2022/12/29 のログ
ノーフェイス >  
「ボクはそこからなら、奇跡の復活ショーまでやりたくなっちゃうケド……」

それもアリかもな、と唇に指をふれて、笑みを浮かべたまま思案。
そのうえで顔をあげると、あらためて彼女を見据えた。
恐るべき相手を。

「……ボクそっくりの人形。
 恋人にあげたらどんなカオするだろな、フフフ。
 とかなんとか、色々イタズラの方策は浮かぶから、そっちもいつかお願いするとして。
 ――ボクが造って欲しいのは、"架空の人間"だよ」

腕をひろげた。両の掌をみせる。手札を晒す。

「表舞台を歩いても、悪の香りがまったくしないような"人間"」

片手をもたげる。なにかを手招くように、指が虚空を撫でた。

「きっと、悪を裁きたくて正義を示したくてしょうがないような、
 そんなまじめな連中は歯牙にもかけないような。
 非凡なまでに凡庸な、そうそういないタイプの"人間"を」

両の手がいびつに絡まる。細く長い指がふれる。

「人生のイチからジュウまで偽造したい。
 そいつには、表舞台で踊ってもらう――ただ、当たり前のように。
 風紀と公安の膝下で、ただ過ごすだけでイイんだ」

掌をあわせる、指を組む。

「素体はボクだ」

少しだけ、息を吸って、間をとってから、言った。

「ボクが羽織るための役を造る協力を、"キミ"という存在だからこそ依頼したい。
 独力の変装じゃ心もとなくてね……"気配"――"におい"の作成はアテはあるんだけど。
 ヒトが望むものではない役を演じる経験もなければ、
 騙したり欺いたりが大の苦手でね、そういう意味でもキミがいい感じに、
 その"架空の人間"の外面をデザインしてくれるんじゃないかな、って思ったんだ」

市井に潜む違反生。そして、彼女のかつての来歴を鑑みれば――……
ひとりの人間という"大道具"の仕掛けの一端を、依頼しようと相成った訳である。

「髪型、髪色とか。 ……あとは演技のイロハ。
 別人として生活する、という演技のためのメソッド――
 一朝一夕とはいかないとおもうんだケド……どう?一緒にやってくれないかな。
 報酬は、キミが望むものを最大限払うよ」

変装と演技の指導。
首を狙われておいて、堂々と表舞台に現れ、生活してみせる、という。
たったそれだけの、他愛のない戯れ。
それが今視えている新たな"挑戦"だと。

それでも、どうだろう、と彼女に視線をむけた。
それは、是非を問うものでもあり、同時にその思いつきのようなプロジェクトへの、
気づきや意見を求めたもの、でもあった。 

シャンティ > 静かに、熱く、大仰に、冷たく。語られるのは、一つの大胆な計画。欺こうというのだ。人を、機関を、表を、裏を。それは、とてもとても――


「あ、は……ふふ、うふ、あ、は……あはは、あははははは……」


漏れた。笑いが、女の口から漏れた。普段の含み笑いのような笑みではない。まるで狂ったような哄笑が、女の口から漏れ出ていた。


「表、に……隠れ、棲む……悪人、は……いく、ら……でも、いる。けれ、どぉ……気配を、匂い、を……人生、を……すべ、て……ふふ。羽織って、隠し、て……別人、の……よう、に……過ご、そう……なん、て……あ、は……」


かつて自分が所属した"場所"にも、表の日常を過ごすものはいた。それだけならさして珍しい事象ではないのかもしれない。ただ、それはあくまで、"2つの顔"があるにすぎない。けれど。この相手は――あくまで、欺こう、という意志の下、逃げるためではない"挑戦"をしようと言っている。それが、ひどく愉快だった。


「あ、は……ただ、隠れ、潜む……だけ、な、らぁ……そん、な……苦労……ない、わ、よぉ……?他人、に……なり、きる……なん、て……面倒、な……こと、しなく、て……も。で、も――それ、じゃ……駄目、なの……よ、ねぇ?」


ひとしきり笑った女は、いつものくすくすとした忍び笑いに戻ってノースフェイスに向き合った。それは、相手の思いの深さを確認する一種の儀式でもあった。

「やる、なら……本当、に……一、から……人を……創作……する、必要……が、ある……わ、よぉ?どう、生まれ……どう、生き……どう、作り、あがった、か……ええ、それ、は……演技、どこ、ろか……成り、代わり……も、同じ。ふふ……最悪……あなた、の……精神、が……こわ、れる……か、も?あ、は、はは」

くすくす、くすくす、と女は笑う。


「是非?そん、な、もの……問う、意味……は、ない、わ。あなた、が……成せる、こと……あなた、が……成せ、ない、かも、しれない、こと……ふふ。どち、ら……だろう、と……別に……問題、ない……で、しょう?」

女は言い切る。仮に、失敗しようがどうなろうが気にしない、と無情に言い捨てた。それが、相手にどんな印象を抱かせようと気にしないとでも言うように。


「ええ、ええ……報酬、なん、て……ふふ。事の、顛末……さ、え……見れれ、ば……十分、よ……あ、は。どちら、だろう、と……いい、わ……ふふ」

ノーフェイス >  
ひとくさり、彼女らしからぬ――彼女らしい、うたうような声をきく。
お気に召したのかどうか、"派手さ"でいえばむしろ、その言葉と対極にある催しだ。
そこから続いた言葉は、現実を語る、ある意味冷たい言葉にきこえた。
震えることはなかった。冬が寒いことなんて、当たり前に知っている。

「いきなり"なんでもかんでもお見通し"なんてちらつかされてみなよ……?」

肩を竦めて、皮肉っぽく笑った。
挑戦しよう、と思ったのはただそれだけのことが切っ掛け。
"刺激"されたら、変化し、進化して、適応する――"不当な抑圧"には、"反骨"する。
せざるを得ないのだ。

「いまのボクじゃあ末席にもつけない大根(ハム)だからね。
 ごく自然に、当たり前に、そこに在る新たな一個。
 独力じゃ足りない。キミのちからも、ほかのヒトにも借りて、抗ってみたいんだよね。 
 出来る限りをやりたい、くだらないことだけど、ソレは手を抜く理由にはならないだろ?」

たった数人、でもそれを束ねてみたらどうだろう。
ひとりで創る虚像より、強固で確かな"誰か"足り得るのではないか。
物語を創作する、という点に置いても、多くを読み解いてきた彼女の力はマストといえた。
否――考えているすべて、なにひとつ欠けても成立はしない。

「仮面《ペルソナ》の外し忘れ。 
 役にのめり込みすぎて戻ってこれない、なんてのはよく聞くよな」

古今東西、現実からも物語からも聴こえるジレンマ。
なんて"恐い"のだろう――顎を撫でる指、その間近で赤い唇が笑っている。

「実際にキミも観たんだな――オペラに取り込まれたエリックを」

白い歯が僅かに覗く。牙を剥くような。

「……アンカーが要るな。"ノーフェイス"にとってのクリスティーヌが。
 "そいつ"から"ノーフェイス"に戻るための、"ノーフェイス"を忘れないための。
 未練、というよりもっと能動的なものがいい……"戻って来たい"、か……?」

首をひねる。――だめだ。まとまらない。
こういうのは、彼女が要る。
"劇"において、眼の前の彼女は間違いなく、百日どころでなく長けているのだから。
この劇場に眠る者の、一翼であるがゆえ。

「成せるかどうかはわからないケド。
 成功ってのは――九回ころんでも、十回起き上がることだろ」

これも拝借した言葉だけど、なんてはにかむように笑った。

「――オーケー、じゃあ本気だ。
 これからご指導よろしくお願いします、セーンセ……♥」

媚びるように、猫撫で声を出してみる。
 
「テーマは、"音楽に出逢わなかったif(ボク)"だ。
 これは、ボクに気配をくれる、と告げた職人さんからもらったコンセプト。
 
 ヴィジュアルと――役柄も任せていいかな。
 髪と瞳の色なら、キミならいじくれるだろ?
 キミと、そのひとと、ボクと。あと面白そうなヤツ何人か巻き込んで、
 偽物の人生を造りあげたい、と思ってる。
 共作としては地味なものになっちゃうけど――いいものにしようぜ」

ぱん、と両手を合わせて、乾いた音。
やることが増えた。目下、ifを探す旅。
だがこれは、演目としては静か過ぎる。

だからこそ、ちょっと騒ぎになりそうなものを、探してある。

「じゃ、三つ目の話――イイかな?
 これはまだ、全然企画段階なんだケド」

つい、と指を動かした。
気づけば互いのグラスには、新たなプースカフェ・スタイルのカクテルが満ちていた。

シャンティ > 「あ、は……お見通し、だ、なん、て……ふふ。それ、は……傲慢、ねぇ……いい、わ……ええ、とても……いい。抗う、相手、に……ふさわ、しい……わぁ……ふふ、ふふ……」

どこか暗く、愉快そうに笑う女。ただの笑いであるが、そこには様々な感情が含まれているのようにも聞こえた。


「いい、わぁ……ふふ。くだ、らない、だ、なん……て、そんな……最高、よぉ……ふふ。本当、に……最高……」


心底、微塵も嘘はない。そんな様子で、恍惚と女は語る。無謀、無駄、無意味、と人には称されるかもしれない。しかし、女は間違いなく、それを称賛していた。


「アンカー……ね。そう……そこ、に……至る、なら……ええ、ええ。そこ、も……合わせ、て……検討、しま、しょう……ね。ふふ。一応、リクエスト、も……聞く、わ、よぉ……他、の……人、の……意見、も……含め、て……ね。」

いたずらを考える少女のように、どこか無邪気に女は笑って様々に考え始めていた。


「あぁ……そう、だった、わ、ねぇ……企画。そっち、は……なに、かし、らぁ……? 同じ、くらい……面白、い……こと、だと……いい、けれ、どぉ……?」

ふと、現実に戻されたような顔で向き直る。まるで何事もなかったかのような切り替えだった。

ノーフェイス >  
「キミの芸術性に心底から期待してるよ、"大道具さん(スシーラ)"。
 なにぶん演技の分野はマジで門外漢だからな……昔幾度か観劇したくらいで。
 どうぞ磨いて艶出して、ボクを役者に仕立ててみせて。やる気と覚悟は十分あるから。
 ――ていうか、演技にも手を出す歌手ってどう思う?」

冗談を口にするように、こちらも切り替えた。
色々と準備が必要だ。新年から、になるだろう。
役柄、気配、クリスティーヌ……他にも必要なものはたくさんある。

一番危険なポジション。分の悪い賭け。
誰をうちまかすわけでもない滑稽なワンマン・ショウ。
道化芝居のプロデュースを、始まりの女性と分け合うとしよう。

「キミがいてくれなきゃ、こうはなってなかっただろうからな」

ぽつりとつぶやく。
この劇場そのものもそうだが。
ここで演るなら――眼の前の女性の手前、下手はできない。
オジーに感じるものとはまた違う緊張感が、刺激的で、だからこそやろうと思えるのだ。

「ああ――……それじゃ三つ目の話。
 キミって大きなホテルに泊まったことある?
 ドイツのベルリンには……いまもあるのかな。ボクは行ったことないけど。
 格式高い、由緒正しきグランド・ホテルがあるんだってさ」

最後の話。ふたたびマドラーをグラスのなかに。
白と黒のグラデーションが、混ざり合い、甘やかな灰色へ。
秩序立った境界線が、混沌に――とけてゆく。

「群像劇(アンサンブル・ドラマ)か、怪談話(ゴースト・テイル)か。
 どっちになるかは、正直ボクにも予想ついてないんだけど。
 ボクが、主役にしてやりたいのはさ――」

グラスに口をつける。
意味有りげな視線。薄っすらと濡れた唇が笑った。

「――――……」

そして、口にした。
ひとつの禁忌を、闇色のヴェールの名前を。

シャンティ > 「演じ、る……という、のは……ね。すべ、てを……内包、して、いるの、よ。だか、ら……深淵。だか、ら……偉大。だ、から……"怖い"。で、も……だから、こそ……誰、にで、も……門は、開かれ、て……いる、の」


今この瞬間、思い立ってしまえば何者であろうと役者になることはできる。あとはただ、演れるか、演れないか。それだけの違いにすぎない、と女は思う。それゆえに、演ることすらできない。最後まで演りきれなかった自分は……


「あ、ら……それ、は……ふふ。格式、だかい……輩、を……遊び、相手、に……」


女は相手の持って回った話を受け止めながら、答える。手にはグラス。しかし、手の中で遊んでいたそれが、続く言葉で止まる。


「……知って、いる、わぁ……? けれ、ど……あれ、は……亀、みたい、な……もの。引き、だす……のは、少し……面倒、かも、しれない、わ、ねぇ……それ、と……どん、な……筋書き、に……するか、よ……ね」

語られた名前は、よく知っていた。関係者に遭遇したことはまだないが、いずれどこかで見えることもあるだろうか、と女も思ってはいた。そして、その名前が出てくることもある程度、予期していたことであった。だからこそ

「あなた、は……あれ、を……どう、した、いの……かし、らぁ?」

そこに興味があった。

ノーフェイス >  
「踏み込んだ瞬間に床が抜けてる、なんてことはないといいケドね。
 ナビゲーションはお願いするよ。キミに甘え倒す気はないけれど――誰彼構わずだときらわれちゃう」

冗談めかして笑いながらに、墜ちるのも自分の意志なのだろう、とは思う。
演じることは識らぬまでも、それを観る作法は知っていた。

「誇りと真髄を問うのさ」

返答は、このうえなく単純で、明快だった。

「どうもしない――そもそも、よくわかっていないしね?
 単なる怪談話かもしれないし、徒労に終わるかもしれない。
 ボクがどうするかっていう話なら、ほとんど何もする気はないよ」

戦争をする気はないのだった。

「そのための舞台を整えるだけだ――ボクらに"みせてくれる"ように」

穏やかなまま、悪だくみ。
悪意というものはなかった。言葉以上のものは。
ただ、みたいだけなのだ。路地裏の闇に垣間見えるような影を追いかけるように。

「踊ってくれるように。
 ……ボクらに、証明せざるを得ないように――ね」

その時。
大きな時計が、ぼおん、と重たい音を立てた。
立ち上がる。

「糸のないパペットショーだって。
 けっこう評判なんだ、ライヴや演劇とは違う客層をつかんでるって――観てく?」

シャンティ > 「誇り、と……真髄……ね?なる、ほど……ふふ。それ、は……あは。おもしろ、そう、ねぇ……あは。」

出された提案はシンプルなそれ。そして、それこそが急所となりうる一手であることは明らかであった。女はほくそ笑む。


「そう、ねぇ……そう。幻……怪談……都市、伝説……正体、不明……の、それ。本当、に……いる、のか……なん、て……確か、める……だけ、でも……ある、種……浪漫、よ、ね」


くすくすくすくす、と笑う


「えぇ、えぇ……それ、なら……いっそ……幻、が……幻、なら……幻想、を……打ち、砕く……か。それ、とも……ふふ。なり、かわ、る……の、も……面白、い……か、も……しれ、ない……わ、ねぇ?ええ、ええ……そう、で……なけ、れば……せいぜ、い……踊って、もらい、ま、しょう……ね」


面白そうに、展望を口にする。どちらに転んだとしても、女にとっては面白い展開だった。だから、笑う。この先の展開を想像して。


「……パペット、ショウ?ふふ……悪く、ない、わ、ねぇ……ここ、で……劇が、見れる、な、ら……ね」


演目を聞いた女は、少し驚いたように眉を上げ……やがて、笑う。それはどこか朗らかな感じもあり……

ご案内:「灰の劇場/VIPサロン」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「灰の劇場/VIPサロン」からシャンティさんが去りました。
ご案内:「違反組織群」に『虚無』さんが現れました。
『虚無』 >  既に崩壊した施設の跡地。そこに男はいる。とはいえ光を拒絶したその姿、そして薄暗い廃ビル。それらが合わさった姿は半透明で、ぼんやりとした蜃気楼が動いているようにしか見えない。
 この施設を破壊した犯人……ではない。別の拠点でここの主たちが風紀委員によって殲滅された。そしてそれなりに大きな組織だった。
 そんな組織をそのままスルーというわけにもいかず、情報収集の為にここに訪れた。風紀委員がここに押し寄せて情報を根こそぎ持っていかれる前に。
 パソコンの前で男は中を調べ上げる。

「……武器売買。違法薬物、売春に人身売買……ありがちな組織か」

 データを隅々まで調べ上げる。この街を脅かす危険な取引や計画が存在しないかどうか。
 大きな組織が崩壊すると色々な思惑で抑えられていたそんな計画が突然動き出す危険がある。だからこそしっかりと調べるのだ。

『虚無』 >  
 少なくともパソコンの中にあるデータだけで見れば危険はない。いや、言い方に少し御幣がある。
 世間一般基準で言えば危険しかないが、いわゆる自分達が動く案件ではない。そのレベルの組織だ。
 そしてパソコンに関しても特に情報を握りつぶす必要もない。風紀に渡っても問題ない情報ばかり。自分達が組して情報操作する必要がある情報は少なくともパソコンにはない。

「まぁ、そうだろうな」

 とはいえ、初戦は目に付く情報。本当に不味い物はそれ以外の媒体で保存されている。パソコンをシャットダウンすると歩き出す。この廃ビルの中を調べる為に。書類や金庫、隠し扉。それらを次々と開き、調べていく。
 

『虚無』 >  
 組織の中は大体調べ終えた。大きな組織ではあるがいたって普通の組織。それが結論だった。

「放置だな」

 風紀と組織の戦争に加担する事もあるまい。それは自分達の感覚外。
 全てを元に戻せば向こうから大量の車の音。

「時間か」

 この場でそんな多数の車を動員できるのなどひとつしかなるまい。
 風紀が突入してくる前に自分はこの施設を後にする。
 年末。本来ならばお祭り気分になれるはずの季節も自分達や風紀には関係ないのだろう。
 ほんの少しの同情心を彼らに向けて、彼の姿は影へと消えていった。

ご案内:「違反組織群」から『虚無』さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に『鎖蛇』さんが現れました。
『鎖蛇』 > さて、風紀委員会に強制所属となって初の落第街方面への”お仕事”。…とはいえ、風紀の制服を纏って他の連中と作戦行動を…とは為らず。

(『…いやいやいや、何でカモフラージュの”こっち”で出陣する事になってんの俺。』)

思わず、心の中でぼやくというかツッコミが出るのも無理は無いだろう。
当然、今の少年の立場からして単独で落第街方面への移動は許可されていない。
つまり、こうしている間にもあちこちに監視役が遠めにこちらの行動をチェックしている。

「『…で、俺…んん、私の任務は今、やっている風紀の摘発行為を援助する事…か。』)

思わず素で呟きそうになり、慌てて言い直す。高性能のボイスチェンジャーのソレは無機質だ。
逆探知やハッキング対策もされており、しかも頑丈で監視装置も内臓と来た。
本当に、至れり尽くせりで有り難い…なんて事は無いんだけども。

(『そもそも、今頃は風紀の新人として訓練とか研修に明け暮れてる筈なんだけどなぁ、俺。』)

何でいきなり援護、後方支援要員とはいえ実践投入されているんだろうか?
そもそも、今、作戦展開中の風紀の同僚達は自分がこうして見守っている事は全く知らされていない筈だ。
あくまで内密に、何か作戦行動の妨害及び突発的な事態に対しての保険の一つだろう。

(『…だからって、準一級にレベルアップさせられた俺を出してどうするんだって。
ほんっとーに、お上の人たちの考えてる事は相変わらず意味不明なんだよなぁ。』)

作戦行動ポイントから距離にして100メートルと少し。廃屋の屋上にて待機中な訳だが…。

(『つーか寒っ!防寒機能とかせめてカモフラージュ衣装に仕込んでくれねぇかな!?』)

相変わらず、自分の扱いがかなり適当な気がするのは如何ともし難い。

『鎖蛇』 > 任務そのものは、ありきたりな違反組織の摘発行為だ。別に面白みも何も無い。
摘発に踏み込んだ連中も、それなりに武闘派揃いで自分なんて雑魚なレベル。

(『…と、いうかこれも体の良いパシリなんじゃねぇかな…やる事が風紀寄りに変わっただけで。』)

監視対象の動向調査から、こういう裏方にポジションチェンジしただけの気もする。
まぁ、少年としても表で派手にドンパチするスタイルは苦手なので別に良いのだが。

(『そもそも、俺の正体をお仕事中の連中に悟られるのは多分、いや確実にアウト項目だろうし。
…つまり、俺が介入する事になったら、不審人物として纏めてお縄にされかねないんだが…。』)

せめて、作戦指揮をしているだろう委員には俺の事は知らせておいて欲しかった。
そう心中でぼやきながら見ている感じ、摘発行為は滞りなく進行中だ。
とはいえ、それが日常の光景であろうと安心は出来ないのがこの島の常だ。

(『クリスマスはぼっちで、年の瀬もこんな調子とか…俺にも女性運が欲しい…!!』)

心の叫び。実際に口に出して無いからセーフという事で頼む。
いや、知り合いの女子はそれなりに居るんだけど、みんなぶっ飛…個性的過ぎてな。

このカモフラージュ衣装だと、気軽に飲み食いも出来ないのでホットな飲料も飲めやしない。
今度、この衣装で出陣させられる時はホッカイロとか何か常備していきたいと思う。

『鎖蛇』 > しかし、傍観者というのは安全だがつまらない。神の視点じみたアレではあろうけど。
挑戦者宣言をした手前、何か行動を起こしたいものだが今の立場だと中々に難しい、もどかしい。

(『まぁ、俺の小市民レベルは一級品だからな!!…と、いうか今派手にやると今度こそ首が飛ぶし。』)

立場的ではなく物理的に。どっかのおっかない凶刃さんを思い出して小さく身震いした。
こうして顔色を窺うようなアレも、やっぱり小市民的なアレなんだろうなぁ、と思う。

「『…私の周りは何かしらに優れた能力、視点、或いは思考の持ち主ばかりか…。』」

あぁ、全く”羨ましい”。先ほどから、観測機器も何も用いずに遠目からずっと摘発現場を眺めつつ。
元々、視力は自信があるし――異能で『死の気配』を読み取れば、様子は大体把握出来る。
顔を覆い隠す白い仮面。その右目に当たる部分だけが極僅かに切り取られ、そこから能力で観測している。

(『…つっても、ずっと”この景色”を眺めているのはストレス溜まんだけどなぁ。』)

俺の『黒歴史』は本当に面倒な能力を押し付けていったものだと思う。
さて、作戦行動も見ている限りそろそろ大詰めか。撤収完了まで待機しないといけないのが辛い所。

『鎖蛇』 > 『――【鎖蛇(バイパー)】――作戦行動終了だ。連中が撤収次第、お前も撤収しろ。』

『了解』と、仮面の内側にセットされた超小型無線からの連絡に短く返答して一息。
やれやれ、と軽く首や肩を回そうとして―ー止めた。素の仕草はやるべきじゃない。

(『…ま、何事も無くて何よりですよ…っと。まぁ俺が最後っつぅのは警戒といざとなれば殿やれって事ですか、そうですか。』)

ぼやきは止まらないが、ともあれ速やかに捕縛した連中を引き連れて証拠品なども持ち出して行くのを眺めて。

――『死の気配』は周囲には見えない。少なくとも自分の視界範囲には。
これで怪我人、はまだしもこっちに死傷者が出たら遠回しにねちねち言われるんだろうなぁ、とぼんやり思う。

(『まぁ、こんな気持ち悪い光景なんて見えなければそれに越した事はねーんだけど。』)

『鎖蛇』 > ――そして、風紀のお仲間達が全員撤収したのを見届ければ。
ゆっくりと片膝を付いていて姿勢から立ち上がる。

(『――何時か、この”変わり映えしない光景”をぶっ壊してみたいもんだよなぁ。』)

破壊だの殺戮だの、そういう意味ではなく。もっと、滑稽で愉快な、そんな一夜のふざけたどんちゃん騒ぎみたいな。

そのまま、別の廃屋から廃屋へと、身軽に跳んで黒衣の少年もその場を撤退するのだった。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から『鎖蛇』さんが去りました。