2024/05/28 のログ
ご案内:「『灰の劇場』」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
『灰の劇場』――

落第街に陽炎の如く現れる、正体不明の大劇場。
学園未認可の公演が定期的に催される。
演者は正規学生、違反生を問わない。

ここには偶然に迷い込むということはありえない。
意思をもってチケットを握りしめ、ゲートをくぐったものだけが辿り着ける。
演目が中継・配信されることはない。
外側からは、その断片を、主催者の気まぐれで覗けるばかりだ。

主催者は『夜に吼えるもの』ノーフェイス。

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落第街は、公式的には歓楽街の一部として取り扱われている。
表との境界はグラデーションだ。明確にここからという線引きや検問があるわけではない。
表向き存在しない街に足を踏み入れることは、まるですこし足を伸ばす程度の気分で可能だった。

それでも、明らかに表側とは色合いを異にする未認可地区は。
侵入が推奨されない危険地帯であることは、間違いがなかった。
不法入島者、逃亡した違反生、その枠組にもとらわれない何か。
混沌渦巻く薄暗がりは、避けて通るべきだった。
そこからあふれる普遍的な闇が、様々な害として表舞台に干渉するよこで。

かがやく《呼び声》が、いつからか響き始めていた。

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その日、落第街は僅かに普段と違う賑わいを見せる。
見慣れぬ顔、歩き慣れぬ姿。
《呼び声》に誘われた者たちが、意を決し境界をまたぐ日。
場所だけでなく、表と裏がひそやかに甘く交わる日。

すべての責任を自己が負うことを義務付けられた、その境界の向こう。
落第街は実在し、そこにしかない(もの)が存在する以上は。

納得のうえで禁を破る不良生徒の聖地(メッカ)が生まれるのは、必然といえよう。

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静寂。
 
 
 
 

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――しばしの空隙ののち、割れんばかりの喝采が。
 
 
 
 
 

ノーフェイス >  
舞台上に。

如何な闇でさえ覆い隠せぬほど鮮やかに。
血の色の髪を長く伸ばし、雪のような肌に玉の汗を流して――
その姿は、マイクスタンドに手をかけたまま。
狂熱のただなかに、炎の瞳で天井をみあげる。

闘技場(コロッセオ)を思わせるすり鉢状の劇場内、扇形に用意された観客席は満員御礼だ。
この劇場は、いつもそうだ。
そうした演者ばかりが集い、背徳の宴を催すのだ。

持てる者は、みずからを証すことができる(持たざるものは、ただ沈んで消えていくしかない)

余計な言葉なしに、すべてを歌い上げたその姿は、そのように示すのだ。

落第街に弱者はいらない。
口々に、この存在が謳うことばだ。

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華やかなる夢と、残酷な現実(メリトクラシー)の化身は。
余韻に忘我していた唇に、うっすらとした笑みを浮かべて。
時間にして二時間弱。それらを捧げてくれたものたちに。
深々と頭をさげた。

ばつん、と硬い音が響いて。
場内の照明が消えた。

闇に解けたその存在は、紅の残像を残して踵を返す。
終幕だった。

何より熱い非日常が終わり、日常へ回帰する時間だ。
――観客にとっては。

ノーフェイス >  
上出来(じょーでき)

暗闇にいまだ消えない喝采のなかで、誰ともなく静かにつぶやいた。

肉食獣の、獰猛な笑み。白い歯が覗く。

「――フフ、でもダメなんだなあ、これじゃ。
 からっぽになるまで出し切るたびに、ボクのここはしくしくとうずくんだから……」

炙られたような体は、いまにも倒れそうなほど狂い、消耗しているのに。
すぐにもいきたがる、この衝動は、人間にとってごく普遍的なもの。
そういう生き物だった。どうしようもない、どこにでもいるような――

「……黄金の夏(サマー・オブ・ラヴ)……」

うなされるように口にして。
紅い娯楽は、日常では開かれることのない幕のむこうへ。

ノーフェイス >  
 
 
かがやく《呼び声》は、今日も響く。
 
 
 

ノーフェイス >  
 
 
――キミの挑戦(・・)に祝福を。
 
 
 

ご案内:「『灰の劇場』」からノーフェイスさんが去りました。