しだ考える仕草。
うさぎの耳がぴくぴくと動く。 うん、と小さくうなずいた。
「隠形…コンギクさんはなかなか渋い言葉遣いをするね。
まあ、なんでもやるんだよ、要するにさ。 金を貰えれば清掃だってやる。
猫も探す。 料理も作るし…行方不明者の捜索もするし、さっき言った通り荒事もな。」
かっこよく決めて満足げにしていたところに、真実を抉る言葉が突き刺さる。
しおしお…とうさぎの耳が力なく垂れた。
「…ああ。依頼人がいないときだってある。 いる時もある。
今日は雨だったからさ、きっと依頼人が来ない日だったんだよ。
コンギクさんが来てくれてよかった。 そうだろ?」
話相手なり、縁なりができたのだ。 この出会いも悪いものではない。
つとめて明るく答えると、うさぎの耳が再びぴんと立ち上がった。
■紫陽花 剱菊 >
「……礼節は最低限学んでいるつもりだ。少しの暇だが、ありがたく……」
謙虚も度が過ぎれば失礼に当たる。
饗される身で有ればこそ、一分も立たせぬこそ無礼也。
戦人では有るがこそ、対面の最低限の礼節は其の身に覚えさせた。
曰く、絞り汁と言われた物を一瞥し、揺らす。
川のせせらぎほど風流ではないが、出されたもの。
如何様なものでも、頂くのみ。
「どれ……」
一口。
するりとした液体が口内に踊る。
お茶とはまた違う。言いしれぬ感覚だが、悪くはない。
甘味はない。が、喉をするりと通っていく。
絞り汁の水面に、摩訶不思議と視線を落とす黒の双眸。
「此れは……?」
如何なる名の絞る汁かと問うた。
「……かの幽世へ流されて数刻経てど、望郷の名残は変えれぬものでな。
些か、私の口は人には時に伝わらぬものらしい。よしんば、そうであるなら済まない」
郷に入ろうとも矯正しきれぬ故郷の口調。
十人十色の常世島故に何に合わせるべきかと自問せど答えはもたぬ。
畢竟、此の口調に落ち着くことになるのだ。
「いみじくも、何でも屋か。絡繰りの体を持つ何でも屋……。
如何にも、生身よりは成せる事は多いだろう……」
強さの是非は敢えて何も言わぬ。
此の場では語るに及ばず、だ。
然は然りとて、雌兎の言葉に合わせて忙しなく動く耳。
立派に反り立つそれはなんとも豊かな感情表現だろう。
終始仏頂面の剱菊と比べれば正しく、雲泥の差である。
即ち、自分の言葉が辱めたようだ。
「……す、すまない。嫌味のつもりはなかった……」
先ずは謝罪。
「……私が来て意味があったかは分からぬが、其方に何時か頼み事をする時が来るだろう。その時は頼む」
■シェン・トゥアール > 「しかし物腰が丁寧な人だなあ。 きっちりしている人は好きだぜ。」
いいねとばかりにうなずいて見せる。 礼儀のための礼儀ではなく、
相手へのリスペクトのための礼儀を心得ている相手であることがわかると、
もてなす側としても気分がよい。
「それはなんて言ったかな…どれどれ…」
ジュースサーバーの方をじっと凝視。 目に組み込まれた読み込み機能が、
組み込まれたタグを分析する。 相手の方に向き直った。
「うん。 ヤシノミだ。 ココナツウォーター…しかも天然ものだよ。
この世界はビルドじゃなくて天然ものが手に入るんだなあ。」
相手の驚きとはまた別の驚きを味わう。
重金属酸性雨に包まれた世界では、天然ものの食材なんて、
よっぽどの金持ちじゃないと口にすることすら出来ない代物だったのだ。
「ははあ…そうか。 たしかに、この世界に来て…戻りたいってなったら、寂しいよな。
気持ちはわかるよ。 おれも……おれのいた世界はあんまりいいところじゃなかったけど、
雨に烟るネオンとか…合成のハンバーガープレートとか…ちょっと初かしく思うことがある。
そうそう、何でも屋だ。 だから便利に使ってくれよ。 コンギクさんも困ること多いだろ。
そういうときはお互いに助け合うのが大事だ。 それこそ、雨宿りとか。」
ぐっと拳を突き出し、親指を立てて見せる。 異邦人は異邦人同士、
こうして角を突き合わせて縁を深めることはとても大事だと思っている。
自分だって…寂しくないといったら、嘘になるのだ。
「まあ探偵業はね、仕事があるときにはあって、無い時にはないのさ。
今日は…コンギクさんが来る運命だったんだ。 何でもやるから言ってくれよ。
事前に言ってもらえれば、どんな状況にも対応できるぜ。 俺ってば…多機能だから!」
機械であることの最大の利点は、機能を取り替えられるということだ。
自信に満ちた様子で相手に元気よく答えてから、ぐいっとコップの中身を流し込む。
酸っぱいけど、まあまあ悪い味じゃなかった。
■紫陽花 剱菊 >
「……何を。見知らぬ人間を容易に懐に収める其方が余程器が大きいと見える」
斯様に人としての礼節など常識の範疇にすぎず、誰でも出来る事。
邪魔した身で言うのも憚れるかもしれぬが、一見を自らの膝下に迎え入れる度量。
真に褒められるべきは其の心意気。剱菊は静かに首を振った。
褒められるべき価値では無しと否定である。
「椰子の実。聞いたことは無いが……不思議な味わいだ」
彼女が言うには貴重な木の実なのだろうか。
椰子の実。如何なる実か分からぬが、悪くない口当たり。
「(だが……)」
密かに焦がれるあの”甘露”。
未だ口に出来ずとは言え、あれと比べれば高揚感は劣る。
……いかん、煩悩だ。一人と静かに黒糸を揺らし、煩悩を払った。
「…………」
戻れるのであれば、戻りたいという気持ちも無くはない。
然れど、敢えて何も言わぬ。流刑の身を受け入れる数々の常世の住人がいた。
寂しさを覚えているのも、諦観に等しき気の迷いだ。
雑念を流し込むかのように、椰子の果汁を一気に飲み干した。
「思うところがない訳では無いが、互いに積もるものも多そうだ。
……助け合い、か。私に返せるのは精々力だが、出来る限りの力に成ろう」
時として此の一杯の恩義は忘れ得ぬもの。
力に成れる事は限られるが、与えられてばかりでは不平等。
支え合いと言うのであれば、次は此方の番だとは言っておかねばなるまい。
いわんや、元気な子兎にふ、と口角が僅かに緩んだ。
気づけば耳朶を染みる雨音は聞こえない。
「其の生業で有れば、実に器用そうだな。
……次は仕事を持ってくる。それでは……」
今度は手土産の一つを約束しよう。
紺色の装束を羽織、剱菊は静かに探偵事務所を後にした。
■シェン・トゥアール > 「探偵の出番はさ…例えば警察とか、友人とか、そういうのに頼れない時なんだ。
だからさ、知らない人とこうやって話するのは慣れっこだってことよ。
いっぱいジュースを奢るぐらいのこともできる。」
律儀に謙遜して返す相手に明るく語りかける。
静かで芯の強い男だが、この紳士的な態度は素晴らしいものだ。
「あんまり飲んだことがないかい。 まあでも飲めたのならいいことだ。
一休みするには悪いもんじゃ……。」
途中で言葉を止める。 何かを考えているような沈黙の後、
それを飲み込むかのように、ぐいとココナツウォーターを呷る相手を見て、口笛を吹いた。
ああいう我慢強さは嫌いじゃない。 たぶん…何か苦い思いを飲み込んだのだ。
同じような仲間だ。 なんとなく親近感が湧く。
「…お互い思う所があるみたいだな。 じゃあ今度は飲みに行って話でもしようぜ。
この辺のいい店は概ね調べてある。 安くて、秘密が守れて…あと安い。
じゃあ相互協力条約ってことでよろしく!」
ちょっとだけ相手の口角が緩む。 笑顔を浮かべてもらうと、探偵として仕事をした気分になる。
依頼者の希望に添えた、というところだ。 こちらも満足げな表情になった。
「ああ、雨もそろそろ落ち着いてきたみたいだな…。気をつけてな。
またなにかあったら、ラビット探偵事務所まで。 ぜひよろしく!」
相手の背中に声をかけて、その姿を見送る。 客人が少し前までいた部屋で、
ソファに座りなおす。 一人でいるときよりだいぶマシな雰囲気だった。
ご案内:「『ラビット探偵事務所』」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「『ラビット探偵事務所』」からシェン・トゥアールさんが去りました。