2020/09/07 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に柊真白さんが現れました。
■柊真白 >
怒号。
銃声。
深夜の路地裏にそれらが響き、静かになる。
血の海に沈む男たちと、その中心に立つ白い少女。
真っ白の服には血の染みの一つも付いていない。
刀を振って血を払い、納刀。
パチリ、と言う小さな音。
■柊真白 >
血の海に沈む人だったものを足で転がし、顔を上に向ける。
それぞれの写真を取って、メールに添付し、送信。
いつもの仕事終了の報告だ。
続いて死体に刺さったナイフを抜き、どこかから取り出した紙で拭いて、スカートの下に仕舞う。
まだまだ使えるのだ、使い捨てる程安いものでも無いし。
ご案内:「落第街 路地裏」に傀儡女の柰さんが現れました。
■傀儡女の柰 >
――ベン、ベベン。
落第街に響き渡る琵琶の音。
艶やかな着物に桃色の髪を靡かせる少女が一人、
暗がりの中から微笑む少女が一人。
「おやおヤ、これはまタ……」
――ベン。
「素敵な華を咲かせてイるじゃアないカ……えェ?」
凛とした刃の如き声が、彼女に向けられた。
少女は変わらず微笑みながら、琵琶を弾いている。
その額に生えているのは、二本の角だ。
■柊真白 >
「ん」
琵琶の音。
そちらを見れば、鬼。
「鬼とは、珍しい」
自身も種族の括りとしては鬼と呼ばれる種族ではある。
が、『鬼』と呼べる特徴を持っているわけではない。
この島で鬼に会ったことはないので、珍しいなと思いつつ。
「何か用?」
首を傾げて見せる。
■傀儡女の柰 >
「イヤァ、なニ。あまりに良い殺しをするものだナ、と思ってねェ……
思わズ、昂ぶっちまったヨ……」
まるで初恋の相手に向けるように頬を赤らめて、
うっとりとした声色を向けるその鬼は、
琵琶の手を止めて、小さな手をぱちぱちと叩いて
拍手を送るのであった。
「白イ服を身に纏イながラ、鮮やかな殺しを行ウ……
『血風の白妙』……なァんて名前ノ、暗殺者の噂ヲ、サ。
遠イ昔によォく、聞いたもんだけド、ねェ……?」
にや、と悪戯っぽく。そして、どこまでも妖艶に。
鬼は笑いながら、再び琵琶を弾く。
――ベン。
■柊真白 >
ベンベンと鳴らされる琵琶。
そして彼女が語る自身のかつての呼び名。
「……それ、幻象?」
国宝『幻象』。
紛失したとか、いや盗まれたとか、壊されたとか様々な噂があった、遥か昔の逸品。
自身も一度目にしたことがあるが、彼女の持つ琵琶はそれによく似ている気がした。
■傀儡女の柰 >
「おヤ、おやおやおやオヤ、おヤ!
あちきの『幻象』を知ってイるとハ、やはリ――」
弾く音は、確かな圧を持って落第街の路地裏に響き渡る。
一度弾けば月の光が滲むように路地裏の影を踊らせる。
両者を隔てる空間が、歪んでいる。
「――その身に纏ウ人外の気。加エテ、
土砂に埋没して久しイ、あちきの『幻象』の記憶を持つのなラ、
あんたは現世にありながラ、散ることを知らヌ永久の桜……
どウやラ……『血風の白妙』で間違いなイようダ」
嬉しそうに、心底嬉しそうに鬼は琵琶を弾く。
――ベベベベ、ベン。
重苦しい音が、両者の間に響き渡る。
「あちきは、柰。傀儡女の柰。元・蒼宿衆が一、ただの琵琶弾きの鬼サ」
■柊真白 >
何やらテンションぶちあがっている彼女。
ベンベンと琵琶の音が激しくなる。
「蒼宿衆、久しぶりに聞いた」
なんとも懐かしい名前だ。
その名前を聞くのはいつ以来だろうか。
だからと言って旧来の友人、という訳でもない。
むしろ商売敵であり、彼らと衝突したのも一度や二度ではなかった。
彼女の姿に見覚えはないが、まぁたまたま出会わなかっただけだろう。
「――それで。何か用?」
再度尋ねる。
ただの世間話、という訳ではなさそうだが。
■傀儡女の柰 >
「イやだよォ、言わせないでおくれよォ。
暗がりで出会う鬼が、何を求めてるかだなァんテ、
言わなくてモ、分かるだろウ?
こちとラ、昂ぶっちまって、もう仕方がなイんだから、
サァ……」
琵琶を弾く指、そして真白を見る目が、明らかに変わった。
それは恋する相手を見る乙女のような。
それは欲する獲物を見る獣のような。
それは、それは、それは――
「前戯《あそび》といこうヨ」
――途方もない、漆黒の愛だ。
袖が閃く。琵琶から立ち昇る虹色の霞。
それが、刃の形となり真白に襲いかかる。
「秘曲刃式――『流閃』」
空気を切り裂き、確かな殺意を以て刃が真白の眼前へ飛来する。
■柊真白 >
あぁ、やはりか。
自分のような仕事で殺しをしているタイプではなく。
仕事でも殺しをしているタイプだ。
昨日と言い今日と言い、面倒な奴らばかり集まってくる。
まぁ、ここで仕事をしている以上は仕方ないけれど
「我慢出来ない人は嫌われるよ」
地面を舐めるほどに姿勢を低く。
自身の髪を数本飛ばし、音の刃が後方の壁に傷痕を残していく。
そのままの姿勢で鞭のように腕をしならせ、ナイフを三本まとめて投擲。
両肩と右膝を狙う軌道。
■傀儡女の柰 >
「面白イ冗談を言うものだネ、白妙――」
音の刃は目標を失い、残響と共に壁に傷跡を残す。
その音を聞けば、柰は口の端をぐっと吊り上げて微笑みを見せる。
そして、真白の言葉には小首を――年頃の少女のように、
純粋な可憐さで――傾げて、言葉を静かに投げかける。
「――あちきは『人』なんかじゃアなイ、『鬼』……なんだヨォ?」
飛来する、3つの煌めき。
琵琶を3度弾き、音の刃で以てそれらを撃ち落とさんと。
銀色は弾かれ、弾かれ、そして――最後の一本は、
柰の頬を掠め、細い赤の筋を生み出す。
柰は驚きと恍惚の混じった表情で、真白へじっとりと視線を向ける。
「……流石、床上手ダ。前戯《あそび》のつもりガ、思わずこんなに濡れちまっタ、よォ?」
柰はそう口にして、頬の血を左手の人差し指で撫でれば、
それを口元へ持っていき、ぺろりと舐めている。
■柊真白 >
「あぁ、うん」
いやまぁそうなのだけれど。
投擲したナイフは一本が彼女の頬を掠めて、あとは全て弾かれる。
自分はあまり動かずに、広い間合いで一方的に攻め立てるタイプか。
「それはどうも」
とは言え機動力がないと判断するのも早計。
低い姿勢から横に跳ね、低い軌道で自身から見て左側の壁を蹴りつつワイヤーを三本、鞭のように走らせる。
横合いからほぼ地面に平行に走るワイヤーで、琵琶の弦を弾く右腕を狙う。
■傀儡女の柰 >
「おやおヤ、つれなイネェ?
もう少し愛嬌ってのヲ、見せて欲しイもんだヨォ」
冗談っぽく笑いながら、少女は眼前の白妙の挙動にしかと
目をやれば、座っている両足に力を込める。
そのままワイヤーを躱すように、大きく跳躍。
その矮躯は、ふわりと軽やかに宙を舞う。
真白が警戒していた通り、彼女は決して機動力がない訳では
なかったのだ。
鬼とは、妖しき力の象徴なれば。
そして。
回避と攻撃とを同時に行うべく、空中で琵琶に指を添わせる。
「秘曲『乱』式――『流閃』」
小さな無数の音の刃が、真白の立つ場所へ向けて一斉に放たれる。
先程の刃に比べれば随分と小ぶりのそれであるが、
それでも肉を貫くには十二分な威力を持つ刃撃が、頭上から雨のように放たれる。
■柊真白 >
ワイヤーを跳躍して躱す鬼。
そこはやはり鬼と言うことか。
そうして空中で琵琶をかき鳴らそうとしているのを見て、スカートの下に右腕を突っ込む。
掴むのは、防刃ケプラー素材の布。
頭上から襲い掛かる刃の雨――そこに込められた殺気を確認し、それを頭上へ放り投げるように広げた。
自身の姿を覆い隠すように。
科学技術の結晶とは言え、ただの布。
それを貫く威力を刃の雨が持つかどうか。
刃の雨は、広げられた布へと襲い掛かり、
「ちゃんと相手は見た方が良い」
彼女の『背後』から掛けられる声。
布で視界を防いだ一瞬の間に、彼女の裏へ回り込んでいた。
後ろを振り向けば、逆さまになったこちらが、彼女の腕へ向けて長刀を走らせようとしているのが見えるだろう。
■傀儡女の柰 >
「顕世の代物、あちきの『流閃』を防ぐとハ、
なかなかのものじゃアないか、エェ?」
無数の刃が、布に受け止められていく。その刃が布を貫通すること
は、ない。しかし凄まじい布切れは凄まじい勢いで放たれる刃撃に、
無残にひしゃげていく。
もし、人の身であれをまともに受けていれば――想像に難くない。
刃の雨を防ぐ防刃素材の布に思わず、ほう、と嬉しそうに
ため息をつく桃髪の鬼。
「見ずとモ……ちゃアんと……感じているヨォ?」
背後からかけられる声へ向けて、心底愉しそうに。
後ろを振り向く鬼の眼前には、刀による一閃が迫る。
それを躱すだけの余裕はない。
元より鬼に、その気もない。
「……こォんなニ、近づいて来てくれるだなんテ……
可愛い所あるじゃないカ、エェ?」
左腕を伸ばし、掌で刀を受け止める。無論、無傷とはいかない。
骨まで達することはなくとも肉は抉れ、血が噴き出す。
しかし鬼はその刃をしっかりと握ったまま、
刀ごと真白を引き寄せるようにぐい、と勢いよく引いて。
真白へ頭突きを喰らわせるべく、頭を後ろへ引く。
「はイ、ごっつんこォ~」
頭突きが、放たれる――!
■柊真白 >
彼女の腕を裂いていく刀。
しかし人間相手ならば容易に骨も断つ一撃を、鬼が相手では骨にまで達しない。
その刀を掴まれた時点で、逆にこちらは刀を離す。
鬼を相手に引っ張り合いをして勝てる道理はない。
「ち」
頭を引く彼女。
自慢の速度も宙に浮いた状態では避ける手段がない。
スカートの下から衝撃吸収のパッドを引っ張り出し、それを彼女の顔に投げつけ、同時に両腕をクロスさせて。
その瞬間に腕へ衝撃。
後ろに弾かれるように飛んでいき、血で濡れた地面で受け身。
そのまま二回三回と転がり、両手両足で地面を滑る。
真っ白な服と髪が血と泥に塗れる。
「――安くはないのに、なんてことを」
衝撃吸収のパッドを通してこの威力。
痺れる両腕を軽く振り、スカートの下から大振りのナイフをそれぞれ両手に構えて。
■傀儡女の柰 >
「ふふフ……! 素敵だねェ」
彼女の頭突きは、交差させた腕へと放たれる。
衝撃吸収のパッドを介してでも、鈍く重い衝撃が伝わった
ことだろうか。
地へ落ちる際に受け身を取り、
血の滴る左手を、血振りの形で素早く振る。
鮮やかな赤は飛沫となり、地に染みを作る。
それでも尚、だらりだらりと血が滴っていく。
「楽しイ、ネェ? じゃア、今日の前戯《あそび》は……
お終いにしようカ」
血塗れの手で琵琶を持ち、そこに右手を添える。
その右手に、禍々しい妖力が収束していく。
「――また遊ぼうじゃアなイカ。これを受けて、生きてて
くれたら、ネェ?」
そうして。
彼女は琵琶を、弾く。一際強く、弾く。
「――秘曲獄式・『竜閃』」
空気が、歪む。
月が、消える。
闇が、退く。
虚無の中で。
一匹の竜――妖力により形を与えられた音の集合体が、
真白へと向かっていく。闇も光も喰らいながら。
■柊真白 >
「何も楽しくない」
だって服を汚されたのだ。
自分の血ならばともかく、誰かの血で汚されたことなどいつぶりだろうか。
僅かに面白くなさそうな顔。
「出来れば大人しく帰って欲しいけど――」
一応そう口にはするが、高まる妖力を見る限りそう言うわけにもいかないだろう。
はあ、と再び溜息。
何もかもを喰らう竜を見て、自分の左腕をナイフで切る。
血の溢れる腕へ口を付け、
「――そうじゃないなら、仕方ない」
啜る。
それまでの希薄な存在感が嘘のような、爆発的な存在感。
左腕に持ったナイフを竜へ向けて投げる――いや、発射する。
音速を優に超えたナイフは、衝撃波を発しながら竜へと襲い掛かる。
音で出来た竜ならば、同じく音で見出せるだろうか。
さらに直後、自身も突っ込む。
今までの無音の移動ではなく、地面へ小さなクレーターを残しての爆音と共に。
音の竜に全身をずたずたにされながらも、傷付いたそばから再生していく。
「――っ、お返し」
そのまま竜を正面から突っ切り、右のナイフを彼女へ向けて思い切り突き出す。
普段は速度に質量が乗らない――そう言う力だ――のだが、自己吸血時には速度にそのまま質量が乗っかる。
アクセル全開の自動車くらいの速度で突っ込めば、いくら軽いとはいえ鬼にだって通じるはずだ。
自己吸血の際の自身も、彼女と同じく鬼と形容されるに十分なほどの身体能力を得ているのだから。
■傀儡女の柰 >
「あちきは楽しいよォ」
相手が楽しいか楽しくないか。
そんなことはこの怪異にとって、何の関係もないらしい。
ただ昂ぶった己の熱を、目の前の相手にぶつけているだけだと、
そう言わんばかりに妖艶な目元をすっ、と細める。
「あァ、その一撃は――あちきの奥深くまで……」
竜を越えて、眼前へと迫る真白。
その彼女に満面の笑みを浮かべて、柰は両腕を広げる。
そうして凄まじい勢いでナイフが突き出され――その暴力は、
確かに柰の胸を貫いて。
抉って。
血飛沫が、路地裏を赤く染めた。
しかし、気付けば。
その場に、柰の姿は無い。
真白の視界の端、路地裏に置かれた樽の上に、
柰は笑いながら座っていた。その胸からどくどくと
血を流しながら。
「流石、流石ハ、血風の白妙。随分楽しませてくれたことだヨォ。
また、遊ぼうじゃアなイカ、ねェ……?」
鬼は気まぐれに、闇の中に再び潜んでいく。
そして、その去り際。
「今の生き方、あんたは満足してるのかネェ……」
そう呟けば、影に溶けて消えていくことだろう――
■柊真白 >
捉えた。
突き出したナイフはその胸を貫き、
「ち」
しかし目の前に彼女の姿はない。
胸からだらだらと血を流しながら近くの樽の上に座っている。
勢いのままに地面を滑り、存在感は自己吸血の前よりも尚薄くなる。
「――私は、もういい」
元より戦闘は得意ではない。
人を相手にするならば圧倒的な速度で翻弄出来るだけで、同じようなスペックの人外に対してはこんなものだ。
そもそも戦闘よりも暗殺に生きる暗殺者であって、そこの技術は必要最低限。
ナイフをしまい、転がっている刀を血振りして鞘に納める。
「満足か、って。そんなの、聞かれるまでもない」
去り際の言葉。
その呟きは、いつかあの人に言われた言葉。
■柊真白 >
「私が私で選んだ生き方だ。大満足だよ」
確固たる意志を瞳に宿して。
ご案内:「落第街 路地裏」から柊真白さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」から傀儡女の柰さんが去りました。