2020/07/13 のログ
群千鳥 睡蓮 > 「あたしは作家に会ってみたくなるタイプなんだよな……だいたいもう死んじゃってるんだけど。
 時間はどうしようもないとして、死を選ぶ人もいる。なぜかな。
 ――ほんっといつでも? 夜中にストロベリーパイの写真送りつけても怒らない?
 本屋に居る時、おすすめの本ない?とか聞いちゃうほうだけど、あたし」

冗談めかして肩を竦めた。そこに居る少女は生きている。
楽しそうに笑って、いまもなにかを目指している。
途方もない何か。真理に問わねばならない何か。空の月より――あるいは。

「……丁寧な解答どうも。 すこしびっくりしてる。
 煙に巻かれちゃうかとおもってた。話してみるもんだ。
 あたしは、戦いは、きらいだな。なるべく避けたい。勝負事は好きなんだけどね。
 でも、あんたは戦ってる。戦わなければならないわけか。
 ……それ、哲学的な話じゃないんだよな?」

技術、という言葉が出てくると、彼女の『願い』は一気に輪郭を見るように思えた。
感情がないようには思えない。記憶がないようには思えない。
そこに見ようとする。『私』の在り方。何が欠けているのだろう。
楽しそう、というには、こちらはずっと思案顔だ。
考える。考えながら確認しながら、喋る。
時折、聞く時にあかねの視線を確認した。先生に問いかける生徒のように。
精神に生まれつきの疾患を抱える者に、こういう例がある。
そうでないかもしれないし、そうであることもある、という特徴。
睡蓮は後者だ。

「じゃあ、あたしの話してるあかね先輩は『私』じゃないの?
 ……別の人になっちゃうなら、ちょっとさみしいけど……そこまでして手を伸ばしてるんだから、よっぽど大事なものか。あるいは、そうでなければならない何かがある。
 ……ふつうに暮らせないとか」

自分に照らし合わせれば、発想は実に貧困だ。
解答を期待したものじゃない。考えると思考が溢れて、確認する癖がある。

「先輩……あたしは喋らせっぱなしってのがどうしてもすわりが悪いほうで。
 問えば、問うてほしくなる。もらえば、なにかを返したくなる。
 あのときだって――あたしは安全なところから、マスクの裏から声を投げてただけだ。
 どうぞ、お好きなように。なんでも。いくらでも。いまでも。
 あたしを知ってほしいし、そうすりゃもっとあんたを知れるだろう。――『心』を」

糧を。
少年誌が好きなんて、なかなか活発なところもあるじゃないか。
こう見えて愛と勇気を奉じているのかな。そんなことも考える。

日ノ岡 あかね > 「写真届いても怒らないし、聞かれれば私はいつでも答えるわ。私はいつでも私よ。まぁ、この島に来る前の私と違う事は間違いないけどね。外にいられないから『こっち』にきたんだし」

こっち。常世島。
外では暮らせなかった。少なくともあかねの好きなようには。
異能者の末路ともいえるのかもしれない。

「同じね。私も勝負事は好きな方。だけど武器を手に取ってドンパチとかはあまり好きじゃないだけ」

あかねは一つ一つ答える。
黄金の瞳から目を逸らさず。
ずっと顔をみたまま。
ずっと目をみたまま。
楽しそうに、睡蓮と話を続ける。
だからこそ、問われれば、問いを求められれば。

「じゃあ、私から聞いて良いなら、一つだけ聞くわね」

あかねは問う。
いつものように。
とても、楽しそうに。

「スイレンちゃんは『これから何をしたい』の?」

いつもの問いを投げる。

「……どんな役割(ロール)を負っているの? 教えて?」

いつか、誰かに問うたように。
それを続ける。
ずっと、それを。

群千鳥 睡蓮 > 視線は彼女の首に向いた。
彼氏さんの贈り物、というには物々しいものがそこにある。

「『こっち』では……」

存在を赦されていたのだとしても。
戦いを続けざるを得ない彼女は、楽しくやっていけているんだろうか。
喪失の回復。それだけを考えれば、ごく普遍的、切実な願望であると思う。

「――………」

問いを受け止めた。指先が、とんとん、と唇を叩く。

「ちょっとまってくださいね」

安易な答えは出すまいとして、『後輩』としての口調が出た。
考える。視線を動かして。再び見据える。
搾り出す。胸の内側、渇望を静かに並べた。

「あたしがここに来たのは、識るためだ。学ぶため。
 ……『出来の悪い』あたしは、『あっち』でやっていくために。
 ここで、学ばなきゃいけない……だから、色んな人と会いたい。
 触れたい。話したい。 ……そして、学ぶ。強くなるために」

戦いの強さではなかった。在り方の話。
聡き黒猫が導いた、知性と理性で照らす、意志の旅路。

「だからあたしはあんたに会いに来たんだよ……」

これは、返答ではなく、口のなかで、かすれた音を立てた。
色んな人にも会ってきた。もっといろいろ会うのだろう。
自らの内側になにかを育むために。

「……いまは、あたしは、いろんな人の『何か』になれたらいいと、と思ってる。
 『トゥルーバイツ』のお仲間にはなれないだろうけど、さ」

同じものを見れない。
ほんの僅か、心の風景の片隅にいる野花程度のものでもいいから。
触れなければ成長はない。

「役割を問われれば……」

プレイするのは。
一息に踏み込んだ。下がらせはすまい。
この剣は星の向こう側まで届く。
万夫不当の死神でない。『  』と呼ばれたものでなく。
なれど、触れるならこうまで近づかなければいけない。

「いまなりたいものは、あかね先輩のともだち……」

ポケットから取り出したのはカードだ。
ラ・ソレイユ。できたてのお菓子屋さんへの道案内だ。
そこには友がいる。路地裏で出会った彼女も来る。差し出した。
美味しいイチゴパイも、頼めば焼き立てで食べれるような。

「……他にいまいち思い浮かばなかったや。
 ただ、あたしが今日ここで、あんたに会えたことも、
 きっとすべては必然であるものと……思うから」

ちょっとクサいかな、と照れくさそうに笑った――識りたい。
不思議なひと。おもしろいひと。どんな本を読んでいるんだろう。
とても惹かれる。それだけだ。謎は謎のままにしない。
劇的な物語の渦中には、もう居るつもりはないけれど。
そんな一般生徒にも、その名の役割は持てる筈だ。

日ノ岡 あかね > 「……」

あかねは、少しだけ黙って。
少しだけ、目を細めて。

「あはははははははは!!!」

笑った。大声で。
心底、楽しそうに。
心底、嬉しそうに。
黄金の瞳の奥。
見ているだけでも如実に感じられる……細やかで、深い思案。思索。
群千鳥睡蓮の思考と返答。
それに対して。
日ノ岡あかねの笑みと返答は。

「勿論よ、嬉しいわ、スイレンちゃん」

手を、伸ばす。
カードを手に取って、大事そうに懐にしまって。
あかねは……笑った。

「友達になりましょう。私、きっと必然を引き寄せたんだと思うから。それこそ、ガっついて」

懐で喉を鳴らす猫のように。
砂漠で水を得た旅人のように。
とても……嬉しそうに。

「アナタは、問い続けられる人なのね、自分にも。他者にも」

識る。触れる。話す。学ぶ。
彼女の口から出た言葉。
それこそを……あかねは貴ぶように。

「私そう言うの……大好きよ」

あかねは、笑った。

群千鳥 睡蓮 > 「わっ、笑うことないでしょーが……っ!
 そりゃクサい言い方だったとは思うけどさーぁ……」

何が琴線に触れたのかはわからないけれど。
ばかにされているわけではない、と思う。
だからこそ恥ずかしかった。ばつの悪そうに髪をくしゃくしゃとかき混ぜて。
いつものことなのか?周囲の眼が少し気になった。

「――どうなのかな?
 問い続けてないと、どうにかなっちゃうだけかもしんない」

苦笑した。自分のこの形質が優れているのか、わからない。
物事には本質があり、そしてそこから在り方を決める実存を選ぶ。
本質があまりにはっきりしすぎていると、実存が吹き消えてしまうことがある。
それでも、自分は問い続ける。人間であることを選ぶ。
自由の刑を架された罪人は、「こう在ろう」という思索を、やめてはならない。

「問うゆえに、あたしは《群千鳥睡蓮(あたし)》であって――
 あんたを認識できる。この宇宙にあんたを取り込んで……」

唇から胸元に手を這わせた。生を謳う心臓はそこにある。
ここに生きているがゆえに、日ノ岡あかねに認識される。

「だいすき、ね……?くすぐったいけど……
 ……ありがとう。 自分を肯定されると嬉しい、かな。
 それがこの人心掌握の秘訣、ですか……?」

指を空に向けて、くるくると回した。
いくら同志とはいえ、アタマに魅力がなきゃ五十も集まらない。
そしてここに居ない、日ノ岡あかねに関わった者たちも。
そして、息を吸う。吐く。あらためて見つめた。

「一世一代の大博打なんだろ……何を賭けるかもわからないけどさ……。
 落ち着いたら……そしたらイチゴパイに噛みつきにきて。
 あんたが勧誘してくれたっていう――あんたを探してるって――
 にになな、あいつにもわたした……。
 確か夏は抹茶のなにかも出すとかで――なんなら、部員も募集してるし」

それは静かな楔だ。
一年の死をこえて、再び蘇った少女は、またも社会的罪を重ねようと。
どうしろとは言えない。正しいのか、間違ってるのか、いまの自分には言えないから。
ともだちとして、願うことしかできない。
だから、真っ直ぐ立ち、堂々と。濃密な一度でも、友達と一度きりなんてすこし苦しい。

だから、ともだちに向ける笑顔で。

「……待ってる」

日ノ岡 あかね > 「ありがと……待ってる人が増えるのは嬉しいわ。だって……居場所があるってことだから」

あかねは嬉しそうに笑う。
琴線はきっと、誰かの真剣さ。誰かの真摯さ。
少しは珍しい事なのか、『トゥルーバイツ』の面子も軽く目は向ける。
まぁ、でもそれだけ。
仕事がある。彼等にも。やるべきことが。

「あ、ニナちゃんにもあったのね。良かった。あの子、一杯友達出来たみたいね」

旧い友人が幸せそうな事も、あかねは嬉しかった。
嬉しそうに笑った。
それを喜ばない筈がない。祝福しない訳がない。
つまるところ、日ノ岡あかねという女は……そういう女で。

「問い続けるアナタを……私もずっと応援するわ。それは……きっと、するべきことだから」

誰かに問う。自分に問う。
どちらも……必要な事。誰もに欠けてはならないこと。
それを……この少女は、群千鳥睡蓮は持っている。自覚している。
己に課している。
なら、日ノ岡あかねが……それで十分満足でしかない。

「これからも……出会い続けて、色々な人と。きっと色々な人が……問いを待ち、問いを持っているわ」

それきり、あかねは踵を返し。
仕事へと戻っていく。

「またね、スイレンちゃん」

振り返る事はない。待ち人があるとわかった。
それなら……名残惜しむ事はない。
待っていてくれると、わかっているのだから。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
群千鳥 睡蓮 > 真っ直ぐで、真摯で。
他人の喜びに胸を熱くして。
そして――……きっと、愛と勇気も信じているような。

(……ふつうの女の子)

何に騙されて、何を見ようとしていたのか。
日ノ岡あかねは、そこにいる。
居てくれる――今や胸の奥処にも。

「ありがとう、あかね先輩。
 言われずとも、あたしはここでたくさんを学びます。
 ……問うて、問われて、時に問わず語りなんかしちゃったりもするけど。
 学生ってそういうもんだと思うし。 おともだち増やして……まじめに。
 ……ふふ、たのしくやっていきますよ」

笑った。なんてことのない会話だ。少し胸がいたくなるけれど。
先輩が応援してくれて、嬉しくないはずがない。
だから後輩は、ちょっとこれから頑張るあなたに。
もうたっぷり頑張ってると思うから。

「あたしも、応援してるから……疲れたら、甘いもの、ね?」

こちらも踵を返す。今生の別れだなどと誰が決めたのだ。

「またね、あかね先輩」

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。