2020/07/30 のログ
■アーヴァリティ > あの日、光の柱に入っていった僕は自分を思い出した。
人間と共に居たいから試行錯誤し続けた日々を。
人間の恐怖を知り、言語を知り、習慣を知り、魔術を知り、力を知り。
人間に少しでも近づこうと、人間とコミュニケーションをとる為だけに試行錯誤を、学習を続けた日々を思い出した。
...結局、バケモノにはそれも出来ずに"戦い"をコミュニケーションとして選んで、力量の近い者との"戦い"で、キャッチボールをすることに逃げた。
一方的に力を投げつけるのではなく、お互いの力を投げ合うコミュニケーションに逃げた。
それでは、恐怖の対象になってしまうというのに、一時的な欲求に逃げた。
...その結果歪んだのが僕だ。
何が戦いは楽しいだ。逃げ先を正当化して自分を洗脳し続けただけじゃないか。
戦いは楽しいさ。何百年も好きだった行為がいきなり好きじゃなくなったりしない。
でも、前みたいな狂的な好きではなくなった。
まあ、さめてしまったのだ。
自分に冷めて、洗脳から醒めた。
だから、前みたいに誰かを襲うことは無くなった。
握り潰そうとしていた首から掌が離れた。
力を失った為だ。
地面に倒れ伏す男の顔"の方"を向いていた瞳の焦点がお留守になる。
■アーヴァリティ > 膝の震えも、手の震えも、嫌な汗も、右肩から流れ出す血も、恐怖も、何一つ止まらない。
狂った焦点をどうにかしないと自分が可笑しくなりそうで、力なく開いて小刻みに震えている左掌に焦点を合わせる。
いまさっき一人の人間を締め殺そうとした掌。
指先に血が付着した掌。
現実から目を背けるなと、僕が言っている。
あの日、光の柱で絶望を乗り越えた僕に待ち受けていたのは、化け物の群れだった。
それはもう醜くて、恐ろしい化け物の群れ。
でも、突破はそう難しくなかった。
時間はかかったけど、ここで止められるわけにはいかないと、僕は進んだ。
そして、その次へと進んだ。
今でも、思い出すと震えが止まらなくなり、頭の中が一色に染まる。
そこに在ったのは、"死"だった。
ずっと恐れ続けていた未来。
絶望でもなく、ただただ恐怖の対象であり続けた"死"を。
僕の"死に様"がそこには在った。
ありとあらゆる死がそこには在った。
そしてどれもが見覚えがあった。
『ついさっき僕がやった殺し方で死んでいる』
とある怪異が人間に与え続けた恐怖を、身を以て知った。
■アーヴァリティ > それからだ。
アーヴァリティという怪異が、自分が人間に与え続けた恐怖をそっくりそのまま体験した僕は。
誰も殺せなくなった
恐怖されることを忌避するように戻った僕が、自身にとって最大の恐怖である死を誰かに与えるなんて。
そんなこと、不可能になってしまった。
1週間前の僕なら、不意打ちで片腕持っていった相手の命なんか、容易に奪えただろうに。
なんの躊躇いもなく、怒りに任せてその首を握り潰しただろうに。
今は、とてもじゃないけど出来なくなった。
恐れられる事を恐れ、死を恐れた怪異は。
"殺す"ことが恐怖になった。
そして、根本からバッサリと持っていかれた右腕は再構成していないのではない。
出来ないのだ。
僕の姿は、誰かを殺して得たものが殆どだ。
そして、殺しが恐怖となった怪異は、かつて殺した人間の姿にすら、恐怖するようになっていた。
だから、その幼女姿でさえ、もう見たくないのだろう。
■アーヴァリティ > 「僕...このまま...死ぬのかなあ...」
右肩の傷は塞がらない。再構成を拒む僕の体は傷口すら塞がないらしい。
殺しへの恐怖が、死への恐怖を上回った結果、僕は死を選びそうになっている。
傷口が塞がらなければ、このまま全ての血が、僕を構成する全てが流れ出して死ぬ。
でも、これ以上殺しの記録を見せられずに死ねるのであれば、それでもいいかもしれないなんて思っている僕がいる。
でも
やっぱり
「死にたくない...まだ死にたくない...」
まだ何も為していないというのに。
人間に恐怖されたまま死ぬというのか。
結局僕は夢を諦めて死んでしまうというのか。
そんなのは嫌だ。死にたくない、と。
怪異は、人間に恐れられ続けた恐ろしい怪異が、腕を切られても、四肢を落とされても泣かなかった怪異が。
すすり泣き始めた。
見た目相応の幼い幼い子供のように。親に置いて行かれ絶望した子供のように。
小さく小さく、泣き始めた。
ご案内:「とある違反部活の跡地」に雨見風菜さんが現れました。
■雨見風菜 > 本来なら寄り付かない、違反部活跡地。
けれども今、誰かが助けを求めてるような気がして。
勇気を持って足を踏み入れた。
そうすれば、少女が血まみれで。
死にたくないと懇願して。
「……辛いんですね」
そう、声をかけてしまった。
■アーヴァリティ > 「ぇ.........
つらい...よ...」
死に怯える怪異に突然投げられた言葉に、怪異は困惑しながらも、応えた。
辛いと。
死にたくないと、怖いと。
■雨見風菜 > 少女に近づいて。
何も言わず抱きしめてやる。
服についた血で、乾いていないものは『液体収納』してやる。
「私には、あなたの事情はわかりません。
あなたがなぜ血まみれなのか、いま右腕がないのかもわかりません」
「その上で。
死ぬのが怖いのなら、死ななくていいじゃないですか」
■アーヴァリティ > 「ぁ...」
やわらかかった。
抱きしめられた感触も、その雰囲気も、言葉も。
それは、ただの優しさとは違った。
ただ優しさに包まれるだけなら、巫女の少女に与えられた。
今とあの時の違いは、二つある。
一つは怪異が死に覚えていること。
そしてもう一つは...自覚したこと。
自分の求めている事を、この怪異が求めていたものを。
「死にたく...ないよ...死にたくないよぉ....」
死ななくていいなんて、死にたいわけないじゃないか。
死にたくないから泣いてるんだ。
だからこそ、理解された怪異は、脆かった。
すすり泣きから、ポロポロと涙をこぼして泣き始めた。
無事な左手で、細く幼い腕で、弱々しく、少女を抱き返して、そのまま泣いた。
「でも...どうしたら死ななくていいか...わがらないの...どうしたらいいの...?」
泣きながら尋ねる。
死ぬしかない今から、どうすればいいのか。
今怪異にとって頼れる相手は、少女しかいない。
■雨見風菜 > 「重ねて言いますが、私にはあなたの事情はわかりません。
けれども、どうしたら死ななくていいのか、なんて。
そんなの、生きれば良いんですよ。
あなたは、生きていて良いんです」
幼子をあやすように。
少女を抱きしめて。
「……まずは、傷を塞ぎましょうか。
痛みますよ」
こんな少女に……いや、きっと見た目通りの少女じゃあないんだろうけども。
強い痛みを伴う『触手』を使う訳にはいかないと。
『糸』を使って、右腕の傷を縫い止めてやる。
体の奥底から、何かの胎動を感じる。
■アーヴァリティ > 「生ぎてれば...いい...?」
そんな事言われたって...どうすればいいのかわからないのだ。
傷口をチクチクと、針を刺された時の痛みが...いや、実際刺されているのだろうけど、痛む。
でも、その柔らかさが、少女の温度が、その痛みを和らげてくれる。
刺されている痛みが無くなった。
傷口は未だジクジクと痛むが、血はほぼ止まったようだ。
命が流れていく感覚がだいぶ薄らいで、その赤黒かった断面が隠れている。
ああ、助かったのか、と思うと表情が明るくなる。
死ななくていいのか、と近い死への恐怖が薄れていく。
流れていた涙が止まって、怯えきっていた表情が明るくなっていく。
「ぁ...ありがとう」
死が遠ざかったことの方が嬉しくて、遅れてしまったが、感謝の言葉を伝える。
まだ少し情けない、泣いた後の頬を赤く染めた表情で、精一杯の感謝を伝えようと、明るく振る舞うが、無理が透けて見える。
それもそうだろう、まだ傷口が塞がっただけなのだから。
■雨見風菜 > 「無理をしては駄目ですよ、応急処置をしただけですから。
本来なら病院に行くべきなんですが……」
こんなところで一人泣いている少女。
まともな家庭のある少女ではあるまい。
表の病院に連れて行ったところで、まともに診療してもらえるかどうか。
裏の病院、と言ったところで、風菜には心当たりはない。
落第街に出入りしていると言うだけで、裏側の人間ではないのだから。
そしてそれは、少女が人間であることを前提とした選択肢だ。
「もし、よければ。
あなたのことを、聞かせてもらってもいいでしょうか」
■アーヴァリティ > 「僕の...事...?」
少女のその言葉は意外だった。
まさか僕のことについて尋ねられるとは思っておらず、戸惑ったような声を出して。
今ここで本当のことを話して少女に恐れられていなくなられるのは嫌だ。
この柔らかさを手放したくない、突き放されたくない。
...どう話せばいいかわからなくて。
「...ごめんなさい...」
無理だと、いった。
■雨見風菜 > 「そう、ですか」
困った。
相手のことがわからないなら、何をすれば良いのかがわからない。
生きることがわからない、という問いにも、適切な答えが返せない。
どうすれば良い。
どうすれば彼女を助けることが出来る。
体の奥底がまた胎動する。
「……私は、今まで生きることが当然だったので。
生きていれば良い、ということがどういうことか……うまく説明はできません。
そうですね、まずはその傷を治すために。
栄養をとって、休んで……
そうだ、あなたには、大切な人は居ますか?
居るのならば、明日も会えるように頑張ったりとか……」
駄目だ。
これでは、彼女に届きそうにもない。
どうすれば……
■アーヴァリティ > きっとこの少女は僕を、端的に言えば救いたいのだろう。
でも、僕は怖い。この少女が、僕について知って、それで僕から離れていってしまったら、怖がられてしまったら。
どう何を説明すればいいのだろうか、何も思いつかないし、嘘もつきたくない。
恐怖を与えてしまったら。
それが、怖い。
「...ごめんなさい...」
同じ言葉を繰り返した。
本当に、申し訳ないと言った感情の籠もった言葉。
目の前の少女の中で、僕は怪我をしていた幼子のままでありたい。
そのエゴが、恐怖されることへの恐怖が、少女を突き放すことを選んだ。
少女を怪我しない程度の強さで突き放す。
知らないで欲しい、怖がられないで欲しい、と少女を、保身のために遠ざける。
そして、そのまま走り出した。
無事な両足で、片腕がない事に不自由さを感じながら、その場を走り去っていった。
「ありがとう」
涙の混ざった声をその場に落として、闇へと姿を消した。
ご案内:「とある違反部活の跡地」からアーヴァリティさんが去りました。
■雨見風菜 > 「……そんな」
名も知らぬ少女は。
自分を突き飛ばして逃げていった。
きっと、彼女の事情はそれほどまでに……
「……どうか、命を投げ捨てる真似だけは。
しないでください」
少女が消えていった闇に向けてそう言葉を投げて。
心残りを残したまま。風菜も、その場を後にしたのだった。
ご案内:「とある違反部活の跡地」から雨見風菜さんが去りました。