2020/08/11 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に『シエル』さんが現れました。
ご案内:「落第街 路地裏」に白灰さんが現れました。
『シエル』 >  
共同墓地で過去を思い返した後。
『シエル』は、落第街へ戻って来ていた。

組織の長、裏切りの律者《トラディメント・ロワ》のことを
考えながら、拠点へと戻る道を辿っていた。

違反部活群には、拠点とは行かないまでも確保してある小さな
空間が幾つかあり、まずはそこで衣服を着替えることにしている。

二級学生と、違反部活生。
表の顔と裏の顔を切り替えて生きる彼女には、必要な工夫だった。

『シエル』は曇り空の下、虚ろな表情をそのままに、
歩き続ける。

白灰 > その、途中、背中が見えた。

自分をいつも先導し、仲間達を鼓舞した背中、その背中は

裏切りの律者《トラディメント・ロワ》に、似ていて。

『シエル』 >  
ふと、視界の端に映った人影。

あのコート、あの髪型。
見間違えようもない、彼――裏切りの律者《トラディメント・ロワ》
の後ろ姿だ。

まさか、と思いつつも、
それでも。

気付けば、その影を追って、『シエル』は走り出していた――。

白灰 > 『いつもの道』を抜けて曲がり角、そこを抜ければ、アジトへ続く道で

まさか、まさか

そうなんじゃないか?と
期待と不安が彼女を突き動かす

その刹那

『シエル』 >  
幻だろうか、或いは何かしらの異能だろうか。何らかの、罠かもしれない。
そういった考えは頭の中で、常に巡らせ続けている。
しかしそれとは別に、足は動き出していた。止めることは、できなかった。
死んだ筈のあの人が、目の前に現れたのだ。

追いかけ続けたその先。曲がり角で大きなものにぶつかった『シエル』の矮躯は、
床に転がった。
普段であれば、曲がり角の人間の気配など、簡単に察知できるというのに。

『いけねぇな、嬢ちゃん……いけねぇや』

それは、でっぷりと腹を出した男だった。所々が破れた灰色のコートに、
垢と埃で汚れた肌。その中で、彼が咄嗟に取り出したナイフだけが、
一瞬雲の隙間から現れた月光に照らされ、白く輝く。

『嬢ちゃんみたいな上玉が、この落第街をほっつき歩いてちゃ、いけねぇ……』

男は彼女へと躙り寄り、その太い掌を、ナイフと共に彼女の前へと出す。
輝くナイフに自らの、『制服姿のシエル』の虚ろな顔が反射するのが見えた。

『どうだい、おじさんが嬢ちゃんを手厚く『保護』してやるからさ……へへへっ、ほら、こっち来いよ』

男の手が、制服にまで伸びて――

白灰 > 「感情に任せて尾行はするな、と前にも教えたつもりだったんだが、な」

声が、聞こえる、それは、同じ声だが違う喋り方で。

同じ髪型、同じコート、ただ、肌の色と、『仮面』が違う、彼の面では無く、焼け焦げた犬の仮面

「久しいな、お嬢」

仮面を落とす、影に沈んだ画面が飲み込まれるように消え

巨躯をもつ狼となり

「フン」
睨みつければ影から棒が生まれて、男の頭を打った

『シエル』 >  
巨漢の背後から声を出して現れたのは、『シエル』が追いかけていた男。
しかしそれは裏切りの律者《トラディメント・ロワ》その人ではなく――


「……刀《ブレイド》」

思わず、声に出す。
ロワを思い起こす時と同じく、彼女の心の内に一瞬、色が芽生える。
それは、潤いのある喜びの色だった。


『あぁ? なんだァ、てめ……っ!?』

的確に気絶を狙った、影よりの精緻の一撃。
棒で頭を打たれた男は、倒れて動かなくなった。
それを、眉一つ動かさずに見ていた『シエル』だったが、
すぐに眼前の狼を見上げて、口にする。

「生きて……いたのですね」

その男は、かつて。
門より現れた外界の異形との交戦中に、死んだ筈の男だった。
あの炎の中で、ロワと共に命を落としたと、
誰もがそう認識していた男だった。

白灰 > 「すまんな、この姿では不便も多くてな」

駆け寄るように近づき、鼻先を彼女に近づければ

「遅ればせながら、『刀』帰参した」

傅くように頭を垂れ

彼の名付けた、「ヤイバのように鋭いな、白灰は」と名付けた名を

『シエル』 >  
「すみません……彼のことになると――」

ロワのことになると。
失われた筈の自身の感情が、一瞬、色を芽吹かせることがある。
すぐに失われる、朧げな感情ではあるのだが。
何故ならば、彼女の感情は一度、『殺されて』いるからだ。
この世界に来る前、彼女が本当の道具であった頃に。


「とにかく、貴方が生きてくれていて、良かった……
 色々聞きたいことはありますが、戻ってからに、しましょうか」

そう口にして、シエルは立ち上がる。
埃を払ったその腕から、血が滴っている。
周辺に散らばっていた酒瓶の破片が、彼女の皮膚を裂いたのだろう。
しかし彼女はそれを気にも留めず、歩き出す。

白灰 > 「まあ、奴はいいやつだが、女を泣かせるのだから、悪いやつだな」


此方も、友を思いながら。
苦笑しながら、姿を縮める。
一般的な野良犬の姿に

「お嬢、相変わらずだな」

傷を見て苦笑する、手当ては、今の姿では不便だ、やれやれと
ついて歩き出し

『シエル』 >  
気絶した男の方を振り返る。
落第街。
このような『小さな悪事』を働く者達が、
数え切れないほどこの闇に潜んでいる。
彼らは、此処にしか居場所が無い者達だ。

彼らの居場所を、落第街の均衡を維持する。
それは、表の世界の治安にも繋がってゆくことだ。
裏と表は切り離せない。裏のバランスが大きく崩れた時、
必ず表の世界にも少なからず影響がいく。

表と裏を行き来する裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》は
落第街の均衡を維持する為に、『表の世界から堕ちてきた裏切り者』に
よって、創り上げられた。

風紀委員も公安委員も、よく動いている。
故に、表の世界について大きな心配を『シエル』はしていない。
しかし、裏の世界には『法』を振りかざすだけでは裁けぬ者も居る。

落第街の均衡を維持せねばならぬ時。その悪が『法』で裁けぬ時。
裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》は、
本当の意味で立ち上がる。
相対的な概念でしか有り得ない『悪』という『幻想』を背負い、
『悪』という『幻想』を狩る。


野良犬と横並びに歩きながら、『シエル』は目を閉じる。
その幻想的なまでに曇りなき白の髪が、風に揺れる。


「……共に、改めて始めましょう。私達の――」


――裏切り《トラディメント》を。



『こんな裏切りが必要のない世界になれば、それほど
 幸せなことはねぇんだがな』

ロワの口にしていた言葉を、思い返す。
思い返しながら、それでも歩を進めるしかない。
『責任』が、ロワの影が、そして今も生きる仲間達が、
彼女の背を押してくれる限りは。

ご案内:「落第街 路地裏」から『シエル』さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」から白灰さんが去りました。