2023/06/19 のログ
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にスティールバイソンさんが現れました。
スティールバイソン >  
俺様は。顔半分を覆って正体を隠し。
違反部活がある辺りを人に道を聞きながら彷徨っている。

目指すは違反部活『ティルナノイ』。

そこは季節を問わず、あらゆる国の果物が食べられるという。
伝説のフルーツパーラーだ。

スティールバイソン >  
「オウ、道を聞きたい……ティルナノイは…」
「いや、悪い。知らないならいいんだ、じゃあな」

「この辺に店を知らないか? ティルナノイって店だが」
「いやいや……娼館じゃねぇよ、フルーツパーラーだ」
「知らないのか……いや、いい。じゃあな」

あちこちで人に物を聞きながら彷徨っている。
俺様がこんな細々としたことを。
しかし、部下を頼ることはできない。

スイーツが食べたいからって手下を使ったんじゃ威厳がなくなる。
裏の世界じゃ威厳が大事だ。
だから、俺様は仮面なんかつけてここにいる。

スティールバイソン >  
真っ昼間。6月後半に差し掛かる頃。暑い。
水分を取りながら落第街を歩く。

苛立つな。焦るな。
我慢した後に食べる果物は。
きっと……楽園のような味がするに違いないのだから。

スティールバイソン >  
そしてようやく知っている人を捕まえてやってきたのは。
簡素な立て看板があるだけの店。
外観が適当に汚し塗装されている。

しかし俺様にはわかる。
この建物は新しい。落第街にあって、不自然なほどに。

「失礼するぜ」

意を決して店に入る。
冷房がしっかり効いていて、涼しい空気が流れてくる。

違反部活であり、店内でもあるそこは。
ある意味、異様なほどに清潔な店構えをしていた。

ルイン >  
カウンターの向こうにいたのは。
違反部活『ティルナノイ』の主。
pâtissier la ruine(破滅のパティシエ)。

伝説のパティシエ、ルインだ。
ごく普通のコックスタイル。
ごく普通の面構えの女性。

しかし………

「いらっしゃいませ、スティールバイソンさん」

スティールバイソン >  
「!!」

しばらく逡巡して、マスクを外した。

「気づいてやがったのか……」

しかし、右手をカウンター席に向ける。
このまま逃げ帰るほど俺様は人間できちゃいねえ。

「座ってもいいのかい?」

ルイン >  
丁寧な物腰で上品に笑う。

「もちろん、お客様」
「本日はどのようなフルーツがご入用で?」

「異界のフルーツが2、3入っております」
「ただし、スタッフ数人で味見した程度で安全性までは保証しかねます」

スティールバイソン >  
カウンター席に座る。少し窮屈だが、文句は言わん。
そもそも俺様のサイズに合った椅子なんてほぼ見ない。

「それはまた今度だ」
「あるんだろう………この店」

息を呑む。

「釈迦頭が」

ついにその言葉を口にした。

釈迦頭。バンレイシ。
チェリモヤの近縁種で、シュガーアップルとも呼ばれる至宝に等しい果物。
非常に衝撃に弱く、痛みやすいが……

味は格別と聞いている。
木に生るアイスクリームとも、極楽浄土の果実とも。

今日の俺様の目当てはこれだ。

ルイン >  
「どこで聞いたのでしょう、悪いヒト」

女はクスリと笑う。
そして店の奥に入ると、すぐにカットされた釈迦頭を持ってきた。

「シャカトウ。お釈迦様の頭に似てる果物を食べたいなんて」
「人の欲は尽きないものです」

銀のスプーンと共に盆に乗せ、カウンターに置いた。

スティールバイソン >  
息を呑む。夢にまで見たフルーツが眼の前に。
だが……どうにもうますぎる話だ。
いや確かに眼の前の釈迦頭は美味いんだろうけどな。

「いくらだ」

吸い付かれるようにスプーンを手に持ち、聞く。

ルイン >  
指を二本立てた。

スティールバイソン >  
「いやに安いな……」

不安を覚えながら、釈迦頭の果肉を口にする。
それは……酸味を最初に感じた。

だが、続くのは甘味! 風味! 甘味! 甘味! 甘味!!

これが俺様の追い求めたスイーツ!!
感動で涙が出ちまいそうだぁ!!

加糖なんか一切されてない、なのにこの味わい!!
奇跡ってのは、あるもんだな!!

ルイン >  
「今は二本ですが、次に同じ価格で食べられるとは限りません」
「時価というわけです」

口の端を持ち上げて笑った。
破滅のパティシエ。落第街の仮初めの楽園。
その面目躍如だ。

スティールバイソン >  
「そういうことかよ……」

さすがに落第街の違反部活、手強い。
それでも釈迦頭を食べる手が止まらねェ!!

これなら何度だって通っちまう!!
こんな美味いものがぁ!!

食べ終わると、陶酔した表情で出されたアイスティーをがぶ飲みした。
この味を覚えたら、そりゃ堕落もする。

ルイン >  
「まだ別腹の空きはおありでしょうか?」

その言葉と共に水を打ったように静まり返る店内。
他の店員が店の奥で、また始まったよ…という顔をしている。

「釈迦頭半切りでご満足ならばよいのですが」

スティールバイソン >  
鼓動が跳ねる。
なんだ。まだスイーツを出すのか。
この店は何を隠し持っている……?

「ほぉ………」
「まだなんかあるってか?」

「俺様、もうかなり満足しちまっててなぁ……」

「半端をして水を差さないほうがいいと思うがな」

強がることしかできない。

ルイン >  
「いえ……なんの変哲もないパフェでございます」
「しかしテルミナスセブンのスティールバイソンさんにお出しできるでしょうか」

上品な笑いを浮かべたまま。

「店の底を知られるだけのような気がしますわ、お恥ずかしい」

スティールバイソン >  
「何本だ」

し、しまった。
身を乗り出す勢いで値段を聞いてしまった。

これで完全に格付けは済んでしまった。
俺様はこのパティシエに勝てない……絶対に。

ルイン >  
指を三本立てると、店の奥に入っていった。

スティールバイソン >  
「くっ………!」

焦るな。さっき俺様は至高を知った。
ここでダサい顔しなきゃ一応のメンツは保てる。

スイーツなんぞに!! 俺様が負けるわけがねぇ!!

ルイン >  
「おまたせいたしました」
「ピスタチオのパフェでございます」

「先程、とても甘いものを楽しまれていたようなので」
「今回は鼻で楽しんでいただこうと…香り高いものを選びました、どうぞ」

彼の前にパフェを置いた。

スティールバイソン >  
「え………」

ピスタチオ? あの?
そんなもんで釈迦頭を食べた後の俺様が満足できるとでも?

「フッ………ガハハハハ!!」

なんだ、いーい店じゃねぇか。普通の。
格付けだなんだと勝手にテンションを上げていた俺様はバカだぜ。

「いや、いただくぜ」

そう言ってピスタチオのパフェを一口。

脳が弾けた。
いや、脳はある!! なんだこの香りは!!
パフェの頂点にあるのは……栗の香りか!?

生クリーム、そしてこの味……ピスタチオを三回裏ごししたトリプルピュアか!!
それをモンブランのクリームと混ぜてこの味わいと香りに!!

い、意識が持っていかれる……ッ!!

ルイン >  
堕ちた。さすがにテルミナスセブンは舌が肥えている。
手強いけど、これで店の味を覚えただろう。

スティールバイソン >  
そしてその下はバニラジェラートの層…
舌が冷たくなってきやがった……

舌の温度を戻すために中層のコーンフレークを掬って食べる。
こ、これは極上だ……!! 香り高く、サクサクした…!
そしてコーンフレークを求めるスプーンの動きでいい感じに味が混ざってやがる!!

下層はピスタチオクリームか!!
もうダメだ、完全敗北だッ!!

俺様この店のファンです大ファンーッ!!

「……なぁ」

ルイン >  
「はい、なんでしょう?」

スティールバイソン >  
札と名刺をカウンターにそっと差し出して。

「なんかあったら呼びな」

そう言って仮面をつけ直して店を出た。
俺様、こんな美味いスイーツを今まで知らないままだった。

世界は広いぜ………

スティールバイソン >  
仮面を外し忘れたままアジトに戻った俺様は。
口元にクリームついてますよ、と部下に指摘された。

まぁ……大体バレているというわけなんだ。はい。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」からスティールバイソンさんが去りました。