2020/07/07 のログ
■神代理央 >
結局の所、所詮は大人達の手の上、だったのだろう。
大人とは、風紀委員会を統括する上層部であり、穏健派であり、過激派であり、そして、この幌川最中という男。
落第街の孤児、という絶対的な弱者を前にして、恐らくそれでも砲火を振るったであろう己へのメッセージ。風紀委員の一つの形を示すモノ。
人々が真に親しみ憧れる。風紀委員の姿を己に知らしめる為の劇場。であれば、己は観客か役者か。
少なくとも眼前を走る幌川は、主演男優賞くらいは取れるかもしれない。腹立たしい限りだが。
そんな思考を巡らせながらも状況は進んでいく。
士気高揚する風紀委員達の圧力は、一人、また一人と違反生を無力化していく。危険な賭けではあったが、結果として最適解を導き出したということだろうか。
それすらも腹立たしい。何だか、彼等の言い分が。理想が。己の行動を全て否定している様にすら感じられる。己の理想は間違えているのだと、此の空間が叫んでいる様な――
「……交渉など。此処迄くればとっとと突入してしまっても構わないでしょうに。時間と労力の無駄でしょう」
ぜいぜい、と前線に追い付けば、最後の交渉に当たろうとしている真っ最中。今更彼等が交渉を聞き入れるだろうか。
元より、大分非合法な違反部活。それでも、彼我の戦力差を考慮すれば投降は有り得なくはない、のだが。
「……言わんこっちゃない。まあ、後ろは固めておくので精々頑張って――?」
くい、と裾が引っ張られる。
見下ろした視線の先の、幼い少女。幾つくらいだろうか。希よりも、少し小さいだろうか。随分と痩せている様にも見える。ちゃんと食事を取れていないのだろうか。
――その手に握られた物は、幼い少女でも英雄を殺し得る道具。旧世紀から、あらゆる悲劇の幕開けを描いてきた血濡れの絵筆。小さな、拳銃が一つ。それに気付いた時には、既に最中達に声をかけるタイミングを失っていた。
「…………っ…!」
ほんの一瞬。ほんの刹那、迷いが生まれた。それは、この少女を救えないかと思う様な気の迷い。
己に銃を向ける少女が恐らく落第街の住民。この組織の構成員。己に放たれた、刺客。であれば、殺しても問題は無い。正当防衛なら、流石に上層部も己を責めたりはしないだろう。
にも拘らず、救えないかと考えてしまった。それは、過ちだ。少女を救うデメリットが多過ぎる。少女を救う事に――リソースを割くべきではない。
そして響き渡る、一発の銃声。
どさり、と何かが倒れる様な音と、ぽた、ぽたと雫が零れる様な音は、周囲の騒音に掻き消えてしまっているだろうか。
「……フ、ン。この私を、殺そうというのなら、装甲師団を3個軍分は用意、しておけ。本当に、不愉快だ。敵にも、侮られるなんて、な――」
銃を構えた少女を抱き締め、腹を撃ち抜かれた一人の風紀委員が。
少女の手から拳銃を払いのけた後、何時もの様に尊大に。力無く、笑う。
■幌川 最中 >
だから、幌川も、理央も。
二人共「学生」でしかなく、「大人」なんかじゃない。
「大人」は、もっと強くて、もっと悪辣で、もっと狡賢くて、もっと――
「アンタが『見なかったふり』をしてもらえるかもしれない。
……今なら、まだ『なかったこと』になるかもしれない。今なら、取り返しがつく。
幸い誰も死んでもいないし、何もしなくたって治る怪我だ。だから、投降を」
幌川が、前線で腰から下げた拳銃を砂の混じった床に放り捨てて。
靴先でそれを蹴飛ばしてから、盾さえも降ろす。両手を上げて、違反部活生に近づいていく。
ゆっくりと。生身の身体で、静かに距離を詰め。手に持ったわかりやすい武器を、違反生は握りしめる。
その手は震えている。であれば、と。幌川は距離をつめる。
「後ろ」は任せてしまったから、絶対に振り返ることはない。自分のやるべき仕事は「こっち」だ。
――
年の頃は10歳にかかるかかからないかほど。
背の低い少女は、首元で髪を縛ってこそはいるもののぼさぼさで、
満足いく暮らしなどできていないことが見ればわかる。きっと、好きな食べ物なんて聞かれても答えられない。
ただ、やるべきことは。……ただ、自分が何をやらなければいけないかということは、わかっている。
盲目的に、「こうしろ」と言われたことを繰り返している少女は、理央に押し付けた銃口から。
ひとやまいくらの銃弾でもって、風紀委員会の――狂犬、なんて呼ばれることもある少年に引き金を引いて。
「……ぁ、」
抱きしめられる瞬間。恐らく、こんな「愛」なんて知らなかったろう。
「死ぬ」ことでようやく「はじまる」はずの自分の人生は、始まっていない。
少しだけ、意識を逸らせばいいという仕事だったはずだ。なのに、なのに。逸らすどころか。
「……なんで……?」
理央の前で、膝をつく。本当だったら、彼に反撃されて自分は死んでいたはずなのに。
どうして息をしていて、どうして、なぜ、彼は、
「……わたしの、お兄ちゃんにはやさしくしてくれなかったのに、」
少女が絶叫する。少女が、先程の理央のように。大粒の涙を落としながら。
「わたしにだけ、……わたしだけ、どうして……!!!!」
きっと、過去にも「こういう」事例はあったのかもしれない。
きっと、同じように物語が紡がれたことはあったかもしれない。
それでも、この一瞬だけは。この慟哭は誰のものでもなく、少女のもので。
『見て見ぬ振り』ができない、正直者の少女の口からは、どうしようもない怒りだけが飛び出した。
――
前線では、仕事は最善最良の形で終止符を打っていた。
投降。自分たちは「子供たちの面倒を見ながら、風紀委員会の新設部隊」への加入で手打ち。
子供たちへの学生登録と生活場所の提供を誓い、誰一人。
誰一人、被害など出ていないはずだった。
「……理央ッッッッ!!」
理央が倒れたことを前線――幌川が知ったのは、この瞬間だった。
異能にも似た直感が、「まずい」と初めて告げた。間違ってから。間違えてから。
「だめになってから」でないと、気付けない。わかれない。使えない、終わったあとに聞こえる虫の知らせ。
少女へ向けて、思わず委員の一人が拳銃を向けてしまう。向けてしまった。
理央のように、「味方を守る」ためにこの場に立っている風紀委員会の学生が。
『発砲許可を……申請します。彼女は、神代委員を撃ちました』
■神代理央 >
己に銃を向けた少女は、本当に、何処にでもいる様な落第街の子供、といった風体。
みすぼらしく、汚らしく、飢えていて、生気が無い。己が尊ぶ『自己選択』を一度も行った事が無い様な少女。
そんな少女に、こうして見事に腹をぶち抜かれたのだから、ざまあないなと。自嘲する様に笑みが零れる。
それでも。抱き締めた細い少女の身体を離す事は無い。
締め上げる事も無い。殴り掛かる事も無い。突き放す事も無い。
ただ、とうに魔術の効力など掻き消えた身体で、少女を抱き締めていた。
「……そんなこと、知るものか」
言葉と共に、鮮血が零れる。苦い。鉄の味だ。甘いものが欲しい。
「貴様だけ、何故。というのなら、兄を救えなかった貴様自身を呪え」
「私を殺し損ねた事を憤れ」
「私は、また。貴様の兄を、姉を、弟を妹を、友達を殺す。だから」
「精々みっともなく足掻いて、生き延びて。私を殺すと良い」
憤る少女の瞳を見据えて、静かに笑って。とさり、と床に倒れ伏した。
――遠くで、声が聞こえる。
喧しい。俺は今、次に小金井に頼むスイーツのメニューを考えるのでいそがしいんだ。それに、ちょっと寒い。さわぐひまがあったら、毛布でももってこい。きがきかないな。
だからさわぐな。ふうきいいんが、たかがこれしきのことでさわぎたてるなぞ、みっともない――
「……発砲、は。許可、しない」
床に倒れ伏したまま。ぼんやりと瞳を開いて。
最中と、少女に銃を向ける仲間に視線を向ける。
「……子供達を、救った意味を、理解しろ。私に異能を使わせず、砲火を掻き消して、お前達が救った事実と、功績と、理想を、穢すな。
……私は眠いんだ。此れ以上騒ぐな。銃声一つ、響かせるのは、許さ、ない――」
そう言葉を締め括ると、ごぽり、と口から血を吐き出して。
ソレを忌々し気に眺めた後、静かに瞳を閉じた。
■幌川 最中 > 恐らく現場の指揮をとっていた学生が、銃を向けた生徒の銃口に手を当てた。
無理矢理、引き金から指を外させてから力づくで銃を降ろさせ、銃口は地面に向く。
『発砲は許可しない。すぐに保健課に連絡を入れろ。
それから、――止血処理だ。何のための異能だ。裏津!『結べ』!』
『は、はい。わかりました、すいません、理央さん……。
ちょっと失礼しますね。許可は……後から取ります。勝手に治療、します』
異能治療。風紀委員会に所属する生徒が、限りなく軽傷で済む理由。
裏津という少女の異能は『結ぶ』異能。縁も、血管も、途切れたものを『結ぶ』だけの異能。
それを、理央の承知すら抜きで施す。ただの応急処置でしかないが、彼女も戦闘などできないが、前線にいる理由。
華奢で、しずかで、どちらかといえば嫋やかな淑女がこの風紀委員会の前線を張っている理由。
自分にできることを、全てやるため。
これは、この場にいる風紀委員の生徒全員の統一意思でもある。そして、理央も、そう。
たったの子供一人で、存在しない人間かもしれないけれど。いるはずのない人間を守るために、こうして血を流している。
その結果だけが静かに横たわっていて、それ以上も以下もない。少しも、ない。
幌川は、舌打ちを一度だけしてから声を上げる。
「撤収!! 担架もってこい、オールクリア! 目標達成!
……『誰一人、死んでない』!!! 当初の目標は達成してる! 帰投!」
こうして、風紀委員会の仕事は一旦、一段落の形を取る。
当初の風紀委員会の被害予測は、「幌川最中という一委員の重傷」である。
それがどうだ。結果は、蓋を開けてみれば「神代理央という個人が被害を負った」。こんな結果。
「誰も予想つかんだろ、こんなの……」
一先ずの指揮を終えた幌川が立ち尽くす。
予測も、何もかもが覆る。想像の外側から、脳を強く揺さぶられる感覚。
「そうなるはずだった」ものが、「ならなかった」。
揺さぶられたのは、現場の面々だけではない。
風紀委員会という大きな組織の中にも――この噂は、じわじわと広がっていくことだろう。
■神代理央 > 騒ぐなと言ったのに。わいわいきゃあきゃあと喧しいものだ。
腹に穴が一つ空いただけで大袈裟な。特段死ぬ様な怪我でも無い。
ただ、ちょっとさむいから、はやく毛布でももってきてほしい。
「………うるさ、い。とにかく、にんむが終了したなら、幌川先輩、に、しまつしょをかたづけておくように、いっておいて、くれ。
それと、わたしの明日のにんむを、だれかおしえてくれ。すらむだったと、思うんだが、ちょっと、きつい…かもしれない、から。――まあ、みな、ごくろうだった。こういう仕事も、わるくは――」
その言葉は、誰に向けたものだったのか。止血を施す少女か。指揮を執る委員か。それとも、幌川最中に向けて、か。
意識を失う寸前まで偉そうに、尊大に。"何時もの様な"口調の儘、ゆっくりと意識を手放した。
幸い、治療の指示が迅速だった事。裏津と呼ばれた少女の異能が的確に、適切に機能した事もあり、多量の出血以外には大事に至らなかったのだろう。
結果として、今迄意識すらしていなかったモノを。『書類上存在しない』と切り捨てていた命を。己の身を傷付けて救った。救ってしまった。
その決断が過ちだったとは思わない。任務に参加していた委員全ての意思を、己も違えず守り抜いたのだから。
だからこそ、少女に向けられた銃口は止めねばならなかった。少女に銃弾が放たれれば、それはあのアキレウスの。最中への侮辱になってしまう。彼の、彼等の想いと行動に泥を塗る事になる。
自分の理想と信念が間違えているとは、決して思わない。それでも、彼等の信念を尊重するくらいはきっと。許される我儘だろう。
この一件は、『穏健派』と『過激派』双方にも漣の様な影響を及ぼす事になる。
『穏健派』は、その政治的判断によって風紀委員に重傷を負わせてしまった。恐れていたマスコミの対応に、今から苦慮する事になるのだろう。得意の政治的な駆け引きは、委員会内部へ発揮する余裕が無くなるかもしれない。
『過激派』は、穏健派に屈した結果、貴重な手駒を暫く利用出来なくなってしまった。まして、負傷した委員はよりにもよって神代理央。都合の良いスケープゴートが無辜の少女を救って負傷したとあっては、今後の行動に大いに頭を悩ませる事になるのだろう。
それらが複合し、絡み合えば。暫しの間、落第街には平穏が訪れるのだろうか。無論、摘発や手入れが無くなる、というわけではない。
細やかな幸せを享受する人々に向けられていた砲声が、少しの間止む。それくらいの、些細な平穏。
それを勝ち得たのはきっと。幌川最中という男の、行動の結果。
■幌川 最中 >
だがしかし。
これを『選んだ』のは――確かに、神代理央であった。
この事実だけは、絶対に変わることはない、……『真実』である。
ご案内:「違反部活の拠点――とある孤児院」から幌川 最中さんが去りました。
ご案内:「違反部活の拠点――とある孤児院」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にアーヴァリティさんが現れました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にフィフティーンさんが現れました。
■アーヴァリティ > 違反部活郡には数日おきに顔を出すぐらいには行きつけのバトルスポットである。
違反部活や違反組織に手練れがいることは多く、それらを鎮圧するために武闘派の風紀などが送り込まれることも非常に多い。
...と言ってもここ1週間、いやそれ以上の間、ここには顔を出していなかった。
「偶には息抜き...ってね。あんまり考えすぎても仕方ないや!」
戦いを求めて彷徨い歩くは幼女にしか見えない戦闘をこよなく愛する怪異の姿。
今日の狙いは風紀委員会。ここのところ風紀が何かしたのかここも動きが活発と聞くし。
ならば風紀がいてもおかしくないね、なんて思考で。
暗い空気に合わない明るい鼻歌まじり比較的広い路地を堂々と歩いている。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にアーヴァリティさんが現れました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にアーヴァリティさんが現れました。
■フィフティーン > 日が落ち、燻る欲望が渦巻き始めるのがこの違反部活群。
様々な犯罪行為を生業とするいくつもの組織が行動を始め
また衝突を繰り広げる。
喰うものと喰われるもの、空に浮かぶ月は両者を平等に照らしている。
そしてその月光を反射しながら重々しい機械音を発生させて
ある建造物の頂点に、まるで周りを見張るように佇む一機のマシン。
風紀委員会内で何かが起こっているらしく、
ゴタゴタに関わらずコンスタントに駆り出せる特攻課の重戦力の
出撃頻度はかなり高まっていた。
いつもなら警戒態勢という形でこのエリアを徘徊するが
今日に限っては少し事情が異なっていた。
「ターゲットを確認、データと照合開始。」
<容姿(一致)。魔素反応(一致)。異能パターン(一致)。>
量子レーダーが捉えているのは、怪異「黒触姫」。
要注意ターゲットとして風紀委員会に手配されている存在で
目撃情報があったことから風紀の戦車が派遣されたのだ。
高めの建造物からその一見あどけない姿を覗く。
射角の都合上、下方向への狙撃はほぼ不可能。
向こう側が気付こうが気付かまいが
モーターを唸らせ地面を蹴り
次の瞬間飛び降り奇襲を仕掛ける。
■アーヴァリティ > 「この音は機械音かな?」
銀髪に隠された小さな耳が捉えたのは機械音らしき音。
機械音と言えば数年前の記憶が掘り起こされる。
あの時のロボットは機械なのに成長を見せてくれて、とても楽しかった。
なんて思いつつ振り返ればこちらへと飛び降りてくる四足歩行の背の低いロボット。
「ああ....ああっ!懐かしいね!君みたいなロボットとは昔やりあったよ!」
こんなに早く望みが叶うなんてね。嬉しくってたまらない。
しかもそいつは懐かしのロボットとどこか似た姿をしている。
あの時のことを思い出しても楽しくなってくる。
こいつもあいつと同じような存在かもしれないなんて期待すれば全身の血が沸騰したように熱くなる・
実に愉快だ、愉快で愉快で仕方がない。そう言った表情をロボットに向けながら両手に白銀の触手をガントレットのように纏わせる。
あの時は遠距離で相手したが、今日は近距離で相手してやろう。
片足を引いて右手を引き絞り、こちらへと襲いかかるロボットにむけてその拳を全力でぶつけようとしつつ、それを避けられた時のために触手での防御を展開して多方向への攻撃に備える。
■フィフティーン > 前足から地面を最後に後ろ足で踏みしめる。
そして複眼は目の前をじっと見つめる。
グリーンで無機質に情報が投影される視界の
真ん中に捉えているのは銀色の髪と蒼い瞳を持つ少女、
情報に間違いはない。戦闘態勢を整えた瞬間に
対象はいきなり此方へと飛び掛かってくる!
<スラスター起動。>
胴体部分に備わるナノサイズの鏡面から照射されたレーザーが
周辺の空気を熱せば急激に膨張する。
その勢いでまるで横方向へ射出されるように小型戦車がスライドし
激しく火花を散らして四つの足が地面を擦る。
軸をずらして通り過ぎるであろうターゲットを捉えるために
レーザースラスターで180度回転しそれを見つめる。
いくつかの触手が確認される。これも情報通りだ。
「こんばんは、ワタシは風紀委員会所属のUQL-1500S。
コードネームはフィフティーンです。
興味深いですね。ワタシのようなマシンが過去に居たのですか?」
<パルスレーザー照射。>
自己紹介と共に照射される赤外線レーザー、
もはやその攻撃も自己紹介の一部と言わんばかりに。
相手に名前を提示するという行動はもはや習慣の一部。
彼女が微妙に手慣れた様子で攻撃を開始した理由は
どうやら過去の経験にあるようだ。
自分に似た存在に出会ったその過去に関心を示しつつ、
パルスレーザーは触手に照り付け、熱で焼き切ってしまおうとする。
触手の性質について機械はまだ把握できていない。