2021/01/09 のログ
■神代理央 >
通信機越しに聞こえるのは、部下達の悲鳴と喧騒。
がなり立てる様な声。
敬語が若干怪しいのは、彼等の出自を考慮すれば致し方ない、と言えるだろうか。
「……落ち着け。負傷者の救助と、次の攻撃に備えろ。
ルーク隊は、訓練通り防御魔術を展開。ビショップ隊は撤退経路の確保」
淡々と、訥々と。
通信機に指示を出す。
こういう場面で、指揮官である己が慌てふためいていては恐慌が伝染する。彼等の主として、指揮官として。
冷静な対処と、絶対的な指示を出さなければならない。
――そして、もう一つ必要なのは。
『直ぐに敵に対応出来る』という、組織そのものへの信頼感だ。
「此方からは攻撃の瞬間と発射地点は確認出来なかった。
ポーン7以降の隊は、3分後に周辺の封鎖と調査を開始」
先ずは、予備戦力兼封鎖要因として残しておいた部下達に、襲撃者を捜索する様に指示を出す。
だが、それは『3分後』だ。何故なら――
「……拠点外縁部へ、此れより威力砲撃を敢行する。
拠点攻撃前に既に避難勧告は出してはいたが…万が一、非武装の住民を発見した際には、保護した後取り調べを行う様に。
襲撃者と思わしき者を発見した場合は、私の許可を待たず攻撃を許可する」
「指示は以上だ。私の砲撃に巻き込まれぬ様、拠点に残留している者達は注意する様に」
先程、違反部活の拠点を焼き払った鋼鉄の異形達が、その背に生やした砲身を天高く掲げる。
大小様々。口径も砲身の長さもまちまち。
唯、主が命令するまで延々と破壊の業火を吐き出すだけの異形。
火砲としての兵器の成れ損ないであり、完成形。
「……風紀委員会を。いや、特務広報部に喧嘩を売ったのだ。
そう易々と――逃がして返さぬ」
缶コーヒーを持った儘、緩やかに片手を振り下ろす。
刹那、大地が揺れ動く程の轟音と共に、異形達はその砲身を高らかに震わせた。
拠点へ行われた砲撃の比では無い。襲撃者がいる"だろう"と思われう地点を、手当たり次第。文字通り焼き尽くすだけの火力が、投射されていく。
「……3分後に砲撃を停止する。それまでに負傷者を纏め、順次撤退せよ。長居はしない。地の利は敵にある可能性が高いからな」
■羅刹 > (蛇。牙を折るなよ。ルートは指示した通り18,20を空けてある。
崩落を避けて地下へ向かえ。撃ち返す必要はねーぞ。あんなもん相手してられるか)
(O、K!、ボス!だが1つは確実に呑まれた!もう1つは不明だ!)
電波妨害などに引っ掛からない…例えば、異能を傍受する能力などが無ければ機密性に富んだ蜥蜴の頭の能力。
それを使い、彼もまた鉄火の支配者と同じく冷静に撤退を指示する。
蜥蜴にとっての最悪は、部下すらも化け物であり全てを防がれること。
そうなればリスクばかりの行動だが…
それでも。
武器も人員も充実し始めた今。
例え『支配者』と言えど、好き勝手にさせるわけにはいかない。
(梟。…ああ、そうか。…憎しみっつーのは厄介だな。
…蛇、呑まれて消えたやつらは考えるな。…あいつら、もう1発撃とうとしてやがったらしい。……馬鹿野郎が)
次々に通信を切り替え、状況を把握する。
落第街の住人は多かれ少なかれ、鉄火の支配者に恨みを抱いている部分がある。
…それが、一糸報いれるかもしれないとなれば、暴走もするだろう。
羅刹の特殊能力はあくまで求心力を得るだけであり、洗脳ではない。
言ってしまえば、命令を素直に受け取りやすくなるだけだ。
異形の業火に焼かれた部下は、その能力よりも尚、憎しみを募らせていただけのこと。
それを御しきれなかった自分に眉根を寄せつつ、指示を出していく。
これは、自分の失態だ。
相手を甘く見てはいなかった。
撤退ルートは、業火を受けにくい地下へ一直線に潜るルートを選び、離れた場所で合流する手はず。
攻撃は不意打ちの一回のみ。ぐだぐだしていれば火力で焼き払われるのはこちらだ。
しかし、未だ…羅刹の能力が、蛇の身体を御し切れていなかった。
二人一組にしたのは、そういったトラブルを防ぐためであり。
予備の弾薬についても本番になって使えない、などといった事態に対応するための予防策だった。
武器すらも完全には信用していない慎重さが、仇となった形だ。
だが、そればかり考えていても仕方がない。残りを逃がすため、更なる手を撃つ。
(焔(ホムラ)。梟。発火だ。奴の意識を一瞬でも逸らせ。…あのクソ砲台は自動で動くかもしれんがやらないよりはマシだ)
彼が名前を呼ぶ相手は…蛇の中でも『異能持ち』だ
砲撃が土煙を、爆炎を巻き上げるより遠くから、長大な望遠鏡を利用し。
小柄な赤髪の女が、鉄火の支配者の姿を捉えていく。
視線という不可視の攻撃ならば、混乱を招くこともできるだろうと
そして、3秒。
現在居る地点を支配者が動かなければ。
唐突にその体が幻影の炎で燃え上がる。
それは、酷く熱いとは感じるものの、服や肌を焼くことはなく。
ただ痛みと熱さだけを与える異能。
撤退する蛇たちを支援していく。
支配者が、初見であるであろう蛇の構成員の異能に、即対応できるか否か…そんな異能とは関係がない判断力なども、梟は観察する。
あるいは、防衛魔術によって弾かれる可能性もある。しかし、それでも『そういったことができる』部下が居るというのは、生きた貴重な情報だ。
そして…三分が経つ頃。砲撃が止んだことを知り梟はその場を去り、蛇は…支配者の対応の速度によってはまたいくつかが呑まれながらも、撤退するだろう。
後には瓦礫と…蛇の死体がいくつか残るのみ。
■神代理央 >
此方の砲撃が、果たして効果があるのかないのか。
元々、砲兵の仕事とはそういうものだ。
先ずは威嚇。次いで、味方の突撃の支援。
今回の様な事態においては――敵がいる"だろう"と思われる地区を、虱潰しに焼き払っているだけ。
隊員達からは、重症者が複数いるものの今のところ死者はいないこと。
此れ以上、本来の任務遂行が不可能な事。
敵の追撃が無いこと。
以上の三点が、通信機から文章で伝えらえる。
砲声の中、音声で此方に伝えようとうる努力が徒労に終わった事を理解してのこと。
「………今回の襲撃は。いや、そもそも特務広報部の活動内容自体、風紀委員会の中でも知る者は少ない。
情報が漏れていた……いや、それならまだマシかもしれない。
此方の行動に合わせて"準備出来る"動員力があるのなら…」
元より、風紀委員会内部においても決して良い目で見られている訳では無い。
どこぞの誰かが事前に情報を違反部活に流していた、と言う方がまだ犯人は探しやすいのだ。
しかし。今回の襲撃者が事前情報も無く。『此方の摘発を確認してから』動き出したのなら――それは、脅威だ。
特務広報部の包囲と監視を潜り抜ける人員。
半ば崩壊していたとはいえ、拠点の建物ごと隊員達を吹き飛ばす火力を投射出来る能力。
それらを一切察知させない情報管理能力の高さ。
そして何より――それを、短時間に準備出来る組織力。或いは、優秀なリーダーの存在。
「……しかし、それにしては攻撃が小規模だ。宣戦布告…示威……いや、そもそも組織の規模がそれ程大きくないのか…?
情報が少ないな。至急本庁へ――!?」
突如。何の前触れも無く己の躰が燃え上がる。
思わず缶コーヒーを取り落とす。皮膚が燃え落ちる痛みが、思考を乱す。
咄嗟に発動した肉体強化の魔術。落第街や裏常世渋谷の怪異の攻撃すら受け止めるその魔術の防御力を以てしても、痛みは治まらない。
と、なれば――
精神感応、汚染。或いは、単なる幻影幻覚の類か。
痛みに苛まれる主を守ろうと、砲撃していた異形の一部が己を庇う様に前に出る。
結果的に、少女の視界は異形によって遮られ、幻惑の痛みから少年は解放される。
その間にも、粛々と砲撃は続いていたものの――主を守る為に陣形が乱れ、砲撃の制度が歪んだ事もあり、『襲撃者』の狙いは成功に終わったと言える結果になるのだろう。
「……舐めた真似を。いや、違うな。そうだな、感謝すべきなのだろう」
3分の時間が経過した後。
周囲一帯が業火に包まれる中、最大限の警戒態勢を以て撤退と襲撃者の捜索が始まった。
しかし、それで得られるものは殆どないだろう。
精々、砲撃で吹き飛んだ肉片が。襲撃者のものだったのだろう、と思われる死体を発見出来るだけ。
その正体に近付く事も。目的を知ることも叶わない。
だから――
「……明確な敵。明確な悪意。風紀委員会への攻撃。
実に愉快じゃないか。奴等が、何に喧嘩を売ったのか知らしめてやろう。
奴等が、龍の逆鱗に触れた事を知らしめてやろう」
「『体制』に暴力を以て立ち向かおうとすることがどういうことなのか――教えてやろうじゃないか」
部下達の撤収を支援しながら、昏く、穏やかに微笑む。
未だ正体の掴めぬ敵へ。姿を見せぬ襲撃者へ。
指先で拳銃を形どって虚空へ向けると。
「……ばーん」
と、子供めいた言葉は。
硝煙と、燃え盛る火焔の中へ消えていったのだろう。
少年と特務広報部が撤退した後。
残された瓦礫と廃墟は、大火災になる前に燃え尽きた。
後に残ったのは、唯の破壊の爪痕。戦いの、燃え滓だけ――
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から羅刹さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に羅刹さんが現れました。
■羅刹 > 違反部活群、組織群などと呼ばれる一角。
様々な建物…主にほとんど廃ビルとなっている場所が並ぶここにはよく『広場』ができる。
大抵が抗争であったり、風紀委員による粛清の結果…元はビルなどがあった場所に、何もない場所が生まれる。
(さて。…予想はついてたが火力も対応力も抜群。
まさに一人軍隊。…うざってぇ壁じゃの)
そんな場所で、煙草を吸う黒尽くめの男。
思うのは、先日一当たりした…鉄火の支配者のことだ。
火力は予想通りではあった、撃てば撃ち返すこともまた予想できたことだ。
しかし、実際に少々でも反撃してみれば、対応力も卓越していた。
初見の異能であっても冷静に見極め、対処するのを見ている。
(奴を退かすには、よほどうまく不意を突かんと無理か。
…だが、あれを少しの間でも排除出来りゃ楽にはなる)
現状、梟から大規模な報復の予兆は報告を受けていない。
少しの間は策を練る時間もあるだろう。
現在、通信は行っておらず…羅刹は一人で思考を巡らせ。
(蛇は欠けたが、まだ動ける。反抗心持ってる奴はこの辺りにはゴマンと居る。
即席なら、兵隊にはこっちも困らん)
なら、後はどうやって隙を突くか。
■羅刹 > 煙草を踏みつぶし、男は違反組織群を歩き始める。
この辺りは最近、別の組織を懐柔し蜥蜴の領域としたエリアだ。
風紀が入ってくれば何かしらの連絡が入る。
あの時ふっとばした鉄火の部下の行く末は終えていないが…
あれから出張ってきていないことを考えれば多少のダメージは与えられたか。
(…"色"が効くヤツでもねーだろうな。
そもそも警戒される。…なら、アレか)
現在、蜥蜴が傘下組織としている『蜂』には…
落第街の中で見繕った美女たちもいる。
教育も施してあるため、ただの男相手なら篭絡もできるだろうが。
その策は考えてみたものの、失敗する未来しか見えないため頭から除外する。
思い浮かぶ策はある。やはり、新しく加入した外部協力者の異能を使う作戦。
物資、武器を造れるというのは戦いにおいて非常に有利であることは、火砲を造り出せる鉄火の支配者が証明している。
この策は賭けではあるが…もし負けたとしてもこちらの損失はゼロに抑えられる。
そして成功すれば。更にダメージを与えられることだろう。
「…ちぃ、と歩くか」
そう呟き。
ごちゃごちゃしてきた頭を整理するため、羅刹は歩いていく。
煤け、汚れた街も…歩きなれたものだ。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から羅刹さんが去りました。