2022/10/05 のログ
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
地下スタジオ。
拷問や監禁などに使われていた場所は、持ち主がいなくなると、
怨念が残っているかもしれない来歴などお構いなしに本来の用途で使われ始めた。
スパゲティのように張り巡らされたコード。
照明が落ちているとは思えない程に明るいのはそれぞれ機材のパネルに仕込まれたLEDが発光しているせいだ。
複数人の、この退廃の街を根城にしている者たちが慌ただしく、それらの機材を弄っては、
ああでもないこうでもないと言論を交わしている。
「案外、こういう古い形式のが残り続けてるんだな」
そのなかのひとりが、ヘッドフォンを外し、血のような赤い髪を振った。
「オーケー、悪くない。 全部クリアに聞こえてるよ。
まぁ、本番の場所だとまた違った音響になるだろうけど――
そこはブッツケで調整しよう。 あそこに出入りしてることに感づかれると面倒だ」
ヘッドフォンがつながっているのは、この島にも広く流通している多機能端末。
そして、それはスパゲティの中心であるミキシングコンソール――"卓"と俗称される機械から出力された音声を聞いていた。
周囲を慌ただしく動く連中も、同じく音楽やイベント、あるいはそれに類する商売に通じる者たちだ。
表、裏関わらず、しかし裏に理解がある者たちである。
■ノーフェイス >
「いまこの端末越しに聴いた感じの聴こえ方で――"配信"できるってことでいいんだよね。
このまえ視たよ、そういう配信、ええとなんだっけ……バンド名……?」
技術屋と言葉を交わしながら、伝えたいことは伝わらず、
とりあえず確認事項だけは問題ないということで通った。
「四人組なんだけど、メンバーの都合で一人しか集まらなかった、って。
アンプラグドでやってた。……知らない? 女の子で……
ああ、キミはメロくてコアなのしか聴かない。ナルホド」
煙草を灰皿に押し付けてから、諸々の段取りが羅列された紙面に目を通す。
今どき肉筆、それも大量の注釈と走り書きによって化粧された文面。
数十年前にタイムスリップしているかのような、ノスタルジィな空間だった。
■ノーフェイス >
「何人が気づいて、何人に届くかな。
もしかしたら一人もいないかもしれないけど、フフフ。
それならそれで、最後まで演り抜けるからいいな」
鼻歌が響いた。
連絡はついた。こちらが提示した条件を飲んだ者と蹴った者で、半分半分。
そういうものだった。半数もあれば上々だ。
自分は仕掛け人、前座、それでいい。
「――ん、ああ。 これ?」
ドラムの鳴りを確認し終えた、普段は表でスタジオミュージシャンをしているという生徒が、
いましがた楽しんでいた鼻歌について質問してくる。
「なんだったかな……メロディしか知らないんだけどね。
普段のアレンジは聴いたことがない。
音源が出てるなら欲しいねえ、できれば音質のいいやつ……んー、あー、ああ、そうだ」
空中を撫でていた指を、ぴんと天井に向けて立てる。
「ブルーバード・ヘル、だったかな」
ご案内:「違反部活群/違反組織群」からノーフェイスさんが去りました。