2020/07/06 のログ
ご案内:「違反部活の拠点――とある孤児院」に幌川 最中さんが現れました。
ご案内:「違反部活の拠点――とある孤児院」に神代理央さんが現れました。
■幌川 最中 > 【前回までのあらすじ】http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca1664.html
■神代理央 > 「私にとって『下らなくないこと』ですか?それは偏に、私自身の選択に介在するモノ足り得るかどうか、ですかね。
先輩だって、明日の昼食を決める時に、何処かの国の大統領の発現など考慮しないでしょう。多くの人々は、隣の国で戦争がおきても、それが明日の仕事に影響が無ければ自然と忘れていく。
自分の生活。自分の選択。自己決定の材料足り得ぬ事は、極論全てどうでも良いのです。
だから、私は孤児達の事はどうでも良いですが、孤児達にとっては私の行動がどうでも良くは無い。不思議なものですね。私と孤児達の決定に介在するのは、中に籠る連中の決定だというのに」
ふあ、と眠たそうな欠伸。結局は、孤児達が生きようが死のうが己にとっての目的を果たせれば良い。だから、孤児達の事はどうでも良いし下らない。と、彼に告げる。
つまり、少年と孤児達の行動を決めるのは、拠点に立て籠もる違反部活生達。それが可笑しくはないかと、緩やかに唇を歪める。
「私の行動は中々賛同を得られませんから。先輩が出張ってきてるという事は、何かしらのストッパーなんじゃないかと流石に勘ぐりますよ。先輩が前線でアキレウス宜しく戦ってくれるならまだしも」
「……ええ、知っていますけど、それが何か?」
二級学生を葬っている事は、単純な知識として理解している。
それがどうかしたのかと、僅かに眉を上げて――
「感情をエネルギーとして捉える、ですか。興味深いご意見ですね。
しかし、感情は数字として捉える事が難しい。先輩の言う事も理解は出来ますよ?積もった恨みは、何れ実害となる。風紀委員会への憎悪が、新たな違反部活の萌芽となるかもしれない。
怒りや憎しみは、容易に数字に成り得る感情です。しかし、それでも」
向けられた平坦な視線。残酷なまでの平等さを灯したかの様な視線を見返す。
「彼等の為にレールを壊す労力を、何故我々が追わねばならないのですか?私達は彼等の親でもなければ、友人でも無い。
彼等の為に注ぐ労力は。私達自身の。共に戦う仲間の為に注がれるべきだ。孤児達を救うために、危険な突入任務を行わなければならなくなった時、それを先輩は待機する皆に強要するのですか?
『彼等のレールを壊す為に。自分の意思で考えるきっかけの為に。危険な目にあってこい』と、仲間に命じるのですか?」
■幌川 最中 > 「なるほどなるほど。
理央ちゃんは頭よくてこら大変そうだな……骨が折れる。
理央ちゃんを言いくるめようと思ったら全身複雑骨折まで覚悟せにゃならなさそうだ」
冗談のように笑いながらも、その声音は至極真剣であり。
事実として、理央の言うことは正しいだろう。単純明快でわかりやすい。
神代理央という少年の主観的な感情を揺らせなければ、それはもう「どうでもいい」こと。
他人であるからして、「こういう」結論が出る以上は、このアプローチはもう終わりだ。
「ストッパーってわけじゃあねえけどな。
だって、現に理央ちゃん止まってない時点でそれとはちょっと違う。
……ま、『現場仕事』に出ていくには丁度よくはあるからねえ。
アキレウスほど戦えるとは言わんが、……言い得て妙ではあるな。理央ちゃんは勘がいい」
肩を竦めたところで、幌川の携帯電話に着信が入る。
困った表情を浮かべながら、「はい、はい」という相槌をいくつかしてから、
「仕事ですからね」とあっけらかんと笑い、通話を切る。そして、現場の風紀委員に対して。
「アーアー、突入。突入命令。
子どもたちには手出しを極力しないこと。死者は極力出さないこと。
それから――理央ちゃんも、ほれ」
幌川は、理央に防弾ベストを投げ渡した。
このご時世でも、大量生産品の風紀委員の文字の入ったベストは「現場仕事」には欠かせない。
理央のような異能を持たない者が「現場」に出るためには必要不可欠なもの。
「異能を使用せず、鎮圧せよ。
……『それ』を命じるのは、俺じゃなくてもっとずっと偉いやつだよ。
俺も命じられる側。異能があろうがなかろうが、ここに立っている時点でその覚悟はできてるさ」
なぜ、我々がやらなければいけないかなんて単純明快で。
アイドルを準備するわけでもなく、誰が見てもわかる『パフォーマンス』のためには。
「――風紀委員、だからな」
幌川のような、無能力者すらも前線に立たせ。
圧倒的に不利であるにも関わらず、そのリスクを現場の人間が背負って立ち。
『旧世代』の警察のように振る舞うこと。
「ノリで」風紀委員会にいる面々ではなく、そこにいることに意味がある面々は。
――『彼等のレールを壊す為に。自分の意思で考えるきっかけの為に危険な目に遭う』ことを、躊躇わない。
■神代理央 > 「全身複雑骨折なんて物騒過ぎませんか。というか、別に私も孤児達を皆殺しにしたい訳じゃありませんよ。その方が効率が良ければそうするだけで」
僅かに肩を竦めつつ、最中の言葉に声を重ねる。
仲間の被害を最小限に。最も犠牲の少ない方法で。それを己が実践しようとした場合、異能による大火力の砲撃が一番では無いかという結論に至っただけ。
ただ、それだけ。そして少ない犠牲の中に、孤児たちが含まれていないだけ。
「私とて、上からの命令で此処に来ているのです。私個人の判断で現場に出たりなどしませんよ。
…勘が良い?それはどういう――」
はて、と首を傾げた時。最中の携帯が鳴り響き何事かを話す彼の姿。漸く突入命令でも来たか。或いは、己に対しての命令か何かか。
其処まで思い至った時、どうにも嫌な予感が走る。己を現場に送り出すのは、基本的に風紀委員会でも落第街に対して厳しいスタンスの面々。所謂『過激派』と呼ばれる様な上層部の一部。
その面々が、最中に何かしらの指示を出すとは思えない。指示を与えるなら、直接己に来るはずだ。
ならば。今回の任務、管制室の権限を手に入れたのは――
「……本気で言っていますか?非効率的だ。異能を使わず鎮圧するなど、メリットが一切無い。
それが命令ならば従いましょう。突入命令そのものも、まあ理解は出来ます。しかし、それは無駄だ。不必要な犠牲を強いるものだ。リソースの無駄遣いだ」
投げ渡された防弾ベストを着込みながら、憮然とした表情で彼に言葉をぶつける。
異形達が掲げていた砲身は未だそのままではあるが、鳴り響いていた不吉な金属音は停止しているのだろう。
「…御立派な事です。だからこそ、私が力を振るっているというのに。
私が落第街の連中に容赦しないのは、先輩達の様な風紀委員を守る為だ。尊ぶべき精神の持ち主達が、1箱数千円の弾丸で命を奪われる事を防ぐ為だ。無辜の一般生徒に必要な人材を守るためだ。
私が守るのは、落第街の連中では無い。一般生徒であり、先輩方の様な同僚であり、学園のシステムそのものだというのに」
防弾ベストを装着し、腰にぶら下げていた拳銃を取り出して残弾を確認。そのまま腰のホルスターへと戻せば、近くにいた委員からアサルトライフルを受け取ってコッキングレバーを引く。
淡々と、突入の準備を整えながら彼に向けるのは、感情の籠らない独り言の様な。或いは、最中に共感しながらも同じ理想を抱けない事への呪詛の様な。そんな言葉なのだろう。
■幌川 最中 > 「世の中、効率だけじゃあなんともならん感情ってのがなあ。
未だに……《大変容》を迎えたこの時代でも、淘汰されきってないんだよ」
効率だけを見るのであれば、異邦人も、異能も、その全てを排除するほうがいい。
それでも、現状排除などしきれず、治外法権じみた常世島なんて島も存在し続けている。
この楽園は、《外》から見れば《モデル都市》だ。
《モデル都市》である以上、パフォーマンスとは切っても切れない関係性にあるが故に。
恐らく、幌川や理央の見えない場所で対立する派閥が議論を尽くしたのだろう。
その結果、理央を手駒として動かす『過激派』が、幌川を手駒に数える『穏健派』に譲歩したのだろう。
この譲歩は、きっと全ての風紀委員会の仕事で行われている。
目的こそ同じではあるが、手段が異なる人間たちが同じ仕事をしようとするならば、
どちらかがその方法論の中で妥協し、譲歩し、歩み寄らねばならない。
思惑はわからないが、今回の答えは『こう』だったのだろう。
「運が悪かったねえ、理央ちゃん。
これは『無駄遣い』じゃなくて『適切な運用』って『上』が判断したわけだ。
だから、ここで「子どもたちが死ぬ」よりも、「俺たちが死ぬ」ほうが安いってわけだ」
無論、死ねと言われているわけではない。100点を取れ、というだけの指示だ。
風紀委員である以上、幌川も訓練は受けている。当然、10年間。欠かさず。
分厚い特殊樹脂で造られた盾。それを担いでから、幌川は笑って前線へ歩いていく。
理央と同じようにホルスターに一度触れてから、上機嫌に。さも、やっと仕事ができると言わんばかりに。
「それなら、理央ちゃんの敵は本当は落第街にはいないのかもしらんな。
学園のシステムは、俺たちを守らないっていう結論を出した。でも、理央ちゃんはそうじゃない。
……ここにいる全員が、理央ちゃんが守るべき人物であると同時に、誰にもこの場では守られない。
俺たちは運がよかったのかもわからんな」
最前線では、幌川の担いだ特殊樹脂シールドと同じものを持った隊員が歩みを進める。
後方では、交渉役の委員が今も大声を上げている。そして、幌川は一度だけ理央の顔を見る。
「俺たち全員、殺さないでくれよ。理央ちゃん」
『穏健派』の手駒のひとつは、そう言ってから――走り出した。
『穏健派』は立てこもっている違反部活生と子どもたちを守る。理央は、『穏健派』の思想から風紀委員を守る。
防衛戦が、始まる。
■神代理央 > 「…下らない。どんなに科学と文化が進歩しても、所詮人は変われないと言うのですか」
忌々し気な舌打ち。しかし、強く反論する事は無い。
彼の言葉は十分に理解出来、己もまた似た様な感想を持つが故に。
それを覆そうと努力しても――所詮、唯の少年に出来る事など、限られて"きた"のだから。
『穏健派』の言い分や行動理念も理解出来なくはない。
第一に、己が異形で孤児院を焼き払えば風紀委員会の評判は大きくマイナスになる事だろう。落第街のみならず、事件が表に出れば一般生徒からの評判も芳しいものが得られるとは思えない。
だからこその穏便な解決。或いは、過度な火力を行使しない突入。
理解は出来る。しかし、それで血を流すのは現場の風紀委員だ。上層部の政治的な判断で傷付くのは、己の同僚だ。
「下らない。本当に下らない!存在すら認められていない街で、戸籍すら無い孤児達を救う事に、風紀委員の命を捧げる等!
風紀委員を育成するコストも!支給する装備も!学園への……いや、人々を守るという想いそのものも!一人一人が得難い人材であるというのに!」
一人の風紀委員を現場に出すまでのコスト。何より、孤児達を救う為に命を惜しまない様な――彼の様な人材の損失より、有象無象の孤児達が大事なのだと。
それは、許しがたい事だった。効率より何より、彼等の想いを踏み躙る様なこの決定が、何より不愉快極まりないものであった。
「……私の敵は、多数派の利益を害する者。システムと秩序の敵。それだけです。先輩達の運が良かったかどうかは、私の射撃実習の点数を見てからにして欲しいですね」
異能を使うな、との指示であれば、彼等を守ると言っても己が用いる事が出来るのは通常火器と肉体強化の魔術くらい。共に突入しても、劇的な戦果を挙げることは難しい。彼等を守れる切り札とは成り得ない。
「勝手に死ぬ事など許しませんよ。先輩の机の上に、どれだけ始末書が溜まっていると思っているのです?
他の皆さんも同様ですよ。私のキャリアの為に――死ぬんじゃないぞ!この馬鹿者共!」
走り出した彼等の少し後ろから後に続き、己の貧弱な身体に魔術を付与。鍛え上げられた風紀委員達に続く疑似的な体力を手に入れれば、彼等の僅かに後方の瓦礫に飛び乗ってライフルを斉射。
突入する彼等を狙う敵を、的確とは言い難いまでも弾幕で牽制しながら打ち倒していくだろうか。
此方にヘイトが集まり、銃弾が集中しても気にする事は無い。何せ、落第街で得た此の魔術の防御力は折り紙付き。かの怪異の一撃すら耐えてみせたのだ。普通の銃弾など、多少痛いだけだ。
■幌川 最中 > どんなに科学と文化が進歩しても、所詮人は変われないというのか。
……変われないよ、と、幌川は言うだろう。ただ、この騒乱の中でそれは口に出ない。
科学と文化が進歩しても、それを生み出すのが人間だったとしても。それを使うのは人間だ。
拳銃と同じ。科学も文化も、引き金を引く者がいなければ何の意味もない。
その引き金を引く者が変わらない限り、銃弾も、科学も、使われ方は変わらない。ほれこのように。
カキン、と銃弾を弾くわけでもなし、特殊樹脂がそれを受け止め、衝撃を盾を持つ生徒に伝える。
この使い方は、《大変容》の前から、少しだって変わっちゃいない。自分たちの腰に下げたそれ然り。
「存在しないからこそ、『気付く機会』を与えるから!
こうして、波風を極力立てないように、誰もが『見ないふり』をできるようにするのが!
……『穏健派(おれたち)』の掲げる、『風紀』だもんでなあ!」
理央の掲げる『過激派』の正義のほうが、きっと正道たる正義なのだろう。
だが、幌川の掲げる『穏健派』の正義はこれまた違う邪道の正義だ。そのどちらもが、目標は同じなのに。
――こんなにも、遠い。同じ人間同士であるのに、こんなにも。
「『代わりはいくらでもいる』からなあ。始末書を書ける人員も、育てられる人員も」
応、と周りの委員から答えが返る。
理央の行いは、風紀委員内にも知る人は少なくない。だからこそ、こうして。
だからこそ――その理央が、こうして声を荒げて、自分たちと肩を並べていることが嬉しいと。
冗談交じりにそう言って、幌川をはじめとする彼らは理央に背中を預けた。
違う正義を掲げていても、同じ道を歩めるということが、彼らにとっては何よりも安堵する話で。
『穏健派』は、これを見越していたのかもしれない。
『過激派』も、予想がついた上で理央をよこしたのかもしれない。
――風紀委員会という委員会は、強固で、想像がつかないほどに、大きな組織だ。
「正面突破! 抑えた違反生は拘束!! 怪我一つさせるな!」
前線は徐々に押し上げられる。物量というのは、単純なる暴力である。
一人二人で抑えられないのであれば、十人で押さえ込めばいい。幌川もシールドバッシュの要領で進んでいく。
正面玄関が制圧される頃には、幸い大きな怪我など出ることなく、勢いのままに廊下に流れ込む。
「理央ちゃんバテてないな!?」
前線から、幌川の大声。
■神代理央 > 過去の話。
父親に連れ添って参加したパーティで、若い武器商人の男が言った。
『異能や魔術が蔓延る世界でも、我々は変わらない。銃を売ろう、剣を売ろう、ナタを売ろう。鉄を封じられたなら、こん棒を売ろう。人が人を殺せる道具を幾らでも提供する。それが我々武器商人だよ』と。
世界平和などあり得ない。人は、皆違うからこそ人足り得る。そして、その違いを許容出来ないのもまた、ヒトなのだ。
だから世界は変わらない。御大層な異能や魔術の持ち主が現れようが、神や仏が顕現しようが、何も、変わらない。
「……ほんっとうに、下らない!見ないふりも、見ないようにすることも、社会が望んだ事だというのに!
貴方達の行いは、民衆に偽善の悦びを与えるだけだ!
『かわいそうだなあ』
『今日のお釣りは寄付しよう』
『募金活動をしよう』
『署名活動をして、彼等が幸せになれるように嘆願しよう』とな!
見たところで、聞いたところで!そこにリソースは割かれないし、割くべきではない!それが何故分からない!」
貧しい者が貧しい儘でいるから、多数派の社会は維持される。
全ての人間が平等な富を得る事などあり得ない。社会のルールとは"ルールが定められた時点で幸福な側"の為に存在し、それが多数派の。主派となる倫理と秩序を構成する。
落第街の住民を皆幸せにする事は出来ない。それでも、彼等は住民の為に駆けるというのだ。
理解出来ない思想。尊敬はすれど、その意見を認める訳にはいかない。だからこそ、彼等に死んで貰っては困るのだ。少なくとも、彼等の意見に理解が及ぶまでは、その身で示し続けて貰わねばならない。
「…代わりなどいるものか!そんな軟弱な思考だから始末書が減らぬのだ!孤児達を救うのだろう!此処の連中のレールを壊すのだろう!それに代わりがいるというなら、その程度の理想、私の砲火で焼き尽くすぞ!」
吠える。背中を預ける彼等に吠えて、叱咤する。
己に『風紀』を掲げたのだから、そんな情けない言葉は聞きたくない、と。
結果として『穏健派』と『過激派』も、同じ風紀委員会なのだ。思想を違え、理想が交差しても、それでも、頂くべき理想の根源は変わらない。
「誰がバテますか!寧ろ先輩こそ息が上がっているんじゃないんですか!年寄りは下がっていても良いんです…よ!」
押し上げられる前線を追いかける様に、長物を構えた己も後に続いて駆ける。撃ち尽くしたマガジンを放り投げ、リロードしている間に襲い来る敵には足元の瓦礫を蹴飛ばして対応する。
再装填されたライフルが再び火を噴く間に、小綺麗な制服は敵の銃弾によって既に穴だらけ。防御全振りで展開した儘の魔術は未だ耐えているが、己の息は次第に荒く、集中力も乱れ始めるだろうか。
■幌川 最中 > 理央の慟哭に、幌川は笑う。
ひどいことをするものだ、と、笑うほかない。
わざわざ、他の穏健派の学生でもよかったろうに、幌川最中を呼び出した。
……言い得て妙ではある。理央ちゃんは勘がいい。
『幌川最中』が現場に喚ばれる理由は、それは、きっと。
この、『神代理央』という学生ただ一人のために、委員会が用意していた。
この仕事そのものが、最初から『そのため』にあったかのような。
幌川はくつくつと喉を鳴らしながら、廊下を駆ける。分こそは悪くないが博打だ。
これだから、『風紀委員会』はやめられない。この組織は、自分よりも博打を愛している。
『自分』を賭け金にする、ひどい胴元だ。離れられるわけがない。
幌川最中は、『だから』風紀委員会を愛している。
代わりはいない。――ああ、そうだ。代わりなどいない。
軟弱な思考。――ああ、そうだ。そうやって、言い訳をしている。
『反面教師』をわざわざ彼に充てがうとは、風紀委員会は本当におそろしい。
『違反生確保、クレアボヤンスが正しければ残りの違反生は恐らく3名。
奥の部屋に人質とともに立てこもっていると考えられます。どうしましょう』
『そうですね……まず、交渉を試みます。こちらで最終交渉を』
『我々は武力の使用を望んでいません。この場において子供たちを解放した場合は、
一種情状酌量が認められる可能性もあります。これは、司法取引です』
『風紀委員会から、違反部活生へと――』
そこまで言ったところで、乾いた拳銃の音が響いた。
誰も彼もが黙りきって、喇叭を吹き鳴らすように幌川は大声を上げる。
「突入ッ!!! 子供たちの保護を最優先!! 武力だけは使うなよ、絶対に、武力だけは――」
前線で、そんなやり取りが行われている隙に。
最後尾付近にいた理央の制服の裾を、小さい少女が引っ張る。
理央の背後には、人が人を殺せる道具を握った、まだ幼い少女がいた。
理央には、誰も気付かない。
誰も、見ていない。
切れ始める集中力の中を、意図的に狙ったかのような小さな刺客が。
理央は『それ』を売る者を知っていても、そんなことを知りもしない少女が握っていた。