2020/09/03 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」にナインさんが現れました。
ナイン > 普段から時間があればあちこちに顔を出しては大騒ぎをやっていく3人組。
世間でいう夏休みが終わっても学生でないので変わらない日々。
そんな訳で気が向くままに出かけ到着したのは落第街の路地裏、ある意味彷徨い慣れた場所。

「早くください」
「あるのは判っています」
「速やかに出すのです」

そんな3人に捕まったのは運が悪い学生服姿の露店商。
お金を突きつけられて騒がれては完全に参った顔。

『わかったから騒ぐなって。もってけ猫ども』

ただ参った顔でも毎回の事なのかお金を受け取りと大袋に入った物を差し出す生徒から受け取ればそれぞれが満面の笑み。

「「「ありがとうです!」」」

その満面の笑みのままに大袋を抱えて露店を離れて歩き。

ナイン > タダの散歩のつもりであったがついよく買い物をする露店を見つけて買ってしまったお菓子。
安く大量に買えるのでついつい買ってしまったが散歩をするには大荷物。
しかし手放すつもりは全くなく抱きかかえて歩き。

「帰ったら楽しみです」
「おすそ分けするのです?」
「私達で食べてしまいましょう」

3人で食べるには多すぎるようなお菓子だが食べつくそうと。
おすそ分けも考えはするが食欲には勝てずに即決で決まり。
物騒な場所ではあるが特に何も起きずに楽し気に歩いて。

ナイン > それでも時には声をかけられる事もある、主に碌でもない目的を持つ者に。
笑って馬鹿をやって抜けてはいるが大本が大本、人の悪意というモノには敏感。
そう言う考えを持つ者には問答無用でパンチやキックが飛び、しかも手加減という文字がないので大惨事。
しかも元加害者、現被害者はそのまま放置され救いはなく、やった3人は楽しそうに歌いながら路地裏を歩き。
そうしてやがて……。

「見えてきた!」
「「戻ってきました」」

路地を抜けた先に鎮座する元の身体である多脚戦車。
その上に3人そろって這い上がれば低い音を立て起動をする戦車から落ちないようにし。

「「「しゅっぱーつ!」」」

その声に合わせて動き出す戦車に乗って去っていく……。

ご案内:「落第街 路地裏」からナインさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」に龍宮 鋼さんが現れました。
龍宮 鋼 >  
路地裏の一角の壁が、轟音と共に内側からはじけ飛ぶ。
その壁を突き破った男は、反対側の壁をも貫通し、それっきり。
続いて数人の男たちがばらばらと蜘蛛の子を散らすようにその穴から飛び出してくる。

モブ不良たち > 「お、おい! 話が違うじゃねぇか!」
「こいつ弱ってんじゃなかったのか!」
「無駄口叩くな! そんな余裕――ぐあぁっ!!」

龍宮 鋼 >  
一人の男が砲弾のような速度で突っ込んできた何者かに跳ね飛ばされる。
男の頭を掴んで横合いの壁へと叩き付け、詰まれた木箱へと思い切りぶん投げる。
やたらめったらに派手な音をさせ、また一人動かなくなった。

「――俺がどこの誰にどう負けたっつってもよォ」

ゆらり、と上体を揺らす。
初めは二桁に届くかと言う人数も、既に残すは二人。
その二人にゆっくり、一歩ずつ近づいていく。

「俺が弱くなったわけでも、テメェらが強くなったわけでもねェんだわ、あ?」

射程圏内。
何も考えず腕をぶん回したってどこかに当たる距離まであっさりと踏み込む。

モブ不良たち > 「く、くそオオオオオオオオオオ!!!」
「うわアアアアアアアアアアアア!!!」

龍宮 鋼 >  
半ば半狂乱に陥った男たちは、ヤケクソと言った感じで拳を振りまわし、

龍宮 鋼 >  
「邪魔っくせェエエエエエエエエエ!!」

龍宮 鋼 >  
その拳ごと押しつぶすような拳打の嵐。
数瞬の内に上半身をまんべんなく滅多打ちにされた二人は、それぞれ道の両側の壁を突き破って瓦礫の下へ埋もれていった。

「――つまんねェケンカさせてんじゃねェよ、クソが」

不機嫌な顔で呟き、地面を蹴る。

龍宮 鋼 >  
ここのところ立て続けに二人の風紀委員とケンカをした。
一人にはあの呼び方をされての暴走の末に、自分の組織と応援の風紀委員に双方取り押さえられ。
一人にはガキのワガママみたいな意地の張り合いの末に負けた。
どちらも不本意で全く面白くないケンカだった。
それ以上に不本意で全く面白くないことに、その結果を受けて何やら噂が流れているらしい。

曰く、龍宮鋼は弱っている、と。

見当外れもいいところだ。
ケンカをしていれば勝つこともあれば負けることもある。
たまたま二回続けて勝ちではなかったと言うだけで、そんな噂を流され、名を上げようとする無謀な連中が次々とやってくる。
全くもってつまらない。

龍宮 鋼 >  
――諦めないでくださいよ――

そう自分に言ってきた風紀委員を思い出す。
何を知ったふうな口を、と顔を歪める。
何も知らないくせに。
たまたま救われただけのくせに。
イライラして積まれてあった木箱を殴りつける。
派手な音を路地裏に響かせ、吹き飛んだ。

「クソッ」

理由はわからないがとにかくイライラする。
あの風紀委員のすべてが腹が立つ。
わかった様な口の利き方も、アイツだけ救われていることも、それでこちらを見下していることも、何もかも。

龍宮 鋼 >  
今まではケンカが出来ていればよかった。
勝っても負けてもとにかく楽しいケンカが出来ればそれでよかったし、気に喰わない相手だって一度楽しいケンカが出来れば割とどうでもよかった。
そもそもケンカそのものが楽しかったのだ。
ぶん殴ってぶん殴られて、またぶん殴って。

だと言うのに。
アイツとのケンカは何も楽しくない。
アイツは強かったのに、強い奴とのケンカなのに、アイツの拳で倒れるのは我慢出来なくて、自分の拳で倒れないのが腹が立って仕方が無かった。

負けたくなかった。
とにかく負けたくなかった。
自分の方が強いんだと、自分の拳でアイツを叩きのめして思い知らせてやりたかった。

「――っクソがァッ!」

壁を殴る。
ズドン、と壁を拳が貫通し、ガラガラと崩れていく。

モブ不良たち >  
「龍宮鋼ェ!」

龍宮 鋼 >  
そこへ、更に不良たちがやってきた。
さっきの一団とは別の連中らしい。
全く次から次へと飽きもせず。

「オーケーわかった。そんなに地獄が見てェならいくらでも見せてやるよ!!」

何やらわめいている不良たちに、砲弾のような速度で突撃。

龍宮 鋼 >  
今日の落第街は、普段よりも少しだけ騒がしい。

ご案内:「落第街 路地裏」から龍宮 鋼さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」に羽月 柊さんが現れました。
羽月 柊 >  
薄暗い道を音で裂くように、
質の良い革靴がカツンカツンと響く。

音を鳴らすことは存在を知らしめること。
それはある意味諸刃の剣ではあるが、意志を持ったそれは、
存在を知らしめても問題が無いと、周囲に警告する証でもある。

闇に喰われない為には、己を弱く見せてはいけない。

闇の数多の雑踏に混ざりはすれど、音の主を知っているならば、
その存在を確かに捉えることが出来るだろう。

白い鳥のような生物を二匹連れた男が、落第街の裏路地をそうして歩く。
黒いスーツを着こなし、夜空のような黒紫の長髪を揺らし、
竜を模した仮面の奥で桃眼が瞬く。


どれほど善人と言われようと、教師となろうとも。
男は、羽月柊は、裏の世界に関わることを辞めることは無かった。

それは彼が研究者であり、魔術師である故に。

ご案内:「落第街 路地裏」に吸血鬼《ヴラド》さんが現れました。
吸血鬼《ヴラド》 >  
光強まれば、また影も濃くなる――、
この夜闇に響くのは白か黒か……

この『下り坂』にてその姿を見つけたのは偶然か。
それとも、一月ほど前の事件に際にその名を――紫陽花 剱菊という男と接触し《デバイス》を所持していた男として組織の監視役から報告を受けていたからか。

自分以外の誰もが彼を『見逃している』のであれば、恐らくは後者か。


――羽月 柊。

現在教員となった男性。
なんてことはない研究員であったが、トゥルーバイツの事件の後に学園の教職員となった。
他、特に『目立った』ことはないので組織の監視からすぐに外した相手。

その男の事を知っていたからこうして、気がついたのだろう。

表の道を大きく歩み始めた者が今更、なに用か。
かつての情報から思わず、追跡を開始してしまった。
黒き仮面を被り、後を追う。

羽月 柊 >  
『トゥルーバイツ』事件の以前から、羽月柊という男は裏の世界に関わっていた。
裏競売、裏取引、魔術師として往来では行えない情報のやり取り。
それらは裏世界の利益になると知った上で、男は行っていた。
そうしなければいけない理由や、そうして生きて来た理由があるからだ。

柊はそんな、この落第街やスラムの一側面で、
裏の世界に打撃や影響を与えられる程の大それた人間ではなかった。

『トゥルーバイツ』との一件で、僅かばかりの光を見せたとて、
それはこの広い常世島という舞台の上、主役は既にフィナーレを演じ切ろうとしていた最中、
本当に片隅で、舞台に上がって…『物語』に登場した端役なだけに過ぎなかった。

故に、今も『見逃されていた』のかも、しれない。

表の世界を歩き始めたからといって、
今までの何もかもを無しになど出来るはずはない。


男の傍らの小竜がキュイと鳴声を上げる。

「あぁ、……そうだな。」

静かにそれに返事を返して、歩みを止めることなく闇を進む。


"音"は響く。


悠長にも胸元のポケットから、煙草の箱を出して… 一本手に持ちながら。

吸血鬼《ヴラド》 >  
彼が歩く先は暗闇、後に続く者には彼の吐く煙で行き先など分からない。
登り始めた彼が再び、こうして底へと降るのは、未だ捨てきれぬ何かの為か。

女子生徒一人が、多勢を扇動し得る可能性を示した今、同じ轍を踏むのは愚かなこと。
研究者一人、教職員一人で何が出来ると侮る事は、あの失策を、かつて彼女がみせた本気を侮る事に他ならない。

彼の連れる小竜の小さな、声。


ここで、違和感。


カツン―――、

夜道に響くこの靴音。
響くその音。

「……!」

反響探知――《ソナー》と呼ばれる魔術系統が存在する。
人混みで使えば、その情報量に並の者では頭痛を覚えるとか以前に講義で習った話をふと思い出し嫌な予感がした。
認識阻害の術式を組み込まれている仮面を身に着けているとは言え、仮に探知魔術を直に食らっていたとしたら――意味はない。

息を飲みながら、探知阻害の風魔術の印を結ぼうとする。

羽月 柊 >  
ふぅ、と、男は煙を吐き出す。
それは……地を這う。

それは──青年の後ろにゆるりと這う。


息を飲んだ…その心の動揺を計るかのように、煙が揺れて…。


吸血鬼《ヴラド》。
君がこれから立ち向かう先は、かつて、『トゥルーバイツ』事件の最中、
あの山で出逢った『教師』の友人で……彼と同じく……。

■■■ >  



『ギャッギャッギャッギャ、遅い、おゾい。』


    『知って』いるモノだ。



 

■■■ >  
仮面の青年の背後から声が聞こえる。

常人ならば、心が麻痺していなければ感じるだろう。
そこに在るのは、何もかもの良くない予感。

何かしらの良くない事で、
何かしらの不幸で、
何かしらの災厄で、
何かしらの哀しみで。

そんな悪寒にも似た感覚を、ありったけ搔き集めて背筋に流し込むような。
しわがれた声と共に、男とも女ともつかない音で。


──男はまだ、背中を向けている。

吸血鬼《ヴラド》 >  
全く、学習が足りないというか――まだまだ未熟が目立つか。
予感というのは確信が近いから訪れる。

どうにも自分は足りないモノが多い。

認識阻害の黒霧を薄めて、
両手を頭の上に広げて ゆっくりと立ち上がる。


「……参ったな」

自身の未熟さにため息一つ吐き捨てた。

認識し切れてなかったのは此方側かな。
手は印を結べないように大きく開いてみせる。

「問答無用、というのは困るんだが」

意識は前と後ろに、下手に振り返りはしない。
目の前の男は魔術師で小竜まで連れている。

羽月 柊 >  
「そこまで血に飢えちゃあいないさ。」

青年ごと、魔術の煙草の範囲内におさめて、男はそう返事を返した。

匂いのしない煙草。
これは煙草に似せた魔術の品。

煙がある間、他人はなんとなくこの場を避けて歩く。

それでも、気配に敏感なモノ、魔術に精通しているモノは気付いてしまう。
本当に些細な結界で、故に気付かれにくい。


ゆるりと振り返る。

明確な意志を持って追いかけて来た彼に桃眼は向けられる。

■■■ >  
『ギャッギャ、まァ返答シだい、態度ジだイ…。』

背後の声も答える。

『怖がラないだケ、大しダ子供だ。
 脅かしガいがあル方が、美味しイんだガなぁ?』

露骨な舌なめずりの音が聞こえる……。

吸血鬼《ヴラド》 >  
「そいつは、助かる」

と言いながら敵意はないというように一度手を僅かに揺らす。
全く、最初から気づいていたとなれば魔術師というのは厄介極まりない。
自分のようなインスタント魔術師もどきでは、いいように踊らされているなと苦笑したくもなる。

「悪いな、意思疎通がちゃんと出来ると逆に安心できるんだ」

化け物は相手の言葉など聞かず弄ぶ。
理性で動く相手を『あんな化け物』と同じに扱うことなど出来やしない。


「それで、返答次第、態度次第との事だが
 どうすればいいかな?」

霧がほぼなくなると見える姿。
黒い仮面の青年は、黒いコートを着込んでいた。
その手は右手は全体を覆う黒革の手袋だが、左手は指ぬきグローブの様になっている。

動物を模した黒い仮面――欠けた片目からは赤く煌めく瞳。

羽月 柊 >  
探知を人混みで使うのは、確かにただの人間には破滅的な負担だ。
しかし、男は"人間でないモノ"を多く周囲に置いていた。

柊自身は進んで戦闘をしたい訳ではない。
穏便に済むならそうしたい所だし、揉め事は"対話"で解決出来れば一番だ。


「……安心するには早いと思うがな。」


しかし例え理性があるとしても、忘れてはいけない。
同じ人間ですら齟齬を生じさせる。ならば、人間でない場合は?

どんな返答が、どんな態度が命取りに繋がるのか、分からないのだ。

安易に言葉が通じるからと安心してはいけない。
特に此処は…裏の世界なのだから。


男と青年は向き合う。
互いに仮面という、偽りの顔で表情を隠して。

「君の後ろに居るのから、尾けられていると言われてね。
 素直に目的を言ってくれるなら、面倒が無くて良いんだがな。」

片手の煙草を指で弄びながら、男は……問う。

吸血鬼《ヴラド》 > ――ああ、なるほど。

そう一度、瞬きをする。
こういう気持ちだったのかも知れないと、考えた。
一つの理解を得た。 今ここでは関係のない思考であった。

「いや、なに問答無用でないだけで十分」

それで十分だ。

「大したことじゃない。
 『俺たち』でさえも、煮え湯を飲まされたあの『トゥルーバイツの事件』。

 過去はともかく……教員になった奴がこんな場所まで降りて来てるのが気になった」


単純な、警戒 と 好奇心だ。

「あんたらが、この『底』で今まで通りに過ごす分には特に何もしないさ。
 それを止めるのは、俺たちじゃなくていいからな」

赤い瞳は少しだけ細められた。

羽月 柊 >  
『教師』
この島では、特別であり、特別でないモノ。
学園で成り立つこの島にとって、教師は不可欠な存在ではあるが、
『他者を指導することできる』という立場なだけで、老若男女を問わず、
また生徒の全てよりも地位が上という訳ではない。

「…『俺たち』か…。何かしらの部活かは分からんが、
 "まだ教師になったばかり"の人間すら知っているとはな。」

相手の所属の見当は連れのモノの方が知っていそうな気はするが…。

羽月 柊の教師としての知名度はまだ低いはずだ。
夏季休暇中に教師に成り、休暇中に多少なり生徒と知り合う機会があったとはいえ、
帰省していた生徒もいたと考えれば、この男はまだ、研究者としての側面の方が強い。

『トゥルーバイツ』と聞けば、桜が瞬く。

「……それに、『トゥルーバイツ』と俺の関わりを知っている、か。
 あの時はともかく、俺は出来れば波風立てたい訳じゃあない。

 …… 一方的に知られているのは、あまり良い気はせんがな?」

青年の後ろに居る存在も、知られているのだろうか。
邪神との混ざりモノであるそれを。

男とソレが、魔術協会の所属であることを。

吸血鬼《ヴラド》 >  
情報とは、集めて損はない。
特にこの青年が扱うの情報精度よりも情報の量である。
精度に関して言えば、他に任せられる仲間がいる。 精査はそちらに委ねればいい。

そして量ある情報でも、目の前の男性――羽月 柊という男はピックアップされる存在だったという偶然の結果に過ぎない。
敢えて言えば、彼が出会った一組の男女が要警戒対象だったというだけだ。

「それも、そうか……
 俺は顔を晒す訳にはいかないが『俺たち』としては名乗ろう」

そう言って、左手で拳を握る――。

吸血鬼《ヴラド》 > ―――握った瞬間、近くの建築物の上、路地の奥、建物の中……四方八方から気配が現れる。

その数は二桁にもなるだろう。姿を確認することが出来ればそのどれもが動物を模した黒い仮面を被っている。
自分以外の誰もが彼を『見逃していた』が、仮面の青年の事は誰も見逃す事はなかった。


「『俺たち』は――《裏切りの黒/ネロ・ディ・トラディメント》」
「この街にある幻想と呼ばれる存在だ」


そう言って左手をまた開けば、無数にあった気配は薄れる。
この青年と違い、彼らはこの街で生き残り戦って来た強者たち。
大半のメンバーが二級学生の組織ではあるが、今を守るために悪を成る事を誓った者たち。

「俺は僭越ながら《吸血鬼》を名乗っている」

羽月 柊 >  
現れた無数の気配に一歩、男の脚が砂利を踏みつけ、肩幅に開いた。
流石にこれだけの数ともなれば、
ある程度のモノは己が使っている隠蔽の魔術を見破っている訳なのだろう。

どれほどの術を学ぼうと、どれほどの存在を従えようと、
男はただの人間で、この世界の数多のモノの上に立てることは無い。

■■■ >  
『羽月、これハ珍シいモノに逢えダなァ。』

月明りが、朧に落ちる男の影から、無数の黄色い瞳が瞬いて──。
子供のような、小さな黒が這い出て来る。

布を被ったその下に、紅翠色の瞳を煌めかせて。
足元に、収束したとはいえ黒の中に不気味に黄色の瞳を幾つも蠢かせて。
にぃたりと、人間ならば開く事の無い位置まで弧を描き、口が笑っている。

『こぢラで、まことシやカに囁ガれる存在。
 裏の街デ裏の均衡を守ルモノ……上辺の平和を司ろウとするもノ。』

そう言って黒は笑う。

羽月 柊 >  
「……なるほど。裏には裏のルールがある。
 それは俺もここで、『底』で今まで過ごしていた以上、ある程度は分かっているつもりだ。」

男は脚を肩幅に開いたまま、そう話す。
傍らの小竜たちとて、警戒を解いていないからこそ、飛んだままである。

裏の世界で安寧を得ることは無い。

「……『教師』になったとしても、俺はそう変わらん。

 此処に来るのも今まで通りだ。
 今まで君たちが俺の障害になり得なかったならば、その関係はそうそう変わらんだろう。
 ……まぁ、もしかすれば、厄介事に首を突っ込む可能性は増えるかもしれんが。」

『それでも』男は進み始めてしまった。

変わり始めてしまった。
故に、この裏の世界での"雑踏"の"雑音"を、無視しきれない時は来るかもしれない。

吸血鬼《ヴラド》 >  
「あんたらが静かに一人二人でなにかやる分には構わない。
 違法取引をしてようが、それでこの街は揺るがない。

 俺たちは無意味に私刑を行うことはない。
 ま、風紀や公安には気をつけることだ」


そう言ってから腕を下げる。

「この街の秩序/均衡を乱さない限り『俺たち』は静観しているだけだ」


今はそう、手は出さない。

「一人の学生を救ってみせた、あんたは長く『教師』として在ってくれると嬉しいぜ」
「この街には俺たち幻想の目が何処にでもある――挨拶はこのくらいでいいかな?」

なにかすれば、その時は再び相対することだろうと。
今は、何もする気はない、と。

「今日は、新任教師に挨拶ができて光栄だった とさせてもらえれば幸いだ」

と少し声に笑いを乗せて言った。

■■■ >  
『怖イ、ごわいねェ……。』

柊の隣の黒は笑う。
まるで怖いと思ってなさそうに、その顔に笑みを貼り付けたまま。

『秩序も均衡も、在っテ無いようなモノ。
 誰かの指一ツでゴわれてしマウ…。

 子供だヂ、気を付けルと良い。
 世界ハ君たちノ思い通リには、決してナらない……。
 どれホドのカミサマとて、全能ではイられなイ。』

周りに居る全てを含めて、そう言い聞かせるように。

羽月 柊 >  
「…これでもやってることは慈善事業寄りでな。
 それに、『俺たち』の所属は、この島の在り様を観察はしても、
 直接手を下すつもりは無いさ。」

黒の言葉を聞きながら、男は静かに語る。

元々のスタンスは変わらない。
故に、余程がなければこれからも衝突は無いと思いたい所だ。

「……全く、歓迎会にしては大仰だな。

 言われずとも、俺はやると決めたらやる方でな。
 故に、『誰かの人生に介入し』『共に歩く』と決めたんだ。」

それは、男の友人と同じ言葉だ。

だからこそ今、羽月柊という男は、この『物語』に登場した。

吸血鬼《ヴラド》 >  
「ははは―――、」

思わず乾いたような笑い声がこぼれた。



  「 世界を脅かす神なんて、この世には要らないだろ 」



静かに、冷たく、しかしハッキリと言霊は響く。

「……邪魔をして悪かったな」

そう言えば、いつの間にか懐から赤色の液体を容れたペットボトルを手にしていて、
――蓋を開ける。

「今日は失礼させて貰うよ」

羽月 柊 >  
「……"要らない"、か。」

青年の言葉尻を復唱して、仮面の奥の桃眼を細めた。
傍らの黒の言葉は、異物でありながらも言い聞かせるようではあった。

そう言い切った青年の言葉に、
男も、黒も、小竜も…肯定も否定もしなかった。

ただ、見ていた。



要らないと言ったとしても、誕生してしまうかもしれない。

要らないと言ったとしても、存在してしまうかもしれない。



それこそが、黒が言うように、『思い通りの世界にならないこと』なのだ。

この世界が続く限り、この世界の門が開く限り。
この舞台の上に誰でも登場出来る限り。
"そのばかぎり"にしてしまうことは出来やしない。


故に、役割(ロール)は巡り、『物語』は成るのだ。


男はいつの間にか手に小さなベルを手にしていた。

「…気を付けて帰ると良い。」

男は静かに、そう告げる。
煙草も燃え尽きようとしていた。