2020/09/21 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に伊伏さんが現れました。
■伊伏 >
決して明るくはない時間のこの路地裏は、空気が重い。
何と表現すれば良いのだろう。殺気とも邪なる気配とも違う。
言うなれば、瘴気とでも表すのだろうか?
人や人ならざる者の悪意が尽きないこの"落第"という場所には、いつだって悪意と偽善がはびこっている。
青年は、そこにひとりでいた。
いつもの事だ。休みの日はどうしたって浮かれるやつがいる。
そんな浮かれて足を踏み外すような、警戒心の薄れた"寂しがり"に言葉をかける。
「火遊び、どう?」
ほんのひと時の夢。何かを忘れる幸福。
それを携えた毒を売る。火傷をするかは、受け取った者次第。
今日もまた、名もなき火遊びがどこかで起きている。
■伊伏 >
最近は、やたらめったと路地裏まで消毒を行うようなヤツがいない。
むしろ今落第街で危ないのは、個室ではなかろうか。
転々と歩いて話を齧り、時に風に耳を立てた情報をまとめると、そういう気がする。
違反部活でブイブイ言わせてたとこだの、比較的暗躍してた気がしたヤツだの。
そういう血気盛んなのが、血祭りに挙げられている。
もったいないなー、とは思うのだ。
そういう話を聞くと。
けれど、何が勿体無いかが分からない。
なので本日も、青年はほそぼそと悪薬を少量ずつ売りさばく。
その場で試したバカがいたのは、ちょっと予想外だったが。
そいつは近くの売春宿に蹴り飛ばしてきた。
良いようにしてもらえるだろう。きっと。
■伊伏 >
「また、おいでね」
路地裏から遠ざかる足音に、青年の声がこだました。
どちらともなくすぐに不気味な静寂に飲まれて、そこにいるのは青年ひとり。
少し空を仰ぎ、帽子の角度を直す。
遠くに聞こえた話し声や、どんぱちの音はもうしない。
あともう1人か2人引っ掛けられたら、しばらくの食い扶持には困らないだろう。
ただ、売ってもいいなと思える相手と出会えるかは、なかなか難しいところ。
青年は近くのゴミ場を蹴っ飛ばし、比較的汚れのない木箱を風魔術で積み直した。
ただの暇つぶしではなく、立ちんぼでいるのもつまらないので、座るのにちょうどいい塩梅を作る。
携帯を開き、指を動かしてゲームアプリを立ち上げた。
■伊伏 >
シンプルに積み上げ型のパズルゲーム。
おもろみは無いが、絵だけは可愛いタワーディフェンスゲーム。
操作パッドが展開されるので、それを操作して狩りをするアクションゲーム。
青年のゲームアプリはまだ数個あるが、どれもほどほどにこなしている。
それぞれはプレイに飽きたら別の携帯端末にデータを移し、裏サイトでアカウントを売り払う。
何で売れるのかは謎だ。需要があるものは、そこにあるだけで二束三文の価値でも買い手が付く。
彼がアカウントを売却せずに続けているゲームは、アクアリウムと疑似飼育ゲームくらいか。
たまに、足音がすると視線を僅かに上げる。
こちらに来るものか、それとも厄介ごとを引き連れるものかと見極めるために。
一方的ならともかく――血を血で洗うような怖いことはしたくないのだ。
そも、この辺りを好きに歩く者など、実力が桁違いなのも良く分かっているし。
■伊伏 >
一通りゲームを遊び終えると、携帯を充電器具に取り付ける。
つい数週間前まではこうやって外で過ごすにも面倒だった熱気も、今はどこかに消えていった。
もうしばらくすれば、ハロウィンが囁かれる時期か。
収穫期の臨時募集もかかるだろうし、そうするとしばらくはそっちに遊びに行くのもありだ。
異能や魔術・魔法はもとより、それらを組み込んだ新しい道具が見れるのが面白い。
もう少し貯蓄が増えたら、今よりは部屋の多いところに移って"栽培"も増やしたいのだ。
薬を扱うのに、自分で済ませられる事は増えた方が良い。
そういえば薬の貯蓄はいくつだっけと、携帯のメモを立ち上げる。
バグったような文字列が並ぶファイルを立ち上げ、少し首をひねった。
備蓄は覚えていたよりも、大分少ない。夏休みの間にこさえておくべきだった。
■伊伏 >
ああけれど、良い機会だ。
今のが全てはけてくれる事を前提として、新しいレシピに挑戦しよう。
常に同じものを作り続けているわけにはいかない。
完成では無いのだから、薬とて進化せねば。
立ち上がり、青年は後ろをはたきながら木箱を降りる。
痩せた猫がおっかなびっくり、慌てて隅を走っていくのを眺めて。
「火元が分からない火事が、一番だもんな」
ご案内:「落第街 路地裏」から伊伏さんが去りました。