2020/06/18 のログ
鞘師華奈 > 「…どういたしまして。…うん、いい笑顔だね。」

私みたいな女子力ゼロの女とは大違いだ、と、しみじみ思いながらも幼さのある無邪気な笑みを見て眩しいものを見たように目を細める。
生活は過酷でも、見た目相応の感性や感情がしっかり息衝いている。それでいい。

「……ああ、ご忠告ありがとう。ニーナも、一気に食べ過ぎないようにね?」

小さく笑えば、軽く手を振ってから、先ほど歩いてきた路地を戻り始めて。

最後に、一度だけ振り向いてもう一度赤い瞳が少女の青い瞳を見つめて。軽く手をもう一度振れば。
後は振り返ることなく、すっかり暗くなった路地の奥へと歩き去るだろうか。

227番 > 「うん、大事に、する」

明るい表情のまま、頷いて答える。
補充のあてが有るわけもなく、底をつけばおしまい。それは理解していた。
少なくとも、がっついてあっという間に備蓄切れ……ということはなさそうだ。

「えっと、また!」

入口の前で小さく手を振って見送る。
そして目が合えば、大きく手を振り返す。振り上げた腕の勢いにマントがたなびいた。

鞘師華奈 > 「――彼女にはまたひょっこり会えそうな気がするね。」

面倒臭いのは嫌いだが、少し楽しみかもしれない。
次に会えるときまで、彼女が生き抜いてくれる事を願いながらその姿は闇に紛れて――

ご案内:「路地裏」から鞘師華奈さんが去りました。
227番 > 姿が見えなくなって、手を下ろし、入り口に振り向く。

こんなことになるなんて。日課はどうしようか。無理にやる必要はないだろうか。
とりあえず腹ごしらえをしてから考えよう。
そういえばベッドで眠れるのは初めてだ……などと、さまざまに思考を巡らせながら、
初めての拠点である"隠れ家"へと吸い込まれていった。

ご案内:「路地裏」から227番さんが去りました。
ご案内:「路地裏」にスリヴォヴィッツさんが現れました。
スリヴォヴィッツ > のし、と裏路地に足を踏み入れれば、いら立ちをぶつけるようにそこにあったゴミ箱の中身をぶちまけた。

膝をついて、散らばるゴミに手を突っ込み、太い鼻ですんすんと臭いを嗅ぐと、まだ腐ってい無さそうな生ごみを大きな口に放る。

美味しいわけがないが、それ以上に空腹を満たしたかった。
味わうことなく、牙でそれをぐちゃぐちゃと噛みしめ飲み込む。

スリヴォヴィッツ > 「あー…まともな飯食いてぇ…」

口の端についた生ごみを手の甲でぐいとぬぐい、ぼやきながら、その場にどっかりと腰を落とした。

ご案内:「路地裏」に彩紀 心湊さんが現れました。
彩紀 心湊 > 「………。」

なんてことのない。ちょっとした所用のつもりで通りがかったのだが、目の前に広がるゴミの道に顔を歪ませる。
アンラッキーと言わざるを得ない。
ちょっと落第通りの商売達の目を抜けようとしたらコレだ。
あまりにも憂鬱で深い息を漏らすが…

「……と……。」

鼻を覆う先には、いつかみた獣人の姿。

スリヴォヴィッツ > やってきた足音に顔をあげる。

「お前は…」

数日前に、一言二言交わしただけの女だ。まだこんなところをうろついていたのか、と呆れたように目を細める。
あるいは、食事にありつくチャンスだろうか。

「また、こんなところで何をしている。」

警戒をさせないよう、雑談でもするように声をかける。

彩紀 心湊 > 「それ……私のセリフなのだけど……。」

正直なところ、臭い。
一周回って鼻が慣れてきそうなものだが、帰ったら速攻で洗濯に出さないといけないと思っていたところに向こうから声がかかってきた。

「…古本屋。掘り出し物がないか探しに来てたの。」

しかしまあ、手ぶらなのを見るに気に入る本がなかったか、あるいは純粋に成果がなかったのだろう。

スリヴォヴィッツ > 臭うのは当然だろう。この島に来てから、下手したらそれ以前から風呂などろくに入ってないのだから。
自分の臭いになれきった獣人は、女の変化に気が付くことはない。

「ここはガラの悪い奴がうろついてる、って聞いたんだがな。
用が済んだのなら、とっとと帰った方がいいんじゃないのか。お嬢ちゃん。」

小馬鹿にしたように笑う。

彩紀 心湊 > 「…別に。
随分とお節介焼いてくれるのね…。
見た目が伴ってくれれば紳士というものだったけれど…。」

小馬鹿にしたような笑いに対して、冷めたような眼差しで皮肉で返す。
そして、その言葉通りにと言わんばかりに目の前を通って帰路につかんとする…。

スリヴォヴィッツ > 「紳士、ね…んな事言われたのは初めてだ。」

”肉”が目の前を通り過ぎる。ゴミの臭いが充満した路地で鼻につく女の匂い。
鋭い爪の伸びた手を、女の肩に伸ばした。
掴めれば、壁に向かって叩きつけるように手を引くだろう。

彩紀 心湊 > 「っ………。」

華奢な体は肩に手がかかれば容易に狭い壁へと叩きつけられる。

「……どういうつもり…?」

肩を掴まれたことに対する嫌悪感、そして地味に叩きつけられた痛み。
それらが相まって刺激すまいとしていた表情に敵意が込もる。

スリヴォヴィッツ > 抵抗されなければ、鋭い爪は遠慮なく細い肩に食い込んでいくだろう。
感情の滲んだ表情に、獣は牙を、歯茎を露出させ愉快そうに笑った。

「腹が減ってんだよ。もう限界なんだ。
丁度良かった、アンタが通りかかってくれて。」

柔らかそうな肌を見れば唾液が溢れる。

彩紀 心湊 > 「人喰いだなんて…。」

異邦人にもこんなタイプがいるのか、と素直に勉強になった。
てっきり本だけの存在だと思っていたものだから。
そして…彼女が毅然としていられるのにも相応の理由がある。

「そう、私はちょうど良くないしいっぱいいっぱいよ…。
獣は所詮、獣なのね。」

ふわり…と、周囲の瓦礫達が動き出す。
サイコキネシス。彼女の、本当にシンプルな異能である。
それらは獣人の背後へ迫るように浮かび上がり…勢いよくその背を打ち付けんとするだろう。

スリヴォヴィッツ > 瓦礫の動く音に耳を立て、迫る瞬間に衝撃に耐えるように体に力を入れた。

「ッ…てぇ」

豊かな体毛に鋼のような筋肉、図体がでかい分、大したダメージにはならない。
ただ神経を逆なでだけして、表情を一気に怒りに染めた。

「餌の分際で、抵抗すんじゃねェ!」

食べるのに邪魔だ。服をひっつかみ、引き裂こうとした。

彩紀 心湊 > 「ちょ……」

普通の大人なら失神じゃ済まないレベルのはずだ。
それをちょっと痛そうなくらいで済まされるのは流石に想定外。
その辺りの加減を知らないのは致命的だった。

「…きゃっ…?!」

服を犠牲に、なんとか身体を捻り…押し付けられた姿勢から逃れる。
肩から腹部までが大きく破れ、覗かせるのは白い柔肌と薄いピンク色の下着姿。

スリヴォヴィッツ > すり抜けた体を、逃がさないというように、まさに獣のように飛びつく。
また逃げられるか、少女の体は重さに耐えきれるだろうか。

彩紀 心湊 > 「こ、の……。」

無論、少女にそのような力があるはずがない。
故に…周囲にあるゴミが、瓦礫が、襲いかかる獣人を押し止めるようにそれを阻害する。
先のように加減はもはやない。人の頭ほどある瓦礫も容赦なくその進行を妨げるために飛んでくるだろう。

スリヴォヴィッツ > 荒い息を抑えることなく、少女を押し倒す。
空腹が勝っていなければ、あるいは別の欲望がもたげたかも知れないが、獣の腹は限界だった。
押しかかってくる周囲のものに気を向けられない程。

その柔らかい肌に舌を這わせようと、大きな口を近づけた。


「がっ!?…ぐ」


飛んできた大きな瓦礫が頭に直撃し、獣はどさりと少女の上に伏した。

彩紀 心湊 > 「んっ…?!」

のしかかられる重みに、思わず目を瞑る。
……しかし、その先はなにも起こらない。
おそるおそる目を開けば、半場やけに飛ばした瓦礫がようやくクリーンヒットしたようで。

「……はあ……。」

どうやら生きてはいるようだ。
念力でその巨体をふわりと移動させれば、なんとかかんとか起き上がる。
死ぬかと思った。と、安堵する一方…楽しかったと、なにかアブナイ感情もほんの少し抱く。
本来なら風紀に連絡するべきだが、この格好なうえにこちらまで時間的に拘束されるのはごめんだ。
去り際に、獣人を一瞥すればそのまま彼女はこの場を立ち去るのだった。

ご案内:「路地裏」から彩紀 心湊さんが去りました。
ご案内:「路地裏」からスリヴォヴィッツさんが去りました。
ご案内:「路地裏」にフローレンス・フォーさんが現れました。
フローレンス・フォー > 「……骨がないわね。ほんと……」

襟首を掴み揉み上げていたチンピラを捨てて吐き捨て。
周囲を見回すと倒れ伏す同じような姿のチンピラの姿が多々。
昨日は外れてあったが今日は無事?に絡まれての運動が出来、不完全燃焼ではあるが一応の満足。

「それじゃ約束通り貰うわよ」

倒れた一人の傍に屈めば楽しそうに告げ、チンピラのポケットから財布を抜き取り、鼻歌を歌いながら財布の回収をはじめて。

フローレンス・フォー > 「……せめて襲ってくる時は中身は詰めておきなさいよね」

一折回収を終えるとチンピラを数人詰んでその上に座り中身の回収。
しかし入っているのは硬貨ばかり、時折紙幣もありはするが本当に1枚2枚程度。
それを全部上着のポケットにしまって財布は適当に捨て。

代わりに煙草を取り出し咥えるが火はつけずに揺らすだけで。

ご案内:「路地裏」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
紫陽花 剱菊 > 人の寄り付かぬ暗がり、跳梁跋扈蔓延る宵闇にふらりと立ち寄る男が一人。
まさに死屍累々と言える光景を一瞥し、くすんだ黒い瞳を少し細めた。
その中央に悠然と立ち尽くす女性に、目を向ける。

「…………。」

黙して、何も言わず、じっと黒い双眸が見据えている。
臆する事もなく、悠然と倒れ伏す人物を踏まぬように、静かな足取りで近づいていくだろう。

フローレンス・フォー > 本当に少ないが収入が入りそれなりと言えない程度の戦いも楽しめた。
この後は…商店街に行き最近はまっているアイスを買いにいくか。
それとも次の獲物を探しに行く事にするかと思案。

そうしていれば聞こえる音に赤い目を向けると先ほどにはいなかった男の姿。
何か用事だろうか。視線を受ければじっと見返し煙草を揺らし。
静かな足取りで向かってくるのを油断なく見つめて。

紫陽花 剱菊 > 男は程よい距離で足を止めた。
獲物があれば届く、踏み込めば拳が届く。
所謂、"間合い"とも言える距離だ。
とは言え、男に油断の欠片もなく、瞬きすることなく相手を見据えていた。

「…………。」

静かに口を開いた。

「……彼等は野党の類か?矯めつ眇めつ……所感では有るが、一方的な戦と見た。……何故この様な蛮行に?」

静かに問いかける。
憂いを帯びた声音だった。

フローレンス・フォー > 間合いまで後数歩の所で男が足をとめるのを見詰め。
上から下と視線が僅かに動き、身体つきや獲物を確認する。
この距離は男の間合いだと直ぐに計測が終われば転がるチンピラの下に爪先を差し込み、いつでも蹴り上げ盾に出来るようにし。

「よく絡んでくるチンピラよ。ワタシが勝てば財布をいただく。負ければ玩具にされる。そんな関係ね」

静かに告げられた内容にそんな事?とまるで食事の内容を語る様に返し。

「一方的なのはワタシの方が強いからよ。こいつらの方が数が多いんだし文句はなしよ」

か弱い女の子に大勢なんて卑怯よね、とお道化てみせて。

紫陽花 剱菊 > 「……慙愧の念に堪えないな……。」

争い事態起きるのは致し方ない。
が、此の凄惨な結果と略奪行為を是非には出来なかった。
それ自体を許す事は出来ない。思わずため息が漏れた。
だが、何より許せないのは……

「其方は決して手弱女とは言えぬだろう。私は、逞しく生きる事は好ましいとは思うよ。然れど、此の様な蛮行に身を費やしてくれるな。私は、其方を良く知らない。……さやかに言えるのは、失敬乍ら、自らを貶める事は良しとしない。」

彼女自身がこのような行為に身を費やし、汚れていく事だ。
見ず知らずの女性に対しては余りにも大袈裟で、鬱陶しい物言いかもしれない。
静かで、くすんだ黒の奥。
確かな優しさと、憐れみを含んだその視線は、男が如何なる人物かを表しているだろう。

フローレンス・フォー > 「そんな難しい事言われてもね」

男の言う事は本当に自分には難しい、戦闘AIには必要ない事と切られている一つ。
そもそもに凄惨な現場を作る存在なだけに肯定はしてもそれを否定する事はない。
否定する事は自分の存在否定をするに等しく。

「か弱い乙女よ。そんな風には作られてはないけど今の身体はか弱いのよね。
それに蛮行って言われてもワタシにはこれが存在意義だったの、今更変えれないわ」

元より硝煙と血にまみれていた身、今更多少の暴力などは可愛いもの。
男の言う言葉は鬱陶しいよ言うよりも、私の何が悪いと理解できない田口に近く。
ただ……視線に見える憐みは無意識に苛立ちを覚えるもので。

紫陽花 剱菊 > 「…………得て難しと思えるやも知れないが、存外伸ばせば届くもの。加減を間違えれば、容易く手折られるものでもある。」

事情を知らないからこそ言える言葉かもしれない。
事実、間があったのも自身もその"難しさ"を知っているからこその間だ。
戦に、戦いに身を費やされた刃として身心。
共感を覚えるが、同時に平和を願う穏やかな心は、男に静かに、首を横に振らせた。

「自らをそう謗るのであれば、乙女らしくすると良い。か弱き者は、暴力に身を費やしたりはしない。」

「……、……"意義"。其れを決めたのは他か、己か?」

暴力が存在意義と言われた。
嫌に納得してしまった。
まるで、写し鏡だ。
成る程、あの時公園での己もまさにこんな感じだったのか。
自戒の念を心に刻み、故に男は更に問う。
瞳の憐れみは消えず、絶えず、相手の底を見るようにじっと見据えられていた。

フローレンス・フォー > 「だからね。そう言う難しい事言われてもわかんないって言ってんの」

自分にとっては男の言葉は理解が届かないものが多すぎる。
いずれはデータが揃い理解できる日も来るだろうが今は経験が足りない。
この日頃のチンピラがりすらデータ収集と生きるに必要な資金収集の為。
そしてただの暴力装置だった故にどうしても闘争を求めてしまうプログラム。
男が自分に何を求めてるか判らずにAIに困惑が走る。

「暴力をしないと乙女らしくは関係なくない?強い乙女もありじゃないかな?
ワタシはそう作られた。ワタシは兵器、戦争の道具、蛮行を行うために作られた意義があるのよ」

今はある出会いによりそうではなくなっている。
しかしそうであったことある、まだ新しい意義は見つけ切れていなく古い義務に縋っている所もあり。

「…ワタシをそんな目でみるんじゃないわよ!!」

消えない憐みに声を荒げてしまい。

紫陽花 剱菊 > 「──────……。」

嗚呼、そうか。
自らの感じる"空虚さ"とは、目の前にいる彼女と同じものだったのか。
奇しくも、自らもそうであった。
島に流れ着く前、元の世界で自らがそうであった。
彼女と同じ、"戦う為のみ"意識を、強さを鍛えられた。
同時に、争いを好まない心は何時でも平穏を求めて
戦を拒んで、精神を摩耗させ……流れ着いた先は、此の島。
格差はあれど、幾ばくか平和なこの島では、人を斬る宿業の無縁。
だからこそ、心に大きく出来た空虚に苛まれ、漠然と生きていた。
嗚呼、そうか、そうか、成る程────……。
あの時、あの姫君も同じ事を思っていたんだろう。

「────憐れだな。」

思っていたことが、口に出た。
大きく共感と、哀しみを交えた低い声音。
其の声を聴いても臆する事は無く、視線の色は変わらない。

フローレンス・フォー > 「――――っ……!!」

気が付けば咥えていた煙草を噛み切り歯を食いしばり。
揶揄い事も出来ず、男の言葉に嫌でも過去の記録、メモリーに残る戦闘データが呼び起されてしまう。
ただ投入されては敵を駆逐し、殺し壊されては修理されて、その繰り返しの記憶。
何の偶然かここに来た時は戸惑いはした、存在意義である戦争は存在しないが闘争は存在する。
そして素晴らしい出会いで得た戸惑いもあるが面白いと思える日常。
そんな全てが男の言葉で揺らいで感じてしまい。

「取り消せ!ワタシは憐れじゃない!ワタシは満たされてるんだ!」

<コール・自動拳銃>

AIにバグが起きる、エラーが起きる。それ程不安になる気持ちを抑えきれず。
その手に拳銃を取り出して男に向けて。

紫陽花 剱菊 > 「…………そうだな。」

大きな戦は無い。だが、争いは確かに存在する。
戦いを欲する刃としての己は満たされた時もある。
だが、心に残った空虚さだけは決して満たされる事は無かった。
"満たす方法を知らず、探そうともせず、世捨て人になっていた"。
彼女を見ていれば、何故そうであったのか、自ずと理解してしまった。

「……私も、かつては戦場で生き、戦場で死ぬ。策謀と言う手に握られ、戦場を裂く一振りの刀に過ぎなかった。」

銃口が己へと向けられた。
火縄の類。否、其れよりも明らかに洗礼されたものだ。
瞬く間に命の灯を消す、死神の銃口。
一切臆する事は無く、敢えて一歩、男は踏み込む。

「だからこそ、其方の気持ちに少なからず共感を覚えた。己が満たされない理由も。────少なくとも、私は刃になり得ず、"人のまま"だったようだ。其方は如何だ?己を道具と称するので在れば、其方は握る鉄と自分は同じと思えるのか?……如何も、私にはそうは思えない。親しくもない相手に囃されるのは、不快かも知れないが……そう──確かに其方は、"か弱い乙女"のようだ。」

フローレンス・フォー > イラダツイラダツイラダツ。
この男の言葉がイラダツ、何故そう感じるか理解するには経験が足りない。
それだけに何故イラダツのかAIは理解できない。
ただ……そのイラダチは満たされている自分を否定するように聞こえ。

「ならそれでいいでしょ。ワタシは一つの兵器だった」

このまま撃ってしまえばいい、そうすればイラダチが消える。
だけど引き金が引けない、殺しはこちらでは問題しかないと学んだから。
男が踏み込んでも銃口は向けたまま。

「共感……出来てないわ。ワタシは満たされている。兵器の頃じゃなく満たされてる!
そう、ワタシは道具、この銃と同じ造られたモノ。
ワタシを知らないのに知った風に言うな!」

今までにない言葉、それが不快で思考を不安にする。
だから正しいと言えるものもあるだろうが全てを認めれずに声を荒げ首を振って。

紫陽花 剱菊 > 「…………。」

銃口を向けられても一切怯む様子も臆する様子も見せない。
慣れているからか、其れとも余程の蛮勇か、死にたがりか。
何時発砲されてもおかしくはないが、構わずまた一歩と距離を詰め、目前で立ち止まった。

「然り。私は、其方を良く知らない。……だが、自らを刃としていた己を、私は決して良しとはしなかった。太平の世には、何時か不要となる。……本当に満たされていると言うのであれば、引けるはずだ。私とて、人の枠に属する存在。穿てば死ぬ。底の国に堕ち出流……。」

男は静かに、手を伸ばす。
拒否しなければ、その頬にそっと右手が添えられる事になる。

「然すれば、教えてくれ。か弱き乙女と名乗った其方の事を良く知りたい。」

フローレンス・フォー > 「来るな!殺すよ」

銃口を恐れずに向かってくるなど同族か狂人ぐらいしかデータにない。
そのどちらでもないであろうと男が恐れずにあ結い寄ってくるのが理解できない。
理解できないリカイデキナイ、AIが答えの出ない思考を巡らせている間に男は目の前。

「当たり前よ。ワタシにはそんな事は関係ない、命令のままに掃討するだけ。
お前が……お前の言葉がワタシの思考を乱すのよ…!」

男の手が伸ばされると引き金を引き乾いた音が一度鳴り。
しかし銃弾は男には当たらずにどこかへと飛び。

「断るわ。教えたくない」

そう言えばチンピラを男に向け蹴り上げ、離れる様に後ろにと飛んで。

紫陽花 剱菊 > 蹴り飛ばされたチンピラを受け止め、そっと地面に下ろしておいた。

「……嘘を吐ける程、私は器用では無い……だが、正鵠を射たとは言わない。其方が動揺するのであれば、そうではない生き方が"出来る"のであろう。」

勿論、今日日その生き方を探そうとしてこなかった男の言葉だ。
説得力は皆無に等しいかもしれない。
聞けば聞く程、その言葉が痛いほど自らの胸に響いて止まない。

「……私も、少しは俗世に馴染む生き方を考えようとは思う。其れがまた、理であると。……其方も如何だ?器用とは言えぬ男であるが、今よりは幾何か良い営みを得られると私は思う。」

再び静かに歩みだす。ゆっくりと、距離を詰め始めた。

「撃ちたくば、引けばいい。……然れど、たった今口にした事を取り消すつもりはない故に、殺されてやるつもりは無い。其れだけは、許してくれ。」

今しがた"生きよう"とした。
生き方を模索しようとしている。
此れもまたその一つかは、わからない。
だが、殺されてやるつもりは無い、己の為。
"他ならぬ、彼女の為に"。

フローレンス・フォー > チンピラで態勢を崩すならそのまま、不本意でしかないが逃げようと。
しかし受け止められると逃げる時間はないかと後ろに下がるだけ。

「そんなのは判らないわよ。自覚がないだけっていうのもあるんだし。
ワタシは今それを経験してるのよ」

新しい身体を得て新し生き方を模索する今。
それをうまく見つけれていない自分を突きつけられているような感じがして。

「思うならやってみなさいよ。ワタシはやってる。闘争から離れないけどやってる。
ワタシに偉そうに言うならやってみなさい」

男が歩み出すのに合わせて後ろにと下がり始めて。

「死にたがりなんて撃たないわよ。殺すなんて簡単だもの。ワタシにあれだけ言ったのだから、貴方も変わって見なさいよ」

イラツクしムカツク。
なんだか彼女に出会う前の自分を見ている気分。
あぁ……そうか。短時間に似ている存在にあったからかと納得をすれば拳銃を消してしまい。
銃口の代わりに指を突きつけ、お前も変われと命じる様に。

紫陽花 剱菊 > 突きつけられた指を見て、ふ、と噴き出すように笑ってしまった。
不愛想な仏頂面が、ついつい、と薄い笑みに変わる。

「"も"……か……嗚呼、そうさせて頂く。不本意乍ら、不便な身ではあるが、私なりに、な。」

既に島全体の昨日からすれば、不当な侵入者の身。
既に日陰者の身に何が出来るかはわからない。
鏡を見れば、己を省みるとは言ったが、こんな形になるとは思わなんだ。

「いやはや、か弱き、か弱き……耳朶に響くのが、些か真か怪しくなってきたな。……一つ訂正すれば、死にたいとは"今は"思わん。だが、其方に殺せるとは微塵も思っていない。」

少なくとも言われた以上、言った以上は成し遂げよう。
"嘘を吐けるほど、器用では無い"。
男は不愛想ではあるが、冗談一つ、挑発一つ吐ける程度には饒舌なようだ。

「……私は紫陽花 剱菊(あじばな こんぎく)だ。其方の名は?」

フローレンス・フォー > 「そうしなさい。一気に変われなんて言わないわよ。貴方なりに変わりなさい」

笑みを浮かべる男に眉を動かし告げ。
この島は変わるには刺激が多く最適な場所。
機会などどれだけでもあるのだから。

「ワタシはか弱いのよ。いい加減覚えなさい。そして認めなさい。
あら、人間を殺すのは得意なのよ」

でも今はやらないと肩を竦めて意地悪く笑い。
この男は揶揄う所が見つからないのが残念だと。

「剱菊ね。ワタシはフローレンス・フォーよ」

紫陽花 剱菊 > 「……其れは、其方にも言える事。其のまま返そう。」

此の先どうなるかは分からない。
しかし、折角出来た目標だ。
流されるままに生きるよりは、心は軽くなった。

「胸を誇る特技でも無ければ、か弱いとも言い難い……。」

その証拠に、と言わんばかりに足元の不良を一瞥した。
か弱い乙女に出来る芸当ではない。

「フォー、か。……今日は世話になってしまったな。感謝する。」

一方的やもしれないが、少なくとも"人"として生きる事を考える事になったきっかけだ。
転機のなれば、感謝するのは自明の理。
大袈裟かも知れないが、男は深々と頭を下げ、礼を述べた。

フローレンス・フォー > 「ワタシは変わったわ。色々とね」

こうして適当に歩き、チンピラをぶちのめす。
そしてアイスを食べるという内容は大したことではないがかつてはしなかった事。
それは自分では変わっていると言えて。

「女の子はか弱いものなのよ」

もっともこの身体はアンドロイド、強度もパワーも人よりも強いのだが。

「ワタシはイライラしたわ。でも……面白い出会いって事にしておくわ」

頭を下げる男に讃えなさいと言うように胸を張って威張り。
しかし直ぐに気にしないで良いと手を揺らして。

紫陽花 剱菊 > ゆっくりと顔を上げる。
その頃には、普段と変わらない不愛想な仏頂面に戻っていた。

「……其の変化は、其方にとっては良きものだったか?」

其れだけは確認しておこう。
彼女にとって、良い事であるならば其れでいい。
悪い事であるなら、口をはさむ。
そう、男の本質はお節介なのだ。
だからこそ、あれほどまでに踏み込んできたとも言える。

「…………。」

「……はて、私が知る"か弱さ"とは、すずろに他者を力でねじ伏せ、剰え殺意を向ける事であったか……?」

ゆったりと小首を傾げて、からかってやった。
……さりげなく張った胸に目線が行くあたり、この男も中々ちゃっかりしている。

フローレンス・フォー > 「勿論よ。こんな変化があるとは思っていなかったわね」

その変化内容は話すつもりはないがよいものだと。
そのお陰で毎日が楽しくて仕方なく。
もし悪い事でも楽しめればそれで良いという考えなしかもしれないが。

「ワタシのいた所だとか弱いのよ。覚えておきなさい。
それじゃワタシはいく事にするわ。このチンピラも起きてもワタシが居れば逃げれないし」

そうして胸元に視線を感じると見せつける様に腕を組んで持ち上げたりとして。
足元のチンピラの起きて見上げてした視線に気が付き顔を踏みつけてそう告げて。

紫陽花 剱菊 > 「……左様か。」

ならば何も言うまい。
深くは問いかけまい。
少なくとも、変わろうとする所に水を差すのは良くないと思った。

「…………ふむ。」

悪くない大きさだと思った。
両腕を組んで、持ち上がった胸を見て相槌を打った。
ふむ、ではないが?

「……ならば、私も暇としよう。私は其方と違って、無暗に力を振るいたくは無い。」

フローレンス・フォー > 聞かれても答えられないような変化ばかり。
恐らく知られればそれはそれで新しい揉め事になりそうな予感がして。

「剱菊も興味があるみたいね」

持ち上げると相槌を打つ姿に上下に揺らし。

「力は時々に振るわないと鈍るわよ?それじゃまた…機会があったら」

男も去ると聞くと同じ方向で無い方が良いだろうとスラムに向かう方向へと歩き。
角を曲がる前に背中越しに手を揺らして消えていく。

紫陽花 剱菊 > 「…………。」

「…………んん!」

揺れるさまはしっかり網膜に収めながらうんともすんとも言わない。
何も言わない辺り後ろめたさはあるのか、さりげなく咳払いした。
おっさんそう言うの良くないよ。

「……其の程度で錆びる刃でもなければ、心配不要。……嗚呼、また、な。」

去っていく背中を見送れば、踵を返した。
何処まで続く暗い裏路地。
……果たして、何時しかあの時のようにお天道の下を歩けるのか……。
其れは自分次第か。ふ、と何処か自嘲気味に笑みを浮かべて、裏路地の暗闇へと溶け込んでいった。

ご案内:「路地裏」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「路地裏」からフローレンス・フォーさんが去りました。
ご案内:「路地裏」に227番さんが現れました。
227番 > 今日も今日とて、裏路地を歩く。
今日は日課のごみ漁りではなく、ただ放浪しているようだ。
とはいえ、当たりがありそうなら中身を見る気では居るようだが。

日課ではないのに歩いている理由は伝言の件もあるが、
昨日までの切羽詰まった状態とは違い、若干の余裕があるため、
少し周りの情報を集めようと思ったからだ。

例えば、こないだのように怪我をするようなゴミが出る場所をマークして
普段のルートから外せば、それを避けられる。

227番 > ゆっくりと過ごすことで、これまでに気づかなかった発見もあるかもしれない。
それに、あそこでじっとしているのも、なんだか落ち着かなかった。
要するに、暇の潰し方を知らなかったのだ。

ご案内:「路地裏」にエルピスさんが現れました。
エルピス >  
何を以って『ゴミ』とするかは個々人、あるいは組織によって異なる。
まだ食べられるが邪魔になった食材をゴミとするものも居れば、
高度なエネルギー抽出で生じた取り扱い注意の不要物をゴミとするものも居る。
気まぐれに発明した"おもちゃ"を捨てるものも居る。
 
何が言いたいかと言えば、路地裏には色々なものが捨てられるのだ。
廃棄費用を誤魔化したいとか、面倒とか、帳簿に書けないとか、様々な理由で。

「……今日はめぼしいものはないかな?」

と言う訳で路地裏でゴミあさりに勤しむ少年が一人。
機械部品を中心に収集中らしい。

少年の身体から生えている"二本ある機械の右腕"には、
鉄屑が放り込まれたカゴが抱えられている。

227番 > するとどうだろう。いつもの徘徊ルートには見慣れない少年が居る。
実はいつも居たが気にしていなかっただけなのか、それとも新しい情報かは定かではないが。

とにかく、その目立つ姿は気になる。
自分のぼろマントの容姿も路地裏でなければ目立つものだが。

すこし距離を置いて、様子を探ってみる。
227は危害を加えられるのを恐れ、他人を警戒する。

それは目の前の少年も例外ではない……のだが。

* ガサッ *

マントの裾を引っ掛けて、物音を立ててしまった。
気づかれてしまっただろうか。少し慌てた様子で、とりあえず相手の反応を見る。

エルピス >  
「これは使える。これは線が腐食、これは……スタンガンかな。
 取り扱い注意だけど貰っとこう。」

落第街は広いし路地裏は入り組んでいる。 
すれ違うことはあったかもしれないが、きっと見慣れぬことに変わりない。
 
「……ん。」

ぽいぽい廃棄物を回収していれば物音が立つ。誰かいる。
誰かいることはさして珍しいことではない。

けれどもそれが小さな子で、恐れるように眺めているとなれば……

「……こんばんわ?」

多少の愛想と共に声を掛けてみる。
落第街に済む前の性分と言うか、手癖のようなもの。

227番 > 相手は大人には見えなかったし、怒鳴られもしなかったので、
すぐに逃げるという選択肢はとりあえず消えたものの。

「え、あ……」

話しかけてくる人は珍しい──と言おうとしたが、3日連続で起きると違う気がして言葉に詰まる。

「こ、こんばん、は」

なんとか、かけられた言葉をそのまま返した。慣れない挨拶。
深々と被ったフードから、青い瞳を覗かせる。

改めて見る相手は、やはり見覚えはない。
伝言を伝える対象でもない気がするが、どうだろう。

すこし姿勢を低くしたまま、相手の動きを伺うことにした。

エルピス > 「うん。」

 声に応じて笑みを返す。

 戸惑いと怯え。
 身なりもあまりよろしくない。
 衰弱はしていなさそうなのが救いと言えば救いか。

 彼?彼女?もまた、悪い意味でありふれた落第街の住人なのかもしれない。とは言え、見覚えはない。

「……えっと、迷子?」

 そうではない気がするものの、どう聞くべきかに迷ったので迷子かどうかと問いかける。
 
 いずれにしても強く当たる相手ではない。
 極力優しく、穏当に。

227番 > 「…ううん。迷子じゃ、ない」

たどたどしいながらも受け答えをする。

今回は正真正銘初めての相手、前の二人のように、
すぐに警戒を解くまではいかなかった。


「……いつも、この辺りに」

普段からここで生活していると言いたいのだが、うまくまとめられない。
自分のことを言っているのか、それとも相手に訪ねているのかも曖昧な言葉になってしまう。

エルピス >  
「そっか。迷子じゃないんだね。」

 瞳を見てから、改めて外見を眺める。
 やはりきっと、そう言うこと……住人なのだろう。

(風紀委員さんでも、居たらよかったんだけど。)
(……それはそれで余計なお世話かな。)

 そんなことを考えていたら、たどたどしい言葉が続く。
 エルピスはそれを自分への質問と捉え──

「僕? いつもじゃないけれど、この辺にはモノ漁りでよく来るよ。……僕はエルピス。キミは?」

 すっかり小さな子を相手にする雰囲気。
 膝を曲げて、視線を合わせた。

227番 > 「いつもじゃない…そう、なんだ」

言いたかった意図は伝わらなかったものの、
少し気になっていた事を知れたので、よしとする。

「える、ぴす……」

名前を覚えられる自信はあまりないが、反芻する。
余裕がある今なら、可能かも知れない。


「私の、名前……これ。に、に、なな」

フードにつけられたタグを引っ張る。そこには227と数字が書かれている。
何らかの通し番号だろうか……覚えやすくはあるだろう。

エルピス >  
「うん。エルピス。」

 反芻に応えるように、もう一度名乗る。
 フードに付けたタグへと視線が向けば──
 
「ににななちゃん、だね。」

 識別番号か何かであろう数字の羅列を名前として示せば、
 ほんの少し眉を下げる。少しだけ悲しそうだ。

「……ににななちゃんは、なにしてたの?」

227番 > 目線の高さをあわせられているため、警戒心が落ち着いてきた。
低くしていた姿勢もやめる。

「うん」

227が自分のことで認識している情報はこの3つの数字しかない。
相手が悲しい顔をする理由もあまりよくわからなかった。

「なに……ご飯さがし……じゃなくて」

いつもなら、食べられるゴミを探して街中を駆け回る時間なのだが、
今日はそうではなかった。適切な言葉をさがして、答える。

「えっと……さんぽ?」

エルピス >    
「さんぽ、かぁ。」
 
 ご飯探しではないらしい。
 理由は分からないが、今はご飯に困っていないのだろう。
 それならそれでよいことだ、と判断すれば思考をそこで留める。

「……何か面白いものとか、あった?」

 目の前の子供も生い立ちはどうあれ、
 落第街の住人に"ここはあぶない"と制するものもない。
 そう判断すれば、世間話のような話題へと移す。
 

227番 > 「……ううん」

面白いもの、と聞かれて首を振る。

「さっき、でてきたばっかり」

ここで生き抜くために適応した結果、主な行動時間帯はほぼ深夜。
今日も目立たないために、薄暗くなってから動いていた。

「あ、えるぴす、は、そうかも」

見慣れない人と話している、というのはそれだけで特別なこと。
しかし、この答え方は少し失礼かもしれない。悪気はないのだが。

エルピス >  
「そっか。」

 空を見る。
 周囲はすっかり暗くなっている。
 夜行性なのだろうか、などと考えていると──
 
「……僕?」

 先程のたどたどしい口調も鑑みて考えると悪気はないのだろう。
 少し驚いたものの、純粋な反応だろうと気を悪くすることはない。

「僕みたいの、珍しい?」

227番 > 「うん……わたしと、話す人、珍しい」

ここ3日こそ誰かと話しているが、それ以前は近寄る人を警戒しては
逃げるような日々を送ってきたため、ろくに人と会話もしていない。

「えるぴす、は、なにを?」

こんな所でなにをしていたのだろう。
少なくとも、自分のように食べ物に困っていたようには見えない。
自分にご飯をくれた人たちのほうに近い存在だろうか。

エルピス >  
「確かにそうかも。
 こんな場所で"ゆっくり話せる"状況って、多い訳じゃないし──」

 治安が悪い所には違いない。
 誰も彼も余裕がなかったり、正気でなかったり、やさぐれていたり。
 のんびりお話しできる方が貴重なはずだ。

「ん、ゴミの中から使えるものがないかな、ってね。」

 言葉と共に手ごろなゴミ集積場を軽く漁る。
 ……状態の良い広報誌のようなものが出てきたので取ってみせる。

「常世広報の号外……新聞かな。
 ににななちゃんは、こういうの読める?」

 そう言って広報誌を差し出し、彼女へと見せる。

 『違反部活ダーティ・イレブン一斉検挙!!』
 『風紀委員 山本英治 猥褻物“珍”列!?』

 そんな見出しのもと、ある風紀委員が違反組織を解体したが何故か全裸で出てきた──
 ──のような記事が面白おかしく書かれている。

227番 > 「使える、もの……」

食べ物以外、見向きもしないどころか、邪魔なものだと思っていた。
先日も針で怪我をしたばかり。

「しんぶん……?」

見せられたものにじっと目を向け、首をかしげる。
たまに食べ物やそうじゃないものを包んでいる紙がこんなだったかも知れない。

「よめない……」

227は文字が読めなかった。実は、数字もろくに読めない。
2と7だけは、誰かがタグを読んだのを覚えた。

写真があれば、何かの情報が書かれたものとして認識できるが、
文字だけのものであれば、丸められたティッシュと同レベルのゴミの認識になるだろう。

エルピス >   
「うん。使えるものが色々あってね。
 誰かが要らないものだから捨てられるけれど、
 こういうのを欲しいひともいるから。」
 
 他にも何枚かの広報誌があったのでまとめてしまっておく。
 ……差し出した新聞は読めなかったらしい。

「そっか、読めないか……。」

 "読めない"ことそのものは分かるらしいが……
 ……ほとんど教育らしい教育を受けていないのだろう。

(……この前の風紀委員さんが通り掛かってくれたらよかったんだけれど。)

 人のよい、もしくは正義感の強い風紀委員にでも事情を説明出来れば保護対象になれるだろう。

 彼女がそれを望むかも分からないし、
 "そういうものがある"と理解してもらう段階から始まる話かもしれないが……。

 そう思いながら目の前の少女を眺め、難しそうな顔をした。
 困り気味らしい。

227番 > 「……そう、なんだ」

自分が食いつなぐためによく集めていた食べ残しのようなゴミも、
捨てた人にとっては要らないものであるから、理屈はなんとなくわかった。

「なにが、書いてあるの?」

困った様子に気づきながらも、見せられたものが何なのか知りたくなった。
普段なら興味を持たなかっただろうが、今日は違う。
……聞いた上で理解出来るかは、また別の話だが。

227は数年ぐらいはこの辺りでゴミを漁る生活を続けている。
それがただたまたま見つかっていないのか、見向きされていないのかは定かではない。

エルピス >  
 内容に興味を持ったらしい。
 身体を寄せて新聞を広げる。

「んーとね。」

 どうやって説明しようか。
 風紀委員や違反組織、常世学園──そのまま説明してもきっと分かり辛い。
 色々考えた結果──

「『違反部活ダーティ・イレブン一斉検挙!!』
 『風紀委員 山本英治 猥褻物“珍”列!?』」

「"ふうきいいん"の、"やまもとえいじ"って言う"いいひと"が"わるいひと"をせっとくして、たすけたんだって。」

 指で見出しをなぞりながら読み上げた後、
 内容に関しては多少の恣意を混ぜながらも要約する。

 猥褻物に関してはスルーする。
 なんかこう、色々あったんだと思う。

227番 > 「いはん…ふうき…」

どうやら聞き覚えはあるらしい。
落第街をうろつく身、検挙の騒ぎをどこかで覗き見たのかもしれない。

「なんとなく、わかった、かも」

難しい顔をしながらも、おおよその話の理解は出来たようだ。

「これが、しんぶん……」

何処か何かが有った、ということが書かれたもの。
これが読めると、気を付けるべきものが何なのかとか、
いち早く知れるのだろうとぼんやりと思った。

エルピス >  
「うん。新聞。
 ……一枚持ってく? いっぱいあるし。」

 広報誌を丸め、改めて興味津々の少女へと広報誌を差し出す。
 掴めばそのまま手渡すだろう。

「興味があったら、こういう紙を集めてみるのもいいのかも。
 いつもじゃないけれど、僕に会えたら一緒に読むこともできるし……。
 自分で読み続けても、色々読めるようになるかも。」

227番 > ゴミから発掘するのは大変だと自分は思っているので、少し驚き。

「……いいの?要るから集めてたんじゃ……?」

そう言いながらも、手渡され受け取る。
両手で大事そうに持った。

「うん……やって、みようかな……」

どうせ暇になるのだから、勉強するのも悪くない。
……教材にするには内容が難しい気もするが、当の227はそんなことを知る由もない。

エルピス >  
「これだけあったら十分だからね。
 もう要らないよ。」

 渡し終えればおどけるように笑って、姿勢を正して立ち上がる。
 軽く大きく伸びをしてみせ。

「本当は『学校』に行けるといいんだけれどね……
 ……今の僕にはツテの力ないから、これくらいしかできないや。」

 結局の所今の自分も落第街の住人。
 ゼロとは言わないが、色々と働きかけるようなことは難しい。

「それじゃあ僕はいくよ。
 またね、ににななちゃん。」

 カゴを片手に抱え直した後、夜の街へと溶けてゆく。

ご案内:「路地裏」からエルピスさんが去りました。
227番 > 「……、ありがとう」

要らないと言われれば、少し安堵し、礼を言った。

学校。なんだか重要な存在な気がして少し考えていると、
去ろうとするエルピスの姿が目に入る。

「あ、……え、えっと、気を、付けて」

慌てて小さく手を振って見送った。
今度会ったら腕のことも聞いてみようかな、と思いながら。

おじさん > 「おい、お前そこでなにをしている!」

すぐそこの建物から出てきたおじさんが、ゴミ捨て場の前の227を咎める。

227番 > 「ひっ……!」

急に怒鳴られて跳び上がって、猛ダッシュで夜の闇へと逃げていった──。

ご案内:「路地裏」から227番さんが去りました。