2020/07/14 のログ
■『拷悶の霧姫』 > 「誰の心にだって、悪魔は住んでいます――」
影は男の言葉を肯定し、更に語を付け足す。
誰の心にも。
「――ただ、貴方の悪魔は他の人間が持つそれよりも、強力すぎる。
力が強大な分、その闇もまた深い。貴方もよく分かっている通り、
御すことができなければ、待っているのは、取り返しのつかない破滅のみ。
そしてその破滅はきっと、貴方だけでなく多くの者へ波及することでしょう」
水溜りに、木の葉から滴り落ちた闇の雫が落ちて、波紋を作る。
二人の影が、水溜りの中で揺れ動いて、蠢く。
「それでも。
何度傷ついても、何度倒れても、立ち上がるというのですね。
その身に受けた呪いに蝕まれても、抗ってみせると、そう言うのですね――」
目の前の男に、彼女がよく知る男の影を見た気がした。
その男はいつだって、人を信じて対話をすることを止めなかった。
人間の在り方を信じ、愛していた男だった。
そして、ここぞという時には命を懸けてその拳を振るい、
そして――この世界から居なくなった。
『分かり合うための努力をやめない』と。
堂々と口にして見せる、目の前の男も、きっと。
影の奥で、その口元が少しだけ、ほんの少しだけ緩んだ。
「――です、か」
その言葉を受けた少女の影は、少し黙った後に、自らの仮面を軽く叩く。
すると、彼女を纏っていた影は消え去り人型の影は、少女の姿へと変わった。
そこに立っていたのは、白髪の少女だ。
顔の上半分を黒の仮面で覆った彼女は、右手で仮面をすっと軽くずらせば、
その瞳を、彼に向けて、問いに答える。
『拷悶の霧姫』が、その瞳を合わせる。
それは、彼女なりの最上級の敬意だったであろうか。
「ええ、それが私たちの矜持ですから」
宝石の如き昏く紅い瞳は、目の前の男を映し出している。
ぱちり、と瞬きをしなければ、人工物だと勘違いする程に
精巧な瞳が、じっと彼を見つめている。
「私たちのような悪は、穢れも呪いも、背負うものです。
いや、背負わなくてはならない。
光なくして影は在り得ないように、影なくして光は在り得ないのですから」
少女は、少しだけ素顔を見せていた仮面を元に戻す。
再び影に戻ることはない。そこに居るのは、仮面でその顔を覆った、
ただ一人の少女だ。
「貴方の言葉、信じても良いのでしょうか。
貴方の信じた道を歩み続けると、『約束』してくれますか?」
仮面の奥で、少女は目を細めれば、男を見上げて、契る言葉を放つ。
雲は流れ、月の光が二人を、照らし始める。
■山本 英治 >
「………そうかも知れない」
それでも。ああ、それでも。
「それでも俺は信じた未来に後悔したくない」
「破滅を恐れて行動しないまま、目の前で悪意が命を食めば」
「俺が……俺たちが信じた未来が遠ざかる」
ふと、周囲の喧騒が途切れた。
一瞬だけ、相手の声が今までよりはっきり聞こえた気がした。
彼女は仮面を外し、美しい紫水晶の双眸を俺に向ける。
「……いいのか? 俺は風紀だぞ」
「カメラを隠し持っているかも知れない」
「あんたの可愛い素顔を、指名手配するかも知れないぜ」
自分でも言ってて笑いそうになるくらい。
それくらいの嘘だった。
カメラも、彼女の正体を強引に探る気もなかった。
俺は……風紀失格なのかも知れない。
俺の黒と、彼女の紫。二つの視線が交差する。
「俺たちは似ているのかも知れない」
「光と影、二つの立場で照らされざる闇を追っている」
「誇りがあり、信念があり、目の前の悪意を見ている」
「感傷的に過ぎるかな、ジュンヌ・フィーユ?」
器用に片目を瞑って見せた。
「あんたが素顔を見せてくれたように」
「俺も覚悟を見せよう」
「約束だ、裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》……」
「俺は俺の信じた道を進み続ける」
月光は俺たちを照らす。
明日は晴れる。俺は何故かそう確信していた。
■『拷悶の霧姫』 > やはり、似ている。
白髪の少女――エルヴェーラは彼の顔に、『あの男』を重ねて見た。
目の前の男は、似ている。
裏切りの黒を立ち上げた男――裏切りの律者《トラディメント・ロワ》に。
しかし彼が、山本 英治がロワと違うのは、その瞳だ。
その瞳は、まだ死んでいない。
それは、大きな枷を背負っていても。
それでも倒れず前に進もうと『未来』を見る目だ。
「嘘をつくのが下手な人……なのですね、山本 英治」
ぱちぱちと、瞬きをしながらそう口にする白髪の少女。
口元だけ仮面で覆っているものだから、声がくぐもっている。
交差する視線。
ほんの僅かな時であったが、それはとても長い時間に思えただろうか。
「ええ、感傷的に過ぎますね。あと、キザも過ぎます」
細目でじっと目の前の男を見て、虚ろな瞳はそのままに、
氷の張った水面の如き抑揚で、少女はそう返す。
「『約束』は確かに交わされました、山本 英治」
英治が約束を交わしたその瞬間、彼女の瞳、仮面の奥に隠れたその瞳が、
金色の輝きを見せたように見えた。
「拷悶の霧姫《ミストメイデン》。それが私の名です。
聞きたいことは聞けました。ですから、後は。
貴方の、そして風紀の行く道を、影から見守っていますよ、山本 英治」
マントを翻して、拷悶の霧姫《ミストメイデン》と名乗った少女は
男に背を向け、歩きだす。
ただただ静かな風が吹き抜けて、彼女の髪とマントを揺らしている。
「ゆめゆめ、道を違えぬよう――」
そうして。
彼女が去り際に発したその言葉は再び、背筋の凍るような声に戻っていたのだった。
■山本 英治 >
全然似ていない。立場も違う。なのに。何故。
俺は彼女の言葉に、遠山未来を思い出しているのだろう。
「レディーを嘘で丸め込む男は、より破滅に近いだろうさ」
感傷的とキザと言われればアフロをぐしぐしと触って。
「そりゃないぜ」
と、言って口元に笑みを浮かべた。
最初に感じていた緊張は、もうなかった。
相手の瞳が一瞬、金色に輝いた。
ように見えた。
気のせいだっただろうか……?
金色の眼の女。La Fille aux yeux d'or───
その色の瞳は特殊性の高い異能者が持つと言われるものだ。
もはや常世学園において伝説に近い。……まさか、彼女が?
「見てな、拷悶の霧姫《ミストメイデン》」
「俺が……俺たちが紡ぐ未来を」
互いが背を向けて去っていく。
「違えたら、殺しに来い」
それが俺の言葉。俺の覚悟。そして俺の約束だ。
ポケットに手を入れて路地裏を歩く。
残されたものは、月光に浮かび上がる弔花のみ。
ご案内:「落第街 路地裏」から『拷悶の霧姫』さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」から山本 英治さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」に妃淵さんが現れました。
■妃淵 >
落第街の路地裏
少女一人で出歩くには危険としか言いようのない地帯
それを気にする様子もなく、パーカー姿の少女が一人、気怠げにあるく
「(…すっことねーなー……)」
なんというか、ただただヒマだった
生活に、飯を食うのに困窮していない
通りすがりに座り込んだ二級学生からヤらねーかと金を提示されるも、一蹴
以前ならホイホイついていったが、今はその程度の金額では靡かない
お高くなっただのなんだのと聞こえてくるが、無視だ
そういう気分の時もある
■妃淵 >
スラム、落第街の住人の生活には基本的に余裕がない
それなのに余裕が出来てしまうと、やることがない
こんなにも退屈な場所だったのかと思ってしまう程に
「ん……」
視界の端に二人組を捉える
わざわざ路地の更に奥まったところで何やら会話を交して
違法な物品の取引なのは見て理解る
大方、薬物か何かだろう
─……自分も何度か試したことはあるが、使ってる途中はともかく、後がひどい
高い金を払ってまで使うもんか、と思うが…中毒性や依存性というのは、そういうものなんだろう
「(アイツは、あーゆーのイヤがるんだろうな)」
ふっと湧いて出る、少年の顔
■妃淵 >
自分は兄貴のように喧嘩が好きなわけでもない
降り掛かった火の粉を必要以上に払うだけだ
金が絡まなきゃ、そもそも面倒なことはしない。したくない
はず、だったのだけど──
「……うーん」
フードの上から頭をがりがりと掻く
面倒なことよりも、退屈なことのほうが苦痛なのは、新しい発見だ
■妃淵 >
「(兄貴がこの街からいなくなったのも、わかる気がするな)」
牙の抜けたハイエナばかりが屯するような場所
あの兄貴は好まないだろう
自分の求める刺激は、そういうものとはまた違うが…
「…歓楽街でもいくか」
ふあ…とあくびをひとつ、悠々と路地を抜けて大通りへと姿を消した
ご案内:「落第街 路地裏」から妃淵さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
■日ノ岡 あかね > 『トゥルーバイツ』の連日の『声掛け』は相変わらず続いていた。
地道な活動ではあるが……それを続ける事で確実に『味方』を増やし、不都合な『誰か』を落第街の更に隅へと追いやる。
パトロールの本質はつまるところこれにつきる。
目があるというだけで……人はある程度襟を正す。
種明かしをすれば、たったそれだけのこと。
「地均しも順調に進んでいるわね」
相変わらず大量のスタンドライトを設置し、あかねは『トゥルーバイツ』と共に『声掛け』を続ける。
闇の奥底まで、照らすように。
ご案内:「落第街 路地裏」に園刃 華霧さんが現れました。
■園刃 華霧 >
「よ、あかねちん。景気ハどうヨ?」
ライトが照らさぬ影から、ぬるりと現れる
軽い足取りでひらひらと手を振りながら、のんびりと声がけ
手には何かの袋
「差し入レ持ってキたけど、要る?」
ひひ、と緊張感なく笑う
■日ノ岡 あかね > 「あら、ありがとう、カギリちゃん。喜んで頂くわよ」
笑顔で対応するあかね。
『トゥルーバイツ』の面子も、軽く頭を下げる。
既に華霧も……この所帯に馴染んで久しかった。
もう誰も、彼女を『新入り』扱いはしない。
いつかの隻眼の男も、片手をあげて笑みを浮かべる。
「中身はなぁに?」
軽い足取りで近づいて、目を合わせる。
■園刃 華霧 >
「ン、洋菓子。いヤ、アタシってバ女子力とか無イし、
こうイうの詳しクなイんダわ。
だカら、まあ……たクさんにばら撒ケるヤツって頼ンだダけなんだ」
入っていたのは、洋菓子の詰め合わせの缶。
太陽、の名を冠する店名が刻まれていた。
「マ―、こンなコトしてラれんノも後わずカってナもんだロ。
だカら、一応、な」
ついでだし、と虚空から袋がいくつか取り出されていく
■日ノ岡 あかね > 「ふふ、それなら取り合いにならなくて丁度いいじゃない。それに、カギリちゃんみたいな年頃の女の子からのお菓子の差し入れなんて……喜ばない人はいないわよ? ねぇ?」
そう、『トゥルーバイツ』の面々に問いかける。
皆、冗談めかして笑いながら「全くだ」とか「俺たちゃ果報者だね」とか囃している。
洋菓子はあっという間になくなり、方々の隊員の胃袋へと消えていった。
「改めて、御馳走様……まぁ、でもそうね。こうしていられるのもあと少しだけ。カギリちゃんもやりたいことがあったら……今のうちにしておいたほうがいいわよ?」
名前だけは知っている店のマドレーヌを食べながら、あかねも笑う。
……もう、十日を切っている。
こうしていられる時間は僅かだ。
■園刃 華霧 >
「年頃の、女の子、ネぇ……ひひ。
浮いタ話の一つモありゃア、ソレっぽイんだろーケどさ。
あかねちんとカ、どうナのさ?」
ひひひ、と笑いながら問う。
あれ、これ「じょしとーく」、とかいうやつか?
貴子ちゃんの時以来、な気がするなあ
「ンー……そーダなぁ……
ま、まダいくつか、はあル……けど。」
やりたいこと、といわれれば
いくつか、思い当たることはないではない。
大物は終わらせた、とはいえ。
話しておきたいやつと、いるはいる。
「今だっタら……んー、あかねちん、サ。
質問、いいカい?」
そんな悠長な時間は、もうこの先無いだろうし
今のうちにしておくのもいいだろう。
そう思いながら、切り出す
■日ノ岡 あかね > 「浮いた話に関しては『まぁねー』くらいだけど、質問はいくらでも受け付けるわよ? いつでもね」
マドレーヌを食べ終え、元々持っていたレモンティーのペットボトルを開ける。
ゆっくりと束の間のティータイムを楽しみながら、あかねは笑う。
「急いで聞かなきゃいけないことなら、それこそ早い方がいいしね」
どこか、嬉しそうに。
女子会を楽しむのも良いものだが、華霧の懸念通り、もう時間は残されていない。
悠長に過ごしていられるわけでは決してないのだ。
もう……こうしている間にも、恐らく風紀委員会や公安委員会は動いている。
■園刃 華霧 >
「ア、誤魔化しタな、この、こノー!
あーアー、うらヤましーコってサ―」
ひひひひ、と笑う。
こちらはコンビニにたまに出現する実験ドリンクを手にしていた。
それを豪快に口にする。
「一個は、んー……ソだな。ほら、他の連中の『願い』ってケっこー聞いたケど。
そーイや、あかねちんの聞いタっけってナってネ。
『真理』を目指すって方はモちろン聞いたケどさ」
大体のメンバーの『願い』は聞いた。
十人十色。本当に様々な願いがあった。
それでも――
自分はやはり異質だと、自覚も再確認もしている
それでは……と
半分は興味
半分は比較のために聞く
■日ノ岡 あかね > 「大したことじゃないわよ、私は『私を取り戻す』ために挑むだけだから」
けらけらと、あかねは笑う。
手に持った紅茶が、ボトルの中で静かに揺れた。
「色々試したんだけど……まぁ、全部ダメだったから、最後の手段に訴えたってところよ」
色々。
既存の手段。
既存の技術。
この常世島で『出来た』あらゆる事。
この常世島で『された』あらゆる事。
だが、そのどれも。
「『真っ当な方法』が全部ダメなら、もう『真っ当じゃない方法』に頼るしか……ないでしょ?」
日ノ岡あかねを……救わなかった。
故に、あかねは『真理』に挑む。
……例え、そこに残酷な『真実』しかなかったとしても。
踏み込むまでは、まだ分からないから。
■園刃 華霧 >
「『私を取り戻す』……か」
なるほど、確かにシンプルだ。
シンプルなだけに、多分重さはダントツなんだろう。
アタシは、無かったものを手に入れて
あかねちんは、無くしたものを取り戻す
似てるようで、違うようで
でもなんか、一番しっくりくる
「なーニやってもダメなら、まあ、そりゃソ―なるワな。
ははん、よクわかったヨ。」
ひょっとしたら、納得してはいけないのかもしれない。
とめたりする必要が、本当は有るのかも
でもまあ、結局お互いにどうしようもないヤツなんだろうなあ。
「じゃ、モウ一個……ンー……あー……
ちと、言いづラいってか……いや、本気で好奇心、なンで誤解シないで欲しいンだけど、サ。」
珍しく歯切れの悪い言い方をする。
いくらひとでなしでも人のことはわかる
であれば、この先の質問はあらゆる意味で誤解を生みそうなことも
「あのサ。
実際に、『真理』に頼るジャん? で、結果さ。
あかねちんの前例ナら、おっ死ぬコトだって十分考えラれるわケだ。
勿論そこハ承知の上。今更、ナ話だケドさ。」
んー、とちょっと考えて言葉を口にする
あんまりこういう真面目なこというの慣れてないっていうのに
そして、その先。
流石の自分でもちょっと顔をそらしてしまう。
「で、ここかラ本題。
二人共生きる。
二人共死ぬ。
アタシが生きて、あかねちんが死ヌ。
アタシが死ンで、あかねちんが生キる。
まあ、この四つしか無いンだけどサ。
もシ……アタシが死ンで、あかねちんが生きテたラさ。
……どう、思う?」
最後は顔を戻せた。
いや、なんか弱気っぽいよなあ、これ……
違うんだけどさ。
本当のところは
自分でも考えてみた。
考えてみた結果は……うん
だから、ちょっとだけ聞いてみたい
本当に、ただの参考までに、だ
それだけなのだ
■日ノ岡 あかね > 最後まで、華霧の言葉を聞く。
じっと、顔をみて。
じっと、目を見て。
そして、華霧が顔を伏せたのを……確認してから。
「泣くわ」
あかねは……ぽつりと呟く。
微かに……困ったような笑みを浮かべながら。
「一杯泣くわ。悲しくて、悔しくて、辛くて、寂しくて……ずっとずっと泣いてると思うわ。どれくらい泣くかはわからない。一時間かもしれない。一日かもしれない……ずっとかもしれない」
あかねは、淀みなく答える。
スタンドライトの明かりが二人を照らす落第街の一角……月明りすら翳る人工光の中で、あかねと華霧の顔に色濃い影が浮かぶ。
それでも、あかねは……いつものように。
……いや、いつもより、少しだけ眉を下げて笑って。
「だけど……絶対私、泣いちゃうわ。だって、友達が死んでしまうんですもの」
あかねは、静かに呟いた。
軽く、拳を握りながら。
「きっと、泣くわ」
そう、断言した。
二人そろって生き残る。そんな可能性ほとんどないと分かりながら。
それでも……日ノ岡あかねは、ハッキリと……それを告げた。
その上で、それらをすべて想像し、それらをすべて思い描いた上で……挑むのだと。
それを、『選んだ』のだと。
あかねは……笑って示す。
いつものように。
■園刃 華霧 > すべての言葉を聞く。
じっと、顔を見て。
じっと、目を見て。
普段の騒がしさもなく
静かに――
静かに……
しかし、無慈悲に照らす照明が二人を浮かび上がらせる
そして
「……ン。そッカ。
や、悪かっタね。妙なこと聞イた」
硬い表情が崩れる。
へらり、と笑った。
力の抜けた、珍しい笑い。
ああ――
あかねちんは
アタシの死に、泣いてくれるのだ
アタシの死を、泣けるのだ
多分きっと
レイチェルちゃんとか、
ひょっとすれば幌川先輩とか辺りも
りおちーはどうだろうね?
とりとめもない思考が支配してくるので
一旦打ち切る
しかし、やはり
それなら……アタシはやっぱり……
「ゴメンね、せっかクの大事な仕事の前にサ。
なーンか、しンみりさせチった。
こーイうのは、笑ってイかないト、だヨね?」
けけけ、と
今度浮かんだのは、いつものからかうような笑い。
■日ノ岡 あかね > 「いいのよ、私だって同じことしてるんだから」
あかねは、少しだけ申し訳なさそうに笑う。
これから、『トゥルーバイツ』が行う事は……身投げも同然だ。
真理の淵に手を掛けて、その穴倉に身を投じる。
故にこそ、委員会にそこまで危険視されずに済んでいる。
成功率は元から1%未満。
しかも、一度失敗している。
以前より更に対策を講じるとはいえ……ハッキリ言って焼け石に水。
自殺未遂の常習犯と笑われたって仕方ない。
それでも、それを全部わかっても……『トゥルーバイツ』は、日ノ岡あかねは『それをする』のだ。
薄情者と言われるかもしれない、大馬鹿者といわれるかもしれない。
真理に挑むとはそう言う事。
ズルをするとはそう言う事。
それでも……やるのだから、始末に負えない。
首輪をつけられるのも当然。
元から、『そういう連中』なのだ……この『トゥルーバイツ』に居る連中は皆。
「ま、しんみりも私は嫌いじゃないからいいとして……それより、カギリちゃん、この前、『新しいお友達』を連れてきたわよね?」
新しい友達。
華霧をサークルクラッシャーと古い呼び名で呼ぶ男。
とあるマッドサイエンティスト。
その男の事を示唆して。
「……『例のデバイス』の開発経過はどう?」
あかねは……薄く微笑んだ。
■園刃 華霧 >
「アー……アイツな……
いヤ、ほんと……
連れて来てゴメンナサイ、な感じだけド仕事はするカんな……」
狂気の男の顔を思い出して、わずかにげんなりした顔になる。
優秀ではあるが、狂人は狂人だ
いや……どうせ此処にいる連中は全員まとめて狂人か
あらためて、にやり、と笑う
「うン、順調だってサ。
例の日取りニは間に合うッテ。
たダ……前ニも言ったケど、この期間じゃ例の制限はクリアできンってサ。」
技術分野の話はさっぱりなので、伝え聞いた通りのことを答える。
……まあ、解読するのにだいぶ手間かかったんだが。
それでも……多分、しょうがない
それでも……十分
それでも、やるしかない
そういうことなんだろう、と思っている。
■日ノ岡 あかね > 「ふふふ、十分よ。むしろ間に合わせるんだから本当に大したものだわ。流石は裏世界の技術者ね」
あかねは嬉しそうに両手を合わせる。
それはもう、とてもとても嬉しそうに。
「それならまぁ……『トゥルーサイト』の時よりはマシな博打が出来そうね。その分急がなきゃってことだけど」
風紀や公安の諜報力をあかねは身に染みて良く知っている。
その気になれば、こうして目に付いた会話は全て『見られている』はずだ。
すべて織り込み済みで動かれると思った方がいい。
まぁ、あかね側も織り込み済みなので……それはお互い様だが。
「なら……私もやることやっておかないとね。それじゃ、私は用事が増えたから……ここはお願いね? カギリちゃん」
そう伝えて、踵を返す。
いよいよ、宴も酣。細工は流々。仕掛けは上々。
後は――仕上げを御覧じろ。
「お互い、『楽しみ』ましょ」
笑みを残して、あかねは何処へなりへと去っていく。
いつものように……後ろ髪を、猫の尻尾のように揺らしながら。
ご案内:「落第街 路地裏」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
■園刃 華霧 >
「へいヘイ、そっちはお任セさん。
ヤー、慣れンなートリマとめとかハさ……」
ちらっと背後にいるメンバーの顔を見る。
『はいはい、いつものとおりね』という顔をしている
うんうん、物分りがいい仲間は最高だね
「ッシ!
アタシも此処片付けたら、次行くか!」
腕をブンブンと振り回して……
とりあえず、まずは指示に回った
ご案内:「落第街 路地裏」から園刃 華霧さんが去りました。