2022/12/31 のログ
ご案内:「『灰の劇場』」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
その劇場は、人でごった返していた。
まるでなにかを詣でようというように。
年の境にあって、娯楽の髄に熱が渦巻く。

それもその筈、である。
この劇場を利用している演者を、できる限り集めた。

何かとお騒がせの、ツインボーカルとなって新生したライオットもそう。
音楽だけならず、さまざまな見世物が、舞台上に集うちょっとした祭《フェス》の有様そこにはあった。

目当て以外も楽しめるように。
新たな世界を覗けるように。

チケットを買えたものは幸福だ。
この模様は、音質や画質が劣悪なブートレグでしか、今のところは出回らないだろうから。

ノーフェイス >  
『みなさん。 ようこそいらっしゃいました』

すり鉢上の劇場の中心にひとり立つは、今宵の主催たる怪人。
フォーマル、というには少しけばけばしい貴族的な装いで、
手袋に包まれた細指をマイク上で蠱惑的に動かす。

『今日という善き日にお集まり頂いたからには、……からには、ね。
 忘れられなくなるような、最高のショウを――お約束します』

らしからぬ丁寧口調であっても、不敵な笑みは変わらない。
そうして、まるで独唱のオペラ歌手のように両腕をひろげると……

ノーフェイス >  
『まさか――カウントダウンをしよう、なんて思ってる人、いないよね。
 悪いけど、そういう催しの予定はないよ』

僅かにどよめく聴衆が、ひとくさり騒ぐのをたっぷりと待った。

『"来年からは"、"来年こそは"――って思っているなら。
 それは、ちがう。いまからでも、きみたちはなにかを成せる。
 言ってしまえば、年が変わったところで、なにが変わるわけでもない』

息を吸って――吐いて。
挑発的な視線が、ぐるり、と場内を一望した。

『でも大丈夫。
 あなたたちがいま、ここに来てくれたこと自体がひとつの"挑戦"なんです。
 素晴らしいことです。きてくれてありがとう。どうもありがとう。
 この時のために、多くの演者に集まってもらった――
 あなたがたも、このお祭りの主役だ。 この島では、この世界では。
 
 望めば、誰だって主役になれる。

 簡単なことではない。何も約束されていない。
 でも、だからってやらない――は違うと思う。
 失敗して恥をかくこともあるし、なにか喪うかもしれないけど。
 ふと思い立ったら、やってみたら楽しいことになる。
 ボクはそんなで、いまとても楽しい日を過ごしている――』

ノーフェイス >  
『せっかくだから、いまこの時を、この島を、この世界を。
 存分に楽しみましょう――まずは今日から。
 めいっぱい楽しんでいって、くたくたになって初日の出を浴びながら家路につけるように』

マイクを切り、一歩を引いた。
息を吸う。

「――さあッ! 本日一発めの主役はこのロクデナシども――!」

マイクなしでも場内に響き渡る大きな声とともに。

幕は常に上がりっぱなしで、自ら踊ろうとするかどうか、
そういう世界だ。

ご案内:「『灰の劇場』」からノーフェイスさんが去りました。