2020/09/13 のログ
サクラ >  
「実はちょっと悪い友達がいてェ──」

サクラはこの手の話題に慣れていた
歓楽街の一部である落第街、自分は歓楽街でよく遊んでいて
こういったやや危険な、違反部活に顔を出している生徒とも交友関係があるのだと
──まぁ嘘は言っていない
実際自分を取り巻いている頭の中が栗の花畑な連中の中にも、違反部活に与するヤツはいる

「一緒に遊んだ帰りに、猫ちゃんを見つけたから。ちょっと、ね♡」

えへ、と舌をちょろ出し小悪魔フェイス

──同時に目の前の彼を観察する
なんだかちぐはぐというか、まとまりがあるようなないような雰囲気…
まぁ、落第街だし変な人間くらい、無限にいる
言葉が通じるだけまともじゃんね、なんて思いつつ

伊伏 >  
可愛い顔が舌をちょろっと出している。
まあ可愛いとは思う。思うのだが、今日はピンと来なかった。
可愛いのが可愛いと思って、可愛い仕草をしている。

(遊び慣れてるヤツの声だな)

少女の感じたことはもっともで、青年の身姿に共通出来る美意識は無い。
色は暗いもので統一されているように思える。それだけだ。
「目についたから身に着けた」と言えよう。

青年は、低いぽんぽんという音を立てて手を払う。

「ふうん。遊んだ帰り」

ウソくせえ声。そう腹の中で返す。
それが目的じゃねえだろ、と。


「なんだ、"寂しいから"猫と遊んでるのかと思ったよ」


これは青年からの、一種のかまかけだった。
物足りないんじゃないの?という意味を含ませた言葉だ。

サクラ >  
塗り固めた身振り手振り
それを見透かした言動を目の前の彼はしない
──のであれば、それを崩す必要もなく

「そうそう…悪い友達とちょっとした火遊び…みたいな♡」

騙されているにしろ
騙されているフリをしているにしろ
それはどちらでも良いと言える
たまたま、此処で会っただけの誰かなんだから
騙されているフリをしてるなら、フリをしてる間にエスケープ。それで済む話
…だった、が

「…遊んだ帰りだ、って言ってるのに。寂しいからなんて」

「よくわかったねー!するどーい♪
 遊んで帰る時ってなんだか寂しいよねー♡楽しい時間が終わっちゃった感じで」

肯定しているようで、受け流している
騙されているフリをしてくれてるなら、何を白々しい、なんて思うのかな?苛立つかな?

──そーゆう雰囲気感じたら、逃げっか…。変に掘り返されて遊び辛くなるのもめんどくせえ──

伊伏 >  
うそこけ。

「ふはっ」

何が火遊びだ。

少女がきゃぴきゃぴと言葉を返すと、青年の表情が崩れた。
騙されているわけでも、騙されているフリでもない、愉快そうな笑み。

「あー、分かるよ。風景が色褪せて見えんのがね、たまにある」

青年はヒョイと立ち上がる。
胸ポケットから一枚のブリスターパック――錠剤の銀板を取り出した。
黄緑色の甘そうな粒が綺麗に並んでいる、新品のそれ。

「寂しいならさ、その寂しさ燃やしてみねーかな。
 ちょっとじゃなくて、ちゃんとした"火遊び"、してみない?

 あんな痩せた猫とか、そんなんじゃあ無くてさ」

サクラ >  
あー、コイツ
何もかも見透かした上でその素振りを見せてないだけだな

今の笑い方、それ一つでなーなんとなく、それを察してしまう

サクラの少女然とした雰囲気が消え失せて…得も言えぬ目つきへと変貌する
まるで自分以外の全てを見下しているような、世の中全てを馬鹿にしたつもりでいるような──

「──えー?なにそれぇ。
 やばーいクスリなんじゃないの…?」

雰囲気こそ変わったものの、その口調は変わらず、
警戒するような口ぶり、でもその言葉にはどこか、面白そう…といった感情が含まれている

「ぼったくるなら買わないケド、火遊びは大好きだからキョーミはあるなー♡」

伊伏 >  
少女の豹変は見て取れた。
こんなに近くにいるのだから、それを見逃すわけがない。
あんなに可愛い仕草をしていたくせに、ここまで変わるか?というくらいだ。
青年にとって、この少女の眼はたっぷりと語ってくれたに等しい。

「やばくなかったら、歓楽街で大手振って売ってるよ。
 …つってもこの薬は、よく出回ってるような強烈なもんじゃないんだよね。
 多幸感に万能感。神経の糸をより合わせて、それをまとめて啜られる快楽…くらいなもんでさ」

指先でブリスターパックをはじく。

「そんな程度の薬を、高いと思うかは知らねえな。キミが経験あるかで変わるだろ?
 それとも、こんな火遊びは"自分で"したことないかな?」

興味持ってくれんなら、サービスはしてあげるよ。
そう約束をする青年の顔は、気味悪い黒猫のようだった。

サクラ >  
「──…んー。パスっ♡」

そう言ってサクラはくるりと踵を返して、見返り気味に視線を向ける

「そういうクスリなら間に合ってるしぃ、自分で使うとかちょっとねー♪
 そういうの、バカを使って楽しく遊びましょう、ぐらいが丁度いいんだもん」

何よりも自分の身が大事、保身第一
サクラがここまで火遊び程度の"悪いコト"をしてきて、痛い目に遭っていない理由の一つだ
──いや一度痛い目にあったっけ。殴られたから、ガチガチの被害者装って風紀委員に駆け込んでやったけど

「──いよいよ本格的に刺激が足りなくなったら、にしとくね。おにーさん♪」

目の前の彼の表情の薄気味悪さに、何かが警鐘を鳴らしたのかもしれない
そういった類のものに対する勘の良さもまた、サクラという人間<クズ>の生存能力の高さの一因だ

それまでは猫ちゃんとでも遊んどくから、なんて舐めたことを言いつつひらひらと手を振って
呼び止められることがなければ、そのまま路地から姿を消すだろう

伊伏 >  
こういう客引きをすることに100%は無い。
断られる事は、想定内だったのだろう。

「なーんだ」

つまんねーやつだな。

「残念」

ブリスターパックを胸ポケットにしまいこみ、親指の腹で撫でる。
気にした様子はない。去るならさっさと消えて欲しいのだ、この手の人間は。
ああけれど、豹変した瞬間のあの顔は、紛れもなく一切の澱みもなく、可愛かった。
汚い部分を寄せ集めて、ギラつく思いで熱したようなあの眼は、美しかった。
ずっとそのままの眼でいればいいのに。居るような状態に堕ちてくれたら、きっと楽しかろうに。

やり取りとしては、たかだか数十分程度だろう。
その短い時間の中で青年が得た少女に対する劣情は、そこだけだった。

青年は去っていく少女の背に、声をひとつ投げた。


「誰かを壊したくなったら、クッキーを持っておいでね」

サクラ >  
かけられた言葉にもう一度、一瞥するように見返り、歩き去る

誰かを壊したくなったら?
──そういうのもいいかも

どうせそのうち、何もかもつまらなく感じるようになる
そしてその時は、多分そんなには、遠くない──

此処にクッキーを持ってくればいいのかな…
そんなことを薄ぼんやりと考えながら、サクラはその姿を消すのだった

ご案内:「落第街 路地裏」からサクラさんが去りました。
伊伏 >  
少女が場から消えると、くあっと大口を開けた欠伸をする。

「本日の4人目逃しちゃったな…」

残念残念と呟きながら、遠巻きにこちらを見ている野良猫を見やる。
クッキーを食べているところを邪魔したのだから、まあ恨めしい目もされて当然か。


「お前らね、ああいうのは食うだけ食ったら引っ掻いてやんなよ」

伊伏 >  
「動物殺そうとするやつなんか、ろくなもんじゃねえ。
 どうせやるなら同じ人間にしときゃ良いんだ。言葉が通じる分、分かち合えるものが多い」

まだ残っているクッキーの破片を猫の方に投げ、おびき寄せる。
こちらは別に何をするわけでもなく、猫がそろりそろりとやってくる姿を眺めていた。


「どうせ壊すなら言葉が通じた方が楽しいもんな。
 ……あー、ねこ可愛い。店いくけどチーカマ喰うか?ニボシがいいか?」

ご案内:「落第街 路地裏」から伊伏さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」にレオさんが現れました。
レオ > 「…ふぅ」

血まみれの上着を腋に抱えて、路地裏までいって、一息つく。
血に濡れすぎてこれじゃ帰れないなと思いながら、そっと壁に背中をつけて座り込んだ。

手荷物は、上着と、剣を入れる市内袋と、最低限のお金だけ。
貴重品は全部駅のコインロッカーの中だ。
持ってきても盗まれる可能性のが高いし、それなら持ってこない方がマシだと思った。


付着した血が中途半端に乾いたせいで、ゴワゴワして動きにくい。
布でも何でもいいから羽織れるものを探そう……
駅までいけば、着替えは入ってる。

レオ > 「…申し訳ない事をしたな」

最近そればかり言ってる気がする。思っても…いるか。
迷惑かけっぱなしだ。仕事でも、日常でも。





…今日は、風邪ひかないようにしないとな。
そう思いながら空を見る。
曇天だ。
一雨来るかもしれないな。
最近はそんな日ばっかりだ。

レオ > ――――――……


あの人は、僕の何が知りたかったんだろう。
そもそも、斬りつけられてまだ日も経ってないのに。
マトモになって欲しいんだろう、普通の…学校にいる、周りの人みたいに。

……
普通でいたいとは思ってる。
特に何も起きなくて、程々に忙しくて。
それでいいし、それが良い。




でも、マトモになりたいとは、思ってない。
マトモに生きたい訳じゃない。
普通の人は、人が死んで、人を殺して、辛くなる。
多分、人の死…に対して、一つ一つ、ちゃんと見てるから。


…今日殺したのは、何人だったっけ。
数えていないから、分からない。

レオ > そもそも、マトモって…何だろう。
人を殺すのを躊躇うのが、マトモ…なのだろうか。
人を殺して傷つくのが…マトモなのだろうか。

あの人は、僕に傷ついて欲しかったのだろうか。

レオ > 「…そんな訳ないか」

分かり切ってる考え。そんな訳は、ない。
ただ、あの時に口から飛び出た言葉。

”化物でいいので”

……あの時はああ言った。
”戻れなくなる”と言われて、不意に出た。
…今思うのは、違う。

レオ > ”バケモノがいい”
レオ > バケモノにならせてほしい。
人を切り殺して、何も思わなくて、疲れなくて。
バケモノになれてたら、傷つかずに済む。
そしたら多分、この島に来る事もなかった。
多分、あのままずっと同じように続けていられた。

斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って
殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して

それでありたかった。
そうじゃないと駄目だった。
そうじゃないと駄目だったのに。
ここにいる。

レオ > 「―――……してほしい」

ぼう、っと呟く。
口から出しちゃいけない言葉。
それは自分は言っちゃダメな言葉だ。
訂正しろ。
失礼だろ。
思うな、そんな事。
何をやってるんだ、オレは。








「――――ころしてほしい」

涙がボロボロ出た。

レオ > 自分でも驚くくらい涙が出た。
なんで泣いてるんだ?

泣く権利なんてない。
死ぬ権利も、ない。
涙を拭え。


生きろ。


「―――――」

レオ > 右手首に巻かれた布切れを、きゅっと握った。



そして、涙を拭って立ち上がって……その場を、去っていった。

ご案内:「落第街 路地裏」からレオさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」に持流 童男さんが現れました。
持流 童男 > 神代殿は、病院に行った。
鉄火の支配者の不在を知れば、きっと落第街と歓楽街、スラムの違反部活の人たちは
きっと動き出すだろう。

それだけはだめだ。彼らが、彼が、彼女たちが培ってきたものを
彼らが守ろうとしてたものが、壊れるのはだめだ。

余計なお世話かもしれない。ただの偽善なんだろう。
誰にも頼まれてない。お節介だ。

だけど。それでも。それでも、某にできることは、ただ守ることだ。
ならば僕は僕自身の意志で背負おう。

僕自身の意志で、彼らの居場所を、彼らという偶像を守ろう。
僕は端役でいい。
主役なんかにはなれない、ただの一人の風紀委員でいい。

持流 童男 > バッグの中のマントが言う
<君、また無茶するのかネ>

あぁごめんモリアーティ。僕はどうやら本当に不器用らしい。

<君が無茶をする必要ないと思うがネ。でもそれでも行くというんだろう?
だったら、私も連れて行きたまエ。きっと面白いことがあるかもしれない>

はぁわかったよまったく。
そう言いながらもマントを羽織る。
カバンを、背負う。そして、モリアーティに変身する。
30分間の間。意識はある。変装をする。

持流 童男 > 秘密の13の切り札※(シークレットサーティンジョーカー)

怪盗紳士の蒸気的計画(モリアーティ・ザ・スチームパンク)

持流 童男 > にやりと笑う。悪知恵が働く。

<さて、それでは。プランを練ろう。きっとそれが、実を結ぶ。>
<というかもうあらかたできてるんだけどね。要は。勝手につぶしあってもらえばいい。>
<あとは焚き付けだネ。根も葉もない噂は毒にもなる。それは彼らだって変わらない>

悪知恵を働かせる。
勧告をした、目立った動きを見せている違反部活を、蜘蛛の毒が壊す。
<末端だからねぇ。だけどうん、割といい感じだよ>
(モリアーティ?某聞いてないんでござるが。)
<なに大丈夫サ、命は奪わないヨ。ヤクソクはするサ>
<まぁ!何はともあれ、指パッチンしてみな!かっこいいと思うからサ!>

腑に落ちない顔をしながらも、指ぱっちんをする。

すると遠方で、大きく轟音が3つくらい鳴った。
勧告した違反部活のほうだ。今は出払っているようだ。
ていうかなんで僕知ってるんだこれ

持流 童男 > ・・・おい、モリアーティ大丈夫なんだろうなこれ

<なに大丈夫サ。この時間は、彼らは、出払ってる。前実体化したときに、やったさ、あ>

「実体化?お前ら実体化したら普通にやべぇんでござるが某」

<あたたたやめて。びりっってなる!大丈夫だよ!僕だけだから!!一応実体化できるの!
それに君の心情に違反することはしないって!!そこだけは安心してほしい>

<それに君、あれだろ。怪我するだろうそれはだめだよ。私は。君の個人の味方さ。>

少しだけ頭を掻いてから

<さてそろそろ風紀に連絡するかね。おそらく彼らは袋のネズミ。なんなら、異能も発動できないくらい
困惑してるだろう。>

といってこちらは風紀に連絡する。大きな轟音がしたのだ。多分風紀も来るだろ
こういうのは、細々とやったほうがいい。というか周りにもケガしてる人はいないらしい。

そして30分立ったので、こちらは、元のドウオに戻る

持流 童男 > 「・・・・さてと、なんだか腑に落ちないでござるが。
・・・済まぬな。居場所奪っちまって。」

そう言いながらも風紀に連絡を入れる。
匿名でいれつつも路地裏を去っていく。

そして目立った動きをしている3つの違反部活は、
蜘蛛の糸に絡まるように捕まった。

そして捕まった違反部活たちはこういう。

蜘蛛がいたと。

ご案内:「落第街 路地裏」から持流 童男さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
「──…うーん…」

報告を受け、やってきたはいいものの…

──ああ、彼の仕業だな…なんて、それはすぐにわかった
なぜならこの場に記憶されたメモリーが、彼の姿をしっかりと映していたから

「…どうしたものかなー……」

転がっている木箱にお尻を降ろして、大きくため息
…彼の考えていることはなんとなくわかる。自分と同じように…現在集中治療室で懸命に戦う彼の…風紀委員の穴埋めをしようとしているのだ

伊都波 凛霞 >  
サイコメトリーによって脳裏に映し出された彼、童男はまるで何かと会話をしているようだった
そして違反部活拠点の一斉摘発は彼の能力によるものに違いない
それ自体は良い。その結果に糾弾すべき点はないものの…

風紀委員としてでなく秘密裏に動いていること
わざわざ匿名で連絡を入れたこと、など…

憂慮すべきは、彼の精神性──そして信用である

おそらく彼は風紀委員として申告していない能力をまだ持っている
そしてそれは強力なもので…まだいくつ隠しているかの想像もつかない

「…やっぱり一度、話さないとダメかな」

溜息と共にそうぽつりと零す

伊都波 凛霞 >  
不安定な精神と強力すぎる力は剥き出しのニトロのようなもの
絶対に大丈夫である、という信頼性は…今の彼には残念ながら、ない

そしてきっと彼は、鉄火の支配者が抜けた穴埋め…その意義を勘違いしている

「暴走しないように釘をさしてー…んんん、とりあえず連絡しよ…」

風紀委員用の端末を使い、直接彼、持流童男へとメッセージを送る

「至急、連絡されたし…っと。
 ちゃんと話を聞いてくれるといいけど…」

伊都波 凛霞 >  
この場に残る記憶の断片は真新しい
まだ近くに彼はいるかもしれないが──

「もー、今日はアレ持ってきてないんだけどな…」

黒い外套は羽織っていない
黒い灰被り姫の出番はもはや月に一度で十分である
件の違反部活拠点には既に人が向かっているし──

少し、歩いてみるとしよう
そう思って立ち上がり、路地裏を歩きはじめる

ご案内:「落第街 路地裏」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」に『シエル』さんが現れました。
ご案内:「落第街 路地裏」にクロロさんが現れました。
『シエル』 >  
落第街、路地裏。
闇の中では、ありとあらゆる暴力が行われている。
血痕も憎しみも、闇の中で一瞬煌めいては散っていくのみ。

そうして、今宵も。

「…………」

制服を身に纏った白髪の少女に、男が詰め寄っている。
少女は特に拘束されている様子はないが、近距離まで詰められ、
ナイフを突きつけられていることで、身動きが取れない状況の
ようだった。

ナイフを持った男 >  
「ったくよぉ……こんな落第街の路地裏を、
 無防備に歩いてちゃいけねぇよなぁ……?」

男は刃が当たらぬ角度で、少女の頬をナイフで軽く叩いている。
対して少女はと言えば、絶体絶命の状況に見えるにも関わらず、
怯えた表情は見せていない。
かといって、余裕の表情や笑顔も無論、見せてはいない。
ただ、虚無の色がそこにはあった。
感情が、そこにはなかった。

月明かりだけが照らし出す薄暗がりの中。
人気のないその闇の中。
男は、下卑た笑いを浮かべている。

「ま、殺すだけじゃなく……ちゃあんと遊んでやるからよ」

男は少女の肩に手を触れる。
それでも、少女は微動だにしない。

傍から見れば、恐怖で動けないように見えなくもないだろうか。

「俺達の部活はさぁ。
 お前みたいな子が苦しむ様を撮影するのが仕事なワケ。
 こっちだけじゃなくて、表の世界でも結構売れるんだぜ……?」

そうして男は、少女の首筋にその手をかける。

クロロ >  
宵闇の裏路地。落第街の更に深い場所。
掃きだめの中でも深い場所の一つ。
裏の裏。特に何かしでかすにはやりやすく、それでいて行き来もしづらい。
そう、実に"商売"がしやすい場所ではある。
落第街とは言えど、裏の秩序に触れないのであれば一番。
まず、表であっても立ち寄るべきではない暗がりだ。
但し、その"脅威"は等しく、踏み入れたものに訪れる。

「────ほーう、そりゃ随分と美味しい商売してンじゃねェか。テメェ」

ドスの利いた事声が、男の背後から聞こえた。
暗闇の中に、それは突如"現れた"。
闇から這い出るように、金色の瞳を煌々と輝かせる青年が徐々に輪郭を成していく。
口角がニヤリと釣り上がると同時に、鋭い廻し蹴りがその頭部目掛けて放たれた。
重く空を薙ぐそれは、当たれば首と頭部に甚大なダメージを与えるには十分だろう。

『シエル』 >  
「……?」

首筋にかけられた手がぴたりと止まる。
見やれば、新たな男がこの場に加わっていた。
金色の瞳が、このどす黒い路地裏に鮮やかな色を加える。

――この男は。

確かに、見覚えがあった。
鮮やかな緑色の髪に、煌めく金色の瞳。
落第街に走らせている魔術監視網。
その情報網に、彼は引っかかっていた。

落第街に拠点を持っていた違反部活、その名も――



――『ディープブルー』。


その一員だった筈だ。

落第街の拠点は全焼した筈だが、
この男はどうやら生き残っているらしかった。

ナイフを持った男 >  
鋭い廻し蹴り。
凄まじい速度で振るわれる、その一撃。


その一撃を――男は、あろうことか受け止めた。
死角からの一撃を、ナイフを持たぬ左手で、がしりと
受け止めたのだ。



月光の下で、彼の姿がすっかり顕になる。

黒色の短髪、浅黒い頬には蛇のタトゥーを入れている。
染みのついた茶のジャケットとジーンズを身に着けたその男は、
屈強な体つきをしている。
痺れているらしい左手を振りながら、男は首を左右に二度、
振ってみせた。

「……へぇ、兄ちゃん。
 良くねぇなぁ……この芦田 堅侍の邪魔、する気かよ?」

少女の方に背を向けて、芦田と名乗った男は緑髪の青年の方へと
向き直る。


「……首突っ込む奴ぁ、殺すぜ?」


暗闇の中で、赤い瞳が光った。

クロロ >  
「お」

放った一撃は受け止められた。
その脚は常人でありえない"熱"を持っている。
触り続ければ火傷するほどの熱量だ。
振り払われれば一歩飛び退き、軽く首を回した。
成る程、"慣れ"てはいるらしい。

「一撃でくたばッてくれりゃァ、メンドーもなかッたンだがな……」

「ア、そこのメスガキ。巻き込まれたくなきゃとッとと逃げろよ?」

気だるそうに、自身の首を撫でた。

「アシ……ア?何?興味ねェよ。別に、テメェがどンな商売しようが興味ねェが……」

溜息を吐き、指先でピッと空を切る。
クロロの周囲が僅かに光れば、周囲を固める三つの六芒星の魔法陣。

「流石にガキは、趣味が悪いぜ」

クロロは別に、芦田が何をしようとそこに興味はない。
そういう商売もある。此処は、常世島の肥溜め。
表に出せないような商売が跋扈しているし、自身も人に言えない商売だってする。
だが、その中にも"節度"が必要だ。クロロはそれを"スジ"を通すと見た。
即ち、この男には、芦田には"スジ"が通っていない。だからこそ、首を突っ込んだ。

「オレ様を殺せるならやッて欲しいモンだな」

ピッ、赤い光が暗闇を一閃する。
属性は表す、魔力の光。

『魔物の証明<Monster Proof>』

『無貌の者<Yegg=Ha>』

クロロの呼び声に合わせ、裏路地の暗闇が"蠢く"。
名に呼応してその者の力を一時的に発現させるクロロ独自の魔術。唯一記憶に残っていた技。
裏路地の宵闇が"歪んだ"と思えば、ドロリとそれは地面に落ちた。
泥のように撒き散らされる、黒い炎。燃え盛る漆黒の炎が地を這いまわり、芦田へと迫りくる。
粘着性の高い炎だ。一度絡まれれば、振り払う事さえ難しいが、さて────。

『シエル』 >  
「……メスガキではありませんが、助太刀に感謝します」

はぁ、と小さく口にしつつ、
言われた通りに、逃げるまではいかずとも少女は
二人から距離をとった。

さて。
この男が実際に戦う様子は未だ確認したことがない。
どのような戦法をとるのか、興味がある。

そして。
どういった偶然であれ、
この男はこの路地裏に現れて『介入』を始めたのだ。
戦法以上に、何よりも、彼の在り方に興味があった。
目を細めて、少女は青年を見守る。

そうして彼が発動したその力に、色の映らぬその瞳の奥が、
確かに輝いた。

――変わった魔術を使うものですね。

少女――『シエル』もまた魔術師だ。
多くの魔術を見てきている。
それでも、この魔術を目にするのは初めてだ。

興味深い、と。
『シエル』は小さな顎に手をやった。

芦田 堅侍 >  
「あぁ? なんだそりゃ……」

芦田 堅侍は、この落第街で今日まで生き残ってきた。
齢にして、23。落第街を住処とするようになってからは、
もう10年となる。
その中で多くの『道から外れた』者と会い、ねじ伏せてきた。
こんな商売をしているが、己の力にも経験にも自信があった。

だが。

目の前の男の繰り出す技は、見たことがない。
そしてこの男が纏う雰囲気もまた、異質。
気を抜けば、心が燃やされ、絡め取られるような。

隠しきれぬ焦燥と少しばかりの恐怖が男の胸を締め付ける。
しかし、それも一瞬のことだ。

「――望み通り、殺してやるぜっ!」

閃く銀色。
彼の心臓を抉るべく精確に彼の手からナイフが放たれた。
同時に、地を這い回るその炎を避けるべく跳躍。
しかし、そのつま先が炎に舐め取られる。

「……ちィ!?」

纏わりつく炎に、彼の右足が焼かれていく。
同時に、クロロへ向かっていた筈の彼の身体は、
反射的に大きく右足を振ったせいで、
空中で大きくそのバランスを崩した。

クロロ >  
「メスガキじゃなけりゃなンだよ、クソガキか」

クロロの口はとんでもなく悪かった。
第一印象の話ではあるがもっと他になかったものかと思わなくはない。
煌々と輝く瞳が、じっと芦田から外れる事はない。
戦う相手から目を逸らす程、クロロは馬鹿ではない。

「さァな、オレ様も知らン。"覚えてる"だけだ」

白紙となった脳内に唯一残っていた記憶。
それがこの、謎の魔術。深淵の淀み、得も知れぬ知識。
そしてそれを、『何の躊躇もなく行使する心』のみ。
芦田が感じた恐怖は、間違いではない。
ともすれば、この淀む炎に感じる恐怖は、人が感じる原始的、本能的なものだ。

「──────」

宵闇に煌めく銀色が、クロロの胸を貫通する。
常人であれば即死だが、クロロは違う。
心臓から上の半身が"飛び散った"。
四散する赤い炎。その肉体は"人"ではない。生ける炎だ。
男の右足を焼く炎が皮膚に熱が食い込み、肉を焼き焦がす。
泥のように纏わりつき、右足からせり上がる悪意の黒。
空中でバランスを崩した所を、見逃すはずも無い。
クロロの指先がピッ、と上向きに茶色の光が一閃描く。


『炭鉱の賢者<Coal mine Sage>』


────声無き声、裏路地の宵闇から


『知性を持つ結晶体<Q'yth-ah>』


────クロロの呼び声が響く



その呼び声に呼応するように、芦田の真下が僅かに歪んだ。
直後、眩いばかりの水晶の塊が芦田の体目掛けて突き出た。
鉄より硬い結晶体。骨を砕くには十分な高度だ。

『シエル』 >  
「……クソガキでもありません、私は『シエル』です」

口ではそう返しつつ、『シエル』の表情は微塵も動かない。
その声色にも、抑揚がない。
実際の所、罵声を浴びせられようが『シエル』は何も感じていない。
ただ人形に嵌め込まれた、青みがかった赤の宝石を、
クロロへじっと向けるのみである。
波一つ立たぬ湖面の如き心が、クロロの戦い方、
そして能力を覗いている。


そうしてナイフによる一撃を回避してみせたクロロ。
その姿を見て、『シエル』は察する。

――その身を炎にする魔術……いや……異能、ですね。

先程まで、彼は魔術を行使する際に詠唱を行っていた。
しかしあの力、その身を炎と化したあの異質な力は、
何の詠唱もなく発動をしている。
更に、『シエル』の内側にある異能が、彼の波動に共鳴する
かのように、彼女の内側で静かに鳴り響いている。

芦田 堅侍 >  
「何ッ!?」

確かにナイフは心臓を抉った。
この一撃で、
邪魔な奴は何人も殺してきた。
気に食わない奴は誰だって殺してきた。

「クソ、化け物がッ!」

男もまた、ただ者ではなかった。
体勢を崩しながらも、空いた手で懐のナイフを構える。
無意味にも見える行動。
彼がナイフを投げたところで、先と同じ結果が繰り返されるだけ。

だが。

――この芦田、同じ手は二度打たねぇ!

「てめぇが炎だってんなら……かき消してやらぁ!
 付与《エンチャント》……!」

彼が手に持つナイフが、水飛沫を纏う。
そうしてそのまま、投擲。
月光を照らす刃が、宙空に水飛沫を撒き散らす。

ナイフの軌跡は一直線に透明な水の線を作り出し、
クロロへと迫る――!


それと、同時に。
突き出た結晶体。
それは、バランスを崩した芦田の身体を確かに捉えた。

右腕と腹を、凄まじい勢いで打ち砕く。

「ぐおおオオオっ!?」

彼の右腕が曲がってはいけない方向に曲がる。
更に腹を打ち付けられ、吐瀉物を撒き散らしながら
男は地に落ちる。
そして、無様に倒れ伏した。

「……認め、ねぇ……な、なんだてめぇは……何なんだ……」

男の顔が恐怖に凍りつく。
落第街に長いこと生きてきたが、初めてだ。
こんなことは、初めてだった。

全く見たこともないような眼前の男。
そんな相手に、こうも簡単に自分が手玉にとられていることが、
信じられなかった。


――ふざけんな、この俺が、負ける……わけが……

薄れゆく意識の中で、言葉を思い浮かべぬ内に。
男は、動かなくなった。

クロロ >  
水の刃は届く事はなく、顕現した結晶に芦田が吹き飛ばされた。
吹き飛んだ体の一部が、燃え広がるようにクロロの形を成した。
裏路地に僅かに入り込んだ隙間風が、艶やかな緑髪を揺らす。
爛々と輝く金色が、倒れ伏す芦田を見下ろしていた。

「知るか、ンなモンオレ様が知りてェよ」

失われた記憶。自分が何かは、クロロ自身も知らない。
それにしても、水属性の付与。確かにそれは自分に対して特攻だ。
それで切り刻まれれば瞬く間に"消火"に至り"絶命"していた。
ハァ、とうんざりしたように溜息を吐いて後頭部を掻いた。
聳え立つ結晶体が、宵闇を照らすように点滅する。

「ア?アー、"ヘンな使い方"すンな?ウルセェぞ、キーザ。
 いいだろ、とりあえずお前が一番かたそーだッたからな」

目の前にあるのは、名前通りの知性ある結晶体。
クロロにしかわからない声で、何やら抗議しているようだ。
パチパチ、と音を立ててまだ燃える黒い炎を一瞥すればクロロの指先が再び闇を切る。

「ま、ゴクローさン。そンじゃァ全員」

『退散<カエレ>』

その符号に合わせるように、炎も結晶体も跡形もなく消えていく。
気に入らない相手だろうと、"殺す必要はない"。
無暗な殺生は"スジ"が通らない。
向こうも十分痛い目を見ただろう。裏路地にこのまま転がしておくのもいい。
この男なら、その辺の"ハイエナ"には痛い目見る事もないだろう。
ンー、と軽く背伸びをすれば、金色の瞳は『シエル』を見据えた。
ズケズケとアスファルトを慣らし、距離を詰める。

「おう、エルガキ。怪我はねーか?」

ずぃ、と顔を寄せて確認を取る。
見た感じそう言ったものは見えない。

「にしてもお前……随分と不愛想だなァ。本当にガキか?」

まるで、人形のよう。クロロには、そう見えた。

『シエル』 >  
戦いが終われば、クロロの退散の一言とともに全ての魔術は
その場から忽然と消え失せる。
それを見た『シエル』は、じっと彼の瞳を見つめる。
そうしてそのまま歩いて、彼の方へと近寄っていった。

そうして彼を見上げれば、こくりと頷く。

「怪我は、ありません。
 助けていただき、ありがとうございました」

抑揚のない口調でそう告げれば、
小さくお辞儀をする。

「……ガキ、というのが何を指しているのか不明瞭ではありますが。
 長命のエルフとしては、まだまだ幼い部類です。
 しかし、人間から見れば、ガキではないことは確かでしょうね」

淡々と、そう口にするシエルはやはり、人形の如き輝きを放っている。
その瞳から、その髪から、そして白く曇りのないその肌から。

美を追い求めて苦心した職人が、命を賭して造り上げたそれのような。
計算づくにすら思える幻想的な美が、そこには在った。

そうしてその幻想は、青年に問いかける。


「何故、あの男を殺さなかったのですか?
 あの男は、貴方を殺そうとしていました。
 しかし、貴方は彼を殺さなかった」

す、と。小さな歩幅でクロロとの距離を詰める『シエル』。
もはや、両者の距離は目と鼻の先である。