2020/07/27 のログ
トゥルーバイツ構成員 >  
「…僕のファン?いや、参ったね。まさかこんな場所で、ファンの方に御会い出来るなんて光栄だなあ」

ハッとしたように、サングラスの男に顔を向ける。
司祭…なのだろうか。とても怪しい。
こんな治安の悪い場所の奥の奥で、自分を知っている者が現れるなんて。

「さ、サイン。ああ、サインね。
あ、あげたいところなんだけどね。
ちょっと今、急いでて…野暮用で……」

カタカタと震える手でデバイスを握り締める。
ああ、もう時間が。
時間が――

ルギウス > 「貴方の書く物語は実に素晴らしい。
 本物よりもリアルで、実物に勝るとも劣らない。
 そんな世界を紡げる貴方を、本当に尊敬しているのですよ」

言いながら、作家の書いていた作品を口頭で全て述べていく。
単行本になっていないものも含めて、時系列順に、全て。

もっとも最初の本を取り出して、これに書いてくださいねと言いながら。

「……ああ、そうだ。
 ついでと言っては何なんですが―――貴方に良いニュースと悪いニュースをお持ちしたんですよ。
 どちらから、聞きたいですか 平田先生?」

トゥルーバイツ構成員 >  
「ふざけるな!!!ふざけるなふざけるなふざけるな!!!
僕が書くのは『存在しない世界』だ!皆に与える夢は、現実にあってはいけないんだ!
どんな幻想を書いても、この世界では実現する。
どんな未来を描いても、この世界では可能になる。
そんな世界で書く物語なんて、物語じゃない!
ただの予想図だ!ただの歴史書だ!ただの落書きだ!」


役立たずのデバイスを、地面に投げ捨てる。


「きみ、きみたちは、明日世界を滅ぼすかみさまが現れますと言われても受け入れるだろう!?
ヒトのような意志をもったロボットが反乱を起こしました、なんて聞いてもああ、そうなんだくらいにしか思わないだろう!?」


「違うんだ、違うんだよ。僕はね、誰も想像できない様な。絶対にこの世界(げんじつ)では叶わない様な世界を描きたかったんだ!!!」


「……だけど、それももう叶わない。ぼくのゆめは、終わってしまった」


ああ。自分のファンだと言ってくれた彼に、何て酷い事を。
のろのろと顔を上げて、自分が最初に執筆した本を見つめて、それを差し出す彼に視線を合わせよう。


「……どちらからでも。いや、悪い方から聞こうかな。
これ以上悪い事があるなら、それこそ創作意欲の一つでも、沸くかもしれないからね…」

ルギウス > 「貴方の言い分ですと―――サイエンスフィクションは全て便所の落書きになるらしい」

私、あのジャンルも嫌いじゃないんですけれどねぇ と笑って。
そのまま左手で男の胸倉を掴んで持ち上げる。

「人の空想こそが、発展と新たなる力への道標です。
 貴方はその道標こそを作れる偉大な人なんですよ。
 ですが、それはそれ」

掴んだままの笑顔で続ける。

「こんな土壇場までデバイスを使えなかった根性なしの夢想家である貴方への悪いニュースですが。
 『私こそが、神の終末やAIの氾濫を起こしうる黒幕です』よ。
 それも直接的にではなく、迂遠で別の誰かを犯人に仕立てて笑ってるタイプの。
 ええ、必要ならば幾らでも異能や魔術なんなら奇蹟も授けましょう」

そして、掴んでいた手を手放す。

「良いニュースです。たかだか1%未満の真理ではなく……私が異世界へ貴方を導きましょう。
 貴方が願うのは、《大変容》以前のような世界でしょう?
 神秘もなく、あるのは科学技術だけ」

トゥルーバイツ構成員 >  
「……僕もSFは好んで読む口だけどね。魔術と科学の融合、だなんて阿保らしい事が日常茶飯事になっているんじゃ、もう筆を取る気にもなれないよ。
スタートレック号に、リザードマンのパイロットが必要かい?デススターに、魔術防壁が必要かい?僕はごめんだね」

胸倉を掴まれる。司祭服を着ている癖に結構乱暴な人だなあ。
もう彼を見つめる瞳に力が籠められない。
だってもう、僕の物語は終わってしまった。

「そうだよ。でも、もう空想を受け入れる余地がこの世界には無いじゃないか。人の空想は、その殆どが叶ってしまったし、叶う可能性が高い。
そんな世界は、つまらない」

本当につまらない。
彼に向ける言葉に、初めて呪詛の様な低さが籠る。

「……君が?へえ、そう。そうなんだ。
やっぱりこの世界はつまらないよ。だって、君の様な存在は、空想の中にいるから輝くと言うのに。
現実に存在するんじゃ、もうそれは空想じゃないからね。世の中の作家達は、また一つ描く『理想』を喪ってしまった」

手が放される。運動不足の身体を突然放さないでほしいものだ。
たたらをふんで、よろよろよろめいて、彼に疲れた様な視線を向けよう。

「異世界に?神秘も無く、空想が空想のままでいられる世界に?
それが叶うならぜひそうしてくれ。僕はもう、僕の中の『理想』が『現実』に侵されていくのが我慢できない。
美しい空想を殺すこの世界が、憎くてたまらない」

ルギウス > くすくすと笑い始める。

「ああ失礼。
 貴方、本当にご自分がお嫌いなんですねぇ。
 だって世界が変わっても、貴方だけは取り残されているんですから。」

ニヤリと笑う。
まるで彼の書いた悪役のように。

「ええ、ええ。
 剣と魔法で世界を救う勇者にも。
 失われた宝を求めて駆ける冒険者にも。
 異世界に転生し、強力な力で無双する転生者も。
 最新鋭のロボットと戦う、正義のスパイすらも!!
 全てが、目の前に居るというのに……貴方はただのちっぽけな物書きのまま。

 かつての夢を叶えているのは、いつも貴方以外の誰か。

 それはそれは、嫌ですよねぇ?」

司祭服の男は笑顔のまま、舞台上であるかのように大股でゆっくりと周囲を歩く。

「さて、それではさっそく世界を渡りましょうか。
 人の少ない場所がいいでしょうねぇ、目撃されると厄介ですし」

トゥルーバイツ構成員 >  
「…嫌いだよ。うん、そうだね。僕は自分が嫌いなんだろう。
決して物語の主役になれなかった自分が、嫌いなんだろうね…」

ああ、そういうことだったのかもしれない。
僕が憎んでいたのは。僕が呪っていたのは世界じゃない。
僕は、僕自身を呪っていたんだ。

「…嫌だなあ。ああ、そうだ。皆、僕が憧れたものになっていくのに、僕はなれなかった。
ただ僕は『憧れ』を描きたかっただけなのに。僕を置いて、皆『憧れ』を『現実』にしてしまう…」

男の言葉が、とても心地良く耳に入ってくる。
そうだ。彼の言う通りじゃないか。
僕の目の前の連中は皆主人公で、僕はただのモブ。
名前すら、与えられない。

「……そうだね。じゃあ、移動した方が良いのかなあ。
ああ、必要なら僕のお金や持ち物は全部君にあげるよ。どうせ、あのデバイスとやらで死ぬつもりだったんだ。
冴えない物書きに声をかけてくれた君へ、どれ程役に立てるが残せるかは分からないけど」

ルギウス > 「ああ、対価の代わりといっては何ですが。
 サインを頂けますか?
 最初に言った通り、ファンなんですよ……ええ、本当に」

ペンと初版本を渡す。

「……行ける場所は文明レベルが近い方が馴染みやすいでしょうねぇ。
 言語が違っても大変でしょう。
 非常によく似た世界を選別しましょう。
 他に何かリクエストはありますか?」

トゥルーバイツ構成員 >  
「…こんな場所でもファンに会えるのなら、しがない物書きを続けていた甲斐があったというものだよ。
どうせ大した価値にはならないだろうけど。大事にしてくれたら嬉しいなあ」

受け取ったペンと初版本。
この初版本を出した時の嬉しさは、今でも鮮明に覚えている。
あの時は、妻がまだ恋人だった頃だ。
貧乏を極めながら創作活動に集中する僕を、ずっと支えてくれていたっけ。
愛華が生まれたのは、この本の印税が安定して入ってきた頃だ。
あんなに厳しかったお義父さんが、気持ち悪いくらいだばだば泣いてたよなあ。


「一つだけ。頼みがある。
さっきの言葉を翻す様で悪いんだが、僕のお金。日本にいる妻に何とか送って欲しいんだ。住所とか連絡先は、僕の荷物に入ってるから。
ごめんね。我儘ばっかりで、申し訳ない」



最後に男が頼んだのは、残していく妻と娘への気遣い。
でも、男はそれでもこの世界に残るとは言わなかった。
それほどに、男は世界に絶望し、呪っているのだから。

ルギウス > 「もちろん、大事にしますよ。
 どうにも私はコレクターの気質もあるようでして。
 手に入れたモノは中々に手放さないんですよ」

思い出しているであろう最中もじっと待つ。
今生の別れになるのだ、たかが数分くらいどうってことはない。

「ええ、構いませんよ。
 なんなら奥さんや娘さんも一緒に転移させることも可能ですが?
 私にとってはどちらにしろ大した手間でもありませんからねぇ。
 どうぞ、好きなだけ我儘を言ってください」

本当に、誤差なのだ。
異世界へ攫うなんて、よくやっていたのだから。

トゥルーバイツ構成員 >  
「……いや、妻と娘は良いかな。
これは僕の我儘だ。僕の『理想』だ。
そこに二人を巻き込みたくはない。本当は、世界そのものを変えてしまいたかったけどね。
……あ、これ、どうぞ。サインなんて久し振りに書くから、上手く書けたか自信ないや」

きゅきゅ、とペンを走らせてサインを書き込んだ。
これがこの世界で僕が最後に残すサインだと思うと、何だか感慨深い。
…初めてのサインは、実は初恋の人にあげちゃったんだよなあ。彼女は、まだあれを大事にしてくれているだろうか。

「…それ以上に望むことはないかな。うん、ない、かな」


そういえば、愛華に新しいゲーム機を買ってやる約束をしていたなあ。
そういえば、奈津美と今年の結婚記念日はちょっと高いレストランに行こう、って話をしていたっけ。
そういえば、今度のお盆は親父の墓参りに皆で行こうかって話もしていたっけ。
そういえば、新しい担当さんとはまだ顔も合わせてないや。
そういえば、そういえば、そういえば――


「…あ、いや。その、あのさ。ごめん。やっぱり、ちょっとだけ。
あと何日か考えさせてくれないかなあ。
ほら、こういうの、急いでも良くない…んじゃないかなあ」

ルギウス > 「ありがとうございます。
 私が滅びるまで家宝しておきましょう。
 ……たまに、読み返すんですけれどね」

笑いながら嬉しそうに受け取りつつも。

「残念ながら、異世界へ連れて行くのは今だけです。
 貴方だけの延長戦です。
 ここを逃せば、私は貴方を異世界へ連れていくつもりはありません。
 キャンセルは構いませんが―――どうぞ、『今』お選びください。

 貴方の理想世界へお一人で行くのか。
 貴方にとっての満ち足りた地獄を続けるのか。」

視覚的にわかりやすいように、門を開く。
その先は現代日本とよく似た風景だ。

トゥルーバイツ構成員 >  
「今、今選ばないといけないのかい?
それは……そんな、いや、でも…。
そうだ。こんな、こんな世界が嫌で。僕は、僕は――」



足が震えて来た。
おかしいな。デバイスを使おうとしてた時は、覚悟を決めていたはずなのに。
いや、違う。そうじゃない。
彼が来なくても、どうせ僕はデバイスを使えなかった。
僕にとってこの世界は呪うべき場所で、唾棄すべき世界で。
でも、幸せな世界だったんだ。



「……ごめんね。折角だけど、君のお誘いには乗れないや。
家に帰る事にするよ。僕は最後迄、主人公にはなれないみたいだ」

「それに、悪の親玉に連れて行ってもらう世界は、ちょっと信用できないなあ」


開かれた門の先の『理想』の世界。
そこに耐えがたい欲求を覚えながらも、彼にへらりと笑ってみせようか。
足は震えてるし、何なら手もちょっと震えてるし、笑い顔も引き攣っているかもしれないけど。
家に帰りたくなったんだから、しょうがないじゃないか。

ルギウス > 「ああ、残念です。
 実に……残念です。もう少しで喜劇の終わりになったというのに」

門の向こうの風景に変化が生じる。
空から黒くて長い何かが大量に落ちてきて。
爆発、そして炎上。
あっと言う間に、地獄絵図に変わっていく。

「おや、あちらではこのタイミングで始まったんですねぇ。
 第三次世界大戦」

くすくすと肩を震わせて笑っている。

「いや、実に残念です。
 貴方は実に運がいいようですねぇ、先生。
 ええ 貴方は選んだ。結果を曲げるような事はしませんよ。
 それをしたら、私の信念が曲がってしまう。」

門の風景が切り替わる。
先には、見覚えのある玄関が写っている。

「運命に打ち勝った勝者には褒美があるものです。
 直通で帰れますよ、おめでとうございます、先生。
 貴方はたったいま……モブではなく、一人の勇者と相成りました」

トゥルーバイツ構成員 >  
門の向こう側が、地獄へと変化していく。
きっと門の向こう側では、沢山の人が亡くなっているんだろう。
それを何だか現実感を感じないまま、ぼんやりと眺めていた。
どうやら世の中には、まだ僕の想像がつかないものもあるらしい。

「第三次世界大戦…君、ファンだっていう作家を酷いところに連れていこうとしてたね?君結構人でなしだね?」

彼は笑っているけどこっちは笑い事じゃないぞ。
あの門をくぐってたら、今頃火だるまだ。
作家の火だるま。美味しくはないだろうな。

「いやホント。誘いに乗らなくて良かったよ。
この島には本当に碌な奴がいないね。僕は結構怒っているよ。
でも、僕みたいなおじさんがぷんぷん、とか言っても気持ち悪いね。娘には受けがいいんだけどね…」

38歳のおじさんがぷんぷんとか言うと大抵は奈津美に凄い目で見られる。
でも、愛華が笑ってくれるから良いのだ。普通は逆な気がするけど。

「……それも嘘だったら嫌だなあ。でも、悪魔っていうのは意外と嘘はつかないものだからねえ。
信じるよ。家に帰れるというのなら。もう届かない『理想』を追いかけるのは、止めにしよう」

「あー…いや、僕は勇者じゃなくていいんだ。モブで。名無しの物書きでいいんだ。
それで、僕が書いた本を読んで、いつかこの世界に勇者が現れたら。きっと君を倒しにくるよ。僕の本を読んだ勇者が」

「それまで元気で過ごしていてね。名も知らぬ司祭様。
今夜は、話が出来て楽しかったよ。ありがとう」


そういって、男は門の中へと足を踏み入れる。

ルギウス > 「<真理>に喰われるのと、そう変わらない結果ですよ。
 無差別攻撃である分、あちらの方が生存率が高いくらいですが?」

さも、当然でしょう? といった風情。
日常茶飯事のようで。

「この島も捨てたもんじゃありませんよ、今度はきちんと観光旅行に来ることをお勧めします。
 他所では味わえないモノが目白押しなのは保証しますよ。
 ……そもそも自殺志願者としてやってきて、まともな人脈が得られるわけがないでしょうに。」

やや苦笑気味に笑ってから。

「こちらにある荷物は改めて送付しておきましょう。
 ……私に打ち勝った人は異世界でも数える程ですよ、誇ってください。
 ああ、ではまだ見ぬ勇者たちに倒される時にはこう伝えるとしましょう。
 『ザ・クリエイター』が私を超えた と。
 これからの人生に幸が多からんことを」

門を超えるのを笑顔で見送る。
別に意地悪や罠を仕掛けるつもりもない。

実に楽しい、満足の行く 負け方だったのだ。

ルギウス > 超えたのを見届ければ、司祭服の男は姿を消した。
ご案内:「落第街 路地裏」からルギウスさんが去りました。
トゥルーバイツ構成員 >  
そうして、男は門の中へと。
呪い、憎んでいた日常へと戻っていく。

後に、彼が久方ぶりに書いた本。其処には、闇夜の様な黒の司祭が悪の親玉として描かれていたとか。

ご案内:「落第街 路地裏」からトゥルーバイツ構成員さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」に刀々斬 鈴音さんが現れました。
刀々斬 鈴音 > 歓楽街からすーっと伸びた細い路地。
その路地から一回、二回間道を違えればこの路地裏へとたどり着く。
人目の少ないその道は人目を避けて落第街にはいるにはぴったりなのかもしれない。

そこに響く二つの足音。

必死なものと、楽し気なもの。

追われる者と、追う者。

追っているのは刀々斬鈴音、頭のおかしな妖刀使い。

追われているのは女子生徒。…こんなところにいるのだから恐らく2級学生だろう。

刀々斬 鈴音 > 「ねえ?大丈夫?そろそろ疲れてない?
 暑いし、ムシムシするし一回休んだ方がいいよ?
 大丈夫、鈴音も待ってあげるから。一緒に休もう?」

手にした刀を振り回しつかず離れずの距離を保って女子生徒を追い回している。
少し速さを緩めれば刀が背中に届く距離。それでも届かないのは鈴音が手加減しているからに他ならないだろう。

「あっ!そこで右に曲がるのは駄目!まっすぐね!」

その言葉と共に刀から飛ぶ斬撃、進む方向もコントロール。
この先には行き止まりしかない。

ご案内:「落第街 路地裏」にフレイヤさんが現れました。
フレイヤ >  
「あら?」

路地裏をうろうろしていたら、行く先の曲がり角を女子生徒が走って行った。
何か面白いことでも起きているのかな、とワクワクしながら曲がり角から顔を出す。
ちょうど追う側の彼女と鉢合わせた。

「――こんばんは。楽しそうなことしてるわね?」

スカートの裾を摘まんで持ち上げ、お辞儀。
にっこりと笑顔を向ける。

刀々斬 鈴音 > 「こんばんは!うん!今いいところだからしばらく待っててね!!
 あとであなたも斬ったげるから!!」

そんな物騒な事を言うとそのまま少女の横を通り抜けていこうとする。

今は一番たのしいところ。
後は追いつめられた相手をざしゅざしゅするだけ!!

この人はその後でもよい…。

フレイヤ >  
「……」

素通り。
それを目で追って、

「無視しないでくれない?」

手にした鞭を彼女の脚へと振るう。
抵抗しなければそれは彼女の右足へと巻き付いて、文字通り足を引っ張るだろう。

刀々斬 鈴音 > それなりの速さで走っているところを足を引っ張られれば必然。
見事に転倒した。
ビターンとかそんな擬音が似合うほどの転びっぷり。

「痛ったー!!!何するの!!」

絡みついた鞭をほどくと刀を構えて向き直る。
完全にその矛先は変わった。

「鈴音はちゃんとこんばんは!って返したじゃない!あなた嫌い!!」

無視は無視はしてないと!刀をブンブン振りながらそんなことを主張する。

フレイヤ >  
「まぁ痛そう」

思いっきりびたーんと倒れた。
異能を使ったので怪我はしていないだろうけれど、きっとその分痛い。

「忙しいところを邪魔したのは悪いと思っているけれど。でもこの私が直々に挨拶したのだから、貴女もちゃんと足を止めて最大限の敬意を持って挨拶するのが礼儀と言うものじゃないかしら?」

ふん、と偉そうに腕を組みながら不満げに。
上から目線。

刀々斬 鈴音 > 「…大丈夫?たんこぶとかできてない?」

小さな声で言って額などを確認してみるもケガとかはしていない。
だがすごい痛い…。

「なんで鈴音が敬意とかもたなくちゃいけないの!?鈴音の方が可愛くて強くて偉いのに!!」

睨みつけながらそう返す。偉いとか可愛いかはともかく…。

「そんなに鈴音に遊んで欲しいなら!先に遊んであげる!!」

刀々斬鈴音は戦いになれていない並みの生徒と比べると相手にならないくらいには強い!!
刀を思い切り振りかぶりながら少女へと駆け寄っていく!!

フレイヤ >  
「私は貴族で貴女は庶民。目上の人と接する時は敬意を持つって教わらなかったかしら?」

ひゅん、と鞭を振るう。
開いた腕は腰に当て、とてもとても偉そうに。

「野良犬はすぐ人に噛み付くんだから。ちゃんと躾けてあげなくちゃ」

走り寄ってくる彼女の前方の地面を鞭で打つ。
スパァン!と言う空気を切り裂くような音が鳴り響き、その場所の周囲の地面から棘が数本彼女へ向かって勢いよく伸びる。
喰らえば骨が折れるでは済まない威力。
だが自身の攻撃で与えた怪我なら痛みに変換されるだろう。
こちらが半分を肩代わりするとは言え、それは怪我の度合いと同じ痛み。

刀々斬 鈴音 > 「そんなの誰にも教わってない!
 そんな偉そうにしてると友達いなくなっちゃうよ!!」

…そんな事をいう鈴音にも友達と言える存在はいない!

「鈴音は犬じゃない!!」

向かう刺のうちいくつかは打ち払うがそのうち一本は鈴音の脇腹を抉る位置に!
しかし、実際傷はつかない。そこに来るのは異常な痛み。

「痛い!痛い!!痛い!!何!?何をしてるの!」

思わず距離を取って自らの脇腹を確認する。
しかし、そこには傷一つない。

フレイヤ >  
「っ……♡」

同じ場所を抑えてこちらもよろめく。
しかしこれは愛ある躾の痛み。
苦痛など全くない。

「さぁ、なにかしら? それより近付かなくていいの? 近付かないと噛み付けないわよ?」

ひゅんひゅんと威嚇するように何度か鞭を振るう。
相手は刀。
こちらは鞭と魔術。
リーチの差は歴然。
見た目に似合わぬ妖艶な笑みと共に唇をぺろりと舐め上げて。

「ほら、踊りなさい」

地面を鞭で叩く。
地面が抉れ、抉れた分の質量の弾丸が彼女へ向かう。
自分の周囲の地面を幾度も鞭で叩き、その度に人の頭ほどの大きさの弾丸が射出される。

刀々斬 鈴音 > 「うぅ!!!」

にらみつけて唸ると再び距離を詰めようとする。
だが、避けることに精いっぱいで近づくことができない。

そして、よけきれない小さな石片が体に当たる度異常な痛みが体に走る。

「あーもう!!今日は使わないでもいけると思ったのに!!!」

刀を鞘に納めて、それを居合のように振りぬくと飛び散る赤黒い液体。
それに伴い伸びる赤黒い刀身。

鞭よりも長くなったその刀で鞭を持つその手を斬り飛ばすために振るう!!

フレイヤ >  
「っ、……♡ くぅ……♡」

彼女がダメージを負うたび、こちらにもダメージが返ってくる。
その度にいちいち身を捩って動きを止めて。
どう見ても戦闘に慣れていない。
それでも有利に立てるのはやはりリーチの差があるのだろう。

「なっ……!」

しかしそれを覆されれば、脆い。
大げさに横へと飛び退き、しかし狭い路地裏故に壁に激突。
頭をぶつけ、よろめく。

「っ、こ、っの……大人しくなさい!」

バン!と壁を手で打つ。
魔力が彼女の横の壁まで走り、そこから巨大な柱が飛び出してくる。
避けられなければ反対側の壁にそのまま挟まれるだろう。
そうなれば、異能のおかげで圧死する事こそないが、それに見合った痛みが彼女の身体を襲い続けることになる。

刀々斬 鈴音 > 「さっきから何で鈴音が怪我するたびに悶えてるの…怖いよ!!!」

人を痛めつけて嬉しくなるタイプ…。
自らを棚に上げて恐怖する。同じタイプなのでは?

「柱!?」

とっさに長くなった刀を壁と柱との間に挟めばびちゃびちゃと生き物がつぶれるような音を立てて刀は短く柱は赤黒く染まっていき。
速度のおちたにゅるりと抜けだせば柱の上を走って一気に距離を詰めに行く。

「危なかった…死ぬかと思ったけど…これは鈴音の勝ちだね!」

柱の上から飛び掛かり!再び斬りつけようとする!!

フレイヤ >  
「跳んじゃって、いいの?」

自分の頭上、空中へと飛び出した彼女へ笑顔を向け、再度鞭を振るう。
自身の周り三か所――前方と左右――を続けざまに打てば、そこから鋭い棘が飛び出す。
空中で身動きが取れないであろう彼女の腹を抉るような軌道。
同時に、自分を囲って相手の攻撃が届かないようにするための壁でもある。

刀々斬 鈴音 > 『学習能力がなさすぎる…』

…刀から無機質な声がする。

「ちーちゃん!」

『全部右手で受けろ鈴音』

刀の声に即座に反応して刀を左手に持ち替えて、そして、刺を右手の甲で受ける。

「っ!!ああああ!!!!!!!」

神経の集中している手への激しい痛み。
だが、やはり穿たれるはずの穴はそこになく。

「痛いよ…もう、やだ…。」

そのまま地面に降り立って痛みに涙を流しながらも左手で刀を構え続けるのを止めない。

フレイヤ >  
「っはぁ……♡」

右腕に走る痛み。
思わず鞭を取り落としてしまう。

「痛い? でもそれは私も同じなのよ」

落とした鞭を拾い上げる。
今までに出したものもそうだが、棘はボロボロとすぐに崩れて土に戻って。

「私だって貴女に痛みなんて与えたくないわ。だって痛いのは嫌でしょう?」

そうして鞭を振るう。
一方的な理屈を振りかざし、一方的な感情で、一方的に人を痛めつける。
その歪みに気付かぬまま。

「だから痛いのが嫌なら大人しく言うことを聞いて? 私も貴女を苦しめるのは好きじゃないわ」

そうしたら優しく愛してあげる、と。
確かめるように、直接鞭を彼女へと振るう。

刀々斬 鈴音 > 「なんで、自分も痛いのにそんな事するの…。
 分からないよ…なんで…。」

鈴音が振るう血腐レは斬れば斬るほど一方的に快楽を得ることができる。
それならば鈴音にも人を傷つける理由が分かりやすい。

でも、自分が痛いのにも関わらず人に痛みを与えるだなんてまるで自分自身が痛みを求めているよう。
…鈴音には理解できない。

「嫌、鈴音痛いのイヤ。…もう、やめてよ。」

鞭を振るわれるとその痛みを思い出し反射的に身を守るような姿勢を取る。

フレイヤ >  
「じゃあ私の言うこと、聞ける?」

その反応を見て満足げな表情。
鞭を巻いて束ね、近付いていく。
無防備に。

「私が駄目って言った事はしない。私がしてって言った事はする。ごはんもお金も、貴女が望んで私が用意出来るものならなんでも上げるわ」

そうして彼女の近くまで近付いていき。

「――私のペットになる? それを約束できるのなら、もう痛いことはしないわ?」

彼女の頬に触れようと手を伸ばす。

刀々斬 鈴音 > 「言う事聞く…ごはん、お金……あっ…人は、人は斬っていい?」

すがるような眼で人を斬ってもいいか尋ねる。
大事なのはそこだけ、それ以外はなんとでもなる事。

「……。」

少し考えて、頼るように刀の方を見る。
しかし、刀は何も答えない。

「えっと……これからも人斬っていい?」

頬に触れた痛み以外の感覚温かさ。