2020/06/12 のログ
ご案内:「路地裏」にエルピスさんが現れました。
エルピス >  
路地裏の一角。
蹲って呻き声をあげている人間が乱雑に積み上げられ、
その頂上には義腕義足を備えた少女のような少年が座っている。

「どうして呼ばれたのか、
 どうしてこうなったのかは分かるよね?」

少々大げさに葉書のようなものをひらつかせる。
付け加えれば、彼が見せびらかした葉書と同じものが路地裏に散乱している。

「……確かにさぁ、僕は"誰かといるとき"は強くないと思うよ。
 その子が落ち度のないカタギだったら尚更ね。キミ達もそう思ったんだよね?」

「だからこそ、こうやって『招待状』を送ってお礼参りをしたんだ。
 ……分かるかな? 特にそう、"光輝燦然"のキミ。」

ぐり、ぐり。
詰りながら足元の禿頭を踏み付ける。

エルピス >  
「僕が誰かと居るときは弱いのは周知の事実だけど、
 失敗したらこうなるのも、周知の事実だよ。」

踏み付けるのにも飽いたのだろう。
溜息を付きながら足を離す。

「……まだ何人か足りない気がするけれど、この位で良いかな。
 全員追うのはキリがないし、喉も乾いちゃったし。」

ご案内:「路地裏」にシュルヴェステルさんが現れました。
シュルヴェステル > 夜の街。薄暗がり。肌を撫でつける感覚が嫌に冷ややかなそこ。
手渡されるマップに掲載されていない、あるはずのないそこ。
「――知りたいんなら、自分で調べてみることだ」と、露天商は言った。

「……なるほど、『ないことになっている』のも自明の理だ」

ザ、と短くアスファルトとスニーカーの靴底が擦れる音。
「表」では聞くこともない呻き声。おまけに、血の匂いまでが鼻につく。
不快と表現するのは恐らくそれが適当だろう。
「折りたたまれている人間」を靴底で踏みつける少女のような少年を見て。

「何をしているんだ」

端的にそう告げる。この青年は昨日のあらましなど知りやしない。
故に、見えているものだけを見るのならば、悪者は君に見える。……故に。

エルピス >   
「逆襲。」

問われれば迷いなく告げた。
弁明する素振りはない。

「……ちょうど昨日、彼らに襲われてね。
 舐められたままでもよくないから、やり返しただけ。」

 黒い装いの異邦人を認める。
『折りたたまれている人間』の山からひと跳びで降りて、
 彼の目の前へと降り立った。

「それよりもさ、飲み物持ってない?
 喉、乾いちゃって。」

シュルヴェステル > 「そうか」

言葉は短い。僅かに笑いのような声色を入り混じらせながら呟く。
手に下げたコンビニエンスストアの白いビニル袋に手を突っ込む。

「逆襲であるのなら、早いうちに息の根を止めたほうがよいだろう。
 ……ああ、それとも、邪魔をしただろうか。すまないな」

ビニル袋がガサガサと不快な音を鳴らし、少年にペットボトルが放り投げられる。
500ミリリットルのどこにでも売っているミネラルウォーター。
携帯端末の灯りをつければ、赤い瞳が顕わになる。地図上の位置情報は真っ白だ。

「……“それ”で、終わりか?」

飛び降りた少年へと、ペットボトルの次は訝しげな視線が向けられた。

エルピス >  
「……納得するんだね。」

 小首を傾げる。
 やや拍子抜けしたような隙を見せた。

「そこまではしないよ。
 そこまでやっちゃうと"別のもの"に目を付けられちゃうからね。
 逆襲に復讐を重ねられてた方がまだマシ。」

 放り投げられた飲料水を"機械の右腕"で受け取り、
 "別の右腕"で小銭を渡す。相場通りの値段だろう。

「"足りない"ね。これで十分かな、とも思うけれど。
 ……端末がどうかした?」

 向けられた赤い瞳から視線をずらす。
 視線の先は光源となっている携帯端末だ。

シュルヴェステル > 「そちらのほうが危なくはないか。
 ……こんなところにはいないほうがいい。彼らもだ。
 こんな場所にいるから、こういう目に遭う。双方共に、だ」

咎めるでもなく、嫌悪するでもなく、否定するでもなく。
どちらかといえば、本心から心配しているような声で短く呟く。

「私には些か無為に思えるが、そうではないのか。
 逆襲に復讐、というより……どちらかというのなら、営みのようなものか」

それなら納得がいく、と静かな声が夜に落ちる。
そして、渡された小銭は生真面目に学生服の尻ポケットから財布を抜き出して仕舞う。

「行き止まりの先に道があった。ここは行き止まりのはずだ。
 ここは一体どこだ? 
 ……ああ、帰り方はわかる。が、この先には何があるんだ?」

路地裏の奥を指差す。「表」の世界のちょうど反対側。
それを静かに示してから、眉根をほんの少しだけ寄せてみせる。

エルピス >  
「気遣ってくれているのかな。
 でも大丈夫。……ここが一番居心地が良いんだ。
 学園も学業も好きだけど、ね。」

 言葉と共に"笑ってみせる"。
 次の句が来る前に飲料を飲み干し、ひしゃげたゴミ箱に捨てた。

「そういうこと。で、この先には何があるか、だったね。」

「落第街。そう呼ばれるものがあるよ。
 手っ取り早く言えば無法地帯。二級学生や違反部活の温床で、
 詐欺や喧嘩が横行しているようなろくでもない場所だよ。」

「その代わり、人権以外なら何でも売ってる。
 酒や薬は勿論。剣や銃だって売ってるし、
 技適や審査すら通ってなさそうな怪しい道具だって打っている。」

 "ここは何処か"と訊ねられることには慣れているのだろう。
 ある種の語り文句が如く、すらすらと答えてみせる。

「……いや、人権だって高くつくけれど売ってるかな。」 

 軽口のつもりなのだろう。
 おどけながら補足した。

シュルヴェステル > 「居心地がいい」

僅かに驚きの混じった声がする。
意外そう、というよりも、どちらかというと信用ならない、と言いたげな。

「ああ、気遣った。が、不要であるならそれは余計だ。
 ここが居心地がいいとは、それは……自傷かなにかか?
 それとも本当に居心地がいいというのなら、私にはわからない感性だろう」

ビニルを軽く揺らす。
そして、続いた文字に納得したような溜息が落ちる。

「……ああ、ルールを守れないという話の、そうか。
 それで、……そういうのも、あるんだな。して、――」

視線を持ち上げる。
無法地帯で、二級学生や違反部活の温床。
喧嘩や詐欺の横行している、揺りかごから墓場まで扱う商店街。
そんな場所が居心地がいい、と言ってのけた少年に再び視線を戻し。

「貴君は、二級学生か違反部活かの、どちらかというわけか」

エルピス >  
「自傷……」
 
 暫くの間黙り込む。
 黒い装いの男が一通り喋り終え、
 それから少しの間を置いてようやく口を開くだろう。

「ノーコメント。と言いたいところだけど……そうだね。
 『ちゃんとした学生証』は持っているし、
 無作為にガサ入れされても多少の注意で済むようには気を払っているよ。」

 言いくるめるように弁じてみせ、
 証拠と言わんばかりに『学生証』代わりの端末を掲げてみせる。

 "エルピス""一年生"。そのような文字が読み取れるだろう。

「高くついたし、一年生からのやり直しになったけれどね。
 ……それでも距離を置きたいものがあっただけ。」

シュルヴェステル > 少年が黙り込めば、男も口を開かない。
遠くに落第街“らしい”音が聞こえて、暫しそれが続く。
無愛想ながらも口数の多い男はよく喋り、よく黙る。

「ノーコメントか。
 ここのことを知っているやつは、ノーコメントをよく好む。
 何よりも雄弁だというのに、なにも語ろうとしない。そういう街というわけだ」

一人で勝手に何やら納得してから、動物のように目が細められる。
訝しげな視線は表示される端末を目で追いかける。
確かに表示されている文字を読めば、首を軽く縦に振った。

「ならば同級生というわけだ。エルピス。
 私はシュルヴェステル。常世学園の1年に籍を置いている。
 ……成程、高くつくものを買ったわけか。であらば頷ける」

勝手に相手のことだけ知るのはフェアじゃない、と同じように。
自分もエルピスに習って端末を掲げてみせる。
“シュルヴェステル”。“1年生”。“門より訪れた異邦の民”。

「確かに、ここならばいろいろなものから距離を置けそうだ」

プライバシーには配慮する。露天商の言葉に密やかに感謝し。
そして、静かに余計な一言を付け足した。

「それでも学生でいるとは、もの好きだな」

エルピス >  
「そう言うこと。高いか重いからね。
 ……僕ですら喋っている方だよ。ここだと。」

 学生街のような明るいものではなく、
 異邦人街のような賑やかさでもなく、
 歓楽街のような煌びやかさなどない、

 暫しの間、"落第街"の音が場を包んでいた。

「シュルヴェステルお兄さん、だね。覚えたよ。
 改めて名乗ろっか。僕はエルピス、同級生だね。」

 名乗りを聞いてから文字を読み、頷く。
 同級生と聞けば、はにかんだりもする。

「物好きかもね。でも。ううん。だから気楽で、居心地が良いんだ。
 ……そうそう。僕はここで便利屋のようなことをやっていてね。
 日銭か日銭になるものをくれれば、大体のことするよ。」
  

シュルヴェステル > 「そうか」

幾人もの折りたたまれて積み重ねられた誰かを見る。名も知らぬ誰かを。
玩具のように放り捨てられた誰彼の呼吸音が夜闇を伝う。

「……同級生だな。ああ。よろしく頼む」

はにかむ少年に対して、青年は少しも笑いやしない。
熱伝導性のひどく低い金属のような声色のまま、淡々と続ける。
治安が悪い。歓楽街の裏道を歩いていた少年が言った。
人殺しなんてできねーよ。歓楽街の裏道でバットを持ち歩いていた少年は言った。
故に、ふと。日銭さえあれば、「大体」。その「大体」の枠組みに興味がある。

「では、人は殺すのか? 金ならある。
 いまここにはありやしないが、貴君に依頼できるだろうか」

ちらりとエルピスに、温度のない視線を向ける。

エルピス >    
「『かなり高くして断る』……正直、割に合わないからね。
 それに、そう言うのは『便利屋』じゃなくて『専門職』に頼んだ方が安いし確実。
 安いのに頼むと、こうなるかもしれないけれど。」

 肩を竦めて、首を横に振った。
 思い出したように折り畳んだ誰彼を見遣る。

「十人十色の異能と異邦。強固な風紀委員と凶悪な公安委員。
 そうでなくても犯罪の中の犯罪。前準備も後始末も高くつきすぎる。」

 外の音すら掻き消すような大きな溜息。
 分かり易いぐらいに嫌そうだ。

「……一応聞くけれど、本当に殺したい人が居るとかじゃないよね。」
 

シュルヴェステル > 「そうか」

同じ答えが二度、三度と続いてから数度頷く。
少年が嫌そうな溜息を吐いたのとほぼ同じタイミングで青年も息を吐く。
ビニル袋に手を突っ込んでから、いくらかガサガサと音と立てる。
水でも飲むかと思ったがそれは手元にないことを思い出して、首を横に振る。

「ああ、それなら構わない。
 同級生がもし人を殺したりしていたとあらば、
 私はどういう顔をして同席すればいいかわからなかったからな」

軽い調子でそんなことを言ってから、小さく鼻を鳴らす。
笑っているのやもしれない。彼なりの冗談なのか本気なのかは定かではないが。

「本当に殺したい相手がいたとすらば、人に頼むほど愚鈍ではない。
 手ずから息の根を止めるのが当然のことだろう。
 誰かに頼むなど、それこそ無為だ。復讐や逆襲よりもよほど意味がない」

肩を小さく竦めてから、踵を返そうと半身だけを引き。

「貴君、登校はしているのか」

エルピス >  
「ううん、苦笑しておけば良いと思う。」

 冗句か本気か分からない言に軽口を重ねる。
 ある種の無難な答えだ。

 ……続く理念には、考え込むように神妙な表情を浮かべる。
 
「それもそうだね。"僕のこれ"だって自分でやるから意味が有……
 ……いや、そう言う話じゃないか。
 殺したい程の何かがあったら、自分でやらないと気が済まない、かな。」

 去り際の問いには、こう答える。

「一応してるよ。
 ……落ち着かないから長居はしないけれど、
 もしかしたらすれ違うこともあるかも。」
 

シュルヴェステル > 「ああ、いや、少し違う」

僅かに困惑の色を残しながら、こめかみを軽くおさえる。
キャップとフードが少しだけ持ち上がって、白髪がちらり覗く。
そして、神妙な顔をする少年とは対照的に、小指の先ほどで笑む。

「本当に死んだかどうか、確認すべきなのは自分だろう。
 一度で死なぬ者もいる。それならば、自分でやったほうが効率がいい。
 誰かの失態で、自分が被害を被るのは勘弁願いたいからな。
 人の所為にせずいるためには、自分が全て手を下すほうがよっぽどラクだからな」

幾らか砕けた言葉が出て、肩を竦める。
そして、返ってきた返事には「それなら、会う機会もある」とそのまま踵を返す。

「では、学園で。
 ……道案内、感謝する。あまり近寄らないようにしよう。
 それから、その。半数ほど恐らく目を覚ましている様子だ」

折りたたまれた彼らの呼吸音が、急に静かになる。
振り向けばもう、青年はそこにはいない。夜闇に紛れて、消えた。

ご案内:「路地裏」からシュルヴェステルさんが去りました。
エルピス >  
「……合理的に徹底する方なんだね。」

 同意めいた言と共に苦笑を浮かべた。
 ある意味、言ったことをそのまま実践している。

「うん。また学園で。
 何もしない"ってことはそう言う事だろうから問題ないよ。」

 念の為に振り向いてから視線を戻せばもういない。
 立ち去りの速さには少々の感嘆を見せる。

「って、行っちゃったか。
 ……僕もそろそろ帰ろっと。」
 

ご案内:「路地裏」からエルピスさんが去りました。