2020/09/16 のログ
アストロ >  
「お?」

特に意識はしていない。簡単に詰められるだろう。
しかし、少女は常に魔術を纏っている。

常人なら焼けただれるような熱に、ジュウと音を立てて蒸気が上がる。
掴もうとすれば手はすり抜けるだろう。
魔術に関して理解があるならば、触れようとした部位が水になったこと、
失われた分はすぐに補充されたこと、それら全てが魔術であることがわかるかもしれない。

「あは、なになに~?お友達だったぁ?」

憎悪の感情を前にしても、飄々とした態度を崩さない。

「選んでるよぉ?あのお兄さんの目は、獣だったもの。
 絶対楽しめると思うな~」

それどころか、黄金の瞳を向け、煽る。

黒いフードの少女 > 「そう。」

通り抜ける、目の前の少女は魔術を行使している。
ならば話は早い。
貫いた手はそのまま、少女の胸元まで。

「魔術で変えれば安全、そう思っているのよね?」

自分や相手に施す回復魔術。
己や相手の魔術回路に働きかけ、細胞の成長を促し治癒速度を上昇させる己独特の魔術。
それは、『対象の魔力』を操作する魔術に他ならない。
もちろん、接触して居なければ使えないという大きなデメリットは存在する。
しかし、自分の魔術に自信を持ち、それに胡坐をかいているような輩には。

この魔術は毒となる。

アストロの体内の魔力循環、魔術に使われるはずの魔力を掻き乱す。
そのままでいるのならば、確実に魔術が解ける。
吐き気のするような気分の悪さが、少女を襲う。

抜け出さなければ、水は肉体へ戻り。
掴まれるのは心なる臓器。

握りつぶされる姿を、アストロは想像するのだろうか。

「辿りつけるのならば、ご髄に。」

金色の目が、眩く光る。
熱はどんどん増してゆく。
少女が変わった水分に、己の血液が混じってゆく。

彼女を見る金の瞳は、既に『狩る者』に変わった。

アストロ >  
制御を失って水から戻る体。
少しずつ手応えが戻っていくだろうが……

「まさかぁ」

――ぽちゃん。水の音がすれば。

少女は最初に居た水たまりまで転移している。
そちらからは、ふつと消えて次の瞬間には移動しているように映るだろう。
 
相手は熱を帯びている。
当然、ただの物理攻撃でないことは織り込み済みだ。

「けほっ…けほっ……なぁに?その魔術」

しかし……コントロールを奪われる感覚。
呼吸を妨げられるようなものに似ているが、知らないものだ。
両手が上手く水化出来ない。ぶらぶらと手を振る。
……うかつに触れられるのはまずいだろう。
胸に開けられた穴を素早く修復して、次の動きをする。
相手はとても疾い。ゆっくりしている暇などないだろう。

《ディープフリーズ》+《アクアフォーミング》

魔術の多重起動だ。
周囲の温度を急激に下げつつ、足元から噴き出す水が辺りを水浸しにする。
場を整えていくのは魔術使いの基本だ。

《ウォーターボール》

さらに魔術を起動する。相手の頭を覆うように水の球が発生する。
相手の熱が代謝によるものなら、呼吸を阻害してみれば効果がでる。
……先程の魔術で妨害されるような気もするが、試しだ。

次の手次の手を考え、指をくるくると回して魔術を構築していく。
一度手を出されたら、アストロは遠慮をしない。

黒いフードの少女 >  
「……。」

逃げる。
転移魔法、異能ではなく魔術。
しかし予測はおおよし当たっていた。
彼女は逃げるが、一度乱れてしまった魔力は専門家でもなければそう簡単には戻らない。
自然治癒にしても数時間はかかるだろう。

其れでも魔術を行使して、温度を下げてくる。
的はずれ、寧ろこちらの稼働時間を長くしてくれる。
ありがたい話だ。

ふと、余りの体温上昇に耐えきれずに鼻から血が垂れるが、それも一瞬で蒸発した。

あの何分もつか。
どうせ自分は死なないのだから、たいして関係は無い。
しかし、意識を失ってしまうのは困る。
早々にけりをつけたい。

身体強化によってすべての代謝、基礎能力、リミッターを解除した己の肉体は膨大な熱量を発している。
それによって破裂した血管から血液は噴出し、霧状になって魔力を赤く染め上げている。
そして、異能によって永遠と回復し続ける。
痛みは想像を絶し、常人であれば耐えられるものでもない。
しかし、己はそうして生きてきた。


「邪魔。」

頭部を包んだ魔術をの魔力を乱して拡散、只の水として地面に落す。
大きく足を踏み込んで、アスファルトを砕いて足元に広がる下へ水を流し込む、そして、跳躍。

再び、アストロの懐に飛び込んだ。

「じゃぁ、その腕、いただこうか。」

紅い軌跡を描いて颯爽と迫る。
通常の人間ならば、眼で追えるものではない。
通常の人間ならば、だが。

アストロの腕に、恐るべきスピードで再び己の右腕が迫る。
対処しなければ、捥ぎ取られる。

アストロ >  
予想通り水の球をコントロールしていた魔術は霧散した。
持続的な魔術は意味をなさないということだ。それがわかれば十分。
正直、殺さないように戦うには分が悪い。
こんなに楽しい相手を殺してしまうのはとても惜しい。
一種の歪んだ甘さ、ともいえる。

それから気温の低下も、水浸しもどうやら相手には意味を成さないらしい。
ただ、これはこちらの魔術を素早く発生させるためのものであり、相手への効果は期待していない。

そんなわけで。くるくると指を回して魔術を起動。

《招来/トライデント》

水神の槍。あるいは深きモノの槍。
魔術によって何処からともなく取り出せば、ぐるぐると回す。
これそのものは魔術ではなく、物理的な武器だ。
更に基礎魔術の肉体強化。さらに視覚強化も入れる。見えなければ対応出来ない。

「あは、やれるものなら!」

しかし、相手は尋常な速さではなく、こちらから突き立てるには間に合わない。
短く持ち、穂先を相手に向け、待ち構える。
相手の勢いを利用して刺す算段。動かす範囲を狭くして対応出来るように務める。

もし絡め取ることができたなら、ジェット水流によって強い勢いで槍を"射出"する。
普通の少女なら、吹き飛ばされる勢いで。

黒いフードの少女 >  
生成される槍、既に目の前にあるそれを避けるすべはない。
尋常ならざる速度にてはじき出される自分の己の結末。
『敗北』の二文字。

Negative.

否定、拒絶、改変。
新たな結末を発見。

黄金の瞳が、虹色に更に光を変えた。
手を翳す。
手を伸ばす。
演算する。
魔力の流れを、構築される物質を。
その過程を演算する。
そして。

「消えろ。」

時が戻る様に、槍は魔力へ還元された。

伸ばした手をそのまま、少女に突き立てる。

アストロ >  
強化された視覚はその現象を、確かに視た。

解かれていく魔術。
招来されていた槍は、無かったことのように戻されていく。
射出するために構築していた魔術ももはや認識できない。

また無力化されたのか?
違う、そんな事を考えている場合ではない。
何をすべきだ?何が出来る?
魔術など構築している暇はない。
精霊の加護は今は上手く扱えないし、無力化されれば意味はない。


アストロは、とっさに左腕を突き出した。
コラテラル・ダメージ。

黒いフードの少女 >  
「……っ!!」

突如として、肉体が停止する。
突き出した右手を、左手が食い止めた。
自分の肉体が、自分を引き留めている。

内側の相対する存在が、己を制止する。
少女の腕をもぎ取る寸前に、腕を掴んだまま静止した。

「……くそっ、一丁前に躊躇なんてしてんじゃないわよ……!」

苦い言葉を吐くも、訪れるタイムリミット。
虹色に光る瞳は、黄金色に戻る。

「……行って。」

次に放たれる言葉は、それまでとは雰囲気が変わっていた。
悲しみに暮れる、少女の様な声。

左腕で自分の右腕を強く握り、アストロを掴む力を緩める。

アストロ >  
今は腕は水化することが出来ない。出来たとしても、この相手には意味はない。
次に来るであろう猛烈な痛みと、久々になる大怪我を覚悟して、歯を食いしばる。

しかし、それは訪れない。

「っ……?」

このときばかりは、年相応の少女の顔で、不思議そうにその目を視た。

「……」

今回は対応しきれなかった。腕を失っても戦闘は可能だが……。
見逃された……というものだろう。


負けを認めよう。


パチンと指を鳴らせば、散らかした冷気と水がアストロを中心に渦を巻き、
アストロの姿はその渦に飲まれる様に消えていった。

黒いフードの少女 >  
「……。」

眼前の少女が消えると、己にかけていた魔術と、金の瞳も紅に戻った。
沸騰するような熱量に、脳が耐えられずにレッドアウトする。

「……あの瞳、ノースに似てたな……。」

其れだけを最後に、黒いフードの少女は地面に倒れ伏した。
訪れる静寂は、雨を呼び、ずぶぬれになったまま、少女はしばらくの眠りについた。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」からアストロさんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にクロロさんが現れました。
クロロ >  
「『名状しがたき者<The Unspeakable>』」

「『心の触媒毒<Emerald Lama>』」

緑の風が、荒れた大地を吹き抜ける。
水除の加護を持つ、緑の風が、闊歩する青年の周りを
この荒れ果てた戦闘後に通り抜ける。
夏の涼風よりも冷たく、冷気を纏う緑の風だ。
ずぶ濡れのまま眠る少女を見下ろす、煌々と輝く金。

「オイ、コラ。起きろ。風邪引くぞ」

しとしと降りしきる雨の中、眠る少女を乱暴に軽く蹴った。

黒いフードの少女 >  
「うっ……うぅ。」

吹き抜ける風に、体に走るわずかな痛み。
微睡に落ちていた少女の意識は無理やりに浮上させられる。

熱ぼったい身体がひどくだるい。
損傷は全て回復されているが、この疲れだけは抜けきらない。
認識阻害のフードの効力は未だ失われず、深くに被ってから身を起こした。

紅い瞳が、金の瞳を見る。

「また、その瞳……。」

今日はよく、金色の瞳を見る日だ。
とはいえ自分も人の事は言えないのだが。

ぼうっとしている今の状態ではその程度しか認識できなかった。

ふら付く頭のまま少年も見上げている。

クロロ >  
「よォ、妙な所で寝てンなァ。無防備だぜ?
 こンな場所じゃァ、殺されても文句言えなかッたぜ?」

此処は泣く子も黙る天下の落第街。
治安の悪さだけならおどろおどろしい場所だ。
幾らなんでも、こんなに"無防備"に寝るのは、余りにもこの場になれてなさすぎる。
裏に暮らす故の機敏か。少なくとも、此の少女は落第街に住む人間ではない。
クロロはそれだけを理解すれば、金の瞳が少女を見下ろす。

「ア?オレ様の目になンかあンのか?それより……」

辺りを見渡す。中々の有様だ。
クロロは魔術師だ。魔力の通ったもの、或いは魔術の類であれば
その"残滓"を感じ取る事も出来る。この水の気配は、間違いなく見知ったものだ。
それ以前に、何かしらあったかのような気もするが。クロロは小さく溜息を吐いた。

「随分と派手にやッてンなァ。此処に住ンでるガキでもねェ。
 なんの目的か知らねェけど、こンな事やッてると、マジで死ぬぞ?」

煌々と光る金色が、細まる。

「つーか、死ぬ程疲れてンだろ。お前。そのフード、なンかの魔道具か?
 余程顔見られたくねェのは、こンな場所だろうと"後ろめたい事"がある。違うか?」

黒いフードの少女 >  
「そうね……殺せるものなら、だけれど。
 けれど、ありがとう。
 殺されなくても拘束されたらどうしようもない。」

こんな場所で意識を失い、一人になる。
確かにあまりに危険な賭けだった。
しかし、己にはそこまでする理由があった、在ったはずだ。
其れだというのにあの女は。

小さく口の中で舌打ちをする。

ローブをパンパンと叩いて汚れを落としてから、軽く頭を下げて礼を現した。

「いいえ、さっきまでここに居た子に似ているなと想っただけ。」

辺りを見渡しながらため息をつく様子に、不思議そうに首をかしげる。

「……大丈夫、死なないわ。
 死ねないから、こんなことをしているのよ。」

こちらもため息をついて、肩をすくめて見せた。
眼前の少年は随分と人が良いらしい。

「これは、そうね。 私のお手製よ。 以前見たものを見よう見まねで作ったものだけど。
 案外うまくできているでしょう?
 ……知ってる人に顔を見られては困るのよ。
 こういう所に居るなら、少しはそういうの分かるんじゃなくて?」

クロロ >  
少女の言葉に、訝し気に顔を顰めた。

「どーせアストロだろ?見る限り、やりあッたンだろ。
 アイツの事だし、テキトーに煽られたクチだろ、お前」

この水の力、魔術跡は間違いなく彼女のものだ。
何度も邂逅を重ねたから、覚えもある。
大よそ、この少女と戦ったと見えるし、戦うまでの流れが目に見えてわかる。
ハァ、と深いため息を吐いて後頭部を掻いた。

「まァ、アイツについてはほッとけ。後でオレ様の方から言ッとく。それよりな……」

「さッきから随分と死なねーッつーけど、要するにお前"死ねない"ッて奴か?
 死にてェ……ンじゃなくて、死なないから"無茶出来る"ッてクチか?バカだなァ」

やたらとその辺りを強調する辺り、そう言う異能か、あるいは体質か。
少女は恐らく、不死と呼ばれるものなんだろう。
それほど珍しいとは思わないし、クロロはその辺りどうでもいい。
気になるのは、その考え方だ。
無鉄砲と言うより、明らかに死なないからって"無理"をしているようにしか見えない。
ますます眉間の皺を深め、ずいっとフードの奥の顔を覗き込む。

「ンな二流アイテムなンぞどーでもいいし
 お前は"そう言う理由"で見られたくないワケじゃねェだろ?
 "表"の連中とかに、うッかり顔見られるのがイヤなンじゃねェのか?」

クロロは馬鹿だが、阿呆ではない。
魔術とは知識だ。即ち、それを理解する"頭"が必要になってくる。
じ、とその底を見透かすかのように金色の瞳が少女を睨む。

「幾ら不死身だッても、此処がどういう場所か染みついてりゃ
 あンな"無防備"な寝方はしねェ。お前自身が"困る事"を言ったように
 眠ッてる間に何かやらからされたくないからな。……お前、一体何しに来てンだ?」

黒いフードの少女 >  
「煽られた……、あぁ。 そうか、あれは煽られたのね?
 てっきり本当に手を出すのかと思って、殺しかけちゃったけど。
 まぁ逃げられたしいいか。」

どうやら彼は少女の知り合いらしい。
元来ああいうことを繰り返しているのだろう。
冗談が冗談では済ませられない今の自分にとって、彼女の存在そのものが毒の様なものだ。

「貴方から言っておく……ね。
 それを大人しく聞いてくれるようなら、私も手を上げないんだけど、期待してもいいの?」
 
半場呆れたような眼をしながらそう尋ねる。
どこまでもお人よしだ、どうせ他人ならば放っておけばいいものを。
それとも、子供だから放っておけないとかそういう口だろうか。
なおさら、彼にもこの場所は似合わないなと顔をしかめる。

「どうでもいいって、ひっどいなぁ。
 結構頑張って作ったんだけどなぁこれ。」

死なないから無茶ができる、という言葉にはあえて無言を通した。
もう言わずとも分かっているだろうし、改まって自己紹介するのも馬鹿らしい。

「何しに来てる……か。そうね。
 あの子の幸せを壊す物を、全て壊すため……?
 うん、それが一番かな。」

にこやかな声でそう答えた。
あの子、がいったい誰を現すのかは口にしなかったが。
この街に似つかわしくない、慣れていないくせに、口だけはそれ相応で、アンバランスが過ぎる。

クロロ >  
「アァ?なンだその曖昧な言い方。殺し合ッたンじゃねェのか?
 ムカついたから手ェ出した……ンじゃァねェのか?じゃァなンでやりあッてンだ」

確かにアストロは敵を作るのは得意そうだが
敵ならもっと執念深いものだと思っていた。
何だか今一、要領を得ない物言いに、ますますクロロの眉間の皺は深まっていくばかり。

「知らン。だが、とりあえずわからせる」

実際効果が在るかは知らないが、言わないよりはましだ。
彼女の事はもっと深く知る必要があるし
何れ決着も付ける必要がある。
それが付くのは何時かは分からないが、それはそれとして
腕を組んで力強い語感は、アホみたいな物言いの癖にやたら自信にあふれていた。

「…………」

言葉からして誰かのために行動しているのはわかる。
だが、口にするものは大よそ狂気めいた物言いだ。
人が、"狂気"に押される瞬間は大よそ察しが付くが
問題は、この少女に"理性"と"正気"があるかどうかだ。
クロロは自身の頬を掻き、問いかけを続ける。

「随分と滅茶苦茶な事言うな、お前。その"あの子"ッつーのは、誰だ?
 まァ、そこまで入れ込むならテメェで大切な人間ッつーのは理解出来る。
 ソイツは、落第街<ココ>に何かされたンか?それとも、向こうからコッチに踏み込ンできたンか?」

黒いフードの少女 >  
「えぇ、殺しあったわ。
 相手もそのつもりだったろうし、私もそのつもりだった。
 けど、邪魔が入っちゃったのよ。
 私の邪魔をするなんて、どういうつもり何だか。」

あの時邪魔さへ入っていなければ、腕の一本は確実に持って行けたというのに。
どういうわけか、この身体の持ち主はそれを嫌がった。
知人に似ているから強く影響されたのであろうことはわかる。
まさか表に出てくるとは思っていなかった。

「あてにならなさそうで結構。
 何かった時、その時は手加減できないから怒らないでよ?
 その時は止められなかったあなたの責任だからね。」

今度は大きくため息をついた。
断言するというのなら責任程度は取ってもらわねば。
本当なら痕跡を追いかけようと思っていたのだが、敵を多く作るのは避けたかった。
それに、目の前の少年には一応の恩義がある。

「あの子は、<ココ>に居るわ。」

彼女がそういって自分の胸を親指で指し示した。
それがどのような意味を持つのかは受け取り手によって異なるだろうが、そこまで詳しくは口にしなかった。
ただ、あの子のことはとてもにこやかに話す。

「ココに居る何にかに、あの子の大切なものが壊されそうになった、と言うべきなのかしら。
 いや、あの子も、あの子の大事な人も、この場所に縁は深いのだけれどね。
 今回は……、そうね、ココの馬鹿共に、幸せを壊されそうになった、のかしら。
 私は自業自得だと思うのだけれどね。
 修道院の女一人、放っておけばよかったのよ。」

その言葉から感じるのは、怒りと、あの子と呼ぶ少女への慈しみのような何か。
そのためならば他はどうでもいいという、矛盾を抱えている。
狂気と矛盾によって、少女は成り立っている。

クロロ >  
「アァ……?何言ッてンだお前?」

今一要領を得ないというか、邪魔する相手でもいたのだろうか。
そんな痕跡は見えないし、邪魔するのならもっと場は混乱していたはず。
後頭部を掻きながら首を傾げた。

「知らン。殺し合いすンのは勝手にしろ、アイツもそれを承知だし
 それでそうなッたらそう言う事だろ?一々キレンのは"スジ"が通らン」

喧嘩も殺し合いもどんな状況であれ、互いが"認可"したのであれば
そこに他人が介入する余地はない。それは、自分も同じだ。
どれだけ気に入った女であろうと、そこに泥を塗る真似はしない。
クロロは無法者だが、"矜持"は守る。
裏の世界、悪なりの矜持だ。

「まァ、場合によッちゃァ仇討ち位は考えるが……ア?」

指される胸をまじまじと見る。

「……平原過ぎて何か入るように見えないが……?」

クロロは訝しんだ。世が世なら殴られてもおかしくはない────!

「…………」

先程の答えも何となく理解出来た。
要するに"二重人格"のようなそれか。
つまり、今目の前にいる"人格"は、もう一人の少女を護るべき機能しているもの。
それが、どういう理由でいるのか、何故そうなっているのかは興味が無い。
ある種のセーフティだ。別人格が出来る大抵のメカニズムは
魔術・異能的要素を除けば"余計なものを押し付けるため"のものでしかない。
だからこそ、クロロは溜息を吐いた。

「……同情すンぜ、"お前に"」

目の前にいる"少女"に。
見下ろす金色が見せるのは、憐れみだ。

「とりあえずメンドクセェ事になッてンのはわかッた。
 そりゃァ、災難だッたな。だがな、"自業自得"とわかッてンなら
 これ以上立ち入るのは"余計な事"だぜ。」

「お前がどンだけナルシーかは知らンが、大抵の壊されそうッつーのは気のせいだ」

「わかッたらとッとと帰れ、邪魔だ邪魔だ」

いーっと口元をへの字に曲げてしっしっ、と手で追い払った。

黒いフードの少女 >  
「ふぅ……。男の子ってのはこれだから。」

平原がすぎるという言葉には肩をすくめて笑って見せた。
別段気にすることでもない、私が好きならそれでいいのだ。

「同情ね。私は案外気に入っているのよ、この立ち位置は。
 うん、まぁ面倒を押し付けられているっていうのは理解できるけどね。
 私の妹みたいなものだもの、守ってあげたいじゃない?
 だから、これは『私』の意思でもあるのよ。」

くすりと微笑んで、同情に対して「ありがとう」と答えた。

「そうね。きっと余計な事なのよ。どれもこれも。
 でも、あの子が怖いと思ったなら、私は其れを壊さなくちゃならない。
 あなた、そういうの分かる人、分からない人?」

どこか悲しげな声でそうつぶやいた後。

「えぇ、今日のところは。
 貴方の言葉に従っておくわ。
 またくるけれど、ねぇ、貴方名前は?
 わたしは、『ツバキ』。」

振り返って、少年に微笑みかける。
伊州だけ、彼にだけわかるように認識阻害の魔術を緩めた。

クロロ >  
「ア?何が?」

今一彼女が何に呆れているかはわからない。
バカ以前に、そういうデリカシーはない。

「バカかテメェは?テメェの妹みてェなモンだッて言うけどな
 実際やッてる事は"はた迷惑"もイイ所なンだよ。テメェの意思なら、猶更だ。
 ココは確かにクソみてーな場所だが、そこにはそれなりの"ルール"がある。
 ソイツを破れば、ココにいる連中だッて容赦なく断罪されンだよ」

「お前は、そのルールの外からやッてきたよそ者だ。
 テメェの"妹"が何かされたッてンなら、確かに仇討ちの権利はある。
 だが、無暗デタラメに喧嘩売るのは、"スジ"が通らねェ」

「オレ様はソイツを"わかッた"としても、"認めはしねェ"。
 表だろうと裏だろうと、ソイツはただのクソ野郎だ。
 お前のやッてる事は、『認めはしねェ』し、ハッキリ言ッて『間違ッてンだよ』」

「わかッててやッてンなら、お前は相当"狂ッてる"よ」

少なくとも彼女の言い分を"理解"はする。
時と場合によっては、そう言う不利益・悪を背負い込むことは理解出来る。
それで咎を受けるのは、そう言う宿命であり、"スジ"を通すという事だ。
だが、如何見てもそれは『今ではない』
彼女がやっている行為は、どう見ても"やりすぎ"だ。
"理解"しても、"許容"はしない。
だからこそ、それを否定し、糾弾する。
彼女の行いは『間違い』であると、真正面から否定する。
金の瞳が睨みつけ、奥底に燻ぶる憤りで顔を顰めた。

「"今日は"じゃねェ、二度とくンな。いいか?
 "インガオーホー"。特にコッチの連中を下手に刺激したら
 テメェの『妹』事態がどうなるかわかッたモンじゃねェぞ」

これは優しさによる、"忠告"だ。

「オレ様はクロロだ。これ以上、"裏の秩序"を乱してくれンな。
 今はともかく、このままだと大事になッてえれェ事になるぜ?」

黒いフードの少女 >  
「裏のルール、ね。
 あぁ、そういえば『ヴラド』達がそういう事をしているのだったっけ。
 『裏切りの黒』生きいすぎた悪を断罪する者たち。
 そう、なら貴方もそうなのかしら?」

構成員の一部の名をだし知っていることをアピールした。
そこにはどんな意味があるのか、ないのか。
ただ、つぶやく少女はどこか楽し気で。

「間違っている……かぁ。
 そうかなぁ、そうなのかもねぇ。
 貴方が何を怒っているのかわからないからこそ、きっと私は"狂っている"のね。」

そう口にするくせに、悲しそうな顔を浮かべる。
狂っていても、情緒は存在するらしい。
『理解』されないことを嘆いているのか、それとも。

「――私は、私にとっての、あの子にとっての平穏を乱されたとき、此処に来る。
 "裏の秩序"は私にはわからないけれど、でも、あぶり出さないといけない奴らが居るのよ。
 そして、私はそいつらに恐怖を刻まなければいけない。
 ねぇ、クロロ、どうしてもそれは、いけない事?」

もう一度黒いフードを目深に被り、認識阻害の魔術をかけなおした。

「もし、私の邪魔をするなら。
 その時は相手になるわ。
 ありがとうクロロ、貴方の優しさは、とても嬉しかった。」

少女はそう言って、その場を後にしようとするだろう。
どこか名残惜しそうに、最後に振り返った。 

クロロ >  
「さァな、知らン。大体なンだソイツ等?」

首を傾げて怪訝そうに答えた。
そこに所属していようがしていまいが、"そう答える"のが普通だ。

「怒るさ。誰かが間違ッた事すりゃァ、ヤベー事すりゃ、叱る。そーゆーモンだ」

「わかンねェならまず、テメェこそ"理解しようとする"ッつー姿勢を見せろ。
 一々"狂ッてる"だの、"わかンねェ"みてーな顔すンじゃねェ。順序がちげーだろ」

それが"わからない"なら、まずは"理解"すべきだ。
一体何が原因なのか、それを究明せずに嘆くなど言語道断。
それでいて"わからない"と言うのであれば、確かに狂っているのだろう。
だが、そこまでしているのであれば、きっとそんな子どものような疑問は出てこない。
呆れたように、クロロは溜息を吐いた。

「ツバキ、お前が何者かは知らンが、まずは"理解"する事からだな。
 ぶッちゃけ、お前のやり方はケッコー同情するが、やり方はもッと他にある。
 あぶりだしてェ奴がいンなら、もッと賢いやり方を選ぶンだな」

それこそ"理解"しろと言う話だ。
だからこそ、クロロは言う。

「わかンねェなら、オレ様が教えてやる。
 お前がバカすンなら、オレ様が止めてやる。
 お前が悲しくすンなら、オレ様が受け止めてやる」

「だから、今度出てきたらまずはオレ様を探す事を約束しろ。いいか?」

だからこそクロロは、"ツバキを理解しようとする"。
まずは、如何なる人物は理解しなければならない。
相互理解は、最も人が必要とするものであり
知識を育む上で大切な行為だ。
名残惜しそうなその背中に言葉を遠慮なく投げかけ、口角をニヤリと釣り上げた。

「ヘッ、オレ様は優しかねェよ。"スジ"通すだけだ。だから……」

「『またな』」

これで終わりではない。彼女とは、"これから"だ。
だから、"また"会う事になるだろう。
その背中が見えなくなるまで、金色は風と共に少女を見送り
やがて、クロロの姿も風と共に消えるだろう……。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」からクロロさんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から黒いフードの少女さんが去りました。