2020/10/08 のログ
伊都波 凛霞 >  
感情を表に出してしまったこと
それ自体を悪しとするような、少年の表情
まるで命令に従い続けるロボットでなければいけない、とでも言うように

「そうじゃない!」

思わず、少しだけ大きな声を出してしまう
そんな自らを嗜めるように、胸元に手を置いて、一呼吸を挟み…

「…風紀委員の組織全体の流れのことじゃなくって…、神代理央個人のことを言ってるの。
 本当に考えすぎ…?余計なお世話…?理央くんがそう言うなら、私はこれ以上何も言えない、けど…」

煌々と燃える炎
まるで罪の業火を背負うように笑う少年から、僅かに視線を落とす

感情を殺す少年とは対極にあるような、薄膜にすら包まれない感情の発露
凛霞はただただ悲しげに、言葉を続けた

「…仕事は、私もちゃんと、やる…でも…」
「──風紀委員としてじゃなく、神代理央として助けが必要な時は…声を、かけてね」

今の彼に、薄っぺらなただの言葉と感情なんかがどれくらい響くのか…それはわからなかった
それでも先輩として、仲間として、友人として、ただただ今の彼の姿は…心配でしょうがなかったのだろう

「………」

一瞬、水無月沙羅の名を出そうかと迷った末の言葉は、
結局その口から出すことはできず、口を噤んでしまった
……とてもじゃないけれど、不用意に触れてはいけないものだと感じていたから

神代理央 >  
声を荒げる彼女に、不思議そうに首を傾げる。
彼女が何に感情を昂らせたのか。何に気持ちを乱しているのか。
心底理解出来ない、と言いたげな表情。
しかしてその表情は、彼女の言葉を聞いて理解の色を浮かべた。

「…ああ、成程。先輩は本当にお優しいですね。
てっきり、職務に対する不安や、無関係の住民を巻き込む事への危惧かと思っていました。
よもや私自身の事だとは――ちょっとだけ、予想外でした」

クスリ、と小さく笑みを浮かべて。

「……自覚はしていますよ。今の私は、それなりに不安定な状態にあるのでしょう。
しかし、だから何だというのです。精神面の不安定さは、私の異能に何ら影響を及ぼさない。
違反生共を叩き潰すのに、何の問題も無い」

「先輩が気に掛けるべきは、先輩の助けを求める子達でしょう。
或いは、もっとプライベートを充実させるべきでしょう。
如何せん、先輩は働きすぎです。もっと学生らしい時間を、過ごされるべきかと」

悲しげな。本心から此方を偽る様な彼女の言葉に、拒絶の意思は示さなかった。
しかしそれは"拒絶していない"だけであって、受け入れた訳でも無い。
彼女の慈悲と慈愛が注がれるべき相手は、他にも大勢居るはずだと。物分かりの良い子供の様に、笑う。

「神代理央、として助けが必要な時…ですか。
……良く分かりません。私は風紀委員であり、神代理央でもあります。その存在は同義で有り、同一です。
先輩は、私が風紀委員として助けを求めるのは――神代理央が助けを求めているとは、思ってくれないのですか?」

神代理央は風紀委員であり、風紀委員は神代理央である。
言葉で表せば実に珍妙なものだが、己の中ではそれが確固たるものになってしまっていた。
『立場』と『個人』が癒着して離れない。だから、彼女の言葉に対して再び――本当に不思議そうな声色で、首を傾げるのだった。

伊都波 凛霞 >  
精神的な不安定さを自覚した上で、職務の遂行には何も問題がないのだと応える少年
彼は、言葉をしっかりと受け止めた上で…受け入れはしない

「ん…ごめんね。なかなかそういうのに、優劣がつけれなくって…」

もっと目を向けるべき人がいるはずであるという言葉
どうしてか、自虐的な言葉でもないのに、その言葉からはやや悲しいものを感じてしまう

「…風紀委員同士、当然助け合う意思はあるよ。
 でも私は腕章を外している時の君の助けにだってなりたい」

彼に、そんな意識があるのかどうかは…わからない
けれど不思議そうな表情を浮かべるその様子に、痛ましいものすら感じてしまう

それから、視線を彼の目へと戻す

「………」
「精神が不安定なことを自覚しつつ、職務に影響が全く出ない、なら」
「もうその件に関して口を挟むことはしない、けど…」

「………沙羅ちゃんのことに触れられても冷静でいられるの?」

一瞬だけ、口籠った言葉は、今度こそ吐き出して、投げかける
人の弱っている部分、触れられたくない部分にあえて触れ、その冷静さを欠いた状態につけこむ輩は決して少なくない
……彼はこれから、きっと敵を多く作る。心配など、してもし足りないくらいなのだった

神代理央 >  
恋人だった少女の名を告げられた瞬間――
目に見えて、己の態度と感情が変化する様が、見て取れただろうか。
それは怒りであり、悲哀であり、そして――諦め、であった。

それらの感情を、吹き出し、荒れ狂いかけた感情の渦を。
汚泥を飲み込む様に深く息を呑みこんで…息を、吐き出した。

「……ええ、私は大丈夫です。水無月は、もう私とは関係ありませんから。
今迄は、なし崩し的に上司と部下という関係でしたがそれも解消しました。大丈夫、です」

大丈夫、大丈夫。
それは己に言い聞かせるというよりも――呪詛めいた言葉。
己に呪いをかける。弱音、という甘えを。感情の吐露を。
封じ込める為の、呪い。

「……別れてからまだ日が浅いですので、冷静でいられるかという点に関しては…正直、危ういところもあるでしょう。
でも大丈夫です。大丈夫なんです。そういう連中も、全て焼き払って、踏み潰しますから」

「弱さを自覚していれば、大丈夫です。
私の鉄火は、邪魔な連中を焼き払うに実に都合が良い。
…此処の連中だって、大した事はなかった。朧車だって、私は一人で討伐出来る。
だから大丈夫です。先輩。先輩の御迷惑になる事は。風紀委員会の尊厳を貶める事は、決してしません」

大丈夫。大丈夫。大丈夫。
そう、己は大丈夫なのだ。彼女の名を出されて、精神的に揺さぶられる可能性は否定しない。
しかし、それが分かっていれば大丈夫。

「………私では、水無月を幸せには出来ませんから。
私に出来るのは、大人のフリをして政治ごっこに明け暮れる事と、不相応な力を振るって"敵"を殺すことだけです。
でも、それだけなら上手くやってみせますから。大丈夫です」

此方の目を見つめる彼女に、瞳を合わせる。
けれどその瞳は、彼女を見ていない。
未だ燃え盛る火焔の中で、何処かぼんやりとした様に、微笑んでいるだろうか。

伊都波 凛霞 >  
大丈夫、という言葉を繰り返す理央
そんな状態が大丈夫じゃないことくらい、わかっている
自分だって、大丈夫じゃないからこそ、大丈夫だと言い続けてきた時期があったから
でも……

「……私は」

呼吸を置く
その次の言葉を言うのには、覚悟が要る
彼に、新たな呪いをかける覚悟だ

「理央くんが大丈夫って言うなら、それを信用する。
 本当に大丈夫なんだって、私自身にも言い聞かせる」

そうでなきゃ、きっと余計なお世話を焼いてしまう
それは彼にとって…邪魔なものになることだってある筈だ

しかし、そんな覚悟の上であっても、沙羅を幸せに出来ない、と零す理央の姿には思わずその顔に悲壮感を表してしまう

「…どうしてだろうね」
「あの時の二人は周りから見ても、幸せそうだったのに」

いいなあ、なんて二人を見て思っていたあの頃

そこで、はっと我にかえる
こんなこと、彼自身いくらも振り返ったことに違いない

「ごめん。…変に触れないように、って思ってたのに」

間違いなく彼の中に大きな傷として残っているであろうそれに無遠慮に触れた自分を恥じる

"私は、理央くんは沙羅ちゃんを幸せにできるって、信じてたよ"

そんな言葉は飲み込んで…ぱんぱんっと軽めに自身の頬を張る

「──以上。伊都波凛霞が神代理央より現場の保全作業を引き継ぎます。
 周辺のダメージによる壁等の崩落の危険も0ではないので、気をつけてご帰投ください」

神代理央 >  
"信用する"
そう告げた彼女に。彼女の言葉に。
何処か安心した様に、そして少しだけ疲れた様に笑うのだろう。
此れで少なくとも、己の選択は間違えていなかったのだと、彼女が保証してくれた。そう思う事が出来るのだから。

「……そう言って頂けるのなら、何よりです。
先輩の信用に応えられる様に、此れからも頑張りますから。
頑張り、ますから」

伊都波凛霞、という頼りになる『組織の先輩』が信用してくれるのならば。
此れからも、きっと己は大丈夫だ。
そう緩やかな声色で呟いた後、彼女から零れ落ちた言葉が耳を打てば。
今夜初めて浮かべるのは――憂いと悲哀を帯びた笑みだったのだろう。

「さあ、私にも分かりません。
私がどうすれば良かったのか。どうすれば、水無月をきちんと幸せに出来たのか。どうあるべきだったのか。
なんにも、わかりません。今は唯、彼女が幸せになる事を、遠くから願うばかりです」

そして、謝罪の言葉を口にする彼女に、緩く首を振って。

「"大丈夫"です。先輩が……先輩が本当に心配してくれている事は、分かっているんです。
分かっているのに……いや、此れ以上は"甘え"です。すみません」

己の中の『甘え』を恥じ、嫌悪し、振り払う。
そうして、風紀委員として向き合う彼女の言葉には――何時もの様に、僅かな尊大さと生真面目さを浮かべた表情なのだろう。

「――了解しました。特務広報部としての活動を現時刻を以て終了し、以後の現場での活動について、伊都波先輩への引継ぎを了承します。
敵性組織は殲滅しましたが、残存戦力が潜伏している可能性もあります。保全作業は、十分な安全を確保した上で行って頂ける様、お願い致します」

そして、くるりと彼女に背を向ける。
己を先導する様に、重厚な金属音と共にのしのしと異形の群れが列を成す。
その列に紛れ、消えようとする最中。
一度だけ、彼女へと振り向いて。

「………心配してくれて、有難う御座いました。うれしかったですよ、せんぱい」

力無く微笑むと、踵を返し、制服を翻して。
武を誇る風紀委員として、現場を後にするのだろう。

伊都波 凛霞 >  
「………」

一度振り向き、言葉を向けた彼。…その背を見送る
彼も悩んで、迷って、その末に答えに辿り着いたはずだ
それを頭から否定なんて出来るわけもない、間違っていると糾弾するのは彼の決意すらも否定する
けれど、最後に…

「理央くん!」
「辛い時に辛い顔をするのも、誰かに頼るのも、甘えるのも」
「ちっとも恥ずかしいことじゃないんだから───」

「"大丈夫"じゃなくなった時は、絶対に『先輩』を頼ること!」

声を張り上げ、その背へとぶつける

神代理央、彼は男である
女が余計な世話を焼くことすら、見方によっては恥となるだろう
それは彼がそう思おうと、思わなかろうと、である

だから今自分の立場で彼に出来ること、それは
彼が助けを求めた時に、応えられる先輩であること…

「………」

大丈夫と繰り返した姿、そして最後に向けられた笑み
そのどれもが、凛霞の不安な心を確実に増大させてゆくのだった

ご案内:「違反組織『狸の臍繰り』――拠点跡」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「違反組織『狸の臍繰り』――拠点跡」から神代理央さんが去りました。