2020/06/07 のログ
ご案内:「路地裏」にデザイア・ハートさんが現れました。
■デザイア・ハート > 「ん~♪」
鼻歌を歌いつつ路地裏へと小さな少女のような透き通る髪を靡かせた”少年”はまるで気軽な散歩の帰り道のように入って行く。
ご案内:「路地裏」に傀儡女の柰さんが現れました。
■傀儡女の柰 > まるで美しい少女のように整った顔立ちの少年が、いつものように路地裏に入っていく。
いつもと同じように思われた路地裏であったが、入ってみれば、今日は明らかに雰囲気が違った。怪異や、それに類するものに敏感な体質であれば、空気で感じ取ることもできるだろう。
路地裏の片隅、薄暗がりからは、綺麗な琵琶の音が鳴り響いている。そこには人影もあるようだ。
■デザイア・ハート > 「…うん?」
魔女術を扱う少年は、少なからず怪異やそれに類するものにも知識や経験があった。いつもと違う雰囲気やその空気から、なにかがある事を直感的に少年は気が付いた。
耳を傾ければ琵琶の音…それが聞こえる薄暗がりに歩み寄り、そっとその人影へと視線を向ける。
■傀儡女の柰 > 薄暗がりに歩み寄れば、人影の姿がはっきりと見える。
桃色の髪に、二本の角。
大きな琵琶を抱えたその人影は、少女であった。
暗がりからそっと視線を向けるのであれば、その表情も見てとれるだろう。それはただただ虚ろな表情であった。
「……あちきの音が、気に入ったかイ?」
そちらへ目をやらぬまま、真正面を見つめて琵琶を撫でながら鬼はそう問いかけた。他に人影はない。問いかけているのは勿論、少年に対してだ。
■デザイア・ハート > 「…鬼……?」
まず目に付いたのは二本の角、角があり、和装であり、そうであれば真っ先に思い当たる存在と言えばやはり鬼だ。
その虚ろな表情を向ける桜色の少女に声を駆けられれば、ひとつ息を呑んでから正面に向き直る。努めて警戒の色を面に出さないように心がけながら、だ。
「確かにきれいな旋律だったけど、キミ、こんなところで何をしてるのさ?危ないよ、ここ。」
■傀儡女の柰 > 青の瞳は少年の姿を認めるや、少し興味深げに見開かれ、そこからはじぃ、と少年の目を見つめるのみとなった。
心の奥底まで覗き込むような、深い深い視線である。
ややあって目から視線を外せば、頭からつま先まで舐めるように見おろす。
そして口の端を上げれば、ベベン、と一際強く琵琶を撫でて、演奏する手を一旦止めるのであった。
「正解。あちきは鬼。傀儡女の柰という一匹の鬼サ。
そしてふぅム、ここは危なイ……?」
小さな肩をくっと上げて、小首を傾げる柰。
「よりにもよって『鬼』を前にして、危険を説く者が居るとハ……この世は大きく移り変わったものだネ……」
ふっと。妖しく笑う少女の姿をした怪異。
■デザイア・ハート > 心の置く底まで貫くような、舐めまわすような視線に、少年はきゅっと心臓が引き締められるような緊張を覚える。
さりとて、それを表に出す事はしない、少々の強がりもあるが、鬼相手にそれを見せるのはどこか嫌な予感がしたためだ。
「傀儡女の柰…鬼らしく古風な名前…でいいのかな。
あまり鬼に詳しくは無いけれど…。」
続く言葉に数秒の間を置いて…
「そりゃまあ、キミの見た目だけで言えば子供だもの。
”もし”鬼じゃなかったらって思えば、そういう言葉も出るものさ。」
そう半ば素直に、隠すものの無い言葉を返す。
■傀儡女の柰 > 「ああ、そうだネ、そうだとモ。君たちからすれバ、古風な名前になるんだろウ、ネ?」
口元を袖で多い、きゅっと細めた妖しげな横目で少年をじぃ、と見続ける鬼。
恐怖を表に出さない少年に対し、その心臓をつんつんと突いて弄ぶように、視線を送りつつ、時折確かめるようにベン、と琵琶を撫でて音を立てる。少年の嫌な予感は、きっと正しいものなのだろう。
隙を見せれば、この鬼は目の前の人間《えもの》に何をするか分からない。
「ふム。だが、残念なことにあちきは鬼ダ。鬼だから、サ……ぬし様みたいナ、『素敵な方』を見るト、どうしても疼いてしまって、ネェ……」
再び、琵琶の演奏が始まる。
だが、先程までとはまるで違う。
魔女術を扱う少年であれば、何かどす黒い「魔力」のようなものが、琵琶に集中していることに気がつくだろうか。
すぐに琵琶からは虹色の波が沸き立つように現れ、ゆらゆらと揺れ始める。
「秘曲刃式――『流閃』」
そう口にして、鬼が琵琶を弾いた瞬間。
変化する。虹色の波が、鋭い刃の形を成す。
そのまま寒気のするような勢いで、空気を切り裂きながら加速。
少年の喉元へと、迫る。
■デザイア・ハート > 嫌な嫌な冷たい汗が背を濡らす。
華麗な琵琶の響きも、今この場では緊張を高める材料のひとつにしか少年には聞こえなかった。油断せず、隙を無くし、もしもに備えねば、この鬼に何をされるか分かったものではなかった。
「…素敵な方ね、そりゃどうも。でも疼くっていったい――」
そうして、琵琶の演奏が止まり、鬼がどす黒い”何か”が琵琶へと集中し始めれば、それは半ば確信へと代わり、琵琶からに地色の波、刃が己の喉元へと放たれればそれは核心にまで至る。
「ッ…!」
間一髪、距離を撮っていたがゆえに、大きく後ろへと転がるような形でその刃を少年は避け切るが…次、すぐに何が来るかを警戒して、どこからとも無く”魔女の箒”を取り出し構えて鬼を見据える。
■傀儡女の柰 > 「成程、成程。あちきの見立て通りだネ。この流泉を躱して魅せた者が現れたのは、目覚めてから初めてのことだネ……」
けらけらと笑いながら、満足げにベベン、と軽やかな音を奏でる柰。
「はぁ~、楽しいネ。ところでぬし様。その立派なモノを熱り立たせる必要はないヨ。これはただの、前戯《あそび》だから……ネ?」
そう言って、細い人差し指で、撫でるように魔女の箒を指させば。
口の端を上げて、妖しく笑うのだった。
「それにしてモ、これだけ仕掛けテ、それでも弱さを見せないとはネ……気に入っタ、気に入っタ。ぬし様、あちきに名前を教えてくれないかイ?」
着物を払って整えると、妖しく、しかし穏やかに笑って首を傾げてみせる柰。
そこには何の悪気も邪気も感じられない。純粋な「怪異」の笑みであった。
■デザイア・ハート > 「……目覚めて初めてって…、ボク以外は首跳んでるってことかい。」
けらけらと満足げに笑う鬼と対象的に、少年は苦々しい笑みを返すのがやっとであった。
「これが前戯(あそび)、ねぇ…冗談であった欲しかったけど、ホントっぽいね。その熱っぽい言い回し、絶対わざとだろう。」
くるりと、構えた箒を身体の横に添え直す。
もちろんのことだが、警戒を解く事は無く。
「……そりゃ光栄だなぁー。名前、名前ねぇ…。」
その名前を問われれば、邪気の無い怪異の笑みを真正面から見据えながら、問われた名前を確かに返す。
「デザイア。デザイア・ハート。呼び方は何でもいいよ。」
■傀儡女の柰 > 「子どもと見れば……自分より弱いと判断すれバ、すぐに襲いかかってくるようナ、価値の無い人間の首ハ、跳ばしたサ。そう、跳ばしたとモ。みな、跳ばしたとモ。ぬし様への流泉、紛れもない本気の一撃だったけれどネ、躱す様子がなけれバ、刃を逸らすつもりだったサ。すっかり気に入ってしまったからネェ……信じるも信じないモ、ぬし様次第だけれど、ネェ」
悪びれる様子もなく柰はそう答えれば、再び軽やかな音を鳴らして聞かせた。
「さァ、あちきには何のことだか、さあっぱりわからなイ」
言い回しについて言及されれば、抱えていた琵琶をくるりと回して、人差し指を自分の顎に添えて見せた。
「でざいあ……愛しき人間の名、覚えたヨ。それでハ、それでハ。今日の戯れはここまでにいたしましょウ。次に会う時は、もうちょっト、柔らかい姿を見せてくれると、嬉しいヨ。また遊ぼうじゃないカ、ネェ?」
そう言って、くつくつと笑った後。
柰が最後に勢いよく手を振り上げて、強く強く琵琶を叩けば、
路地裏に響くベベベン、という重苦しい音。
その音と共に、周辺の空気すら重みを持って、崩れ落ちていくような感覚。
そして、次第に柰の姿は消えていく。
■デザイア・ハート > 「ハハハ……そこまでとなると相当に気にいられたらしいね。」
ああなるほど…と、少年は堅い笑みを返しながら、ここ最近、たまに噂で聞こえていた首なしの遺体を作り上げた主犯が、今目の前に居る鬼なのだと。
「…またまた、とぼけちゃってさ。
ああうん、そっちがそれでいいのならそうしてくれると助かるよ。ボクも帰る途中だったし、まだ晩御飯も食べてないんだ。」
心を強く持ち、そんな冗談を返しながら琵琶を叩き、去り行く鬼の姿を見つめて…。
「おーけー、またね?やわらかい姿は…善処しておくとするよ。」
願わくば次が無い事を祈りつつ、完全に消え去ればほっと一息を付いて、少年も路地の奥へと消えて行った。
ご案内:「路地裏」から傀儡女の柰さんが去りました。
ご案内:「路地裏」からデザイア・ハートさんが去りました。