2020/08/15 のログ
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にツァラさんが現れました。
■ツァラ >
凛霞の視界の端を、青く光る蝶が飛んだ。
「わぁ、まずそうー。」
背後から、声高な少年の声が少女の耳に唐突に届いた。
振り向くならば、地下室のボロい釣り蛍光灯に照らされて、白い髪が揺れた。
にっこりと笑みを浮かべて、少年が立っている。
今の今まで居なかったはずの少年が、立っている。
倒れている他の連中とは、服装は似ておらず。
3Dプリンターは正に文明の利器そのものだ。
正しく運用すれば、それはある意味創造を可能にしているのではないかという程の。
細胞から人体組織、食物、思い描くままに創り上げる。
しかしやはり哀しいかな、その創るというのは戦いにも向いている。
余程のことが無ければ、寸分違うことなく、"完璧"に同じモノが再現される。
■伊都波 凛霞 >
「──……」
蒼い、光る蝶々を視界の端に捉える
それと同時に背後から聞こえる、声
上に連絡した人手はまだ来るわけがないし、そもそも同僚の声を聞き違わない
直前に視た、どこか現実離れした光る蝶
そして、背後に接近されるまで自分が"普通の人間の気配"に気づかないわけがなかった
故に…、逆に驚いた様子は見せず
ゆっくりと振り返る
「……君は?」
笑みを浮かべる少年に問いかける
怪異に慣れ親しんだ凛霞は直感的に、少年が普通の人間ではないことを僅かながら感じ取っていた
今しがた制圧した、この違反組織とはあまり噛み合わない雰囲気
手元の粗悪品のSMGは、とりあえず降ろしておこう
どのみち、弾倉は空っぽだろうけれど
■ツァラ >
少年は酷く人懐こい笑みを浮かべている。
武器にも特に怯えるでなく、まるで子供が公園で友達と遊んでいるかのように。
「初めましてーおねーさん。
ちょっと賑やかだったから遊びに来ちゃった。
あんまり驚かないんだねぇ?」
笑顔の左目の下、紅い涙型の宝石のような装飾が煌めく。
弧を描く瞳はこんな地下室には似合わない、青空のような。
この暑い夏の天を染める、澄んだ色をしていた。
少女が驚かないことに興味津々だ。
両手をひらひらとさせて何も持ってませんよーなんて、凛霞にアピール。
■伊都波 凛霞 >
──青い蝶を視た時に、何かを感じたけれど
目の前の少年は敵意がないことを示すように両手を振っている
木箱に物騒な銃火器が詰め込まれ、数人の違反学生が倒れている状況
それを賑やかと称し遊びに来たと言う
場馴れした落第街の住人──という雰囲気もしないし、
そもそもこのビルの入り口は他の風紀委員んが封鎖している
「遊びに来るところ、でもないけど…。
そうだね。君みたいな子には、結構慣れてるからかな。…どうやって此処に入ったの?」
質問ばっかりでごめんね、と付け加えて、
こちらも敵意はないよと示すために銃を木箱の中へと戻した
■ツァラ >
「あはは、慣れてるんだ。ここはけっこーおねーさんみたいなヒト、多いね?
普通はこんなことすると色々な反応してくれるから、とっても面白いんだけど。
どうやって? 僕は"どこにでも居てどこにも居ないよ"
まぁ、あんまり美味しくは無い場所だけど、ね。」
そういってぐるりと周りを見渡す。
隙だって見せ放題だ。
そのまま捕縛することだって出来てしまいそうに見えるぐらいに。
声変わりのしていない少年の声は無邪気のようでいて、
時々言葉を転がすように弄ぶ。
「おねーさんたちも、こんな所で銃いっぱい相手に何してるの?
まるで"警察ごっこ"でもしてるみたいなさ。」
■伊都波 凛霞 >
「私みたいな人、ね…」
落第街は異邦人街にも比較的近い
スラムに住む異邦人も多いという話だ
怪異や、妖しといった類のものに慣れている人間は多いだろう
何処にでも居て、何処にも居ない…と話す少年
そして最初にかけられた言葉…『まずそう』という言葉に沿うような言葉が続く
少年が真面目に答えない…というよりは、会話の筋が噛み合わないことを感じ、そっと背後の箱の側面へと触れる
この箱は正面…すなわち、自分が箱の方向を向いている間、自分の背後を"視ていた"
手で触れれば──そっと異能を発動する
キーン…と金属を擦るような音が頭の中に響くと共に、"記憶"が再生される
ほんの僅か、数瞬前の浅い記憶…凛霞の背後の映像
そこに、何かしらの情報はあるだろうか
「視ての通り、捕物の直後。
警察ごっこっていうか、警察みたいなものだしね」
そう言って風紀委員と書かれた腕章をひらひらと見せる
■ツァラ >
箱が"視ていた"記憶が映し出される。
一般的にサイコメトリーと称されるそれは、
便利な超能力である反面、とある危険が付きまとう。
それは、"混同"を起こす危険性。
読み取った記憶がまるで自分が経験したかのように感じ、
行き過ぎるとそれは混同を起こし、己が別人のように、その記憶のままに行動し始める。
そこに果たして……己はいるのか。
――とはいえ、数分程度の軽い記憶ならそんなことはある訳が無いだろう。
瞬きもしない箱の映し出した"記憶"は、
凛霞が視界の端に捉えた青い光の蝶が彼女の背後に集結し、少年の姿を成したモノだった。
蝶自体はどこからともなく、あるいは蛍光灯の燐光から、
あるいは重火器の落とす影から出て来ては、集まって来ていた。
「警察『みたいなもの?』
"子供なのに"警察みたいなことしてるの? 面白いね?」
この常世の島にいるならほとんどが知っていることを、さも知らないように少年は問う。
■伊都波 凛霞 >
──指をそっと離し、記憶の残滓との接続を"切る"
少年の言葉は幻惑でもなんでもなく、ただただ、きっとそのままの言葉
あるいは説明のしようなどないのかもしれない
これは、報告書には視たままを書くしかないなあ、なんて内心思う
「面白い?うーん、確かにそう感じる人には感じるのかな。
この島で生まれ育ったりしてるともう普通なんだけど…」
世界的には非常に珍しい場所、かもしれない
彼がこの世界という枠組みの中で生まれた存在かどうかも、わからないが
「此処は学生…、まぁ君のいうような子供が主体で運営されている島、だからね」
だから私も警察みたいなこと、してるんだよと。優しく諭すような物言いをする
■ツァラ >
「僕の知ってる警察ってさぁ、上にエラソーな大人が陣取って、
いかにも自分達が法ですみたいな顔で、同じ人間を取り締まってる感じかな。
"美味しい"ヒトも居るけど、結構一握りだなぁ。」
後ろ手に指を組み、コンコンとつま先でろくに掃除もされていない埃の転がる床を突く。
コロンコロンと下駄特有の音が地下室に響いた。
先程から少年はよく、"美味しい"、"不味い"と口にする。
何に対してかは計り切れるだろうか?
「不思議、不思議だねぇ。大人に見守られて育つはずの子供が大人の真似事をして、
子供どころか、人間には収まりきらない力を持って、
僕らみたいなのにも驚かず、まるで共存するような所。
『オダクン』は"並行世界"がどうとかって言ってたけど、ここまで変わるもんだね?」
■伊都波 凛霞 >
場所に続いて、人もまた、彼の言葉から美味しい…といったような味を評する言葉が出る
仮に怪異や物の怪と仮定すれば、食事方法が違ったり、五感にだって差異があって然り
「それはその言葉通り、彼らが法に基づいて動いているからかもしれないね」
勿論少年が視てきたものの中には、権力を傘に着た者達もいたのかもしれない
「君がさっきから言ってる美味しい、まずそう…っていうのが何を指してるかはわからないけど。
つまり『そういう人達』は美味しくない部類に入るんだね」
そして此処も、まずそうだと評価していた
なんとなく、物理的な話ではないということだけは伝わってくる
「不思議かな?不思議かも。
同じ世界でも国境を踏み越えれば人の生活なんて色々変わっていく、言葉も通じないくらい。
そもそも世界が違ったら、それこそどう変わっててもおかしくないんじゃないかな?」
言葉を述べつつ、倒れている違反学生の手に枷をかけはじめる
もうじき彼らも目が覚めるだろう。計算通りなら、あと十数分
「君がどういう世界から流れてきたかは知らないけど。
この島にはきっと君が『美味しい』と感じるものもたくさんあるんじゃないかな。
あんまりヘンなところに行かないようにだけして、あちこち歩きまわってみるといいよ」
そんな言葉をかける
そこまで言うのは…少年がこの場所を指して不味そう、と
そして悪い印象を持っているであろう警察の人間を美味しいと評さなかったこと
背中を見せて、仕事に移ったのも、少年の佇まいに在る種の信頼を覚えたからかもしれない
■ツァラ >
「警察ってやっぱりさ、キホン的には哀しいコトが起きないと動かないんだよね。
普段から防犯装置として機能はしてても、真価を発揮するのはそういう時。
だからキミたち、おねーさんたちが"美味しくなる時"って、お仕事中はやっぱり少ないよね。」
自分から視線を外して仕事を再開するのを見ると、
少年は地面に伏せられている1人の背にぽすっと腰かけた。
そりゃあもう、その生き物がまるでその辺の椅子かのように。
その衝撃で相手が起きそうになるのを見ると、顔の近くに青く光る蝶がやって来て、
再びその身体からは力が失われていく。
にこっと笑みを浮かべた。
「仮にも聞きなれた言葉を聞いて、"同じ国だと呼ばれてる"とさ、
差異は結構気になったりしない? 僕はそんなかんじー。」
もしその腰かけているのに枷をかけにかかるなら立ち上がるだろう。
「あれ、警察みたいなコトしてるのなら、
"こんなところ"にいる僕を捕まえたり保護したりしないんだ。」
■伊都波 凛霞 >
「そうだね。起こってから動くのが基本。
でも『起こったら動く』ことがわかってるから、抑止力にも一応なってるんだよ」
今度は美味しくなる時、ときた
つまり状態によって彼にとっての美味しさは変わるらしい
倒れている男の背中に腰掛ける様子に あーだめだよ、警告する
言わんこともなければ男が起き出し…青く光る蝶に導かれるようにして、再び倒れ伏した
最初に視たものと同じ蝶、少年の力か何か…なのだろう
一応男が生きているかどうかだけは確認しなければならないので首元にそっと触れる
「うーん。そういうこともあるかもね。
私は生まれた時からずっとこの島にいるから、あんまりわかんないけど」
手枷を掛け終えれば、ふぅと一息
「ん。保護の要請があるならするけど、強制はしないよ。
異邦の人には色々事情があることも多いし、キミがこの組織の一員とも思えない。
そもそも、コレでキミのこと拘束できないでしょ。多分」
言いながら、笑顔で手錠をくるくると回してみせた
■ツァラ >
「あー大丈夫、生きてる生きてる。
殺そうと思うともっともっと苦しんでもらわないとだけど、そういうのは不味いもん。」
生命確認をすれば、全くもって弱ってる様子も無いだろう。
まぁ凛霞が与えたダメージに寄る所はあるとは思うが。
少年はうえーと舌を出してぺっぺとする真似をしている。
青く光る蝶は、少年の瞳と同じ色。
オオルリアゲハのような鮮やかな青色。
その蝶を見ると幸せになれるという。
「そっか、割と寛大なんだねぇキミたちって。
大人と子供の差が無い故なのかな。
んふふ、確かにソレでは捕まえられないかもね?
こんな世界だから捕まえる方法はいっぱいありそうだけどサ。」
少女の笑みに輪唱するように、きゃっきゃと笑い返した。
「もーそろそろ、おねーさんのお仲間さんが来るのかな?」
■伊都波 凛霞 >
「ふーん…苦しいのはおいしくないんだ?
じゃあ逆に、楽しいのが美味しいのかな」
なんとなくアタリをつけてみる
人差し指を立てて、どう?そうなんじゃない? といった感じに笑って見せて
「どうかな。私は割とゆるゆるなところあるけど、
他の風紀委員だったら、もしかしたらこうはいかないかもね」
そう言うと今度は苦笑
話している間にコロコロと表情が変わるけれど、基本的に笑顔が多く見られる
「と…そうだね」
少年との会話に興じながら、感覚を張り直すと知った気配が近づいてくる
いつもスリーマンセルで活動する二人の気配は間違わない
「私より堅物さんが来るから、隠れるか帰ったほうがいいかもね?」
■ツァラ >
「楽しいのはキホン的に美味しいねー。
でも、楽しいのに味が微妙に違ったりするから、美味しいとも限らなかったりするけどね?」
ぱちぱち、と正解に近づいたのに拍手を送った。
けれど、それは全て正解とも限らない、そんな言葉遊びを繰り返す。
足音が段々と近づいてくる。
ひらひらと、凛霞が幾度か見た蝶が辺りを舞う。
こんな地下室で、こんなにも寂れた場所で、幻想的に、
それはまるで異界の光景のように。
「ふふ、じゃーそうしよっと。
じゃあおねーさん、今度は美味しい時にでも……ね?」
少年が足元から蝶になって散っていく。
凛霞と組んでいる風紀委員が現着する頃には、その蝶も空中に溶けて消えた後だった。
『"僕は幸せの祟り神"、またね?』
少女の耳に少年の鈴のような声が響いた。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」からツァラさんが去りました。
■伊都波 凛霞 >
「あ、名前───」
聞いておけば良かったかな。と蝶を追いかけるように手を伸ばす
やがてそれが虚空に消え去れば、部屋はシン…と静まり返って
「…今度は美味しい時、かー……」
不思議な子だったなー、と思いつつ報告内容を脳内で反芻し纏める
彼のことについては…まぁ視たままに報告するしかないね。と改めて
「(──報告書に憶測を書いても仕方がないしね)」
足音が近づいてくる
『幸せの祟り神』
最後に響いた少年の声
ただの可愛らしい妖し、というわけでもなさそうだなあ…
そんなことを考えながら、ようやく合流した同僚二人と、現場の作業に戻るのだった
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「違反組織『粗雑なる蜂球』」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
落第街の一角。
奇妙なまでに人の出入りが多いその廃カジノは傭兵ギルド『粗雑なる蜂球』の根拠地の一つ。
所謂『チンピラ』『ゴロツキ』『弱小魔術師・異能使い』を数だけ取り揃え、弾が出れば良い程度の安価な武器を与え『集団』として戦力を整える。さながら落第街の人材派遣会社。
それ故に『味方にしても大した事にはならないが敵にすると面倒』という理由で各違反組織からも程々に放任され、程々に利用されていた。組織同士の抗争の際には『蜂球』の所属員がそれぞれ敵対組織に派遣されて殺し合う、なんてこともザラ。
そんな違反組織の拠点は今。
無数のドローンが飛び回り、機械的に降伏を呼びかける音声が大音量で流されている。
周囲の住民の避難誘導も進み、完全包囲、といった有様。
■神代理央 >
「……そうか。では、現時刻を以て避難・保護活動は終了する。
以後、此のエリアには作戦行動にあたる風紀委員と、該当違反組織の構成員『のみ』が存在する」
該当エリアの避難誘導の結果『避難指示に応える者はもういない』
従って、これ以降の摘発活動で生じる犠牲は、違反組織の構成員意外に存在しない。
一応、避難指示だけは真面目にしている。
誘導も人手をかけている。此処迄しなくても良い筈なのに、と頭の片隅で考えながらも、真面目に落第街の住民には配慮している。
配慮した上で――焼き払うのだが。
「……此方は、準備完了次第攻撃を開始する。突入班は、私の攻撃終了と同時に敵拠点内に突入。速やかに制圧すること。
私の攻撃中は間違えても前に出るなよ。フレンドリーファイアは、洒落にならぬからな」
通信機に語り掛けながら、廃カジノの正面に佇む少年。
どうぞ狙って下さい、と言わんばかりの風紀委員の姿に、拠点内から狙いを定めるゴロツキ達は首を傾げるばかり。
■神代理央 >
今夜は、何だか異能の調子が良い。
感覚で分かる。きっと何時もより多く呼びだしても大丈夫だ。
きっと何時もより細やかな指示も出せる。
何時もより早く出せる。
不思議な程に、異能と自分が同調している感覚が、分かる。
「あー…あー…一応、最後の勧告だ。降伏しろ。であれば、命までは取らん。規定に従った取調と拘置所での待遇を――」
■神代理央 >
少年の声を遮る様に、無数の銃声が響いた。
■神代理央 >
「危ないじゃないか。いや、先手必勝のその精神は嫌いじゃないがね。もう少しこう…私を撃つなら武器を選び給え」
渇いた金属音と共に、銃弾を全て弾き返したのは2体の大楯の異形。
主である少年を守る様に、盾と化した巨大な両腕を軽々と振るう。
「では、降伏の意志無し。という事で話を進めて構わんな。話が早い連中で助かるよ。それじゃあ――」
パチリ、と指を鳴らす。
湧き出る様に現れる醜い金属の異形。背中から無数の砲身を生やし、蜘蛛の様な多脚で練り歩く巨大な異形。
それが、1体。3体。5体。10体――
「自らの肉体が砲弾で吹き飛ぶ気分を、三途の川で語り合うが良い」
響く、爆音。
周囲の建造物の硝子に罅が入り、場所によっては割れ落ちる程の、音と衝撃波。
しかし、違反組織の面々がそれに驚いている余裕はさしてない。
爆音と共に放たれた砲弾の向かう先は――彼等なのだから。
■蜂球構成員 >
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
俺は反対したんだ。風紀委員会の包囲から逃げられる訳も無し。
まして、戦って勝とうなんてこの組織じゃ無理だ。
にも拘らず、ボスが通信機越しに
『一晩耐えれば此方の勝ちだ。連中は、包囲戦を長期間行える程の人員はいない。一晩耐えれば、連中は撤退する』
とか言うもんだから、倉庫からありとあらゆる武器を引っ張り出して。
事務方の俺にまで銃を握らせて、バリケードを設置させて。
夜が明ける迄、連中に抵抗する事になっちまった。
■蜂球構成員 >
意外にも、包囲そのものは結構あからさまに、時間をかけて行われた。
というのも連中、付近のスラムに住んでる連中にまで避難する様に声をかけてやがるから。
そんな事すれば『今から此処で大きな戦闘が起こりますよ』って宣伝して回ってる様なもんだ。アイツら馬鹿なのかな?
とはいえ、包囲は完璧だった。
下水道にまで風紀委員が配置されていたらしく、斥候に出た連中からは終ぞ連絡は来なかった。皆捕まったんだろう。
まあ、その辺は織り込み済みというか。準備出来る時間が長くなっただけマシ、くらいに思っておくしかないだろう。
それから――ああ、そうだ。
ちっさい風紀委員が、正面の道路に立って『降伏しろー』とか言ってた。金髪だな、くらいしか俺には分からなかったが。
でも、正面玄関に配置されていた連中が泡食ってこっちに駆け出してきたのは見えたんだ。
『鉄火だ。鉄火が来た』
って。それから――
■蜂球構成員 >
それから――いや、それで終わりだった。
すっごい音が聞こえて、バリケードも何もかんも吹き飛んだ。
一回目は、多分五体満足だったと思う。
それが、もう一回聞こえて。
■蜂球構成員 >
最後に見えたのは、赤い焔と、黒煙と―――
■神代理央 >
「……効力射をは、概ね良好。というより、この距離では外す方がおかしいな」
からからと笑いながら通信機に手を伸ばす。
「何時でも突入して良い――何、出来る様に見えるのか、だと?」
「さあ?それを判断するのは君達で、私は私に与えられた任務を果たしただけだ」
目の前の、廃カジノだったモノに視線を向ける。
エメンタールチーズよろしく、コンクリートには巨大な穴が穿たれて。その穴という穴から黒煙と紅の焔が立ち上っている。
既に建物を支える柱や構造物に深刻なダメージを受けているのか、軋む様な音と共に内部から崩れ落ちていく様も視認出来る。
「生き残りがいたら助けてやりたまえ。私の仕事は、此れで終い故な」
背後に居並ぶ異形。その数は、最早10を超える。
それらが放った一斉射は3回。
3回の砲撃によって『粗雑なる蜂球』の主要拠点は文字通り『崩壊』した。
その様を眺めながら、ごそごそと懐から取り出した缶コーヒーの蓋を開く。
「……少々甘過ぎるな。夏は、もう少しすっきりした味わいの方が良いかもしれん」
市販品の中では比較的甘ったるい部類のカフェラテ。
それで喉を潤しながら、はふ、と満足げに溜息を吐き出した。
ご案内:「違反組織『粗雑なる蜂球』」に龍さんが現れました。
■龍 >
カラン、カラン。
氷が揺れる音がする。
硝煙と煙が漂う中、悠々と女が歩いてきた。
手にはコップ、冷えた玉露の入ったコップを片手に、薄い笑みを浮かべている。
「……随分と派手にやったねぇ、理央君。
いや、今は『鉄火の支配者』って呼んだ方が良い?」
カフェラテ片手に持つ少年を一瞥し
女は玉露を口へと傾けた。
■神代理央 >
投げかけられた声に、ゆっくりと振り返る。
其処に居るのは、はて。はて――。
――ああ、そうだ。百貨店で出会った女。
自らを『エチケット袋』と宣った…龍、という女だったか。
「仕事故な。此の程度、派手にやったうちに入らぬさ。
目の前に的宜しく聳える廃墟を、異能で吹き飛ばすだけ。幼児にだって、これくらいは出来るだろうよ」
甘ったるいカフェラテを流し込みながら、静かに唇を歪める。
「……それで?他愛ない世間話でもしに来たのかね。それとも、私の行動を諫めにでも来たのかね。
何方でも構わんよ。多少の時間はある。付き合ってやるとも」
愉快そうな声色と共に、静かに首を傾げてみせた。
■龍 >
「そう、『エチケット袋』覚えているかな?」
はたまた、それは思考を見透かすような言葉だった。
薄く細まる金の瞳、笑みを崩すことなく、理央を見据えている。
「幼児に出来たら、世界は今頃落第街しかないよ。
いや、何。私は『エチケット袋』だからね、君の。
ただの世間話でも構わないが…話の種は尽きないね?」
唇はずっと、口角を上げている。
「そうだねぇ。君は、もうちょっと大人しい子だと思ったんだけど……
これ、"君の意思"でやったのかい?『理央君』、君と話しがしたくてね」
自らの足元。
瓦礫と死体の山となった焼け野原を軽く踏んで
両腕を広げてありありと見せつけた。
■神代理央 >
「覚えているとも。あの時は随分と世話になった。こんな場所で無ければ、茶の一杯でも奢ってやりたいくらいだが」
覚えているか、との問いには緩やかに頷いて肯定の意を示す。
夜闇を轟々と照らす火焔。その中においても、彼女の金色の瞳は、奇妙な迄の存在感を放っている。
「おや、何時から龍は私専属のエチケット袋になったのかね。
私も、其処まで吐き出す様な事は早々持ち合わせてはおらぬよ?
王様の耳はロバの耳、とでも。囁けば良いかね」
話の種が尽きない、との言葉には揶揄う様な声色と共に。
言葉を紡いで唯静かに、彼女に視線を向けている。
「ふむ?可笑しな事を聞くものだ。
風紀委員会の任務に、私情を挟む訳がなかろう?『敵拠点の殲滅』私が受けた命は此れだけ。
ああ、どの程度の火力を投射するか否か、という点では、私の意志も介在してはいるがね?」
救助活動は進まない。
というよりも、余りの惨劇に他の風紀委員は未だ現場に入れていない。
業火と瓦礫と死体が連なる一角で、彼女に向けて肩を竦めてみせた。
■龍 >
「大丈夫、既に盟友(ボンヨウ)に奢って貰った」
カラン。手に取ったコップを揺らして見せた。
「さぁねぇ。私は何時でも"友人"の味方だよ。
ま、時と場合にもよるけどね。」
カラン、カラン。何度も何度も、わざとらしくコップを揺らす。
氷がコップとぶつかり合い、焼けた周囲によく響く。
「それに、どうせ広めるなら『神代 理央の思春期』について広めた方が良いと思うけど、どう?」
なんて宣って玉露を飲み下した。
空になったコップをまた揺らす。
カラン、カラン、と氷が揺れる。
揺れる炎と瓦礫の上、誰も踏み入れない領域で、唯女は見下ろしている。
「『殲滅』」
「私、風紀の仕事とか知らないんだけどさ。
君達の仕事って、"人殺し"かい?
当然、あの時理央君とは初対面だ。君の事を語るほどに、私は君の事を知らない
けどさ、敢えて言わせてよ。あの時の"理央君"の事考えると、さ」
瞬きをする事なく、燃え盛る紅を見据えている。
「私情を挟む訳ない、か。これ、実は"八つ当たり"だったりしない?」