2020/07/26 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に水無月 沙羅さんが現れました。
ご案内:「落第街 路地裏」にル・ルゥさんが現れました。
■水無月 沙羅 > 「……あ、流れ星。」
時計塔の一幕のほんの少しあと、やはり自分に出来る事があったのではないか。
そんな気持ちに駆られてやってきた路地裏から眺める星空に流れ星が降り墜ちた。
願う事柄は多すぎて、それでもあえて願うとするならば。
「一人でも多く、死を想ってくれればいいのに。」
小さな先輩が自分に教えてくれたことを、誰もが分かってくれれば、きっと今回の一連の事件。
『真理』を廻るそれは、起きなかったのではないか、そんな幻想を押し付けた。
まだ、沙羅には彼らが『死』を選んでまで願う『真理』は理解できなかった。
彼らがそうまで手に入れたいものを、自分は理解できないことを。
「悔しいな。」
そう思ったから。
■ル・ルゥ >
また一つ、夜空を星が流れていく。
また一つ、地上の星が瞬いては消えていく。
多くの星々がその輝きを垣間見せ、そして消えていった。
多くの命が『真理』に挑み、そして散っていった。
───そんな一夜の物語からは外れた路地裏の一画に"それ"はいた。
「これで6人目……7人目だったかもしれないわ。
あちこちに死体が転がっているけれど、なにかあったのかしら」
彼らが一様に手にしていた、今は壊れて動かない機械を手の中で玩びながら歩く幼い少女。
その行く先に、久しく"生きた人間"の姿を見つけ、少女はそちらへ歩み寄った。
「こんばんは。星のきれいな夜ね」
藤色の髪で目元を覆い、白いワンピースのスカートを靡かせる少女があなたに声をかける。
■水無月 沙羅 > 「……こんばんわ。 えぇ、とてもきれいな夜ね?
残酷なくらいに。 こんな夜に、女の子が一人だけなんて危ないですよ?
あぁでも……、あなたにはあまり関係は無いのかな。」
本当に、残酷なほどきれいに、今のこの島の表情を映している様。
星は流れて堕ちて、消えて行く。
いくつもいくつも、流れては消えて。 それでも強く光り続ける恒星もまた存在する。
まるで、星座が泣いているかのような、そんな星空に残酷さを思い浮かべずにはいられなかった。
「ちょっとした、事件があっただけですよ。
その手に持っているのは、危ないものですから、捨てたほうがいいんじゃないかな。
もう、動かないかもしれないけれど。」
報告には上がっていたデバイスを、幾つも持っている。
なら、さっき聞こえた6、7人はきっと心理にまみえて、その命を散らしたのだろう。
いつか誰かに聞いた、人は死ぬと星になる。 そんな話を思い出したが、今はそんなロマンチシズムに浸っている場合でもないだろう。
少なくとも、目も前の少女はその死を悼んでいるようには見えないから。
■ル・ルゥ >
「あら、それを言うならあなたも女の子だわ?」
揚げ足取りのようにも取れるが、事実を述べているだけといった口調。
それは幼さゆえなのか、はたまた別の得体の知れなさか。
いずれにせよ、こんな時間にこんな場所にいる時点で普通ではないだろう。
「まあ、そうなの?
確かに、これを持っていたヒトたちはみんな死んでいたわ。
もったいないから、いくつか持ち帰ることにしたの」
手の中のデバイスにはさしたる興味を示している様子はない。
ならば、持ち帰ったとは何のことだろうか。
■水無月 沙羅 > 「私は、風紀委員ですからね。 多少の自衛程度は心得ています。」
腕章を掴んで持ち上げる様に見せつける。
二級生程度ならそれで十二分に伝わる、いや、そもそもこの格好の時点で声をかけてこないか、襲ってくるかの二択ではないだろうか。
自分はあの『過激派』の傍に居る人間というのは伝わっているはずだから。
「……そう、死んでた、ですか。 その死体、今どこに?
持っている……という風には見えないですけど。」
この奇妙で不気味な感覚は、以前も味わった事がある、
あの時も、この落第街の路地裏で、あれは、まだ人の形をしていたけれど。
『怪異』のようにまざまざと、理解できないものだと見せつけてきた彼女のソレに、よく似ている。
「あなた、人間ですか?」
聴かずにはいられない。
恐怖が一瞬よみがえった。
■ル・ルゥ >
風紀委員。その名前は以前から頻繁に耳にしている。
この常世島において、公安と並んで警察組織として活動している者達。
彼らの存在があるからこそ、こうして路地裏に潜む必要があるということも知っている。
「ええ、だから"持ち帰った"のよ。
あんなにたくさん、一度には処理しきれないから」
最初の1、2人はありがたく頂戴したが、これほどまでに多いとは思わなかった。
そういえば、彼らも目の前の少女と似た腕章を着けていた気がする。
彼らも風紀委員だったということなのだろうか。
そして、今はこちらの素性を問われている。
「わたし? わたしは……」
少し思案するように首を傾げてから、言った。
「───わたしは何なのかしら」
そんなの自分が知りたいくらいだった。
意思を持つ肉塊。ここではない世界で目覚め、『門』を通って迷い込んだ魔なるもの。
生まれたてのル・ルゥはそれ以外の知識を有していなかった。
今の姿も、口にしている言語も、魔術も、全て喰らった者から"学習"したものだ。
■水無月 沙羅 > 「持ち帰った。 そうですか、できれば返していただきたいのですが。
彼らは弔わないといけません。どんな人間であれ、死は想われなくてはいけないから。
生きているものの為に、それは必要なものです。」
『真理』にまみえて命を落す、何て勝手なのだろう。改めて沙羅は想う。その我儘に、他人とこの島の人たちを巻き込んで、勝手に死んでゆく。死を救いだとでもいうように、何の躊躇いもなく。
いいや、躊躇ったのかもしれないが、死んでしまったのでは変わらない。
現に、死んだ彼らのことを自分は何も知らないのだから、ただ、『死』に痛む自分が居るだけだ。
それを慰めるために、それを忘れないために、思い出にするために、人間には儀式が必要なのだ。
「少なくとも、人間ではない。 そういう判断をしてよろしいんですか?」
困ったことに、沙羅の精神はまだ完治していない。
焦燥感と共に過去のトラウマが頭をよぎる、あの、人形のような少女との一幕がよみがえる。
でもあの時とは違うことが一つあった。
「投降を、早急に『彼ら』を返してください。」
今は理由があるという事だ。
沙羅は腰に下げていた、護衛用の拳銃を手に取って、セーフティーを外して銃口を向ける。
■ル・ルゥ >
「返してほしい? おかしなことを言うのね。
それとも、彼らはもともと あなたのものだったのかしら?」
返せ、というのは所有権を主張する人間の言葉だ。
弔うという"文化"を知らない魔物は、よく分からないといった風に首を傾げる。
「それに、ぜんぶは無理だわ。わたしにも必要なものだもの」
狩猟は早い者勝ち。後から出てきて寄越せと言われても困る。
向けられた黒鉄の物体をじっと見つめ、怯える様子も構える様子も見せない。
それよりも今は、彼女に投げかけられた問いの方が気になっていた。
「わたしが見つけたとき、まだ生きているヒトもいたわ。
真理がどうとか言って、そのまま動かなくなったけれど……わたしには、よく分からなかった。
わたしは少なくとも、ヒトではないのかもしれないわね」
人間の言語は解していても、その気持ちを推し量ることは不可能だった。
あらゆる意味で"人でなし"と呼ぶに相応しいのだろう。
■水無月 沙羅 > 「いいえ。 ですがあなたの物でもありません、死体だとしても彼らは彼らのものです。 人権……といっても通じそうにもありませんね。」
価値観が違うのだ、という事をまざまざと見せつけられる。
ならきっと、この問答は意味がない。
沙羅が沙羅の価値観で動いているように、彼女は彼女の価値観で動いているのだ。
出来ない、というのならばそれはもう覆らない事実なのだろう。
「必要な物、とはどういう意味なんですか。 まぁ、ろくでもない言葉しか想像できないんですけれど。」
実験とか、そういう。
沙羅の嫌いなものが飛び出てくるのだろうと思っている。
目の前のヒトデナシがどんな存在かを知らないが故に。
「……私にも、真理のために死ぬ人間の心理は分かりませんよ。
そういう意味では、私もあなたも変わりは無い。
ただ……そうまでしても果たしたい願いがあったのは事実です。
真理とは、それを叶える手段を教えてくれるものだと、ある人は言っていました。」
いつまで、こんなおしゃべりを続けるのだろう。
さっさと撃ってしまえば蹴りはつくだろうに。
それでも、彼女の疑問に答えてしまうのは沙羅のほんの一縷でも話が通じるかもしれないという期待のせいだろうか。
■ル・ルゥ >
「ヒトは死んでしまったらそれで終わり、ではないのね。ふしぎ」
価値観の異なるものを排除したがるのも人間特有の感情だ。
人でなしの彼女にとって、それは単純な興味の対象でしかない。
そうして今までも"学習"してきたのだから。
「あら、とっても簡単なことよ。
ただ生きているだけでお腹がすくのはヒトも同じでしょう?」
あなたの嫌な想像とは裏腹の、それは本能としか呼べないもの。
生きとし生けるものが背負う生物としてのリスクを、果たして誰が咎められようか。
ただ、ヒトと彼女とでは主食とするものが異なるだけなのだ。
あっけらかんと言い放ってから、続くあなたの言葉に耳を傾ける。
「願い、叶える……何日か前にもたくさん聞いたわ。
あの時はこの機械じゃなくて、細長くて色のついた紙を持っていたかしら」
───星に願いを、と彼らは言った。
で、あるならば。真理とは、星のようなものなのだろうか。
■水無月 沙羅 > 「えぇ、死んで終わりではありません。 次へ繋ぐものがあるから。
だから人間は変わって、それは進化という言葉になった。」
あらゆる先人たちが残したバトンが、紡がれてきたからこその人類史。
死は終わりではなく、次の始まりを意味している。
「人を……喰ったと、そういう。 あぁ、なるほど。
救いようがないほど、私達は相容れない者なんですね。
それは、価値観がどうというものではなく、生物として。
ヒエラルキーの上か下か、そういうレベルの、相容れない存在。」
人を食料とする『怪異』、『ヒトデナシ』ならば当然、人間としての感情論は通用せず、そもそも価値などと言う曖昧なものが共通することがあるのかすらも怪しい。
そも、生物としての作りが違うのだ。
人を食った熊には話が通じないのと同じこと。
ならば。
「おまじないのようなものですがね、ですが、人で無い貴方にその知識は必要なのですか?
人のまねごとをするとでも?」
もしも彼女が異邦人ならば、まだ理解もできたのかもしれないが。
人で無いならそれは叶わないだろう。
其れもまた、沙羅の先入観に過ぎない。
■ル・ルゥ >
「未知のものに興味を持つのはいけないことかしら?」
幼い少女の姿で再び首を傾げる。
生まれて間もない頃であれば、今も本能のままに喰らい付いていたかもしれない。
けれど、彼女は高い知能を有していた。そこに"言語"と"人の姿"を得た。
言葉が通じるようになると、次は彼らの生態に興味を抱くようになった。
相容れない存在でありながら彼らの領域へ踏み込もうとしているのだ。
「わたしは、わたしが何者なのかを知りたいの。
かたちを持たずに生まれたわたしは、これから何になるのかを知りたい。
こういうのをヒトは"願い"と呼ぶのでしょう?」
それを目に見えないものに縋る気持ちは理解できないけれど。
叶えたいもの、という意味では間違っていないはずだと。
そう問い返している。
■水無月 沙羅 > 「未知なるものへの興味、ですか。
いいえ、それを拒絶する理由を私は持ち合わせてはいません。
ですが強いて言うならば、そこに畏怖と敬意を持ち合わせるべきでしょう。
それは貴方に成長と新しい価値観と、そしてあなたを変えてしまう危険性を兼ね備えたものです。
無暗に土足で踏み荒らして良い物ではない。」
知性を持つというのならば、それ自体は悪いことではないだろう。
未知に憧れるのは知性を持つものの特権だ。
だが、そこに敬意を払わないのであれば、ただ知識を貪るものでしかない。
それは他の知性体にとって害悪に他ならない。
「…………そうですね、それは確かに願いです。
ですが、それは何かに託すものではない。
知性があるというならば、探し求めるのが筋でしょう。
だから、わたしは彼らの『真理』も否定する。
死を対価にした埒外の知識など。」
どんなに遠くても、もがいてもがいて苦しみ抜いた末に答えは出す物だ。
少なくとも沙羅はそう信じている。
それを、死を対価にして得るなどと、それはきっと願いと死に対する冒涜だ。
■ル・ルゥ > ・・・・・・・・・・・・・・
「そうよね。だって、死んでしまったらそれで終わりだもの。
他のだれかではなく、わたし自身が知りたいのだから」
人の営みは、知識は後世に語り継いでいけるかもしれない。
けれど己が抱いた"願い"だけは己で果たさなければ意味がないのだ。
命を燃やして得られるものなどありはしない、という観点は一致していた。
「そのためには畏怖、と敬意? というものが必要なのね。
どうしたらそれを得ることができるのかしら」
それは今、目の前の彼女と争うつもりもないということ。
ここまで『話せる』相手なら、もっと色々なことを教えてくれるかもしれない。
だから───餌をちらつかせる。
「教えてくれるなら、ここで拾ったヒトたちを返してあげてもいいわ」
■水無月 沙羅 > 「難しいことを言いますね……、私は先生ではないんですよ?」
珍しく、苛立つように髪を掻きむしり、拳銃をホルダーに収納する。
それは争う姿勢を止め、条件を呑もうという意思表示。
本来ならば、人を喰らうという少女を野放しにするべきではないのだろうけれども。
彼女が人に理解を示そうというのならば、その食性もまた変わるかもしれない。
そんな淡い願望。
「畏怖、とは恐れる事、それを敬うということです。
未知を畏れて、あー……大事にする。
といえば伝わるでしょうか、軽々しく扱うな、という警告の様なものです。
それを損なえば。ひいてはあなた自信を滅ぼすきっかけになりえる。
人類が何度も失敗したからこそ言える、教訓とでもいうものでしょうか。」
ヒトデナシに、そんなことを言って通じるのか。
自信はなかった、正直な話をすれば、沙羅自身もそれを実行できているかどうかも怪しい。
人は未知にどん欲なものだから、時に道すらも踏み外すことがある。
それは、沙羅が一番よく知っていることだ。
■ル・ルゥ >
「うふふ、ありがとう。それじゃあ、彼らのところへ案内するわね」
恐らくは武器と思われるそれを納めるのを見て、口の形をした部位がにこりと笑う。
ただの疑似餌だが、人間から"学習"した感情表現というものを試すには丁度いい人形だ。
思えば、この姿の元となった少女が最初に喰らったヒトだったか。
"魔核(コア)"に刻まれた記憶をぼんやりと想起しながら歩き出した。
「未知を恐れて、大事にする……なるほどね。
ええ、軽はずみな行動をすれば大変な目にあうのは身にしみているわ」
あなたの腕章を一瞥して言う。
過去に見境なく人を襲ったことで風紀委員に目を付けられ、撃退するのに苦労したものだ。
もっとも、情報は持ち帰られる前に腹に収めてしまったが。
■水無月 沙羅 > 「何と言いますか、気味が悪いですよその笑みは。
それも誰かの模倣、学習したものなんでしょうけれど。
このタイミングだと何かを企んでいる様にしか見せません。」
大きくため息をつきながら、その後ろを少し離れた距離からついていく。
死体だけではないのだろう、彼女が食らったというのならばきっと生きた人間も。
そう考えると、まんまと餌に喰いついた哀れな獲物、という風に相手には見えるのだろうか。
実際おそらくその通りで、無論喰われてやるつもりなど欠片もないのだが。
「それと、忘れているようなのでもう一つ。
敬意とは、尊敬する心を持て、という事です。
それが価値の高いものだと認めて、貴重であることを忘れるな。
そういう事です。
知らない事柄を見下すと、痛いしっぺ返しを食らいますからね。」
貴方が私を知らないように、私が貴方を知らないように。
互いに互いを畏れる事を忘れるな。
言外にそう告げる。
彼女の背中に、突き刺さるような警戒のまなざしを送る。
■ル・ルゥ >
「あら、そう? 自分じゃ見えないから分からないわ」
むにむに、と頬にあたる部分を指で捏ね回しながら歩く。
長いスカートが地面すれすれを掠め、ひたひたと裸足のような足音を響かせて。
どこか上機嫌なその足取りは、背後から見る分には幼子のそれにしか見えない。
「そうね。知識はとても大事だし、教えてくれるヒトはとても貴重。
取って食べたりはしないから安心してちょうだい」
その言葉に信用できる要素がまるで無いことなどお構いなしに。
無防備、無警戒の背中を晒し続けている。
■水無月 沙羅 > 「……はぁ、貴方はとりあえず人間の感情というものから勉強するべきだと思いますけれどね……。
私が殺傷能力の高い異能を持っていたならきっと後ろから『処分』しようとしてますよ。」
あえて、処分と使ったのは、相手が人間ではないということもあるが、未だに知性体とは認めてはいないという皮肉でもあった。
知性があるというには、余りに幼く、余りに欲求に素直すぎえる。
もう、それは知識を求めようとする本能の様な。
それこそ、それが食事だと言われても疑わないレベルで。
「だから、説得力がないって言ってるんです。」
いや、それを教えたら騙すのがうまくなるから危険ではないか?
という事に気が付いたのは口にした後だった。
■ル・ルゥ >
「なら、それもあなたに教われば解決ね!」
もののついでとばかりに軽い調子で言ってのける。
実際、ここで奇襲を受けても逃げおおせる算段は付いていた。
人間の体では通れない道を知っている分、地の理はこちらにある。
ピンポイントで"魔核"を狙い撃ちにでもされない限り初弾で行動不能になることはまずない。
疑似餌を膨らませて気を引いている内に"魔核"を逃がし、複数ある棲み処のどこかに身を隠すだけだ。
「けれど、その言い方は自分に"そんな力はない"と言っているのと同じではなくて?」
お返しとばかりに、今度は意図的に揚げ足を取る。
もっとも、それを知ったところで今は満腹なので本当に手を出すつもりはないのだが。
貴重な知識源をみすみす手放すつもりはない。
■水無月 沙羅 > 「だから私は先生ではないと……はぁ。 面倒なのに捕まりましたね。」
方を落してがっくりと、まだこの生き物に教えないといけないことがあるらしい。
そういえば、彼女に名前はあるのだろうか?
いちおう、報告書に書いておく都合上聴いておく必要があるだろうか。
「私は水無月沙羅です。 貴方の名前は? 生徒の名前ぐらい知っておきたいのですが。」
とりあえずは、生徒という事にしておこう。
感情を覚えれば、少しは人間に近づくかもしれない。
知識として覚えただけでは意味がないというのはいただけないが。
そもそもこの生き物に感情があるのかすら疑問である。
相手は『未知』だらけ、これほど恐ろしいものもない。
なんなら人型に見えるが、まったく構造の違う生き物の可能性の方が高いのだ。
自分の圧倒的不利な状況は変わることがないだろう。
「えぇ、そんな"力"はありませんから。 捕食される事は無いという自信ならありますけれど。」
沙羅にも、逃げおおせる自信程度ならある。
己の不死性を盾にすれば、大方のものからは逃げ出せる。
幸いにも、相手から攻撃があればあるほど効力を増す異能もあるのだから。
■ル・ルゥ >
「そのセンセイとセイトというのは何、というところからなのだけれど大丈夫?」
……このヒトの形をした生物の教育は前途多難そうだ。
とはいえ、名乗りと共にこちらの名前を訊かれていることは分かる。
「わたしは"ル・ルゥ"。ヒトに伝わる言語だと、これがせいいっぱいなの」
不可思議な発音だが、確かに"ル・ルゥ"と聞こえるだろう。
自我を持った時から自分の中にあった名前。
果たしてそれが本当の名前なのかすらも彼女には分からない。
ものには固有の名前があると知ったのも、つい最近のことだ。
「ふふっ、わたしもサラと同じでそんなに力は強くないのよ」
彼女の"狩り"は擬態能力と魔術による搦め手を主とする。
不意を打てれば相手がどんな力を持っていようと関係ないが、この状況では無理な話だ。
■水無月 沙羅 > 「そこから……ですか? 本当に前途多難……。
先生っていうのは教える人の事、生徒っていうのは教わる人の事。
本来は学校での立場を表す言葉ですが、今はその表現でも構わないでしょう。」
おそらく、これからも彼女に付き合わせられるのだろうと思うと力が抜けてくる。
あぁ、そういえば似たような生徒がもう一人いたな、あっちはお貴族様だけど。
「そう、ル・ルゥ……ですか。 呼びにくいのでルゥとお呼びしても?」
ラ行が二回とか噛みそうなので勘弁してほしい、舌が疲れる。
何なら教育するという時点で疲れそうなのに。
「なら似た者同士かも知れませんね。 ……まったくうれしくはないですけど。
ところでまだなんです?」
余り奥まったところまで行くのも、正直よろしくはないのだが。
何なら病院から抜け出してまたこんなところに来ていると知れたら、あぁ、怒られるだろうな。
■ル・ルゥ >
「ああ、それならそうと最初から言ってくれればよかったのに」
その表現ならル・ルゥにも理解できる。
次からはサラ先生と呼んだ方がいいのだろうか? 検討しておこう。
もっとも、次に会う時まで名前と顔を覚えていられればの話だが。
「好きに呼んでくれてかまわないわ。
呼ばれる機会なんてめったにないんですもの」
基本は捕食するもの、されるものの関係なのだから当然だ。
ゆえに呼び方に頓着したことはない。疲れる舌もない。
「気が合うわね、わたしたち。ふふっ、もうすぐそこよ」
言うが早いか、狭い路地から不意に視界が開けた。
そこは四方を建物に囲まれた袋小路で、来た道の他に出入り口はない。
地面には『トゥルーバイツ』の腕章をつけた死体が乱雑に転がされている。
いずれも"人気の無い場所"として路地裏を選び、誰にも知られることなく『真理』に触れた者達だ。
その名前も、顔も、リストを完璧に覚えていない限りパッと浮かぶものではない。
■水無月 沙羅 > 「……学びたいというなら、もう少し人と関わる事をお勧めしますよルゥ。 捕食ではなく、対話でね。」
路地は開け、少しだけ広い袋小路へ。
おそらくはここが彼女の巣のようなものなのだろうか。
まぁ、次見に来た時にはすでに居場所を変えているに違いないが。
ルゥがその程度の知能がないとも思えない。
すくなくとも、風紀委員は彼女の天敵の筈だから。
「はぁ……これを全員持っていくんですね。」
沙羅は、今ほど自分の精神が壊れて"麻痺"していることを感謝しないこともないだろう。
この数の死体をみて、少し気分が悪い程度で済んでいるのは、つまりそういう事だ。
死に触れ過ぎるというのはろくなことがない。
その顔ぶれも、一通り調査した資料にあったモノだ。
理央は手を出すな、調査なら好きにしろと言っていた、だから、調査だけでも『完璧』に。
彼らの死を鮮明に覚えておくために、沙羅は脳髄に刻み込んでいた。
知らず、涙が一粒零れて堕ちた。
「……では、連れて帰らせて……もらいます。 ルゥ。一応聞きますが、既に捕食した人物の持ち物はありますか……?」
肉体強化を使って、無理やりに7人を持ち上げる。
沙羅の肉体限界を超えた能力の行使するための魔術。
肉体が壊れてもおかしくない重量を持ち上げ、実際骨が軋んでは筋肉が裂ける音がする。
呼吸は乱れて、汗は噴き出す。
異能がすぐに治癒するから問題はない。
いや、耐えがたい苦痛は襲ってくるので、問題はあるのだが。
■ル・ルゥ >
「さっきの機械とか、消化できないものは取り出してあるわ。
どれが誰のものだったかなんて、いちいち覚えてはいないけれど」
袋小路の片隅に山と積まれた金属や機械の類。
どれも壊れて使い物にはなりそうにないが、彼らの生きた証だ。
彼らの"死"を目の当たりにした少女の流す涙の意味はル・ルゥには分からない。
だが、7人分の死体を一度に運んで行こうとするのは目に見えて無茶と感じた。
「何回かに分けて運んだらいいのに、どうして無理をするの?」
皮肉もなにもない、純粋な問いかけ。興味であり、疑問だ。
■水無月 沙羅 > 「……どうして、ですか。 そうですね。」
捨て置かれた衣服と機材をなんとか死体の中に紛れ込ませ、落ちないようにバランスをとった。
もう、運ぶ以外の芸当はおそらくできないだろう。
この状況で誰かに襲われようモノならおそらく抵抗すらできない。
それでも自分は死ねないというのは皮肉な話だ。
死体を運んでいる、まるで死神の癖に。
「……何度も往復するのは面倒ですし、何より。
彼らの顔を早く見たい人が居るかもしれませんから。
言ったでしょう、死は生に繋がっていくんです、残酷なほどに。」
それだけ告げると、なんども損傷と再生を繰り返しながら、沙羅は路地裏を引き返した。
ゆっくりと、自分の制服は赤に染まってゆく。
それは、彼女の涙のように、後に印を残すのだろう。
「それではルゥ。 また会うことがありましたら。
……できればないことを、祈りたいですけど。」
■ル・ルゥ >
「そう……」
ヒトという生き物は、本当に分からない事だらけだ。
誰かのためにそこまでする理由も、意味も、まるで理解できない。
───けれど、沙羅(センセイ)は言った。
知りたいと思うなら、未知に畏怖と敬意を抱けと。
先刻まで彼らはル・ルゥにとって餌でしかなかったが、今は違う。
ヒトが後世に残していくものを、彼女が繋ごうとしているものを、わたしも知りたい。
そう思ったら、自然と体が動いていた。
「待って、サラ」
振り向くのも待たずに、ワンピースのスカートが膨れ上がる。
その下から溢れ出すのは無数の触手。
疑似餌の役割を失い、だらりと垂れた少女の形が"それ"の異様さを物語っている。
触手は瞬く間に沙羅の傍まで伸びてくると、彼女が抱える死体が両手で抱えられる数になるまで取り上げた。
『せめて、乗せて運べるものがあるところまでは手伝うわ』
頭の中に直接響くような声。
先程まで言葉を交わしていた存在と同じ声だ。
■水無月 沙羅 > 「はい――――?」
振り返ると、もう人間の形を捨てたルゥが、自分の『重荷』を取りあげるのが見えた。
見た目そのものが疑似餌とは驚いたが、それよりなにより驚いたのは。
生徒(ルゥ)が自分の言ったことをおそらく理解し、実践しようとしていたのだろうという事。
彼女には、それをする理由もなければ、そのつもりもなかったはずなのに。
彼女は捕食の目的ではなく、『沙羅』を助けるためだけにその姿を晒したのだ。
それが目的でなかったとしても、結果としてそうなった。
頭に響く声に、沙羅は深く頭を下げた。
「ありがとう、ルゥ。 私たちを知ろうとしてくれて。」
すこしだけ、人間でないものを拒絶していた自分を恥じた。
彼女は、歩み寄る姿勢を見せたの言うのに自分は。
「……えぇ、お願いします。 ところでルゥ。
もうすぐ、慰霊祭というものがあります。
その会場でなら、今あなたが抱いている疑問を解くカギが、見つかるかもしれませんよ。
もちろん、その格好ではいけないでしょうが……。
お礼に服ぐらいなら貸してあげます。」
せめてもの懺悔に、彼女にその機会と感謝を。
死が紡いだ縁を背負って、両手に抱えるだけの『重荷』を抱いて。
彼らが生きていた場所へせめて送り届けよう。
何もないかもしれないけれど、それが沙羅にとって、彼らにできる最大限だから。
■ル・ルゥ >
うねうねと脈打つ無数の触手が、遺体を傷付けないように支えて持つ。
魔力で形作られた肉塊でしかないこの体は重荷を重荷と感じない。
全て請け負ってもよかったくらいだが、沙羅には見本を示してもらわねばならない。
何より、彼女自身がそうしたがっているように思えた。
『わたしは、わたしを知るために、あなた達を知りたい。
この行為に何の意味があるのかも、サラを見ていたら分かるかもしれないから』
この姿を晒した瞬間に敵と見なされる可能性もあった。
道中で他の人間に見つかり、面倒事を引き起こす危惧もある。
それでも今は、その先にあるものが知りたかった。
巨体を引きずるようにして、再び先導する形で来た道を引き返していく。
『……イレイサイ? そこにわたしを知る手がかりがあるの?
なら、行ってみたいわ。サラが協力してくれるのね?』
捕食者としてではなく、対話の形で人間と関わっていく。
その第一歩をル・ルゥは踏み出そうとしていた。
間もなく打ち捨てられた荷車を見つけ、遺体をそこに乗せ換えるだろう。
この姿のまま表通りには出られないので、今日のところはここまでとなる。
『次にサラが来た時は、あの場所で待っているわ。今度こそ……またね』
去っていく荷車を見送って、異形は路地裏の隙間へと消えていった。
ご案内:「落第街 路地裏」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からル・ルゥさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」にトゥルーバイツ構成員さんが現れました。
■トゥルーバイツ構成員 >
『この世界は間違っている』
男は、ただひたすらに世界を呪い続けている。
■トゥルーバイツ構成員 >
男は昔から本を読む事が大好きだった。
理解の深い両親によって、古今東西の物語を読み漁った。
学生時代は文芸部で創作に耽った。
そうして書き上げた作品たちが世に認められ、作家と呼ばれる職業で生計を立てる事が出来る様になった。
愛する妻と、可愛い一人娘も出来た。男の人生は幸せだった。
男は、世界を呪っていた。
■トゥルーバイツ構成員 >
この世界は、男の愛する『現実』ではない。
物語の世界は、あんなにも華やかだ。
剣と魔法で世界を救う勇者がいた。
失われた宝を求めて駆ける冒険者がいた。
異世界に転生し、強力な力で無双する転生者がいた。
最新鋭のロボットと戦う、正義のスパイがいた。
男は、それら全てを愛していた。
何も出来ないからこそ輝く空想の世界を、男は愛していた。
この世界では、それは空想などではなかった。
それらは全て『現実』だった。
かつて男が愛した『理想』は、全て掃溜めの様な『現実』に浸食されていた。
男は、世界を呪っていた。
■トゥルーバイツ構成員 >
男はそれでも『現実』に打ち勝つ『理想』を求めて此の島を訪れた。
あらゆる研究機関に取材に訪れた。
長い時間をかけて生徒達を取材した。
治安の悪い場所にだって、びくびくしながら足を運んだ。
男には異能も魔術も無い。
ただの一般人。少しだけお金を持っているだけの一般人。
だから夢を見た。幼い頃に夢想した、色鮮やかな理想の世界を。
「事実は小説よりも奇なり。小説が現実を上回る世界など、生きていて何が面白いものか」
「もうこの世界の住民達は理解し得ぬのだ。異能とやらも魔術とやらも無いからこそ、夢を見て理想を描く世界を想像出来ぬのだ」
「『あるはずのものがない世界』も『ないはずのものがある世界』も私はいやだ。そんな世界で、一体何を創ればいいのだ」
男は、妻と娘に別れを告げた。
男が持っている物。財産。人脈。
それら全てを使ってこの世界から何とか抜け出そうとした。
異世界転生でも構わない。過去に戻ってもいい。違う次元の世界でも良い。
とにかく男は自分の理想が『理想』のままの世界を求めていた。
そんな世界は何処にも無かったし、行けるはずもなかった。
男は、世界を呪っていた。
■トゥルーバイツ構成員 >
そんな男にとって、あの少女の誘いは天啓であった。
限りなく低い成功率ではあっても、自分の願いを叶えてくれるかもしれない。
この機械を使えば、男の望む世界に出来るかも知れない。
『異能も魔術も存在しない世界』に、この世界を改変出来るかもしれない。
男は、世界を呪っていた。
ご案内:「落第街 路地裏」にルギウスさんが現れました。
■トゥルーバイツ構成員 >
「でも、怖いなあ。いざとなると死にたくなくなるものだなあ」
落第街の奥の奥で、ぼんやりとデバイスを眺める男。
ヒラタ トオル
男の名は『平田徹』
38歳。妻と10歳になる娘がいた。
職業は作家だった。ペンネームは『 』だった。
もう全て過去の事。
このデバイスを使えば、もう関係の無い事。
残り時間は、あと僅か。
それでも男は、まだデバイスを起動出来ていなかった。
■ルギウス > 「どうも、作家先生。
貴方の新作を楽しみにしていたのですが。
どうやら叶いそうもなさそうです」
細葉巻を咥えた、ファンタジーから出てきたような司祭服の男が 其処に居た。
「せめて、サインだけでもいただけませんか?
ファンなんですよ」