2022/09/14 のログ
ご案内:「廃劇場」にノーフェイスさんが現れました。
ご案内:「廃劇場」にシャンティさんが現れました。
■ノーフェイス >
落第街(こんなばしょ)に造られたのに、浮浪者が住み着いているわけでも、荒らされた形跡もない。
雨をしのぐ屋根も完璧といっていいほどで、床や席に降り積もった埃が根雪のように沈黙を守っている。
まるごと墓標のようだった。いわく、一夜にして街に現れただの、不吉な噂で化粧したこの場所は。
今はもう誰も訪う者のない劇場に、その女はいた。
ブーツを厳かに踏みしめると、埃がふわりと舞い上がる。
照明のない通路を静かに歩んでいると、まるで身廊を進む聖職者の心持ちを思い出す。
「あるいは、誰もここには招かれなかったのか?
そのこたえをもつ者も、すでにここにはいないのだろうけれど」
噂の真偽を確かめに現れたその女はというと――
果たして、その中央、舞台の上にのぼった。
息を吸い込むだけで肺がやられそうなその場所で、天井に向かって腕をのばす。
フィンガースナップとともに、死んでいた筈の照明が一斉に灯った。
三百六十度、演者を取り囲むように客席が配備されている。
コロセウムか何かのようだ。
「さて!」
入り口のほうを向き直る。
埃の羽を撒き散らしながら、"枠外"に手を伸ばした。
マイクスタンドを引っ張り出して。
「リクエストがあれば承ろう、聴ける耳があるのなら」
■シャンティ > 女は本のページを捲った
捲る前 捲る中途 捲った後
ページに書かれた文字はすべて流転していく
一時として同じ文字が書かれることはない
本質的に無意味な行為
それでも女は捲った
何かに思いを馳せるように
「ふ、ぅ……」
小さな吐息を吐く
「……ま、さか……ここ、に……来る、こ、とに……な、る……なん、て……ね、ぇ?」
小さな独り言は響くこともなく闇に消えていく
ただ、代わりに――こつり、こつり、と。小さな足音だけが響き渡る。
「……あい、にく、と、ぉ……歌、は……さほ、ど……興味、ない、の、よ……ね? 阿鼻、と……叫喚、な、ら……リク、エスト……し、ても……いい、けれ、どぉ……」
客席の最上段と思しき場所から、か細い声が、しかし奇妙にはっきりと響き渡る
「……それ、に……リクエ、スト……は、そち、ら……では、ない、の……かし、らぁ……? こん、な……闇、劇場、で……なに、を……もと、める、か、は……しら、ない……けれ、どぉ…… あな、たは……どん、な……興行、を……する、気?」
くすり、と小さな笑いが何故か響く
■ノーフェイス >
「この世の地獄をお望み?
んー、ああ! そう、トラジコメディーのレパートリーには事欠かない、つもりだ!
しかしだ、残念ながら演者がいない……ボク?ボクは確かにプレイヤーだがそっちじゃないな!」
ギャラリーか、あるいはマネージャーか。
その彼女に応える声は、正反対に、高らかに張り上げられたものだ。
いならぶ席が余さず埋まっていたとして、過たずにその意思を伝えられたであろう、大げさな身振り手振りとともに、舞台の上で道化芝居。
「ここに」
片脚をひょいと持ち上げた。
振り子のように前後に踊らせた後、つま先でトントン、と床を打つ。
「不思議な劇場があると聞いて、ホームにするなら持って来いだと下見に来た次第。
浅ましき盗人、よるべなき浮浪者、しかしここは法の外。
ここに法が在ったのだとして、それはきっと移動するもので、今はきっとそう、別の場所にいる。
そんなボクがここでなにをしようとしていたかというのは、こたえるのは非常に単純明快なことでございますが――おっと、これはまだだったな」
"枠"の外から引っ張り出そうとしたものを、一旦引っ込めて。
代わりに引き出したるは黒に光沢を帯びた、カチカチと数珠つなぎに音を立てるフラメンコカスタネット。
「問いを重ねましょう、何かをはじめるまえに。
美しいお声を拝借、さあ、阿鼻叫喚の演目にはどんな趣を求めましょう。
すこしの間あるいたが、この島には幾らでも転がってるものでございました。
島の外には、もっともっと多くの芳醇な――酸鼻な? そう、阿鼻なるものも。
ソレならなんだってイイってワケじゃないんだろ?」
顔の横に配したカスタネットは、ハンドクラップのリズムにあわせて彼女のこたえを急かすのだ。
■シャンティ > 「あ、ら……謙遜、しな、くて、も……平気、よぉ、あなた……ふふ。立派、に……演者、で……やって、いけ、るわ、よぉ……?なに、よ、り……あなた、の……立ち、位置……は、演者、の、位置……やり、きって、ほし、い……もの、だわ? 必要、なら……演出、も……する、わ、よぉ……?」
くすくすと女の笑い声がする。笑いながら、女が小さく指を鳴らす。
途端、舞台と思しき中央のそこにスポットライトが当てられスモークが焚かれる。
「ここ、で……世の、法、を……語る、のは、ナンセンス……ふふ。けれ、ど……劇場、だ、もの……劇場、には……劇場、の……”法”、が……ある、わ、よ? しっか、り……芸を、して、もら、わ……ない、と……だけ、れ、どぉ……」
唇に人差し指を当てる。
「……」
しばし女は考える。急かす声や急かす旋律は馬耳東風。そもそも女にとってはそれは聞こえるようで聞こえない、ただ文字で追うだけのもの。それに流されることはない。
「……トラジコメディ―、と……いった、けれ、ど……私、の……嗜好、は……グラン・ギニョール…… 混沌、と……した、折り目、正、しく、ない…… 世界。 阿鼻、も……叫喚、も……ええ。あれ、ば……いい、けれ、どぉ……それ、だけ、では……ただ、の……罪。 ほし、い、のは――」
聴衆か、演出家か、出資者か。語る相手は何者なのか。それは一度横に置き。女はただ、どこか遠くに呼びかけるように。眼下にいるものを超えた何処かに手を伸ばすように言葉を紡ぐ
「うつくしさ」
そう、言葉に出し
こつり、こつりと。客席からゆっくりと舞台に向かって降り始める
■ノーフェイス >
スモークの中より這い出したのは、装いを変えた仮面の道化師。
両腕を広げたまま舞台上をくるくると周り、煙が張れるころに恭しく一礼。
おもてをあげる。半分だけを覆う笑顔は、つくりものと生の表情の落差をことさらに浮き立たせていた。
「キミがいれば、こうしてボクがいることがさみしい独り芝居でなくなる。
大事なのはオーディエンスだ。四方八方、余さず"視線の暴力"に晒される歓びは何にも代え難い快楽の筈。
それを知らない者が、なんだか多いと思わないか、誰だって恐いんだと――本当にそうかな?」
芸事には堂の入った芝居ながら、果たしてそれはどこかで会った者のそれ。
心に潜む顔見知りはというと、仮面を外して裏返しの半顔の裏側を指でなぞった。
「流れる涙にもいろんな味があるとかそういう話だろ」
失笑し、鼻を鳴らすと、顔の横にもちあげた仮面をゆらゆらと揺らした。
「いまや子供たちがポケットに拳銃どころか軍用ヘリや戦術兵器をしのばせられる時代。
ああ、これは勿論もののたとえだ。 実際に出すヤツもいるだろうけど。
そんな世界になってしまっているように見えるね。"阿鼻叫喚"なんて、どこにでも安売りしてる。
鮮烈なショウをやるのなら、むしろ鮮血だの臓物は……なんだ、アレだよ。
"びっくり映画"みたいな、とりあえずいきなりキャーッて叫ばせたりグロテスクな映像を脈絡もなくポンって出す感じになる気がして……」
きんきんと響く耳をかばうように、白い耳朶を引っ張ったり丸めたり。
痛がる顔は、思い出して、その痛みもリフレインしているかのよう。
ころころと変わる百面相のなかで、視線が外れているのに視線の暴力が遠慮なく少女に注ぐ。
「……というかキミ、この喩えわかるかな。 キミがボクの探し人なら、そういうことになるんだけど」
腕を組む。舞台に近づいてくる彼女が、舞台に上がってくるかはまだわからない。
意思を確認するまで、オーディエンスにふれはしない。踊り子に手を出してこない以上は。
みずから敷いた法の上で、道化者は自分で言った言葉の結論を、わざとらしく肩を竦めてつむいだ。
「芸が無いのは美しくないだろ?
リアルとリアリティを履き違えた、空疎な間違い探しで時間を潰すシュミはボクにはない。
さっきも言った通りボクはプレイヤーだ。 ナマナマしいのを求めてる」
■シャンティ > 「……」
違和感
文字列を追うだけの認識に、どこかノイズが混ざるような感触
女は目の前の道化師を知っている……ような……
「……そ、う……面白、い……モノ、ね……」
小さく小さく女はつぶやき、微笑む
「……さ、て……たし、かに……気軽、に……人を、殺し、殺され……でき、る……世の、中……よ、ね。とく、に……此処、は……法の、ある……無法、地帯……人、どこ、ろ、か……街、で、さえ……やか、れ、こわされ……ね」
こつり、こつりと音を立て。女は道化師の前に立つ。しかしてそこは、舞台の下。未だ、近くて遠い場所に。
「まる、で……そう。こど、もの……おあ、そび……戯、れに……虫を、ちぎ、る……蛙、を……潰す……そん、な……邪悪、で……無邪気、で……華の、ない……なら――」
手をのばす 天を仰ぎ、どこか遠くに語るように
「華、は……虹、は……どこ、に……ある、の……かし、ら?」
■ノーフェイス >
「華など」
おおきく広げた両腕。その両手で、顔を覆う。
さめざめと咽び泣く仕草のあと、両膝をついて、その舞台の上に崩れ落ちる。
「咲くはずがない。虹などかかるはずがない。
ここは落第生の街、修羅の巷、法は守られず、戦火に晒され、敗者が傷をなめ合う場所。
辛ければ表舞台に行けばいいんだ、白亜の秩序の中に、この肌の隅々までを白く塗りたくりながら。
深い深い地下室の片隅でさえ、ここに在るよりはよほど安全なのだから」
覆われた顔で天井を仰ぎ、この世の理不尽を大げさに嘆いた。
くぐもった嗚咽をしばらく吐き散らした後、両の腕を体の横に垂らして、ふたたび失笑した。
「そう決めつけてしまうと、みえなくなるから――が正解?」
跳ね起きて、直立すると、装いは元の有り様に戻っていた。
白い細指がマイクスタンドにかかり、頭頂に向けてゆっくりと這い動く。
「いつしかだれかがこの街を、そんな風に変えてしまったのなら。
この街にしか咲かないような有り様で、咲いてみたくなるじゃないか。
ガラスケースの内側に育まれた美を否定するわけじゃない。
むしろ、それがあるからこそ……美は照応しあうはずだ、どっちも欠けてはいけないんだから」
親指が滑る。
マイクが外界を受容し、スピーカーからか細いハウリングが響いた。
顔を反らして咳払いをしてから、マイクに声を吹き込んだ。
「イントロはここまでだ。 焦らしすぎもよくないしな。
最初の質問を覚えてる?」
息を吸って、つやめいた唇が笑った。
『あなたはどんな興行を?』
「だったよね、スシーラ」
"彼女"の声音で、あらためてなぞった。
燃える炎の色の瞳がはじめて、まっすぐ彼女を見下ろした。
■シャンティ > 「ああ――」
本を閉じる。否、本が消え失せる。
女は両手を広げ、謳うように語りだす。
「答えましょう。応えましょう。
華も、虹も。咲かぬ場所もかからぬ場所も、ありはしない。
望めば 其処に 此処に 彼方に それらは育まれましょう。
ただし――」
くるりと、舞台の下で回る。
回る 回る 踊るように 回る
まるで見えない観客に語るように
「其処に 此処に 彼方に
それを成すものがなければ
それを掛ける場がなければ
それらは叶うことはないでしょう
だから――」
動きを止めた女の手に、本が戻る。
「……ええ、そう。
あなた、は……どんな、場を、望む、の……?
あなた、は……何を、成す……つもり、なの……?
ふふ」
くすくすと女の忍び笑いが響く
「亡霊、を……呼び、だし、て……まで……あなた、は……ふふ。どう、するの……? こ、の……無法、に……整った……腐って、正しい、街、で……」
女は向き直って
「どん、な……興行――を?」
■ノーフェイス >
ブレス。問いかけを吸い込むかのように。
マイクに増幅されたそれは、つぎなる言葉を待って、水を打ったような静寂を劇場にもたらす。
視線は交わっているのか?まじまじとその顔を見つめながら。
何もかもが交わっていないようなちぐはぐさが、むず痒く全身を刺激する。
身悶えするようなアティテュードに突き動かされて、酸素をたくわえた牌譜、つぶやくようなその音を確かに燃え上がらせた。
「――悪ふざけをします」
御大層な名目もなければ、何かを変えたいという展望もなく、切実な希求をその胸に宿さないままで。
何も成さないし、何も残さないと、満面の笑みで言い切った。
「華も虹も、なにかが起こるにせよ、全力で楽しめばそれについてくるでしょう。
違反"部活"って、そういうものじゃない?
世界を変えたいだとかの英雄的な願望がなけりゃ旗揚げしちゃいけないなんて決まりはないんだ。
ボクは場所も憚らずに歌って踊るエンタメをバラ撒く。
あえて許可を取らずに演るのは、そうするのがロック(カッコイイやつ)だから」
そんな奴が、そんな奴らが、落第街に存在しては成らぬと、誰が決めたのか。
問いかけも悪ふざけで、芯と志は確かに、伊達と酔狂で、全力で人生の暇をつぶす。
それだけ。
「関わるものすべてを劇的に彩って、
白と黒の境界線が無秩序にめちゃくちゃになるような渦を起こせたら。
なんて、ボクはそう考える側なのさ。キミはどう?」
スタンドマイクを柱に腕を絡めたまま、するりと滑り降りるようにしゃがみこむ。
見上げる少女に距離は遠くも、腕を差し伸べるように伸ばした。
「ボクと一緒に演らない?
無軌道な娯楽集団なんてものを、ボクは大真面目に創りたいと思ってる」