2022/01/27 のログ
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にノアさんが現れました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に紅龍さんが現れました。
ノア >  
冷たいコンクリートの中に隠れた地下治療施設。
こっちに来て以来何度世話になったとも知れないが、今日ばかりはベッドに転がるのは自分では無く。
血塗れになった大柄の男の姿を、錆びついたパイプ椅子に腰かけて見守る。

ふと、足元で聞こえる小さな電子音。
――使用者の安全保持の為、補助機能を停止します。
電子音声が聴こえた途端、椅子の上で組んでいた足の重みが何倍にも増したように感じた。

「こんなもん全身に着込んで戦って、死にかけてちゃ世話ねぇだろ。
 さっさと目ぇ覚ませよ、おっさん……」

小さく、呻くように零す。

紅龍 >  
 ――体がだりぃ。

 頭んなかがぼんやりして、夢の中にいる見てえだ――。
 いや、実際夢半分って所なんだろう。
 なにせ死にかけたわけだし――って、つまりオレぁ生きてるのか。

「――ぅ、ぁ゛ー」

 何か喋ろうとしたが、特に何を考えてたわけでもねえ。
 喉から出てきたのは、潰れるようなうめき声だ。

「が、ぅげ――たんてい、みずくれ」

 近くにいるのが探偵だってこたあ、目を開けなくてもわかった。
 つーか、オレをわざわざあの場所から運び出すようなお節介は、あいつくらいだろうしな。
 ぐえ、喉の奥に血がこびりついてやがる。
 

ノア >  
聞こえた音に、ビクリと反応して顔を上げる。
声と言うにはあまりにも掠れていて、潰れた音。

「おま……くっそ寒ぃ中外で寝てっから死んでんのかと思ったぞ」

安堵に声が少し上ずって、誤魔化し混じりに少し間をおいて嫌味をぶつけ、
鞄に入れていたペットボトルを取り出して、蓋を開けて手渡す。

飲み込めるような状態でも無いだろう、リノリウムの床の上にそのまま吐き出そうと、
怒るような者も此処にはおらず。

「よう久しぶりだなおっさん。気分はどうだ?」

紅龍 >  
 身体はとりあえず動くらしい。
 左半身もくっついたみてえだ。

 ペットボトルを受け取って口に含み、呑み込もうとしたが――生理反応で吐き出した。
 出てきたのは、生乾きの血の塊だ。

「うげ――悪くは、ねえな」

 とりあえず、生きてる。
 それだけで一先ずは十分だ。

「っても、体が死ぬほどだりぃ。
 超修復の反動ってやつか?
 すげえもんだな――あんなん、確実に致命傷だったろうによ」

 改めてペットボトルの中身を呑み込んで、やっと一息つけた。
 ――つーかめっちゃ髪伸びてねえか?
 いや爪もやべえじゃねえか。
 ■■のやつ――全身の代謝促進も仕込みやがったな。
 

ノア >  
べちゃり、と吐き出された血の塊が白い床に跳ねるのを眺めて、
そのままに口から血の漏れ出すような事が無い事を視認して改めて息を吐き出す。

「そりゃ、よかった。
 アンタが死んだら装備の分の代金踏み倒す事ンなるから寝覚め悪くてね」

満身創痍も満身創痍。
一歩違えばそのまま冷たくなっていた男の姿にやはり軽口を向けて。

「生きてたんなら、それで良いや。
 あんだけアブねぇって言ってんのに怪盗の野郎とやりあってっし。
 ってかえらくワイルドになってんな」

鏡貸してやろうか? と小さく笑いながら髪と髭と、こちらから見える物では無いが爪も。
数日放置されたとでも言わんばかりに伸びたそれらを指をさす。
自分がアンプルを使った際には無かった症状だ。恐らくはこの男の主治医の手入れによるものだろう。

「憐れみの改良品、仕上がってたのか」

心配も安堵の感情も飲み込んで。
素知らぬ素振りで生意気なガキとしてベッドに横になる男に接する。

紅龍 >  
「おう、そんときゃオレよりもおっかない連中に追いかけまわされるだけだ。
 安心だろ?」

 起き上がろうと思ったが――まだ駄目だな。
 目が回りそうだ。

「あー、あの坊主な。
 絡まれたんだからしかたねーだろ。
 どのみち、普通にやりあっても勝ち目がねーしよ、なら一か八かだろうが」

 まあ――死なない自信はあったけどな。
 そういう準備をしておいたから――勝てる賭けに勝った、それだけだ。
 それに――あの坊主を『人間』として覚えててやる奴が、一人くらいいたっていいだろう。

「改良っていうか、廉価版みてえなもんだな。
 再生能力も即効性も格段に落ちてるが、まあ何とかなった。
 代わりに代謝の促進だなんだとおまけもくっつけたみてえだ」

 おかげ様で頭も手足も大変な事になってる。
 スーツの中とかあんま考えたくねえな――風呂はいりてぇぇぇ。

 

ノア >  
いや、寝てろって。
起き上がろうとするのを見て慌てて立ち上がったが、甲斐も無く紅龍はそのまま横になっていた。

「――俺は怪盗を実際に見たのは幾らか前になっけど、
 おっさんから見て今日のアイツはどうだった?
 まだ、人間だったか?」

ダスクスレイは逃げ延びていた。
"バケモノ"を殺すスペシャリストのおっさんが相応の装備で対応して、だ。
別段、意味のある問い掛けでは無い。
狂ったように刀を振るうダスクスレイの姿が、狂わされた物だったのかどうかを少し知りたくなっただけ。

「相変わらず主治医サンは多彩だな……。
 まぁ、俺もアンタもそうそうこんな薬の世話んなりたくねぇもんだ。
 代謝の促進ってのも良すぎるとタマに傷だわなって今のアンタ見てると思うよ」

流石に風呂は無いが、水かけてレンジに突っ込んだだけの蒸しタオルくらいは用意できるか。
立ったままやり場も無くそのままにしていた足をレンジに向けて、暫くすれば湯気の立つタオルを投げつけてやる。

紅龍 >  
 ――まったく、鼻が良すぎるのも考えもんだな。

「――さあな。
 案外、オレに焼きが回っただけかもしれねえぞ」

 け、と笑ってタオルを受け取り顔を拭く。
 まあ何もないよりかは、幾分かマシか。

「専門は超常植物学だが、まあ生物学に化学、医学薬学ときっちり身に着けてっからなあ。
 オレのために学んだってんだから、お兄ちゃんは嬉しくて泣いちゃうね」

 オレの事ばっか気にしすぎて、お兄ちゃんは嫁の貰い手が見つかるか心配だよ。

「――そうか?
 こいつなら割と使いようあると思うぜ」

 ベルトの裏から、圧力注射器を取り出して、探偵に投げる。
 装填されてるシリンダーの中身は、血のように紅い薬――『苹果酱』とか呼んでやがったな。
 

ノア >  
「焼きが回った、ね。
『鎮静剤』にも期限切れってのがあるのかもな?」

誤魔化すように笑う紅龍の真意は読めない。

「――こんな無茶やってっとその内マジで死ぬぜ、おっさん」

カラカラと笑いながら軽口を飛ばしながらも、トーンを落として。
長い付き合いという訳でも無い、ただ昔の上司に似たお節介がダブって見えるせいだろう。
ただ、放っておけない。

「そりゃあ献身的なこって……
 医学なんて一朝一夕で身に付くもんでもねぇだろうに」

ただ、家族という物はそういう物かも知れない。
自分にとっての妹がそうであったように、かけがえのない物であるから。
まぁ、今となってはもちっと他にも目ぇ向けときゃ良かったとは思うが。

「シリンジタイプか……
 こっちはヘマしねぇからいらねんだけど、お嬢さんの謹製ってんなら貰っとくか」

ヘマも何も自害に近い形でくたばりかけたばかりだが。
まぁ黙ってりゃバレねぇだろう。

紅龍 >  
「そりゃあ薬だからな。
 使用期限ってもんがあんのよ」

 そう言えば――とまさにその『鎮静剤』を探せば、幸いちゃんと持ってたようだ。
 アレを万が一にも拾われでもしたらまずい――というか、そいつが本国に狙われかねん。
 ライフルの方はまあ、転がしといても構わねえんだが。

「やりたくてやってんじゃねえよ!
 ちっくしょぅ――オレはただ安穏と退屈な日常を送りてえだけなのによぉ」

 泣けるぜ。

「オレように調整したやつだが、まあオレが使えるって事ぁ、大体の人間に害はねえさ。
 ヘマしねえとか言っといて、どーせその辺で死にかけてんじゃねえの?
 お前、めっちゃ詰めが甘そうだし」

 ケケケ、と指をさして笑ってやる。
 こちとら、病院に担ぎ込まれた阿保がいるって事ぁ耳に入ってんだっつーの。

「――でもま、借りが出来ちまったな。
 礼代わりじゃねえが――なんでも一つ、質問に答えてやるよ」

 いつものようにタバコを出して――、

「あ、火、くれ、火」
 

ノア > そんな身体でもタバコかよ。
肩を竦めながらもオイルライターの蓋を弾いて点けてやる。
ついでに自分の分も、と手癖でポケットに手を伸ばしかけたがこの男の前だ。遠慮しておこう。

「アンタは退役済みで俺もモグリの野良仕事。
 そんななのにお互い仕事が無くなんねぇんだもんな……」

世知辛いやらありがたいやら。
運んでる途中に死ぬほど重いと思っていたが、後生大事に抱えていた武器のせいか。
何キロあんだ……この前握ったライフルの事思うと考えたくもねぇ。

「安穏と退屈な日常なぁ……今となっちゃ恋しいね、そういうの。
 それこそ妹連れだして違反部活ごと爆破してトンズラかますか」

カラカラと笑い飛ばして言う。
今も昔も危険に首突っ込むクセが抜けない自分にもあったかも知れない日常。
退屈であくびが出るような、何でもない日々。

「まぁ、アンタの身体に毒で無けりゃどこのどいつにでも薬だろうさ。
 さぁ? 今抱えてんのもただの人探しだし危ねぇような事とは無縁なくらいさ」

その対象が閉鎖区画に居る事も、その中で人を撃ち続けている事もとっくに耳に入っているのだろうが。
危険とは無縁ね、憧れる響きだよな。

「質問……な。
 色々聞きてぇ事はあっけど、そんじゃあ」

知りたい事は多い、がそれらは己が手ずから調べる事だ。

「妹さんの名前、教えてくれよ」

助けてやりてえ相手の名前も知らねぇってんじゃ、格好付かねぇだろう?

紅龍 >  
「おう、謝謝」

 火を貰ってゆっくり吸えば、頭のモヤもすっきりしてくる。
 やっぱこれが無いとダメらしいな――オレが妹離れできるか怪しくなってきたなあおい。

「――それ、冗談でも表で言うなよ。
 万が一にも勘づかれたら、やってらんねえ」

 なにが、とは言わない。
 それでこの勘のいい犬は理解すんだろう。

「人探しねえ、オレの売った装備でか?
 はは、そいつは――穏やかだねえ」

 とんだお人よしがいたもんだ。

「――李華」

 特に考えず、口にした。
 思えば、妹の名前を他人に教えたのは初めてかもしれねえな。

「それが、あの『種』を造った女の名前だよ」

 ――それだけ答えて、一息にタバコを灰にかえて、もう一眠りこく事にした。
 

ノア >  
タバコの煙の向こう、軽口に返す紅龍の言葉を受けて瞬きを数度。
ニヤリと口の端が上がる。

「そうかい、アンタも敵が多くて大変だな。
 まぁ、起きれるくらいになるまでは見張っててやっから」

そん時に備えて、体調くらいは整えて置けと言外に言い放つ。

「そ、良い除草剤貰ったし、足回りも人工筋肉スーツのお陰で楽んなりそうでありがてぇこった」

ちょっとガス撒いて火が付く除草剤と、ひと蹴りで数メートルを駆けられる補助スーツ。
オマケの銃器とその弾丸を、少々と。

「李華、か。オッケー忘れねぇ」

手の中の圧力注射をコートの内ポケットに仕舞い。
瞼を閉じた紅龍を見やり、改めてパイプ椅子に腰を降ろす。

「……晚安」

僅かに消え損ねて残った火種を踏み消し、夜は更けていく――

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から紅龍さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」からノアさんが去りました。