2020/07/25 のログ
■紫陽花 剱菊 >
行住坐臥。日常を武と定めんとする戦人足れば
常日頃から如何なる油断も隙も出しはしない。
刃の如き剣呑さを携えた雰囲気。
「─────……。」
そして、踏み込んだ先から"音"が消えた。
何もない。何も聞こえない。あの足音さえ聞こえない。
今己が何をしているかさえ覚束ない静寂の世界。
此れが、『日ノ岡 あかねから見た世界』に相違無い。
……──────嗚呼、こんな場所で一人泣いていたんだな、君は。
決行日間際、如何なる邪魔も許されない。
死に物狂いだ。だからきっと、『何でもやる』だろう。
彼女はそういう女だ。知っているとも。
剱菊の右手に、雷電が走る。紫紺の雷。
あれだけけたたましい稲玉さえ、此の世界では聞こえはしない。
あかねと対峙し、其の右手を……。
■紫陽花 剱菊 >
"後方へと、振りかざす"。
紫電が走った。あかねの世界から放たれた其れは、文字通り音も無く
一瞬の煌めきだけを残し、後方で爆ぜた。
……狙いは同じくして、志を共にした"公安の輩"。
音が無い事を利用した、完全な"不意打ち"。明確な"同士討ち"だ。
ある程度力は抑えたとはいえ、直撃すれば気絶は免れない電流が周囲を迸っただろう。
ゆっくりと、あかねの顔へと視線を移した。
「……然るに、此れで漸く話が出来る。」
声なき声。何時ものように、ゆっくりと口が動く。
剣呑さが消え、何時もの物静かな雰囲気が戻ってくる。
視線はなるべく、彼女の口元へ。
戦の為にあらゆる技法は学んだ。
読唇術の一つも心得てはいるが、初めて経験する静寂の世界。
彼女の言葉を全て理解出来るか、自信は無い。
だが、全ては"向き合う"為に此処にいる。
「……『真理』に繋がるのは、"明日"だったな。」
■日ノ岡 あかね > 「……驚いたわね、喋れるんだ」
無音の世界で、あかねは呟いた。
いつも通りに。
剱菊の行った行動に関しては……目を細めるだけ。
二つの感情がある。
ああ、助けてくれるんだ、という感情。
ああ、今更得点稼ぎか、という感情。
……どちらも、あかねの中にあった。
嬉しくもあった。虚しくもあった。
感情は本来、何か一つで現せるものではない。
悲哀も歓喜……どちらも、悲喜交々にそこにあった。
「ええ、明日よ。多分だけどね。別に来なくてもいいわよ。忙しいだろうし」
そっけなく、あかねは呟いた。
文字通り、音もなく。
■紫陽花 剱菊 >
顔を背けず、真っ直ぐ水底の黒があかねを見据える。
「……暗殺の心得の一環故。通じる様で何より……。」
諜報活動における情報収集。
集団隠密における意思疎通。
剱菊は己の世界にて、如何なる"殺し"に繋がる技術は一通り学んだ。
こんな形で役に立つのは、皮肉以外何者でもないが
今は良い。彼女の世界でも、意思疎通が出来るなら。
……それにしても、嗚呼……。
何時も聞こえていた、彼女の声が聞こえない。
何時も、何時もこんな状態で会話をしていたのか。
なんと、虚しい……。
だが、其れをおくびに出す事はしない。
憐れんだ所で、何かできる訳でも無い。
「……左様か……然れど、私が何をしに来たかは、恐らく其方も知っているはず……。」
そう、諦めはしなかった。
故に、また此処に来た。
彼女と、『日ノ岡あかね』と向き合う為に、此処にきた。
「憚りながらも……『真理』への到達を止めに来た。君を死なせない為に。」
「……例え低い可能性だろうと、君を『真理』如きに渡したくはない。」
「今の『願い』を諦め、私と共に夜を駆けよう……。」
今度はハッキリと、伝えた。
武力では無く、言葉で止めるべくして、此処にいる。
漸く踏み入った『日ノ岡 あかね』の世界に。
手を、差し伸べる。
■日ノ岡 あかね > 手を……叩き落とす。
あかねは……笑わなかった。
あかねは、じっと、剱菊の目を、顔を……睨みつけて。
「こたえ わかってるでしょ」
泣きながら、そう呟いた。
隠すことなく涙を流し、唇を震わせて。
喜怒哀楽の全てが、ごちゃ混ぜになったような顔で。
あかねは……呟いた。
首輪のない喉には、手術痕。
一生消えない傷。
人の身体に刻んだとは思えないような、まるでモノでも縫い留めるようなそれ。
無論、執刀医だって好き好んでそうしたわけがない。
『そうなってしまった』のだ。
『そうするしかなかった』のだ。
今からやる事も……それと、何の変りもない。
「わたしね おんがくが すきなの」
あかねは、笑った。
無理な笑みではない。
零れるような笑みだった。
漏れだすような笑みだった。
歓喜ではなかった、悲哀ですらなかった。
ただ、何かが溢れたような……そんな笑みだった。
「うた も だいすきなの わたしね かしゅ に なりたかったんだ」
笑いながら、あかねは語る。
笑ったまま、あかねは語る。
涙を、隠しもしないで。
「だけどね もうずっと きくことすら できないの」
あかねは……嗤った。
「わたし ほんとうは みんな このせかい ぜんぶ すきなのに」
あかねは。
「これいじょう きらいに なりたくないの」
……泣いた。
■紫陽花 剱菊 >
呆気なく、手は地へと頭を垂れる。
「…………。」
嗚呼、わかっていた。
今更、諦めきれない事も。
其の首元の痕も、多くの傷を受け、与えた男だからこそ理解する。
『そうせざるを得なかった』痕だ。
其れでも尚、夜は明けず、静寂は未だ此処に在り。
最早此れは呪いに等しく、"唯の少女が受けるには、余りに惨たらしい呪いである"。
剱菊はただ、静かにあかねを見ていた。
「……だから、歌っていたのだな……。
とても澄んだ、綺麗な……綺麗な歌だった。」
あの時、あの場所で綺麗な歌声は今でも耳朶に浸透している。
此の世界の歌なのだろうか。其の意味は分からない。
娯楽文化の浅い異邦人にですら、理解し得るものだった。
「…………。」
彼女は世界を愛していた。
歌を囀る、一羽の不如帰。
……だが、世界は彼女を愛さなかった。
世界は、"彼女"を否定した。
「……私に娯楽や、芸術文化は分からない。
ただ、音が聞こえずとも、音楽を紡げる芸術家がいたと、聞く。」
此の世界の偉人、らしい。
異邦人の己には、詳しく分からない。
唯……。
「……君と彼を比べようとはしない。抗うという意味では、比べられるものでは無い……。」
だから、『諦めろ』等と暴論を翳す気は無い。
そんな事が出来るなら、彼女はこんな"後ろ向き"なはずがないからだ。
何も響かない、何も鳴らない。
あかねの涙だけが、其の噴き出す感情を物語るのに
その声さえ、聞こえない……。
「…………。」
泣いた。もう、取り繕うか面も無く、一人の少女が泣いている。
──────己は、此の世界にいる彼女に、何か出来ただろうか。
わかっている。"何も出来てやいない"。
気づいていたのに、保守的に彼女の意志を尊重し、今更になって我を通す。
……誹られて当然だと、分かっている。
酷く、後悔が、胸を苛んだ。
もしかしたら、もっと早く己の我を通そうとすれば、或いは……。
"たられば"等しても、仕方ない。
分かっている、分かっている。
其れでも……。
「──────……済まなかった。」
己の無力さか、彼女を泣かせたことか。
何もかも、遅すぎた後悔か。
自然と、口から漏れた謝罪と共に
彼女へと再び手を、伸ばした。
今度は一度払われても、もう一度手を差し伸べるだろう。
……せめて、今此の世界にいる"自分"が、涙を受け止めようとする。
今更破廉恥だと言われても、せめて、嗚呼、せめて。
『今だけは一人じゃない事』を、彼女に伝えたいから。
■日ノ岡 あかね > 「ほね、にく、め、した、はだ」
淡々と、あかねは呟く。
嗤っていた。あかねは嗤っていた。
ただ、笑わず。
「おんがく は それだけでも たのしめる」
あかねは。
日ノ岡あかねは、
「でも みみ じゃないの それは」
――嗤っていた。
自分を。剱菊を。
「みみ の かわり には ならないの」
――世界を。
「ひのおか あかね を やめるって こういうこと」
あかねは……いいや、少女は嗤った。
嗤い続けた。
日ノ岡あかねは、此処には居ない。
此処にいるのは……時間が止まった少女。
音のない世界では、時間間隔も簡単に狂う。簡単に何もわからなくなる。
そこにいたのは。
その、無音の地獄で嗤っているのは。
異能が発現したその日から……ずっと自分自身を嗤っている少女だった。
『運命』に抗うあかねを嗤い、出来もしない『願い』に挑むあかねを嗤い、弱さを捨てきれもしないあかねを嗤う。
……理性という名の怪物だった。
誰よりも、わかっているのだ。
誰よりも、知っているのだ。
日ノ岡あかねの愚かしさを。
日ノ岡あかねの度し難さを。
日ノ岡あかねのすることなんて……腕がないのに手を伸ばすようなもの。
腕がないのに、指もないのに。
どうして、手が伸ばせる。
どうして、ありもしないものを信じられる。
……それを、『狂気』と言った者達がいた。
確かにそれは、狂気なのかもしれない。
現実から目を背ける行為なのかもしれない。
だが、現実に目を向けて……その現実が……何かしてくれたか?
……答えは分かり切っている。
だから、少女は。日ノ岡あかねは。
……誰かに、真の意味で頼りなどしなかった。
頼る理由と、頼られる理由を作り続けた。
貸しと借りが存在する話をし続けた。
無償の何かなど現実に期待しなかった。
『真理』にすら期待していない。
だから、『命』くらいは差し出すのだ。
……そう、この少女は。日ノ岡あかねは。
『理性的な取引と話し合い』という価値観しか、信じられなくなっていた。
それを行えば……こうして誰でも簡単に掌を返す。
それを行えば……こうして自分を殺すといった誰かから同情を買える。
現実はいつだって……ただただ、現金で、無慈悲で……そして、ひたすらに。
「ありがとね コンギクさん」
『平等』だった。
どこまでも、どこまでいっても。
現実は……誰もに対して『平等』に。
「アナタのこと ちゃんとすきよ」
誰かの幸にも不幸にも……手を貸さなかった。
きっと、誰もが。
「だから ちゃんと しあわせになってね」
その言葉を最後に……あかねは立ち上がり。
音もなく、立ち去っていく。
伸ばした手には、触れなかった。
残したのは『笑み』だけだった。
■日ノ岡 あかね >
「こんどは ちゃんと 『ふつう』にはなしができるこ と ちゃんと なかよく するんだよ?」
■紫陽花 剱菊 >
「……あかねッ!」
張り上げた。響くことない声を張り上げて、手を伸ばして、引き留めた。
其の手を掴んで、止めようとした。
まだ、伝えるべき事が、"残っている"と。
■紫陽花 剱菊 >
「……私を、……私を見ろ、あかね……!」
■日ノ岡 あかね >
「……はなして」
一瞥だけ返す。
顔は見ている。
目は見ている。
無音の世界での標は、それくらいしかないから。
■紫陽花 剱菊 > 「────離さないッ!!」
無音に、声を張り上げる。
「……そうだ、私は何も出来ない。"出来てすらいない"……!
苦しむ君に、まだ何一つ、何も出来ちゃいない。」
そう、此れは飽く迄我儘なんだ。
彼女を死なせたくない、我儘。
全てを聞いた、知った。
『日ノ岡あかね』の価値観も知っている。
そうでなければ、男女の付き合いに体の話を直ぐに持ってこようものか。
己の魅力を、彼女は知っていた。男に対するきっと、打算的な取引。
全てを聞いて、其れでも尚
『死なせるわけには、行かなかった。』
■紫陽花 剱菊 >
「……どれ程泥土に塗れようと、私は君に生きて欲しい。
今更、君以外の女を愛すること等、出来ない……!」
「……だからこそ、聞かせてくれ。"どうしても、諦める気は無いんだな"?」
彼女の口で、言葉で、確認する。
静かで、真っ直ぐで
■紫陽花 剱菊 >
……珍しく、雫が零れそうな瞳のまま、真っ直ぐに彼女の答えを待つ。
其の返答で、"己の道を決めるために"。
■日ノ岡 あかね >
「だって アナタ じぶんのことばかり じゃない」
■日ノ岡 あかね > 嘲るように……あかねは嗤った。
「……わたしも だけどね」
乾いた……笑いだった。
■紫陽花 剱菊 >
「……知っているとも、双方共に、唯譲れぬだけ……。」
自分のは、紛れもなくそうだ。
そして彼女も、自分自身の為に、自分だけで頑張ってきた。
だから……。
「……もう良いんだ……。」
もう、一人で意地を、張らなくても。
結局彼女も、自分の事しか考えていない。
なら、そうだ……なら、もう。
"自分が彼女にしてあげられることは一つしかない"。
乾いた笑いにつられるように、笑みを浮かべた。
「……一人で外に行くのは危険だ。
既に風紀も公安も動いているのは自明の理。
君の『願い』の時間まで、隣にいる……だが……。」
「やはり君を、"真理"に会わせるわけにはいかない。」
其れだけは変わらない。然れど
■紫陽花 剱菊 >
「"私が行く。君の『願い』を私が必ず生きて拾ってくる"。」
根拠も確証も一切ない、無責任な言葉だ。
己も大概欠かれていた。
だからこそ、せめて出来る事は、"役に立つかも分からない矢避け"。
其れなら十分だろう。自分が拾ってくれば、彼女が死ぬ心配はない。
自分が死ねば、彼女が挑戦すればいい。
「……だから、共に夜を駆けよう。」
先とはまた、違った意味合いになってしまった言葉だ。
■日ノ岡 あかね > 「……」
あかねは、ぼんやりとそれを見ていた。
じっと、それを見ていた。
全く無音の世界。心音すら聞こえない音の夜。
そこでも、自分にあわせて必死に口を開く剱菊。
彼だって、自分の声が聞こえていないはずだ。
自分の声すら聞こえないのだ。
そこでこうして喋ることは……恐ろしい労力がいることだ。
それは、わかっている。
彼は、譲歩してくれているのだろう。
理性はわかっている。
でも、感情では……ただただ、わからなかった。
ああ、でも、そうか。
それなら、そうか。
そういう、ことか。
「……あきらめない なら いっしょ だから すきにして」
諦められない。
諦められないのだ。
なら……それはもう。
「『デバイス』 もう ないから それも じぶんで がんばってね」
そのまま、今度こそ……あかねは手を振り払って、歩いていく。
だが、少し歩いた先で……振り返る。
■日ノ岡 あかね >
「……ついてくるんでしょ? かってにして いいわよ」
■日ノ岡 あかね >
そう、『笑』った。
ご案内:「元トゥルーサイト部室跡地」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
■紫陽花 剱菊 >
「……嗚呼。」
頷いた。静かに、力強く。
紫陽花剱菊は結局
山本英治のように、問いかけ続ける事も出来ず
神代理央のように、鉄の理性を持ち合わせる事も無く
群千鳥睡蓮のように、俯瞰的になる事も出来ず
武楽夢十架のように、我を通す事は出来ず
多くの、多くの友垣達の持ち合わせるものを持てなかった。
"弱い男"だ。
結局、こうするしか出来なかった。
きっと、きっと皆怒るだろう。
多くの意志を、無碍にして、最後に選んだ『選択』を非難するだろうか。
其れでも尚、此の静寂の世界に"二人"。
何一つ怖く等はなかった。
今やきっと、誰に何を言われても、揺らぐ気はしなかった。
死ぬ気さえ、毛頭無かった。
あの時、屋上に見えたあの太平の空の幻視─────。
あれが本当に、ただの幻で無ければ、恐らくは……。
「行こう、あかね。」
其の声も、音も、何も響きはしない。
完全な静寂。少女の背を追い、隣りあわせ。
■紫陽花 剱菊 > 我儘な二人は今、夜に駆けていく──────。
ご案内:「元トゥルーサイト部室跡地」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「違反部活群跡」に神鳴 壬さんが現れました。
■神鳴 壬 > ゴロリと無造作に転がっている死体が違反部として使われていた一室の片隅に投げ出されている。
本名は葦毛 翔だったか、この間集めた情報にもあったか。
元々は有名なスポーツ選手だかで、発動した異能は移動している間は誰からも見られなくなる。存在感がなくなるか。
まともに素顔を見たことはなかったが、カオナシの招待がこれとはね。
最近ヤケに羽振りがいいと思ったよ。
「ま、どれだけ不満があっても死んでりゃわけないな。せっかく集めた情報もだいぶ修正しなきゃな。」
何度か利用していたカオナシからの情報、纏めるほどに元違反部、元違反組織
、元二級学生ばかりだった。
そいつらが今は何処に所属しているかというと『トゥルーバイツ』だった。
■神鳴 壬 > 別に人の死体なんていうのはここにいれば見慣れてしまうものだが、あと一、二週間もすれば特殊異能研究所の研究員たちがココにばら撒く異能制御薬から一部のヒトは可能性にもたどり着いただろう。
「ちょっと待ってりゃ異能研のヤツらが良い薬作ってくれたろうに。ま、頼りたくなるのはわかるけど。」
それがどういう過程になるかは知らないが。
このカオナシ自身の話も数年以上前の話だ。
自分がここに来た時には既に情報屋として落第街で活動していた。
わざわざ俺に渡してきた情報も、俺の異能がなければ見つからないよう不自然に削除と上書きを繰り返して見つけられないようにした構成員各々の異能と欠損、そして大まかな参加理由。
たぶん全員ではないがそれなりの数纏められているファイルがあった。
その中にはもちろん、組織の頭の情報も。
見つけたのはファイルの整理をしている最中の偶然ではあったしこれから関わる気もないのだが。
「はぁ、気分悪……。」
事が始まってしまった以上、自分には止める手立てもない理由もない。
ただまぁ後味は悪い。
■神鳴 壬 > 死体の横に座り込んで、ノートPCを開く。
なんてこと無い、いつも通りの事をするだけだ。
【速報】落第街で異能を壊す薬が出回る?!【驚愕】
この情報が周知されるのは本来は少し先の話だったはず。
異能によって少しだけヤバいとこのヤバい研究を覗き見して研究員たちがこれから落第街を実験場にヤバいクスリを流行らせるだけ。
その被害者が出るのはもう少し先、フライングも良いとこでこんな事をしたのがバレたらどんな事になるかもわからないが。
嘘半分、事実半分な情報をいつものように匿名でまとめサイトに立ち上げ拡散する。
ネット社会だ。数分もしない内にいろんな所に出回るだろうしそうするように手回しいていく。
「さてと、あとは知らねー。」
やることが終われば立ち上がり部屋から出ていく。
もしかしたらこの話を見て『真理』なんてものの追求を止めるかもしれないし結局止まらずにただ自分が危ない目にあうだけかもしれないが、そんなことは今は知ったことではないな。
ご案内:「違反部活群跡」から神鳴 壬さんが去りました。
ご案内:「違反部活『煉獄世紀』拠点跡地」に鞘師華奈さんが現れました。
■鞘師華奈 > 落第街のあちこちに今も無数に点在する違反部活や違反組織のアジト――健在のものもあれば、既に瓦礫の山と化した物もそれこそ無数に存在する。
――女の目の前に広がる瓦礫の山――これもその無数にある違反部活の”成れの果て”の一つに過ぎない。
「――来るのは3年ぶりだけど、まぁ…特に何も変わっちゃいないね」
あの日から今まで、自分の中で時間は止まっていた。それこそただの抜け殻みたいに。
――だから、諦観して世界を斜めに見て、ただ眺める傍観者になっていた。
(――まぁ、今もそれはあまり変わっちゃいないんだけど…そろそろ終わりにしないと、ね)
「――嗚呼、友達と約束をしたんだよ私は。何時までも3年前のままで立ち止まってはいられないのさ」
誰に語る事も無い独り言。ここは巨大な墓標――燃え尽きて灰になった夢の残滓。
ゆっくりとした動作で、何時ものように煙草のケースを取り出して、何時ものように口に咥えて、何時ものようにライターで火を点ける。
「――久しぶり、”ボス”。それと”みんな”も。…悪いね、恥ずかしながら帰ってきたよ」
――3年前に壊滅した違反部活。構成員は僅か20人にも満たない。
既に構成員は『全員死亡』として風紀や公安の記録にも残っているだろう――。
――なら、何故ここにたった一人だけ”生き残り”が存在するのか。
ゆっくりと紫煙を吐き出しながら、赤い瞳を細めて何も無い瓦礫の山を見つめる。
■鞘師華奈 > 「――何で生きてるのかって?――うん、それは私が聞きたいくらいだね。
――私は確かに一度死んだ身だから…その死の感触は今でも覚えているよ」
ああ、だってあの”黄泉の穴”に私は確かに落ちていったのだから――気が付いたら病院だったけれど。
穴に落ちる寸前までの記憶はあるが、その後は――ただの闇だ。何一つ覚えちゃいない。
「――うん、まぁ確かあの時は体半分消し飛んでた筈だから、穴に落ちないでも死んでたけどさ…。」
困ったように薄く苦笑いを浮かべて。それが今ではこの通り。消し飛んだ半身も意識も元通り。
――強いて言うなら、”目が赤く変わってしまった”事くらいだろうか。
煙草を蒸かしながら、無造作にそのままステップを踏むように身軽な動作で瓦礫の山を登り始める。
「――私”達”は好き勝手やってきた…だからその報いを受けた。因果応報ってやつだね。
――ボスも、私も、皆も――まぁ、全員死ぬのが当然みたいなクソ共だったけどさ」
ああ、だけど――病院で目覚めて。組織の顛末と全員死亡を告げられた時はショックだったさ。
当然だろう、実の両親を失った私にとって、あんな連中でも確かに家族だったのだから。
――瓦礫の天辺に一人立つ。そこから見える景色は――嗚呼、なんにも変わらないけれど。
■鞘師華奈 > 「――だから、死に戻りの燻った残り火として――改めてボスの代わりに私が告げるよ。
――『煉獄世紀(プルガトリウム)』は……今日で”解散”だ」
瓦礫の天辺で、かつての夢の墓標の上で私は宣言する。―煉獄のバカ共の最後の一人として。
――これは、ささやかなケジメだ。しなくてもいい事なのかもしれないけれど…。
(――それでも、ここで一区切りは付けておかないとね。私が前に進めないんだ)
――友達はきっと今も懸命に足掻いている。ならば、私も立ち止まってはいられないのだから。
「――なんて、格好が付けばいいんだけどさ…正直、まだ自分の物語を見つけられてないんだよね、私は」
けれど、何時までも燻る残り火ではいられないから。私は…鞘師華奈は再燃しないといけない。
とはいえ、まぁ改めてこうして古巣を訪れてみれば。疑問は幾つかあるもので――例えば、何で私生きてんだろうなって。
「まぁ、一度死んだ身だからさ。ちょっと死ぬ気で頑張ってみるのもいいよね――いや、面倒臭いけどさ」
――まぁ、3年間の怠惰の癖がそう簡単に改善される訳も無いのだけど。自分の呟きに思わずまた苦笑を浮かべて。
■鞘師華奈 > 「ああ―――でもさ、ちょっと聞いてくれない?私の泣き言なんだけどさ」
瓦礫の天辺でしゃがみ込んで。ああ…もうきっちり、これ以上無いくらい、私は”選択”して納得して、別れも済ませたんだけど、さ。
だから、今から叫ぶのは私の心残りだ。もう取り返しの付かない、だけど最初で最後の叫びを聞いてくれよみんな。
■鞘師華奈 > 「――何で!!…私はっ!!大事な友達一人!!止める事も!!救うことも!!――気付く事も出来なかったんだよ!!!!」
■鞘師華奈 > 「――ああ、くっそ…ほんっと、私はバカだ……今更泣き言叫んでもしょうがないのは分かってんだけどさぁ」
思い切り叫んで、そしてゆっくりと顔を伏せる。ああ、きっちり、友達として別れは済ませたさ。
――でも、人間そんな単純じゃあない。心残り?後悔?歯痒さ?――沢山あるに決まってるだろうが。
「――悪いね、みんな。これを最初で最後の泣き言にするからさ。
…ほら、やっぱりこういうのは恥ずかしいから誰にも聞かれたくないじゃない?」
伏せていた顔をゆっくりと上げて。まぁ、天国…いや、みんな地獄かもしれないけど…こんな泣き言言われても困るだけだろう。
だから、これは私のただの我侭だ。吐き出したい時に吐き出さないと後で爆発しそうだし。
■鞘師華奈 > 「――だから、もうこんな後悔を私は二度としない」
時間は戻せない、後悔は消せない、今更自分に出来る事は無い…だから。
――この”物語”は、私の出番はここで終わりなのだ。
「――さて、じゃあ最後のケジメを付けさせて貰うよ。ただの自己満足だけど、さ」
ゆっくりと立ち上がり…足元の瓦礫の山を見下ろす。煉獄の世紀はとっくに終わっている。
どういう形にしろ、彼の『真理』が結末に向かうならば一足先に我ら『煉獄』は幕を引こう、誰にも知られること無く。
「―――じゃ、どうせなら派手に行こう。私からの最後の手向けだ」
これ、後でバレたらボス――公安の上司とかに怒られるかなぁ、と思いつつ。
――女の赤い瞳が爛々と光り、その体の周囲の大気が歪んでゆらゆらと陽炎の如く――刹那。
―――瓦礫の山は全て、欠片も残さずに”蒸発”した。
地面には一切被害を出さずに――ただ、夢の墓標だけを綺麗さっぱり消し去る。
墓標が消えたその中心部。普段は黒い髪を真っ赤に染めた女――静かに佇みながらゆっくりと呼吸を整え。
「――あ~…しんどい…やっぱり格好付けるもんじゃない…なぁ」
そのまま仰向けにぶっ倒れた。赤い色彩は徐々に黒へと戻り――ただ、その前髪の一部は赤いままだ。
ご案内:「違反部活『煉獄世紀』拠点跡地」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。
■群千鳥 睡蓮 > ――其処に。
は降ってきた。空から。音もなく。
脚を弛めて着地して、翼のように裾をはためかせたそれは。
瓦礫が"燃えた"場所に現れ、振り仰いだ瞬間に声を上げる。
「あかね先ぱ――あッ!?」
其処に居た者は探している相手とは別人だったが。
知人であることはひと目で分かる。
慌てて抱き起こす。『死』は見えるけれど。
その中で、『あの腕章』がついていないか、近くにあの冷たい光が瞬いていないか。
青ざめた顔で探すのだ。揺すって起こそうともするだろう。
「華奈さんっ…!」
■鞘師華奈 > ここでぶっ倒れているのは、ただささやかに過去のケジメを付けに来た――そして、泣き言を吐き出しに来た女しかいない。
――『焔』を使うのは久しぶりだ。お蔭で、体が付いてこないでこのザマだが、それはそれとして。
ちょっと視界がハッキリしないが…誰かにに助け起こされる――幸い、生きてはいるし肉体も異常は無い。
久々に『焔」を使った反動で少々疲弊はしているだろうが――。
少なくとも、この女にはあの腕章も、そしてデバイスも必要は無い。
「…その声は睡蓮…?…って、いや…ちょっとっ…意識あるから…っ…そんな揺らさないでって…!」
むしろ、そんな揺すられると今は吐きそうになるから!と、力なく右手で彼女がこちらを揺する手を止めようとするだろう。
■群千鳥 睡蓮 > 「――――っふ、……ぅ……ああごめん……」
"彼"と同じ道を辿ったのかと思った。
荒野の果てを見いだせず、自由の流刑のなかで、"物語"の宛てを探しに、
あのデバイスに頼ったのでは――そうではなさそうだ。
心底の安心の後、締め上げない程度に胸ぐらを掴みながら抱き寄せる。
「紛らわしいんだよ……! ……なにやってんの、こんなとこで。
いや、言いづらいなら聞かないけど」
目端に僅かに涙を浮かべてはいたが、じっとりと睨みつけながらに。
言いながらも視線は周囲にだれかの姿を探してはいたが。
やがては諦めて、華奈に黄金の双眸を向けた。
■鞘師華奈 > 「――ハァ……私かい?私は過去のケジメを付けにちょっとね…それと泣き言を漏らしに」
それはもう終わったけどさ、と小さく苦笑を浮かべてみせる。
ケジメは兎も角、流石にあの泣き言は友達でも言えないなぁ、と…恥ずかしいしね。
「――昔さ。ここに私が所属してた違反部活のアジトがあったんだよ。
――まぁ、よくある話で結局は壊滅したんだけどさ。…で、何でか私だけ”生き残って”しまってね。
――だから、3年間…つい最近まで私はずーーっと、それから怠惰な傍観者になってた」
語りたくない、という訳では無い…でも、あまり自分の過去をダラダラと話したくは無い。
――それでも、ちょっとは誰かに聞いて貰いたい。そんな気分は誰だってあるだろう。
じっとりと睨みつけてくる視線に淡い苦笑を返す。残念ながら彼女の探し人は自分では無いけれど。
――本当に、”彼女”は色んな人たちに気に掛けられているのだなぁ、と。
そんな事をぼんやりと思いながら、黄金の双眸を真紅の双眸で見上げて。
「――けど、私もまぁ、そろそろ前に進まないと、と思ってね。ちょっとケジメをさっき付けた」
そう、口にして周囲に視線を向ける。そこだけ不自然に、綺麗さっぱり瓦礫一つ無い空間。
周囲は荒れ果てた建物などがそのままだが、そこだけ何かあった、という痕跡のみが薄っすらあるのみで。
■群千鳥 睡蓮 > 「…………どっかで聞いたような話」
『たったひとりだけ、生き残る』――随分劇的なものを背負った人が居るものだ。
ともだちのうちに、ふたりも。もっと居るかもな。
あるいは、鞘師華奈と日ノ岡あかね。
ぱっと共通項の浮かばない二人の、点と点のひとつが結びついたような心地もある。
茶化すこともなく、静かにことばを受け止める。
「燃え尽きた灰のなかから、不死鳥が蘇った……って?
物語の幕開けとしちゃ随分豪勢な演出したじゃん。
うん、いい顔になったんじゃない? ……うっかり"出"さないでよ、さっきの」
ここに降り立ったのは、"何か"が起こったのを察知したから。
敷地の空白が物語る彼女の能力に仔細は問わずに、
ちょっとごめんね、と抱きしめる形で背中、肺腑のあたりに掌を添える。
「――――――……、っと。 どう?立てる?」
息を吸い――そして吐き出すとともに、僅かに掌から熱が彼女の内部に浸透する。
治癒とかそういうのではなくて、呼吸と体調がらくになる。"すこし元気になる"程度の効果だ。
■鞘師華奈 > 「――まぁ、ありふれた、とは言わないけどさ?――有り得ない話じゃあないさ」
彼女に助け起こされたまま、器用に緩く肩を竦めるように身じろぎをしてみせる。
――実際は、この女も確かに一度”死んだ”のだが――それは今は語るべきではないだろう。
ああ、そういえばあかねもたった一人生き残っていたんだっけ――公安に所属して、そういう記録にも触れられるのでそこも調べてはいたが。
「――まさか?不死鳥じゃない、私はただの死人(デッドマン)だよ。…いや、ゾンビかな?
まぁ、どのみち――私は一度燃え尽きた身だ。だから――ずっと、何処か燻ったままだったんだ」
焦熱の残り火――”彼女”に出会い、友人となり、諭されるまではずっとそうだった。
「大丈夫、そうそう気軽に使えるものじゃないよ」と、微笑みながら彼女の忠言に笑って頷きながら。
「――?…睡蓮、一体何を――…っ?」
彼女がこちらを抱きかかえる姿勢を変える。背中と…肺腑の辺りに手を添えられて。
途端、軽い衝撃のようなそれと共に――”熱”がこちらの体へと浸透していく。
…異能?魔術?…いや、違う。勘でしか無いがこれはれっきとした”技術”だ。
「…ありがとう、何とか立てそうだ。…今のは…武術の技法かな?」
鞘師華奈は武術に精通している訳ではなく。だけど技術にはそれなりに通じてはいる。
だからこそ、今のが人間の技法――積み重ねによるものだと何となく確信できて。
ともあれ、礼を述べながらゆっくりと立ち上がろうと…まだ少し能力の反動で気だるいが、立ったり歩くのは問題無さそうだ。
「――けど、私に感けていていいのかい?…君は誰かを…いいや、”あかね”を探しているんだろう?」
まぁ、もしこのまま放置状態だったら、流石に少し危なかったかもしれないけれど。
――やっぱり、見栄なんて張るものじゃないなぁ、とこっそり自己反省。
ご案内:「違反部活『煉獄世紀』拠点跡地」に鞘師華奈さんが現れました。
■群千鳥 睡蓮 > 「ゾンビがあんなにおめめぎらぎらさせながら浴室に乗り込んでくるかっての。
自嘲も大概にしとけよ。たぶんそーいうとこだよ華奈さんの……」
余裕面を見せるクセ、自己評価が偉く低い。
叩き直すならまずそこだな、とじっとりと目を細めた。
続く問いかけには肩を竦めて。
「元気になーれ、っていうおまじない。 効いただろ?」
とだけ言っておく。韜晦する理由も、彼女自身で判断してくれればいい。
女生徒は武術なんて使わないのだ。表向きは。
とりあえず腰も立ったようだし一安心だろう、と言ったところで彼女の言葉に意識を切り替える。
「そうだよ!あかね先輩! 日ノ岡あかね!
どっか……あのひとが居そうなとこ知らない?
なんかずーっと空振りとか、一歩遅かったりばっかりで……」
肩を掴んで、揺す――らずに。友達になろう、と言ったばかりの自分よりも、
実際に彼女と親交を重ねているらしい華奈のほうが詳しいだろうと。
必死だ。時間がない、というのはもう、いやというほど伝わっているから。
■鞘師華奈 > 「あーー…アレはまぁ、ほら。ラブホテルという場所と空気に充てられた、というか――つい、ね?」
ついで友達を襲い掛けたのは流石に弁解出来ないが、ささやかにそう口にしてみる…あ、睡蓮の目付きが怖い。
まぁ、3年も無気力に近い状態だったのだ――そう簡単に”そういう所”が直る訳もなく。
「――”おまじない”ねぇ?…まぁ、分かったよ…そういう事にしとく」
いちいち深入りするのは野暮だろう。踏み込むべき所は踏み込むが、今はそうじゃない。
軽く体の調子を再確認してみるが――まだ倦怠感がある以外は概ね平気そうだ。
「――さて?あかねは”神出鬼没”だからね…探し回って見つかるものでもないと思うよ。
――それに、多分もう――舞台は”クライマックス”なんじゃないかな」
鞘師華奈は詳細を知らない。だけど何となく分かる――もう、早いか遅いではない。全ては結末に向かっているのだと。
それでも、睡蓮がそれで納得なんてしないのもその様子から分かっている。
「――だから、簡潔に答えると私はあかねの居場所は知らない。これは本当。
私はもう、あかねと言葉を交わして、記念写真も撮って――”別れ”は済ませたからね」
止める事も、挑む事も、共に行く事も選ばなかった。
――私は友達として”待つ”事を選んだ。…それが私の”選択”だから。
――つまらない泣き言はさっき、一人の時に思い切り吐き出した。だから、もう私はここまでだ。
「――それに、仮に探し当てたとしても多分、私”達”が入り込む余裕は無いとおもうな。
――既に、動いている人たちが大勢居るから、さ」
睡蓮もきっとその一人。そして、探し回っているのは彼女だけじゃあない。
――自分は軽蔑されても仕方ない。友達の命の瀬戸際に”何もしていない”のだから。
「―――一つ質問。睡蓮、君の”選択”は?」
静かに真紅の瞳で見据える。選択もした、弱音も全部さっき吐き出した。
だからこう、面と向かって彼女に尋ねられる。――探し回るだけなら他の皆もやっているだろうから。
■群千鳥 睡蓮 > 「マジで恐かったんだからな……! ったく……、
……まああたしが隙だらけだったのが悪いんだけども……」
どんな異能者相手でも"恐い"という感情を一度も持ったことない自分の一生の不覚だ。
然して続く彼女の物言いには、目を細めてふうん?と言った様子で伺わしげに耳を傾ける。
傾けて、傾けて――成程そうか。
「あたしの"選択"?」
みんな影響されてんね、と思わず笑いがこぼれた。まあ自分もだ。
物語は、多くの人に、多くのものを受け取りながら構築されていった。
「――まあ、あたしも。 ラ・ソレイユで待ってる、みたいな。
格好つけたこと言ってあかね先輩とは別れたんだけど」
あのデバイスを見て。あの男の満たされたように見える死に顔を見て。
「"問い"たくなった――それでいいのか、それしかないのかって。
それで走り回って見つけられないんだからザマないんだけど。
あとはまあ、なんだろ」
肩から手を外し、軽く自分の髪の毛をかき混ぜる。
乱れきってぼさぼさだ。走り回った。見つからない。
それっぽい落第街やスラムの一角を探した。青垣山も駆け回った。見つからなかった。
すれちがい。一歩遅い。そんなことばっか繰り返してても。
「…………あたし、まだ、友達らしいことなんもしてない」
少し気まずそうに告げて、――だからだよ、と言った。
「始まってもいないから……だから、まあ、ガキのわがままだよ。
この眼でもっかいあのひとを視たいんだ。
輝かしいもの。うつくしいもの。星のように微かに瞬くもの――すべて」
そっと彼女に、両腕をのばす。
「まあ見つからないんだとしても、手遅れだとしても探したいの。
お利口に、時間ないからしょうがないね、しょうがなかったねで。
なんも動かずに終わるのは――いやだから」
そのからだを抱きしめるように。
「――『あたし』が、『あたし』だから、『あたし』を行ってる、そんだけ」
暴れられなければお姫様抱っこする。
■鞘師華奈 > 「――私が言うのもアレだけど、隙だらけというか…うん」
ちょっと言葉を濁して目線を逸らした。まぁアレは流石に反省だ。今冷静に省みると私は何をやってんだ、とも思う。
「影響――まぁ、否定できないかな。私もそうだし、他にも大勢居るんじゃないかい?…ラ・ソレイユ?」
何かのお店だろうか?記憶にその名前の心当たりが無い為か緩く首を傾げてみせて。
そして、この女はトゥルーバイツの構成員も、そのデバイスも見ていない。
――その生き様も、死に様もただの一つすら知らない。
「問い――か。いいんじゃないかい?私は”それ”すら満足に出来なかったから、さ」
ああ――駄目だ、さっき泣き言は全部吐き出した筈なのに。零れそうになる何かを抑え付ける。
そう、あの泣き言が最初で最後。さっきそう誓ったのだから。
髪の毛をくしゃり、と掻き混ぜて言葉を捜しているように見える睡蓮をじっと見つめる。
「――始まってすらいない、か…。そうか。でも、まぁ――うん、何か君らしい理由でいいんじゃないかな?」
始まっていないのは自分もだから。それに、睡蓮の”目”は不思議だから――彼女なら、私に見えないあかねの何かがきっと見えると思うから。
彼女が両腕を伸ばしてくるが抗いはしない。どのみち、自分に出来る事はもう無い――
「あたしらしく、か。じゃあ仕方ない。「私」らしくこっちも動くとしようか」
もう無意味でも手遅れだとしても。ただじっと待ち続けられる性分でもどうやら無かったらしい。
嗚呼――きっと、これが”再燃”なのだろう。少しは燻った残り火も燃えてくれているようだ。
「――いや、睡蓮?それはそれとして何でお姫様抱っこされてるのかな私は?」
暴れはしないがジト目で睡蓮を見ようと。彼女がまだ諦めないなら、友達としてこちらも手伝う気持ちではいるが。
「――言っておくけど、私だけ送り届けてまた自分だけ駆け回る、ってのは今更野暮だからね?」
■群千鳥 睡蓮 > 「お菓子屋さん。スイーツ部。イケメンのパティシエがいるお店。
あたしも手伝ってんだ。そういえば華奈さん、甘いものは?
それなら今度持ってくよ、堅磐寮、借りてるんだよね。
ああ――女連れ込んでない時でだいじょうぶだから。
それで、いちおう便宜上、こう聞いて置かなきゃいけない場面でもあるよな」
ちょっとつんつんしておく。まあ、あんまり引きずる話題でもないけどね。
友達らしいこと。いましておかないと、もうできなくなるかもしれない。
抱きかかえた彼女の顔を覗き込んで。
「――――"あんたはそれでいいの?"」
良いならそれでいいよ、と微笑む。
彼女には彼女の選択がある。決断がある。葛藤もあっただろう。
それについてとやかく言わない。ただの確認。
問いかけるのが自分の役目。答える、答えぬも相手次第。
その可否でも相手は知れる。友人、仇敵、何れかでも自分が成れるなら。
「華奈さんの体重については――所見は伏せておくとして。
あかね先輩探すなら目玉は4つあったほうが効率的。
移動するって点じゃあたしはそれなりに速いよ。
――まあ速いだけなのは、あかね先輩見つけられてない時点で推して知るべしって感じだけどさ。
なんだったら見つけた途端、華奈さん放り出してひとりで会いに行くし」
まさか。"使えるものはなんでも使う"とも。
友人なら気配だって感じ取れるかもしれない。
くたくただった様子の彼女を置いていくのもしのびない。
ゆえに、まさかそんな野暮はすまいね、という旨の問いかけについては。
駆けるべく空を見据えて、うなずいてみせた。
「当然。
――お礼はあとでたっぷりするから。あたしのわがままに付き合って?」
■鞘師華奈 > 「――何か、ドサクサで酷い事を言われてる気がするんだけど?
甘いものは人並みに好きだけど――ああ、うん。けど出来ればちゃんとドアから頼むよ?
――最近、立て続けに何か”窓”から私の部屋に上がりこむ人が多くてね」
どっかの公安の同寮さんとかどっかのメイドさんとか。お蔭で最近は窓に注意を向ける事が増えてしまった。
ともあれ、何かつんつんされながら不貞腐れた顔をややしていたが
「――あのね、その問い掛けは今の私には狡いんだけど?
もう決めて選んだんだけどなぁ―――…良い訳無いだろ、私はそこまでお利口さんじゃない」
だから、今度はこちらが頭を掻きながら――そうきっぱりと答えよう。
ああ、分かっている。私は舞台に上がりすら出来なかったけれど。それでも、まだ――
だから、最後の最後まで睡蓮が諦めないというのなら。それが自己満足だろうと徒労に終わろうと。
――煉獄の焔は消えはしない。故に――
「――放り出すのは流石に酷いと思うけど、まぁ仕方ないか…嗚呼、使えるものは何でも使う、か。
まぁ、この土壇場じゃそれも止む無し、だろうしね」
しかしお姫様抱っこは複雑だ。個人的にはむしろ私はする側がいいのでされる側はちょっと違和感。
考えたら、己の能力で今の疲労を物にでも押し付ければいいのだけど――今は止めておこう。
「お礼はそれなりに期待させて貰うからね?――さて、じゃあそうと決まれば行こうか
――自己満足の為に。無駄な足掻きをしに…さ。」
こうして会話をしている時間すら本来は惜しいのだろうから。
――空を見据える”死神”そして同じく空を見つめる”焔天”。
――空はこんな場所でも綺麗に見えて。全てを平等に見下ろしている。
そして、少女二人は空を駆ける――それが無駄だとしても、意味が無くても、最後まで己が思い信じるままに。
■群千鳥 睡蓮 > 「窓から入ってきそうって思われてるのはなんか心外なんだけど!?
つーか華奈さんと友達ってことは窓からお邪魔します族の仲間に見られるかもなの?
……普段は目立たないようにしてるんです、ちゃんと玄関からチャイム鳴らして入りますよーぉ」
交遊関係が広くていらっしゃるのね、なんて笑いながら。
まだ見ていない区画。あちら、こちら。頭のなかで地図を描いて。
「そりゃ重畳――言わせた感はあるけどね、ああ、言わせてやった」
口端を吊り上げる。自分の恥を見せたのだ。燃えてもらわなければ帳尻が合わない。
煉獄山の頂から、天を目指して"燃え上がる"もの。如何な物語か、これから問い続けなければならない。
出だしから憂いは要らない。
「お利口ぶったら捨てるつもりだったけど、それじゃあ会うなら三人で、だな。
まあ誰かと一緒に居る気がしないでもないが、お邪魔にならない程度に。
――……もちろんお互い、"自己責任"で」
まあちょっとお礼の件は安請け合いした感はあるが、文字通り"焚き付けた"部分もある。
もらいっぱなしは性に合わない。
僅かに両脚を弛めると、夜闇にその気配は消える。凶鳥が翼をひろげる。
やらないよりはやったほうが百倍マシだ。最後に笑って終わるため、無様な足掻きをしに行こう。
ご案内:「違反部活『煉獄世紀』拠点跡地」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。
ご案内:「違反部活『煉獄世紀』拠点跡地」から鞘師華奈さんが去りました。