2020/07/07 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
日ノ岡 あかね > 月明りの降り注ぐ落第街の片隅。
『トゥルーバイツ』の面々を引き連れたあかねは……開け放たれ、打ち壊されたまま放置されている廃墟の窓をぼんやりと眺めていた。
適当な瓦礫の上に風紀委員会のコートを敷いて腰掛けて、溜息を吐く。

「……こうしてられるのも、いつまでかしらね」

どこか、楽しそうに。
 

ご案内:「落第街 路地裏」に水無月 沙羅さんが現れました。
水無月 沙羅 > 「……。 コート、そんな風に扱ってはいけませんよ。」

今日は、いつも一緒にいる先輩がいない。
一人だからと言って何もしないわけにも行かない、そう思っての見回りだった。
ここは落第街。 存在しないはずの生徒たちが存在する幻想の街。
あの人が嫌悪している街。

そんな場所に、こともあろうに風紀委員のコートを尻に敷く風紀委員を見つけてしまった。
彼女にとってはどうでもいいことなのかもしれないが……。
風紀委員に憧れと誇りを持つ自分にとっては許し難い所業だった。

元違反部活生威力運用試験部隊傘下独立遊撃小隊、『トゥルーバイツ』。
よりによってそんな連中に。

日ノ岡 あかね > 「あら? そうかしら? 私はこれで助かってるんだけど。スカート汚れないで済むし」

クスクスとあかねは笑う。
気にする事も無ければ、それをやめるつもりも無さそう。

「あるものは使わないと損でしょ?」

悪びれる様子もなく、あかねは笑う。
街灯すら存在しない廃墟群の近隣。
月明りと、『トゥルーバイツ』が持ち込んだスタンドライトだけが……一行を照らしていた。

「アナタも見回り? 御苦労様。仕事熱心で偉いわね」

笑うあかねの後ろで、今も『トゥルーバイツ』の面々は数もまばらな住民への『声掛け』を行っている。
一応、書類上は摘発と介入のため。
だが、その行いは……言葉とは裏腹に、剣呑や物騒とは掛け離れた物だった。
少なくとも……近隣で荒事は起きていない。

水無月 沙羅 > 「えぇ、一応。 任務ではありませんが。
 今日は特別、というやつです。」

別にこの連中が憎いわけではない、正直な話をすれば、どうでもいい存在だった。
勝手にやっていればいい、罪滅ぼしだか、自己の利益の為かは知らないが、治安の為というのならば文句はない。

……胡乱な眼差しで一行を見る、『声掛け』熱心なことだ。
それにしては随分と……。

「随分と、仲がよろしそうですね。 この街の方々と。」

何か、目論んでいるのだとしたら?
緊張が背筋に走る。
問題はない、いざとなったら身体強化で逃げだせばいい。

日ノ岡 あかね > 「そうかしら? 仲良く出来てるなら嬉しいわね。仲良くなりに来てるのだし」

あかねは穏やかに笑う。
元々、元違反部活生威力運用試験部隊の人員はだいたい『此処』の出身だ。
古巣から「体制に尻尾を振った臆病者」などと揶揄されることも少なくない。
あかね自身も、以前それで絡まれたことがある。
しかし、今はそれが傍目から見ても「仲が良さそう」と見えるのだとしたら……少しは地道な活動の成果があったと言えるだろう。

「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はあかね。日ノ岡あかね。アナタは?」

ニコニコと笑って、あかねは小首を傾げる。

水無月 沙羅 > 「これは、失礼しました。 私は水無月 沙羅。
 先日、風紀委員に配属されたばかりの新人です。
 以後お見知りおきを。」

この人は何故笑っているのだろう、沙羅には分からない。
この危険な街で、仲良く?
摘発、介入するのが私たちの仕事ではなかったのか?
別にに仲良しこよしをするためではなかったはずだ。

少なくとも、『鉄火の支配者』と呼ばれたあの人ならば、こんな光景にはなっていないはずだ。

「なぜ、仲良くなどと? 我々の任務は、ここにのさばる違反部活を摘発するためではないのですか?」

純粋な疑問。
本来なら風紀を守るために、武力を行使するものではないのか?
風紀委員とはそういう組織だと思っていたが。

日ノ岡 あかね > 「話し合いで片付くならその方が『楽』じゃない」

あかねは笑う。
ただ、笑っている。
楽しそうに。

「仲良くした方があとの取り調べも楽だし、任意同行してもらえるなら余計な緊張も手間もない。イイこと尽くめでしょ?」

実際、抵抗されるなら血が流れる。
血が流れればリソースが消費される。
だが、話し合いで済むならそういったリソースは全て消費せずに済む。
当然、任意同行させる手間はあるが、それは武威を振るった場合でも同じことだ。

「サラちゃんは、仲良しな人と仲悪い人ならどっちについていくかしら?」

くすくすと、あかねは笑う。
そうしている間にも……『トゥルーバイツ』による『声掛け』は行われ続けている。
砲火の音はどこにも響いていない。

水無月 沙羅 > 「……確かに、仲良くした方がいろいろと楽、その意見は分かります。」

実際、戦闘にならなければ被害が出ることはない。
貴重な人材や、命を浪費する必要がないというのならそれは素晴らしいことなんだろう。
……怪我も、命を失いこともない私には縁遠い話ではあるが。
思想は理解できなくもない。

「では、もう少しメンバーを整理したほうがよろしいのではないですか? 元犯罪者たちとても適切とは思えません。」

そう、適切ではない。 彼らは元違反部活に所属していた人間も多い。
ともすれば、当然の結果として。

「内通を疑われるのが恐ろしくはないのですか?」

そう、結論付けられてもおかしくはない。

「私は、私が尊敬する人についていくだけです。 仲がいいとか、悪いとか、関係ありませんし。 知りません。 興味もない。」

日ノ岡 あかね > 「何したって、それは疑われるし、私はこうする前から監視も制限もついてるわよ」

ニコニコと笑って首についている真っ黒なチョーカーを指さす。
首輪のような形状のそれ。
委員会謹製の……異能制御用リミッター。
目に見える鎖。

「今更よ」

全く、気にしていない。
気にする必要もない。
むしろ、気にさせればいい。
それが風紀委員会の仕事なのだから。

「尊敬は好意からの方が生まれやすいわ。だから、やっぱり仲良くしたほうがいいでしょ? 強い男の子は憎悪からも尊敬を生み出したりするみたいだけど、そういうのって珍しい例だし。それに、好意から生まれる尊敬は敬意だけど」

じわりと……あかねは滲むように笑う。

「憎悪から生まれる尊敬は……畏怖よ。そんなの、『安い鎖』だわ」

猫のように、目を細めて。

水無月 沙羅 > 「……。 確かに、血と砲火による鎖は脆いものです、言いたいことは分かります。」

彼を間違っている、今の委員会を間違っているとは言いたくはないが、彼女の言っていることは正しい。
増悪はさらなる増悪を生む、連鎖する負のループの様にそこに終わりはなく。
だからこそ永遠とリソースが奪われていく。 悪循環だ。

「では、貴方が尊敬できるような人間だと? そのような首輪をつけられているあなたが。
 それを言う資格があるとおっしゃいますか。」

もし、そのループを抜けだれるのだとしたら、飛び切りの聖人君子か、余程のバカ程度の者だろう。
話し合いで世界が平和になるのであれば、このような島も必要ない。
犯罪も存在しないはずだ。

なによりも、この怪しげな女性を自分は信用できないし尊敬もできそうにない。

日ノ岡 あかね > 「さぁ? それは私が決める事じゃないでしょ?」

事も無げに答えて、あかねは笑う。
差し込む月明りが、スタンドライトの強い光に掻き消される。

「私を見る他者が決める事。それぞれの個人の目線でね」

何が好ましく、何が好ましくないのか。
そんなものは個人差でしかない。
全ての人間に好かれることは出来ない。
それこそ、世界がそう出来ている。

「まぁ、私は尊敬とかはどうでもいいし、私は私のしたいことをするだけ。それをみて『どう思うか』は……それこそ、私の知ったことじゃないわ」

苦笑して肩を竦める。
腕章が、軽く揺れた。

水無月 沙羅 > 「したいことをするだけ……ですか。」

ならばずっと気になっていた事がある。

「では質問いたします、日ノ岡 あかね。」

なぜ元違反部活生威力運用試験部隊傘下独立遊撃小隊などという、如何にも胡散臭い組織を作り上げたのか。
なぜ、よりによって厳重に管理されているはずの彼女が率いているのか。
なぜ。

「貴方は、風紀委員を、その『トゥルーバイツ』を使って、一体何を成そうと企んでいるのですか。
 まさか、本当に二級生による自治を実現するとでも?」

少なくともこの人は、正義の味方をするような人ではない。
沙羅はそう感じた。

日ノ岡 あかね > 「自治? そんな事私一回も言ってないけど?」

くすくすと、あかねは笑う。
実際、あかねはそんな発言は「ただの一度も」していない。
引き上げが出来る枠を新しく作っただけで……それだって、あかねは仕事の一端を担っただけだ。
計画自体は元から風紀内にあったし、最終決定を下したのも風紀委員会だ。
やっていること自体は「望まず其処にいる者達が自分から手をあげるなら出来る範囲で拾う」というだけのこと。
元より、自治など……この学園の何処にもない。

「私がやりたいことは一つだけ」

ニコニコと笑う。

「『真理』に挑む」

いつも通りに。

「それだけよ」

水無月 沙羅 > 「……真理とは、何のことですか。」

この島の為ではなく、個人の目的のために、利用する。
許し難かった、自分を救ったこの『風紀委員』という仕事に、尊敬と誇りを持っている水無月 沙羅にはそのことが許せない。
誰しもが、誰かの幸せのために血を流しているこの組織を。
『真理に挑む』ために使うという。

それがもし、水無月沙羅の識る、平和へ向けての一歩だというのならそれも許容できるかもしれない。
一方的な決めつけは良くないものだ、ならば聞かねばならない。
その真理とは何なのか、犠牲に見合った報酬であるのかどうか。

「答えてください、日ノ岡 あかね。 真理とは何です!!」

日ノ岡 あかね > 「『全ての答え』よ」

あかねは笑う。
沙羅の目を見て、沙羅の顔を見て。
静かに笑う。

「ねぇ、サラちゃんも『叶えたい願い』とか……あるんじゃないの?」

あかねは笑う。
ただ、笑う。
いつも通りに。
ただ、静かに。

「『願い』を叶える方法……知りたくない?」

月明りの前で。
廃墟の静寂の前で。
己に問う少女の前で。
あかねは……笑う。

「私は『それを知る為』に、真理を『使う』だけよ」

水無月 沙羅 > 「全ての答え……?」

言っている意味が分からない、そんなものが存在するとでも?
全ての願いをかなえる方法などあるはずもない。
あるわけがない、そんなものがあるのなら人間はもっと……もっと穏やかでいれたはずだ。
こんな残酷な世界になるわけがない、しかし。
それはあまりに甘い囁きだ。

全てを斬り捨ててきた自分にとっては。
あまりに甘い罠だ。

「……知りたくないとは言いません、私とで出来る事なら知りたい。
 このような私を作り上げた、世界に復讐する方法が、知りたい。
 然しそれは許されないものです、危険すぎる。
 全ての願いが叶う等と。 それは全ての暴利が許されることと同義です!」

日ノ岡 あかね > 「『誰がそんな事決めた』の?」

あかねは心底不思議といった顔で眉を下げる。
口元には……笑みを湛えたまま。

「昔の技術や知識では届かなかっただけなんてこと……山ほどあるでしょ? 全員が利益を得られる方法なんてまだ誰も思いついていないだけ。まだ誰も発明していないだけ。まだ誰も届いていないだけ」

昔は水を得る事ですら困難だった。
だが、今は水道を捻るだけで済む。
昔は遠距離との意思交換は実際に移動するしかなかった。
だが、今は電話を取るだけで済む。
どれもこれも、昔は「出来るわけがない」と一蹴されたことだ。
どれもこれも、昔は「暴利の源になる」と危惧されたことだ。
しかし、現実には……既にそれらの「かつて届かなかった願い」は実現されている。

「『この世界の誰もそれを知らない』のなら」

にこりと、あかねは笑う。

「『違う世界の知ってる誰か』に聞けばいいだけでしょ?」

心底……楽しそうに。

水無月 沙羅 > 「………まさか、自分で世界を移動するとでも?
 待ってください、それはあまりに危険すぎます。
 ただでさえ不安定なこの世界の揺らぎを、さらに大きくるするつもりですか!?」

下手をするのなら、大変容の再来だって考えられる。
前人未到の、異世界へのコンタクト、それもこちらからの。
危険すぎる思想だ。
この島だけではない、世界すら巻き込みかねない。


「どういうことなのか、はっきり答えていただきたい……!」

日ノ岡 あかね > 「そんな面倒な事はしないわよ。風紀委員なら資料読むといいわ。『昔』やったから」

ニコニコ笑う。
昔。
違反部活『トゥルーサイト』が行ったこと。
小規模な《門》……《窓》を召喚して、異界の存在と接触し。
全員死んだ。
……日ノ岡あかね、ただ一人を残して。

「まぁ、あの時はダメだったけどね」

別に大したこととはあかねは思っていない。
風紀委員会も思っていない。
だから、あかねの処分が『この程度』で済んでいる。
実際、やろうとして『トゥルーサイト』は壊滅の憂き目を見ている。
大局で見れば……それこそ無謀。無駄。無為。
しかし、それはあかねにとって。

「『次』は分からないわ。まだ、やってないんだから」

歩みを止める理由にならない。

水無月 沙羅 > 「待ってください。 もし、あなたの言うことが、異世界のコンタクトと点では間違っていないのであれば。」

少女は銃を握る、この危険な思想犯を、今逃すわけには行けない。

「私は貴方を拘束しなければいけません。 日ノ岡 あかね、どうか投降してください。
 風紀委員として、その言動を見逃すことはできません。
 詳しい話を聞かせていただきます。」

安全レバーをはずし、グリップを握り、引き金に指をかける。

「投降を。」

一度も抜いたことのない銃を初めて抜く。
 

日ノ岡 あかね > 「思想だけで逮捕はできない」

あかねは笑う。
思想犯の検挙は出来ない。
それは、多くの国がそう憲法で定めている。
それが許されるのは独裁国家だけだ。
それも当然だ、想うだけなら自由でしかない……『未遂』ですらないのだから。

「私が危険思想で仮に逮捕できるのなら……リオ君とかどうなっちゃうのかしらね?」

もし、それを許すのなら……今の風紀委員会は逮捕者のオンパレードだ。
前線の強力な異能者なら全滅だろう。
それこそ……砲火で答えを出し続けた一人の男ですら。

「サラちゃんそれ……ハッタリにしては弱いわよ?」

クスクスとあかねは笑う。
銃口を見てすらいない。
ずっと、あかねは。

「異世界のコンタクトがそれにダメなら、この島どころかこの世界が全部『ダメ』じゃない。ふふふ」

水無月沙羅の目を見ている。

水無月 沙羅 > ばれている、自分にそんな権限がないことも、この武器を撃つと言う勇気がないことすらも。
確かに思想では逮捕できない、あの人も、『理央』も思想でいうなら確かに危険人物だ。
それでも、自分を傍においてくれた事実に変わりはない。

「…………。」

だが、この人物を思想のみで裁くというのであれば、自分は己の恩人も裁かなくてはいけないということになる。
なんという矛盾、何という傲慢。
そして、何という無力感か。

「……私には何の力もないと、そうおっしゃりたいのですか。」

胡乱な目で、あかねを見返すほかない。
精一杯の反抗心を視線に乗せる。

日ノ岡 あかね > 「そんな事言ってないわ。私は楽しくお喋りしてるだけ」

反駁もどこ吹く風で、あかねは笑い続けている。
歓談を続けている。
楽しそうに。嬉しそうに。

「それに、力がないなんて……『拳銃を握った異能者』がいっていいことじゃあないでしょ?」

小首を傾げる。
楽しそうに笑う。

「アナタはちゃんと力を持っているわ。私を本当に止めたいのなら、今その引き金を引けばいいだけ。遠慮なく異能を使えばいいだけ。私一人道連れにくらいなら……出来るかもしれないわよ?」

あかねにはタダでさえ異能制御用のリミッターがつけられている。
しかも、武器は未所持。完全な丸腰。
武器も異能もない。
あかねにあるのは……あかね自身の身体と、『トゥルーバイツ』の仲間だけ。
その仲間達だって、『自分自身の願いの為』に動いている。
あかねの為ではない。
身を挺して守ってなんてくれないだろう。
むしろ……これ幸いと、『トゥルーバイツ』隊長の座を乗っ取る為に嬉々として裏切る者すらいるかもしれない。
あくまで、相互利益が『今のところ成り立っている』だけの集団なのだから。
なにせ、元違反部活生の寄り合い所帯だ。
思想的統一どころか、組織的統率すら元から存在していない。
あかねはむしろ不利な立場だ。
それでも。

「どうかしら? 『自責』でやってみない? それは私が選ぶことじゃない」

あかねは……ただただ、微笑んで。

「『アナタが選んでいい』のよ。サラちゃん」

目を、細める。
夜のように黒い瞳を。

水無月 沙羅 > 「……っ。」

どうする、如何すればいい?
この女を野放しにするのは危険だと、脳が叫んでいる。
全身の神経が、この女は危険だと、今すぐ消してしまうべきだと言っている。
しかしそんなことをしたらどうなる。
風紀委員が味方を射殺、とんでもないゴシップだ。
それも二級生の集まりのトップである彼女を殺したとすれば
さらなる内部分裂は免れない。
委員の中での過激派穏健派もそうだが、何より生徒たちの反発は想像を絶するだろう。

自責、自分の責任で、彼女を撃てるのか?
どう責任を取る。
なにをすればいい、どうやって?
考えと考えろ考えろ。

拳銃を持つ手の震えはどんどん大きくなる。

自分の異能は役に立たない。
もっと便利な異能であったのならば、あなたの役に立てたかもしれないのに。

日ノ岡 あかね > 「どうしたの? 撃たないの?」

あかねは近づいていく。
ゆっくりと歩み寄っていく。

「もしかして、射撃苦手? じゃあ、これならどう?」

そういって、目前まで近づいて。
己の心臓を容易に狙える位置にまで……接近する。
お互いの息が掛かるような距離。
そんな間近まで。

「いつでもいいわよ。さぁ、『選んで』、サラちゃん」

そこまで、近づいて。
日ノ岡あかねはそれでも。

「アナタが『選ぶ』のよ」

楽しそうに……笑った。

水無月 沙羅 > 「……。 では、私なりの、反抗を。」

沙羅は自分の脳天に拳銃を向ける、距離、10m以内。
殺すことはできないかもしれない、止めることもできないかもしれない。
だが……この女はあの人を貶めた。
思想犯だと言ってのけた。
そうかもしれないが、そうなのだろうが……私はそれを、認めるわけにはいかない。
あの人には、その中に必ず「守る」という思いがあるはずだから。
せめてその思想だけは守りたかった。

「私はあの人の忠実な部下ですから。」

彼の理想を彼女が汚すこと、それだけは許さない。
あの人の迷惑にならない範囲で。
私は彼を守ろう。

異能を発動しながら、沙羅は自分の脳天を撃ち抜いた。

意識は一瞬で反転する。

水無月沙羅の異能、不死、そして、痛みを与える異能。

日ノ岡あかねの頭蓋と脳髄に、死の恐怖と痛みを叩きこんだ。



不死とはいえ、万能ではない。
沙羅の意識はそこで途絶えた。

日ノ岡 あかね > 「あら、死んじゃったの」

それを見て、あかねは「ふぅん」と眉を顰めて。
小さく、溜息を漏らす。

「じゃあ、仕方ないわね」

そういって、部下に指示をして現場を保持する。
委員会にも連絡をいれて、『声掛け』は一時中断となった。
『トゥルーバイツ』の面子も銃声は聞こえたようで、にわかに集まり始めている。
無論、元々いた住民たちも面倒ごとを避けて……落第街のさらに奥へと引っ込んでしまった。
今日はこれ以上、『声掛け』の仕事は出来そうにない。

「職務妨害としてはそれなりの選択だけど……風紀委員としてはどうなのかしらこれ?」

小首を傾げつつ、また瓦礫に座る。
それ以上、特に思う事はない。
別段、『誰か死ぬ程度』は『此処』では日常だ。

「何はともあれ、引き上げね」

幸いにも、近隣で仕事をしていた別の正規風紀委員が手早く動いてくれたため、引継ぎの手間はなかった。
日ノ岡あかねは当然出頭を命じられることになったが……まぁ、大した手間ではない。
どうせ、仕事が終われば報告書の提出のために庁舎に赴かねばならないのだ。
気にするほどのことでもない。

「それじゃ、私は庁舎にいってくるから、後みんなよろしくね」

『トゥルーバイツ』の面子にそれだけ告げて、あかねはその場を後にする。
残されたのは、現場保持を行う『トゥルーバイツ』と、何人かの正規風紀委員だけだった。

ご案内:「落第街 路地裏」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
水無月 沙羅 > 「………行きましたかね。」

皆月沙羅は立ち上がる、だれも見ていない隙を見計らって。
その場を離脱する。
そこにあったはずの死体はない。

「……何がおきてるのか、突き止めないと。」

水無月沙羅は、闇夜に消えて行った。

ご案内:「落第街 路地裏」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」にフィーナさんが現れました。
フィーナ > 「ふーん…」
木箱の上に、座る。
ここには色んなものが散乱している。物であったり、液体であったり。

かつては全てが餌でしかなかった。
今思えばこれら全部、何かの痕跡なのだとわかる。
知性を持てば見方も変わるものなのだなぁ、と急激な成長を遂げたスライムは思う。

ご案内:「落第街 路地裏」にスピネルさんが現れました。
スピネル > 今日のスピネルは思う所があり、チンピラ達の護衛は付けていなかった。
落第街の路地裏を歩いていると見覚えのある少女を見つける。

「おや、可憐な少女ではないか。お主の血は随分と美味だったぞ。」

中身がスライムと化しているとは露知らず。
スピネルは以前見かけた時と同じく、気軽に声を掛けた。
位置的には少女の視線の前になるだろうか。

フィーナ > 「んん?」
目の前に現れた男性を眺める。
あの『餌』ほどではないが、良質な魔力を感じる。というより…

もしかして、餌の中に残留してたアレの魔力と酷似してる?ということは…ここで返すべきは。
「あー…そのときは、お世話になりました」
頓珍漢な返答な気もするが、これが正解な気がする。

スピネル > 「む?」

紅い瞳が上下に開く。少年に取って、今の変更は違和感があった。

「どうした、可憐な少女よ。
世話になったのはお互い様だろう。我は我でお主の血を飲んだおかげでだいぶ楽になった。
お主はお主で多少は気がまぎれたのだろう。
しかしお主、そんな殊勝な性格であったか?」

まさか中身が入れ替わっているとは思っていないが。
いきなり口ぶりが丁寧になっていることが不思議であった。

フィーナ > 「さぁ?偶々、そんな気分だったんじゃない?」
木箱の上から見下ろすように、眺める。目を見開いて。
『餌』ほどではないけど、こいつも良質なモノを持ってる。
…アレ、残して利用しておけばよかったな、と今更ながら後悔。

「ま、そっちも楽になったのならよかった。そういえば、名前なんだっけ?」

スピネル > 「ん、んんん?」

なんだか可笑しいぞ。まるで小説などで出てくる双子のもう一人とかそんなオチが頭に浮かぶ。

「あれだけ楽しんでおきながらお互い名前を名乗ってなかった気がするな。

ならば聞くがよい! 我は高貴なヴァンパイア、名をスピネルと言う!
さあ、お主も名乗るが良い。」

ビシっと指を突き出す。 仰々しいがこれがスピネルの普通である。

フィーナ > 「スピネル、ね。私はフィーナ。よろしく。」
刻印が刻まれた手を差し出す。協力関係は作っておいて損はない。

心を許して、体を許せば、人間に近い種族は無抵抗になる。

そのときこそ、牙を剥く時だ。

強い者ほど、この手法が良いだろう。正面からやりあうのは愚の骨頂だ。

スピネル > 「うむ。 だが今更宜しくもないだろう。
あれだけ仲良くした仲ではないか。」

先日のことを思い出し、少年は無防備にも少女の元に近づき。
差し出された手を右手でしっかりと握る。

相手が牙を向くタイミングを虎視眈々と狙っているとはまるで気づかずに。

フィーナ > 「まぁ、たしかに」
頬を掻いて、同調する。

握る手は、あの時よりも、柔らかい。
きっちり、握り返す。

「また、困ったことがあれば、言ってね。」

スピネル > 「うう~~~む。」

あの時とは違い、強く握り返す少女。
妙に素直と言うか……親切と言うか。
少年はあまりの不思議さに口をへの字に曲げてしまう。

「お主、そんな感じであったか?
前はもっとこう棘があった気がしたのだが。何か心境の変化でもあったのか。」

見た目はまるで変わりない。
だが、中身が変化したような。

フィーナ > 「あー…あの時は、うん、余裕がなかったから。」
あの『餌』は予想より耐えていたから。きっと、ずっと耐えてて、誘惑に負けたくないからそういう反応したんだろうなー、と。

自らが怪異であるが故に、怪異に対する危機感が無い。

「今は落ち着いたし。それに、『良くしてくれた』からね。お礼ぐらいはしたいじゃない?」

スピネル > 「そういえばスライムが体内に居るとかで苦しんでおったな。
今も体内にいるように思えるが、症状は治まったのか?」

手を離し、腰を曲げては顔や体を覗き込む。
以前のような苦しそうな表情も見受けられず、今は余裕があると言えばその通りなのだが。

「お礼か、ますます殊勝な心掛けだな。
いや、高貴な我に対する態度としては当たり前のことだろうか。
してどんなお礼をしてくれるのだ。」

少年は煽てに弱い。最初に抱いていた違和感も徐々に薄れつつあり、鼻高々だ。
顎の角度も少しずつ上がってきている。

フィーナ > 「えぇ、もう大丈夫。制御出来るようになったから。」
そもそも自分がそうなので、制御できて当たり前なのだが。
あぁ、でも、『餌』は魔術使わないと自分のことすら制御出来てなかったっけ。

「まぁ、在り来りだけど、気持ちいいこととか。後は困った時に協力してあげてもいいよ」
二つ、提案しておく。あからさますぎたら疑われるからね。

スピネル > 「流石だな。強力な魔力の使い手だとは思っていたがもう制御できたのか。」

少年は仰天したのか双眸を開くと、両手で強く拍手を始める。パチパチと、少し五月蠅い程に。

「確かに協力しあうのは大事であろうな。
先日、学園の生徒の一人にあったのだがなかなかに過激な考えを持っていたぞ。
我ら落第街の住人も一大勢力を気づくべきだと我は思うのだが。
お主はその辺をどう考える?」

空の方角を見上げると、少年は心中を吐露する。
今は気持ちいい事や、血を吸う事よりも仲間が欲しい様だ。
少女の魔力が豊かなことは少年も十分理解しており、最低でもこの場で協力関係を結びたいようだ。

フィーナ > 「…………ふむ。じゃあ、まず。『どうしてそれが今まで成されなかったのか』を考えてみましょうか。さて、貴方は島を管理する責任者だとします。不穏な勢力が周囲の小勢を吸収して力をつけ始めました。どうしますか?」
まるで、講義のように。質問を質問で返した。

スピネル > 「我相手に講義か。お主の言わんとすることは理解できるが、バラバラに散っていても向こうが今まで通り黙認するとは限らんぞ。
それに統一勢力を作るとまでは言っておらん。我もそこまで面倒を見ようとは思わん。
馬が合う様な相手と手を組もうと思っているだけだ。」

バカにするなと言いたげに、少年は持論を展開する。
轆轤を回すように両手を動かして見せたり、人を指さしながらウロウロと歩き回ったり。
少年の動作は逐一大きかった。

「と言う訳だお主、先ほど困った事があれば協力してくれると言っただろう?」

フィーナ > 「まぁ、そのための『風紀勧誘』なんだろうしね。風紀は人材が足りていない。黙認しているのも居るのは居るけど、殆どは『手が回らない』というのが理由。だからこそ。」

「あくまで協力関係。困ったら助け合うだけ。密接になればなるほど、向こうも杭を打ちにくるから。」

スピネル > 「いいぞ、それなら互いに外敵に襲われている時は助け合うとしようではないか。
しかしお主、随分と学園の事情に詳しいな。 知り合いでも居るのか?」

フィーナの意見を取り入れ、何かあった時に協力し合うことを約束する。
少年の求めていた結果とは異なるが今はこれでも悪くない。

そして、少年の関心は少女が持つ学園の知識へと向けられる。
勧誘をしていることも少年は知らなかったし、手が回らない現状があることも知らなかった。
落第街に長く居ると知れるのだろうか。こちらの世界の"新参者"である少年は少女の顔を覗き込む。

フィーナ > 「表に出れば情報屋はいくらでもいるし。勧誘に関しては直接聞く機会があったってだけ。」
本当は肚の中で聞いてただけなのだが。
「その気になれば情報なんていくらでも集められる。時間と、足と、金があればね。」

スピネル > 「なるほど、表に行けば情報屋とやらが居るのか。」

少年は思う所があったのか、顎に手をやりつつうろうろと歩き回る。
思わず納得いくような流暢な説明なのだが…。

「いやいやお主、そんなに活動的だったのか?
なんだか喋り方も滑らかだし本当にこの間会った少女か?
双子の片割れとかではあるまいな。」

三日合わざれば刮目すべしと言うこともあるが。
それにしても変わりすぎているような。
少年は当初から頭の中に浮かんでいた疑問をついに口にする。
冗談めかして、半ば笑いながら。

フィーナ > 「必要なことを喋ってるだけ。双子は…居るけど、あっちは殆ど出てこないし。」
嘘は言ってない。身を半分にして別れた片割れは確かにいる。双子と言っても過言ではない。
今は『餌』の肚の中だ。
「インドア派ではあるけど、お金稼ぐ為には外出ないといけないし。魔術が使えるから、異形討伐とか魔導書収集とかやったりしてたよ?」

スピネル > 「おお、やはり双子であったのか。
先日会ったのは双子の方と言う事か?いや、となると先日のお礼と言われても…。
お主あれか、同じ体を分け合うみたいな双子か?」

ちょっと言っていることが分からくなってきた。
スピネルは首を捻っている。双子と言っても人格が分かれている的な感じだろうかと無理やり理解しようと努めて。
スライムに乗っ取られているなどは全く想像できず。

「魔術書か。我も丁度欲しいと思っていたのだ。
どこか手ごろな入手先があるなら教えてくれ。」

フィーナ > 「…一応、前あったのと同一人物。もうひとりとは、会ってない。」
どうも噛み合ってない。疑われすぎてる?
「魔導書なら、スラムの奥にある『黄泉の穴』に行くと良いよ。ただ、異界につながってる分何が出てくるかわからないし、なによりそこに在る魔導書は本当に『ピンキリ』だから。注意してね。」
魔導書の中には見たものを殺すようなものもある。注意していても呑まれる者も居るほどだ。

スピネル > 「ん? 同一人物だと?
なるほど…。」

先日とは色々話し方が違うが、考えてもらちが明かない。
最早考えることを諦めた。
少なくともこの場では相手の正体に少年が気が付くことは無いだろう。

「ほう、黄泉の穴とな。如何にもな良い名前の場所だな。
何が起きようと我には恐れるに足らんだろう。
我は高貴なヴァンパイアだからな。」

腕を振り回し、あるはずのないマントを翻したような仕草を取り。

「大変世話になったぞフィーナよ。
お主こそ、困った事があれば我を頼るがいい。
この間のような時でもたっぷりと可愛がってやろう。」

フィーナ > 「ふふ、楽しみにしてる」
大仰な仕草に、笑みを浮かべ。口元を、歪ませ。

「その時は、お願いね」
楽しそうに、言った。

スピネル > 「ああ、遠慮なく我を頼るが良い。
その時は我は更に強くなっていることだろうからな!
フハハハハハ!!」

得意げに高笑いを披露してから、少年はいずこへと去って行く。

ご案内:「落第街 路地裏」からスピネルさんが去りました。
フィーナ > 「……ふふ。」
口元を歪ませたまま、見送る。

楽しみだ。本当に。

ご案内:「落第街 路地裏」からフィーナさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」に羽月 柊さんが現れました。
羽月 柊 >  
陽の落ちた落第街。

光の届かぬこの場所は、より一層その影を濃くし、
今日も誰かが必死に生き、誰かが生きることを諦めて闇に喰われていく。

裏路地の一つをコツン、カツンと
質の良い革靴が地面に積もる塵芥を踏みつけていく。


「………、……。」

夏のじっとりとした夜も気にせず、
革靴の主は影に溶け込むような黒いスーツだった。

顔には表情を隠す龍を模した仮面をつけた男は、
夜空を切り取ったかのような深い紫髪を冠に、
小さな羽ばたきの音を二つ連れている。

羽月 柊 >  
別段完全に変装しているという訳でもない。
傍らにいる小さな白い小竜は、
彼が羽月 柊であると証明しているようなモノだ。


闇市場に顔を出し、顔見知りと一つ二つ、情報交換の帰り。

隅で蹲る異邦人も、飢餓にあえぐ子供も、
明らかに眼がここではないどこかを見ている二級学生も、

男にとってはただの雑踏と同じだった。


直接迷惑をかけてこなければ、ただのノイズだ。

羽月 柊 >  
全てに手を差し伸べられはしない。

大人になれば、一定以上の音が聞こえなくなるように、
見えている哀しみも苦しみも、無視できるようになってしまう。


  "みんなしあわせになりました めでたしめでたし"


――なんて、そんなものは子供の絵本に過ぎないと、嫌でも知ってしまう。


だから、無感情に歩くしか無いのだ。



帰路の半ば、柊の革靴の音を乱す足音。
足を止めて目の前を見ると、下卑た笑みを浮かべている輩が数人。
身なりは良くない、二級学生か、はたまたチンピラの類か。

羽月 柊 >  
別段驚くようなこともしない。

落第街は世界の縮図だ。

救われているのはほんの一部。
そして弱いモノが死に、強いモノが生きる場所。

目の前の馬鹿共が喚いている言葉も、この場なら彼らにとっての正義だ。


自分の身なりが良いことは自覚している。
だからまぁ、言われるのだ。金をくれだとな。

大方手につけている魔道具の類が指輪だの腕輪だの、貴金属が多いせいだ。
宝石鉱石は魔力適性が良いから仕方が無いのだが。


「断る。俺は家に帰るんだ。大人しく通せ。」

冷ややかな目線でそう言えば、笑いが返って来る。
抜けのある歯を僅かな夜の光にギラつかせて。

羽月 柊 >  
オヤジ狩りなんて生易しいモンじゃない。
異能やら魔術があるこの世界じゃ、凶器なんて入手し放題だ。

死はもっと近くて、一歩踏み外せば仄暗い穴が開いている。

ひとしきり笑った後に振りかざされる拳も、
もしかしたら地面を割るかもしれない。



だとしても、柊の目線は冷ややかだった。

『…眠り姫の棺、咲き誇れ雪の華』

カツン、と一歩を踏み出す。

『冬の女王の口付けは……蛮勇すら凍てつかせる』

一歩、柊が踏み出すごとに、その足元を中心に地面が凍り始め、
拳を今叩き込もうとした者の手が止まる。

「……下手に動くなよ、割れたら元に戻らないぞ。」

その者の下肢は凍り付いていた。

羽月 柊 >  
「この暑さだ、小一時間もすれば融ける。」

慌てふためく他のモノを後目に、
柊はそのまま彼らの横を通る。



……つい手加減してしまった。


昨日青臭い言葉を聞いたせいか?

あんな若者の言葉一つに動揺しているのか?



「…そんなはずはない。」



確かめるように、呟きながら、
柊は歩いていく。

羽月 柊 >  
甘い顔をしてしまえば。
何もかもを許してしまえば。

――脳裏に過るのは、アカ色。



ああ、嗚呼、二度と。それだけはごめんだ。

落ち込んだ気分を察されて、
2匹の小竜が心配する鳴声をあげる。

全く、一人だと気分はどこまでも沈んでいけるというのに、
常に一緒に行動しているものだから、一人ではないと気付かされる。

「ああ、気にするな。」

そう2匹に誤魔化す。

帰ろう、息子の居るところへ。
あの子達の居るところへ。

ご案内:「落第街 路地裏」から羽月 柊さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」にフィーナさんが現れました。
ご案内:「落第街 路地裏」に泉 瑠衣さんが現れました。
フィーナ > 「んー…」
ぶらぶらと、彷徨う。
楽しいことを探して。

泉 瑠衣 > 本当は此処に寄りたくはないが、理由があるのなら仕方ない…
(裏路地で医療薬の配達を終えたばかりで、帰路の為に来た道を戻ろうとしており。)

フィーナ > 「お」
魔力を感知する。発露自体はそこまでだが…ほう、これは、なかなか…

純粋で、膨大な魔力。それを隠すように溜め込んでいる。

恐らく通常の手段ではこれは得られないだろう。そこで…

スライム > ごぽり、と。その形を変える。定形から、不定形に。

そして、核のないゲルを分離し、壁を伝わせ、上を取る。

そして、その膨大な魔力源に、飛び掛からせる。

泉 瑠衣 > 「後は帰るだけ──っ、何だァ!?」

スライムに飛び付かれては、マトモに引っ付かれ。

スライム > 「お」
かかるとは思わなかった。まさかこの裏路地で無警戒だったのか?だとしたら好都合だ。

ぐじゅり、ぐじゅり、とバラバラに取り付いたスライムが集まって、身動きを阻害しようとしている。
その間に、核を持つ本体は、魔術を準備する。

泉 瑠衣 > 「んの、離れ………ろッ!!!」

相手が纏わり付く存在と見極めれば、風圧で吹き飛ばすかの様に全身から魔力を放出し、吹き飛ばそうと試みる。

スライム > 「ちっ」
飛ばされるスライム。これでは効果は半減だ。
だが、染み付いたモノは、この魔術に適応出来る。

魔術を発動させる。
魔術回路を結び付けられた、弾き飛ばされつつも、泉の服に染み付いた粘液が、硬化を始める。
そして、更に身を分かち、物陰からまたくっつこうとする。

泉 瑠衣 > 「クソッ、何で近くに門が無い状態でスライムが──っぐ!?ちょ、洒落にならんぞ…急に硬化するなんて…!!」

動きが鈍くなり始め、服そのものが枷になり始めた今は回避がしにくい。そこで、許容しきれない程の膨大な魔力でスライムを殺そうと試み、早速軽く魔力炉を使いつつ貯蔵魔力を解放しては服のスライムに絶えず流し始め。

スライム > 服に染み付いた粘液が、膨らみ始める。膨らんで、膨らんで…破裂して。更に、粘液が染み付く。

増えたスライムも取り付いてくる。

その背後に、大本の、核を持った人の形――といっても、今は不定形に近い――が、近づいてくる。