2020/11/14 のログ
紫陽花 剱菊 >  
「…………」

言葉を聞く。思いを聴く。
音に聞こえし、気楽の笑み。
然れど、読み上げる其れに笑みは無く、淀み無く
澄んだ声音を噛み締める。さながら、己に刻むが如く。

「……さながら……語り部だな。」

真っ先に思い浮かべたのは、其れだった。

「語り聞かせる御言葉。己がまるで、全てが記された書物。
 ……其れは、宿業か。或いは、己の趣味か……。」

無念を後世に語ると亡霊は謂う。
其れは仏か。天道見下ろし、民草を見守る慈愛。
……否、剱菊は思う。慈愛には、程遠い。
是は其れよりももっと、悪質だ。
故に……。

「私は其の様に、情熱的に見えるか……?其方にとって、私は如何見える?」

故に、手を伸ばした。
本棚に在る其れを、手に取る様に
伸ばした手が、其の頬に触れようとする。
触れれば感じる、鉄の如き、冷たき温もり。

シャンティ >  
『紫陽花 剱菊は考える。紫陽花 剱菊は訝しむ。女の正体を。女の本性を。「――」』

女は興味深げに読み上げる。
一言一言を、刻むように、吟味するように。


「あ、は……あは、あはは……ふふ、あははははは……っ 私、が……語り部……私が……書物……うふ、ふふ、あはは…… いい、いぃ、わぁ…… 宿業……趣味……そう、そう、よぉ……」


笑った 女は 笑った
先程までと違う 狂気に満ちた
満足げな 笑い


「私、は……自分、で……なに、も……でき、な、ぃ……で、も……死ぬ、こと、も……でき、ない……宿業、の……亡霊…… ええ、ええ……其の、通り…… あは、ふふ…… いい、わぁ…… こた、え、ましょ、う……異界、の……剣士。貴方、の……問い、に……」


伸ばされた手を、躱すこともなく……否。
何事も起きていないかのように、受け入れる。

触れた手は冷たく、触れた頬もまた冷たく。

「心、を……持った……刃、は…… 道具、に……あら、ず…… それ、は……ふふ。 耐え、忍ぶ……ただ、の……剣士、よぉ……? 刃、に……宿、る……心、は……ふふ、情熱、で……は、なく、て?」

くすくす、と笑う。


「貴方……面白、い……か、ら……すこぉし、ね。まだ……知りた、い……こと。答え、ても……いい、わ?」

紫陽花 剱菊 >  
女性は笑う。虚空に波紋を描く、狂気として。
然れど、機嫌を損ねたようには見えない。
真逆、満たされたような笑い。
即ち対岸に佇む亡霊は、己の狂気を自覚していると見た。
一人では何も出来ぬと、亡霊は謂う。
何一つ、筆一つ綴る事は出来ぬ、と。

「因果か……。」

然もありなんと漏らした言葉。
剱菊の其れは、"憐れみ"だ。
刀を握るには余りに不釣り合いな、朗らかな陽の心根。
女性を見下ろす表情でさえ、憂いを帯びていた。

「……情熱、か。私の刃は、其の様に熱を帯びている、と?」

自覚は無い。
そして、其れを宿し何とするか。
人として欠けた剱菊の其れは至らず、問いを重ねた。
触れた手を添えたまま、剱菊は言葉を続ける。

「憶測で物を言う無礼をどうか、赦して頂こう。……では……。」

一呼吸。

「其方は理央に、何をさせんとする?何を成し、何を見る?
 ……幽世なれど、亡霊として死者を欲するとは言うまいに……。」

シャンティ >  
「刃、は……モノを、考え、ない……道具、は……人を、想、わ……な、い……熱、の……な、い……もの、は……主、た、り……え、ない、わぁ?  友、の……た、め……想い、人、の……た、め……動け、るの……は。それ、は……熱。それ、は……力。それ、は……主演、た、る……舞台、に……た、つ……資格……よぉ……」

女は謳わない。
ただ、言の葉を紡いだ。
どこか、羨望が混じった声音。

しかして、それはすぐに消えていく。
女は、また笑う。愉快そうに、楽しそうに。


「あは……理央くん、にぃ……? 私、がぁ……? いいえ、いいえぇ……私、ごと、き……三流、は……なに、も……でき、ない、わぁ……? 彼、は……自、ら……転げ、落ち……て、いった、だ、け……で、も……そう、ねぇ……?」


また、人差し指を唇に当てて考える。


「私、は……彼、に……そう、ねぇ……たぁ、く、さん……悩ん、で……ほし、ぃ……わ、ねぇ……ふふ。 自分、の……資質、を……己、の……適正、を…… 行い、の……本質、をぉ……」

言葉に熱が籠もる。
どこか恍惚とした声音で女は語る。

「正義、を……騙、って……成し、えた……も、の……の、正体、を…… あれ、は……もう……ふふ。 悪、と……さして、変わ、り……ない、と……いう、こと、を」

紫陽花 剱菊 >  
「……私は過ぎたものだと考えたが……熱を持つが故に、人か。
 鋼が熱を持ち、刃に打たれるが如く。心の琴線を言の葉が打つ、か……。」

あの時は唯、向こう見ずに、唯己の我儘の為に走り抜けた。
其れ以外の一切合切は"知らぬ"と斬り捨て、一直線に彼女の下へ。
我欲なれど、其れが人だと教わり、未だ至らぬとは、思っていた。
意外だ、と驚くような物言い。唯、剱菊は其れを見逃さなかった。

「……気になるか?私の熱が。」

羨望。
何を羨むと言うのか、と。

「…………」

三流と彼女は謂う。
ともすれば、彼女の言葉は一押しで在った、と。
僅かに顰めた表情は、苦味だ。

「……覚えが在る。あやつの不安定さを見抜けていた。
 然れど、隣立つ者がいれば大丈夫だと思っていた……。」

「然れど、思い違いか……。」

刃を交え、言葉を交え、互いに似た者同士と理解したと思っていた。
故に、理央もまた、隣人と寄り添えばきっと変わる。
未完の器は此処に成るものと、思っていた。
隣に寄り添っていた、彼女が要れば、と。
……かくも、期待は悉く水泡に帰した。

「悩み抜いた上で、何を成す、か。……そうであろうと、やり直せぬ訳では無い。
 斯様に"悪"と語るなら、何を以ても、私自身も悪であろうよ。」

如何なる理由で在れど、人を斬るのは悪で在る。

「……だが、受け入れ、戒めとすれば良い。無論、許しは乞わん。
 私も何時か、此の身に咎を請け負うだろう。其れが、我が宿命成れば、然もありなん。」

「然るに、其方は亡者のみ成らず、生者の一生(ものがたり)を見届けると?」

シャンティ >  
「私は、亡霊……私、は……演者、では、なく……私、は……作者、でも……な、く……私、は……ただ、いた、だけ……の……残り、滓…… 私、は……前、に……で、る……資格、の……ない、亡者……」

笑わず、ため息のように、女は口にする。
ただただ、悲しむように。ただただ、哀れむように。ただただ、恥じるように。


「や、りなお、す……? ふふ、ふふふ……でき、れば……彼、には…… 演者、と、して…… 私、たちの……後を……継い、で……かつ、て……の、幕を……また、開け、て……ほし、いの……だ、けれ、どぉ…… ふふ。観客、も……たぁ、くさん……招、いて……そう、か、の……レイチェル・ラムレイ、と、か…… ふふ、ふふ、ふふふ……あはは……」


熱を帯びた声で女は語る。
仔細はなく、しかし、どこか不穏を漂わせ。


「ええ、ええ……私、は……他人、の……一生(ものがたり)、を……読み、見届、ける……だ、け…… それ、が……堕ち、て、いく……堕落、の……語り、なら……とて、も……素敵、な……こと、だ、わぁ……?」

紫陽花 剱菊 >  
亡霊は語る。其の口ぶりは、数多の者を見て来たかのように語る。
哀れみ、哀しみ、恥じ。見えぬ目は、より多くを見てきたとみる。

「何者でも無く、亡霊として唯、在る。
 ……見据える場は天か、隣人か。或いは、底か。」

何れにせよ、其の言霊は確かなものだと理解する。
耳朶にしみ込む此の声音は甘言か、毒か。
水底より見据える黒は、静かに彼女を見据えている。

「……幕開けを待ち、人の堕落をせせら笑う。」

然るに、出るは"過去の亡者"也。

「……亡霊"共"。如何にして過去に何を成したか、何を見て来たのか。
 私が幽世に流される前に、如何にして多くの堕落を見届けたかは知らん。」

「─────……だが。」

水底から、瞳孔が開く。
獣より鋭く、刃のより尖り、眼差しが突き刺さる。
纏う空気が凍え、剣呑さが骸達を取り巻いた。

「……其の幕開け、其の堕落が、其方の言霊が招くと言うので在れば、容赦は出来ん。」

此処に在るのは人だが、刃を斯様懐に持っていれば
如何様にでも抜き取ろう。亡者と成れど、彼女が何れ帰る場所を脅かさんとするので在れば、何時でも刃は、此処に抜かれる。

シャンティ >  
「堕落、を……笑う? いい、え……いい、ぇ……私、は……昔、を……見たぃ……だけ、よぉ……? 阿鼻を、叫喚を……焦熱、を……あは、あはは、あははははは……あの、懐か、しき……光景、をぉ……」

笑う、笑う。女は笑う。


「私、の……言霊、が……? いいえ、いいえぇ……私、ごと、き……は……なに、も……成せ、ない……わ、よぉ……私、は……演者、でも……演出、家、でも……脚、本家……で、も……な、く……ただ、の……舞台、装置……だ、ものぉ……? 私、は……不死鳥、には、なれ、ず……ただ、の……死者……そう、私、の……する、の、はぁ……『イル モルテリオ』……それ、だけ……よ、ぉ……?」


くすくす、くすくす、と……闇の中に、笑い声が響く。
子供のような、無邪気な、悪戯な、それでいて、邪悪な……


「それ、にぃ……? 風紀、委員……が、落第、街……を、荒ら、す……の、は……筋、では……ない、わ、よぉ……? それ、はぁ……違反、者、の……『演目』、の……はず…… いう、なれ、ば……私、の……望み、はぁ……『正常化』、よぉ?」


正義は我にあり。
そのような口調で、女は騙った。

紫陽花 剱菊 >  
即ち、其れは焦土。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
亡霊が亡霊へと成り得た場所か。
かくも、言霊だけで想像するは易し。
だが、如何様な物かは……感じるには難し。

「まさに、亡霊は地獄より出る、と……。」

忘れられぬが故に。求め、望む。
舞台装置と宣おうと、確かに其れに踊らされた者が居る。
眉間に皺寄せ、睨みつけた。

「……如何にも。斯様な惨状を行うのは風紀委員に非ず。
 然れど、其方が用意すべく舞台では無い。成るべくして成った。
 其処に筋書きは無い、人の生が在るのみ。……何れ、此の惨状も無くなろう。」

世は並べて事も無し。
流水は唯其処に在るのみ。舞台装置の必要も無い。
決着は何れ、遠くない日につけられる。
添えた手を離さぬまま、より深く、其の邪悪に飛び込むように
自ら顔を、覗き込んだ。

「語り部よ。其方は、"何者"だ?」

二度目の問いかけ成れど、其の意味はまるで違う。
灰より出る者よ、其の焦土を灯した"残り火"が在るので在れば
其れを焚きつけんとするかのように、亡霊の"向こう側"を見据える。

シャンティ >  
「えぇ、えぇ……そう、そぅ……よぉ……? 彼、は……自、ら……堕、ちて……行った、の。だ、から……きち、んと……堕ち、た……先の、場を……整え、ない、と……ダ、メ……で、しょ、ぉ……?」


所詮、舞台装置でしかない自分に誰かを動かすほどの力があるとは思っていない。
所詮、残り滓の自分に何かをなし得るとは思っていない。
ただ、ただ……囁き、念じ……行く末を、見守るだけ。

人の起こす即興劇の行く先を。


「あぁ……そう、そう……ねぇ……『イル モルテリオ』……が、何を、弔う、のか……貴方、には……教え、て……あげ、ましょう、か……ふふ…… そう、は……いって、もぉ…… 異邦の、貴方……に、は……わか、らない……か、もぉ……?」


くすくすと笑う
馬鹿にするわけでもなく、思案するように。


「公安、さん……だった、わ、ねぇ…… ふふ。 むかぁし、の……資料、を…… み、ると……いい、かも……しれ、ない、わねぇ……? かつ、て…… この、街……で、活動、して……いた、劇団。不死鳥、の……名を、もつ……違反、部活……私、は……その、残り、滓……よぉ……?」

女は虚ろな目で男を見据える。
焦点は定まらず、どこを見ているとも取れないが。
確かに、見据えていた。


「……ど、ぉ? 斬、るぅ……? 斬っ……て……私、を……舞台、に……あげ、て……くれ、る……の、かし、らぁ……?」

紫陽花 剱菊 >  
「……詭弁だ。然れど、其の気遣いは不要。至る前に、また昇る。」

例え幽世と言えど、堕落の先は涅槃に非ず。
成すべきを成す刃が、斬り、其の手が引き上げる。
約束を違えぬ。故に、亡霊の世話など不要。

そして、彼女は語る。
己が出自、鳳凰(ひのとり)。
炎に焼かれ、残った灰と。
まさしく、彼女は過去の灰より出る亡霊。
不死鳥は再誕を望むか、或いは静寂の眠りを望むのか──────……。

「…………」

虚の瞳は、何を見据えるのか。
よもや、期待か。気づけば、己の手には握られている。
添え手とは真逆。左手に握られた銀の刃。
打刀成れば、亡霊一人容易く斬れる。
一歩、添え手を離し下がれば刃を構える。
振れば容易に、首を刎ねよう。
両手で握り、切っ先を天に向けた上段構え。

「──────……。」

虚を見返す水底を見開き、刃を……──────。

紫陽花 剱菊 >  
 
                ……からん、からん、と虚しき音が宵闇に響くのみ。
 
 

紫陽花 剱菊 >  
斬りはしない。
振り切る前に、手放す刃地を鳴らし、落ちただけ。
さながら灰になるかのように、刃もまた霞となって消えていく。

「……斬りはせぬ。幕は二度も、上りはしない。」

既に終幕したと言うのであれば、不死鳥と言えど二度と舞台には舞い戻らぬ。
潔しとするので在れば、残滓と謳うので在れば、今の亡霊の侭が相応しき也。

「其方が己の手で再び幕を上げるので在れば、私の再び刃を握る。
 然れど、亡霊で在るならば、話は別。……如何にしても、傍観者と言えど、暗がりに居続けるのはさぞ退屈で在ろう。」

ゆるりと、差し伸べられるは人の右手。

「千引の岩を押されては叶わぬ。墓参りと言わずとも、其方の語りを聞くのは嫌いでは無い。」

気づけば、其の剣呑は夜風に紛れた。
薄く、口元が笑みを浮かべている。

「『イル モルテリオ』……如何様な意味かは存じ上げぬが、其方の言葉を聞こう。亡霊の語りを、其方の事を聞かせてくれ。」

慰めとは言わぬ。
せめてもの、とは言わぬ。
唯、最初の通りの相互理解に過ぎず、人で在ればこそ、差し伸べた手でも在る。
如何なる邪悪だろうと、如何なる善性で在ろうと、受け入れる覚悟は其処に在る。

シャンティ >  
『男は氷の刃を抜く。静かにそれを構え、上段に振り上げる……』あぁ、あぁ……」


女は再び謳い始める。しかし、其の言葉は途中で熱を帯び……
女は恍惚の目で男の仕草を見る。


しかし――


「……え?」


それは、振り下ろされなかった。
代わりに差し出されたのは、男の右手。


「……なぁ、んだぁ……」

がっかりしたような声音。
まるで、何かを望んでいたような……何かが失われたような、そんな言葉。


「『イル モルテリオ』……お葬式…… 失わ、れた……者たち、の……弔い……決して……忘れ、させ、ない……ため、の……儀式…… ただ、それ……だけ……の、こと……」

紫陽花 剱菊 >  
「……笑止千万。真、俯瞰的に物身を気取り、再び己が焦土を望む邪悪。
 語り部と宣う、何も出来ぬとは言うが、其の様ではな……。」

失意。己に刃として期待しようとも、無駄な事。
或いは、変わる事無く刃で在れば斬っていたのやも知れぬ。
だが、そうはいかぬ。思い通りにはならない。
ある種の意趣返しだ。彼女の様にとはいかぬが、鼻で笑い飛ばしてやった。
情熱を見た言うので在れば、其れに違わぬであろうとは思う。

「……決して忘れぬ儀式、か。さながら灯篭流しか……。」

死者の魂を弔う儀。
斯様な世界には様々な作法が在るらしい。
彼女は今でも、此処の骸のみならず、かつて劇団、かつての焦土。
其処で灰となった者を想うと言う事なのだろうか。
さて、と剱菊の顔つきも神妙なものへと戻る。

「何で在れ、先ずは非礼を詫びよう。」

冗談とは言え、非礼無礼、礼節は通す。
其の右手は、差し出したまま……。

「灰より出る亡霊よ。其方は真、死を望むか?」

唯、問い掛ける。

シャンティ >  
「いけ、ず……ねぇ……もう、いい……わ、ぁ……」

見た目通りに少女じみた、すねたような声。
ぷう、とわずかに膨らませた頬は本気の証か


「……ちょぉっ……と……手元、を……見せ、すぎ、た……かし、ら……ね、ぇ……ん……私、は……退場……す、べき……時、に……舞台、に……あが、れ……なかった……半端、者……だ、から…… 自分、で……降りる、こと、も……許さ、れ……な、ぃ……の」


寂しそうに、悲しそうに、無念そうに
女は語る


「だ、から……死ぬ、と、きは……ね?
 で、も……いい、わぁ……もう…… 次、は……みえ、た……か、ら……」


くす、と笑う


「これ、で……まんぞ、く……か、しらぁ……? 紫陽花 剱菊さ、ん……?」

紫陽花 剱菊 >  
「くっ……ふ、ははは……!」

声を出して笑ってしまった。
如何様に、亡霊も拗ねるものなのか、と。
否、其れだけでは無い。何処か懐かしさを感じてしまったからだ。
肩を揺らし、腹の底から其の場に不釣り合いな笑い声を響かせてしまった。

「くっ、くくく……否、失礼した。嗚呼、そうだな。
 あかねにも言われた。私は未だ、女心成るものを理解しないらしい。
 ……済まなんだ。其方の"我儘(ねがい)"を叶えるには至らなかった。」

女性の振り回される、と言うのは些か言い過ぎだろうか。
だが、ああ言うのも悪くは無かった。
そう、実に"良い女"だと、あかねの事は今でも思う。

「……如何なる次が見えたかは知らぬ。だが、灰の亡霊よ。
 其方の無念を図り知る事は出来ぬが、其方は確かに、舞台を見てきた。……違うか?」

「語り部か、舞台装置か。何れにせよ、灰と成る其の瞬間を見て来たので在ろうに。
 ……灰を巻き上げるか、鎮めておくかは其方次第だ。だが、"降りれぬ"のは思い込みでは無いだろうか?」

「既に其の眼は、多くの者を見たので在れば……演者成るものも救いは在ろう。
 尤も、無念を晴らすとするので在れば、降りるものも降りれぬだろうが、な。」

まさしく其れは過去の楔に刺されたままか。
語り部は如何様にして、此処に在るのか。
分からぬからこそ、知りたいと思う。
だからこそ、彼女の事に興味が沸く。
邪悪と知りえても、"人"で在るならば、手を差し伸べるのもまた、必定。

「……今は充分だ。だが、そうだな。まだ"語らい足りぬ"が本音だ。」

故に。

「例え亡霊で在っても、何で在れ、生きて欲しいと願うのは、不躾か……?」

故に、その様な事を口に出した。
如何なる意味かは理解した上で、敢えて言うた。
訂正する気は無く、逆鱗に触れるので在れば、報いは受けよう。

シャンティ >  
「……貴方、に……劇団、の……美学、を……知れ、とは……いわ、な、い……わぁ。それ、は……私の……私、たち……だけ、の……もの、だ、ものぉ。」

舞台に出た役者は、出番が終われば速やかに退場するものだ。
その『約定』は違えてはいけない。

「だ、から……観客、の……貴方、が……なに、を……想うか、なん、て……勝手……だ、し……
 私、が……その、通り、に……な、らなく、ても……それ、も……勝手、よぉ?」

挑発的に笑う。
他人の思惑で止まるほど単純ではない。
ふさわしい場、ふわしい時、相応しい状況、なら……一考の価値はあるだろう。

「……ま、ぁ……お、好きに……すれ、ば、ぁ……?」


想うだけであれば、タダだ。
ソレを止めるまでの権利はない。

だから、好きにさせる

紫陽花 剱菊 >  
「……即ち、"誉"か。私には持ち合わせぬものだな。」

死するべき定めは確かに来る。
だが、其れは今では無いと知る。
然れど、其れを誉と言われれば気難しそうに眉を顰めた。
乱世を生き抜いた剱菊は、勲より実を取る。
刃として生きてきたが故に、今は理解しえぬ団員の美学。
人として不足するので在れば、此の矜持か……。

「ともすれば、観客で終わるとも限らぬと言う事だ……。」

幽世に潜む影の刃成れど、一度其処に陰謀在れば
何時でも舞台に躍り出る。
ともすれば、"知るか、そんな事"、と再び雷神は舞台に上がる。
随分と夜も更けてきた。夜風に流れるように、視線は彼方へ。

「そうさせて頂く。……半刻もすれば、処理班が罷り越すだろう。」

「灰の亡霊よ。名が在るの成らば、其の名を聞いても宜しいか?」

シャンティ >  
「……観客、に……名、もない……も、の……だけ、どぉ……いい、わぁ……」

女は、笑う
声に出さずに笑う


「私は……シャンティ……シャンティ・シン……
 『大道具』を……担当、して、いた……女、よぉ……」


それだけを言葉にして

「ふふ……一つ、だけ……教え、て……あげ、る……
 理央……彼、には……なに、か……デウス・エクス・マキナ……が、潜ん、で……いる、わ?
 ふふ……せいぜ、い……気を、つけ……な、さぁ、い……?」


くすくす、と笑う。
成り行きを見守ろうと、また観客が笑う

紫陽花 剱菊 >  
「『大道具』……シャンティ・シン……。」

恐らく、其れが亡霊に成る前の役割か。
『大道具』即ち、舞台を盛り上げる為の装飾。
是もまた、彼女の用意した『道具』の一つか……。
だからとして、止まる訳も無い。
布を翻し、踵を返した。

「…でう…?……さて、如何なる術か、者かは知らぬが
 斬れるのであれば、仏も人も相違無い。」

是に至るは乱世の雷神。
言葉の意味は知りえずとも、偶然にも神々な並び立つことになるやも知れない。
振り返る事も無く、見据える視線は明けぬ宵闇。

「……では、其方も努々気をつける事だ。
 其の邪悪、おくびに出せば斬らねばなるまい。」

如何に友好を見せようと、如何に愛を育もうと
剱菊はそう、"斬れてしまう"。
其処に私情は挟もうが、それはそれだ、と割り切れる。
異邦人故の価値観。命など、風が吹けば散り行くもの也。

振り返る事も無く、夜風に紛れて剱菊の後ろ姿も消えていく。
……後に、公安の処理班が参上するが、其処に亡霊がいたか如何かは、さておき。



───────月明り 灰より出る 夜風かな───────。

シャンティ >  
『「―――」男は、それだけを口にして其の場を風のように去った』


「あ、は……あは、あはは、ふふ……ふふふ、あははははははは……いい、わぁ……オサムライ、さ、ん……斬れ、る……とい、う……な、ら……斬って、み、ると……いい、わぁ……『彼』、ごと……ね……あは……それ、も……いい、結末……よ、ねぇ……ああ、悲しい……ああ、楽しい……あは、あはは……ふふふふふふ……」

哄笑をあげる
邪悪な悪魔の笑い


「えぇ、えぇ……私、も……ふふ…… 舞台、に……あが、れば……斬って……もら、え……る、の、よ……ねぇ……あは、はははは。うふふふふ……さ、よう……な、らぁ……コンギク、さん……ふふ、その、時を……たの、し、み……にぃ……して、る……わぁ……ふふ……あぁ、ああ……」

闇夜に、笑いがこだまする。


「たのしみ、だ、わぁ……どん、な……出し物、に……な、るの……かし、らぁ……」


女は薄く笑いながら……闇の中に溶けて、消えていった。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」からシャンティさんが去りました。