2020/09/28 のログ
ジーン・L・J > 「光陰矢の如し、十年一昔、表す言葉は色々あるけど、そういうことだよね。一日一日を過ごして行って、振り向くと随分長く歩いてきたと気づく。」
歩く所を寝過ごしちゃったから余計だよ、とおどけたように笑い声を上げた。

「ふふ、慰めじゃないなら余計にありがとう。心臓が人間のだったら高鳴ってたかもしれないな。」
冗談めかしてまた笑う。この女は不意を突かれて崩れる以外、ずっと笑いっぱなしだ。

「まぁ、通称が定着すれば地名になるさ。制度が出来るまではどこもそうだった、ここではそれは望めないだろうけど。
さて、では親切で正直なミスター・黒龍、私も真名を隠しているから実質偽名とお伝えしておこうか、あなたとはフェアで居たい。恩もあるしね。あらためて、よろしく。」
舞台の俳優のような仰々しい礼、冗談のようにも見えるが、指先まで揃えたその形は堂に行ったもので、場に似合わない典雅さのようなものを感じさせるかもしれない。

「そして、今日の所はさようなら、かな。せっかく情報が手に入ったんだ。少し様子を見てくるよ。北東と南東、そして奥地だったね。」
首を巡らせておおよその方向を見る。デタラメに建て増しを繰り返された町並みは非常に入り組んでいるが、方位ぐらいは掴んでいるようだ。

黒龍 > 「――だったら、その分をこれから歩いていきゃあいい…過ぎた時間は取り戻せないが、寝過ごした時間分をまた歩いていけば、結果オーライってやつだろうよ」

我ながらアバウトに過ぎる考えだが、失った時間は戻らないのだから、そのぶんをまずは生きて帳消しにでもするしかない。

「――別に口説いたつもりはねーし、下手な慰めなんて悪手でしかねーからな」

それに、慰めは自分には向いていない。長い時間を生きてきてそう自覚している。
とはいえ、何だかんだ親切心が出てしまっているのも否めない事なのだが。

「…いいんじゃねーか?真名を知られると面倒な事も多いからな。こっちの世界じゃどうか知らないが念の為ってやつだ」

言霊、名を媒介にした魔術や呪いなど本来の名前を知られたら面倒な術式なども元の世界では多かった。
だからこそ、本来の名前は基本的にどんなに親しい相手でもおいそれと教えるつもりは無い。
それは彼女も同じだろう。少なくとも呼び名があればそれで十分。偽名にはあまり頓着しない。

「ま、恩を着せるつもりはさらさらねーんだが、その言葉だけ受け取っとくわ」

彼女の何処か舞台俳優じみた典雅な仕草につい少しだけ笑うが、まぁ似合ってはいるかもしれない。
さて、2本目の煙草も吸い終えれば今度はちゃんと携帯灰皿を取り出して吸殻を捻じ込みつつ。

「ああ、俺もそろそろ戻るつもりだから今日はここまで、だな。
様子を見るのはいいが深追いは避けろよ。まぁさっきの動きを見てる限りはその辺りは問題ねーだろうが」

そして、彼女が首を巡らせば何となく男もそちらに視線を向けて。そのまま、踵を返して歩き出し…あぁ、と思い出したように懐から懐中時計のような物を取り出す。
それをジーンの方へと軽く放り投げるように渡そうとして。蓋には何やら幾何学模様の魔術刻印があり。

「方位測定の魔術が仕込まれた懐中時計だ。蓋を開いて魔力を少し込めれば方位磁針代わりになる」

この街は建物も乱雑で入り組んでいるので、大まかな方向だけ分かっても少々心許ない事もあろう。
特に高価で貴重、という訳ではないがその懐中時計も探索の役にはささやかながら役立つはずだ。

「んじゃ、また何処かでな、ジーン。」

そのまま、今度こそ軽く右手をひらり、と振ってからゆっくりと路地裏の闇へと歩き去っていくだろう。

ジーン・L・J > 「うーん、いい人だね、君は。善悪ではなく、いい人だ。」
そろそろフィルターと先端がほとんど接触するまでになった煙草を携帯灰皿に押し込んで。
彼の言葉は相手を殊更労るようなものではないが、突き放すようなものでもない。
手を貸しているわけでもないから助言という表現が近いだろうか。それを出会ったばかりの他人にするのは自然にできるものではない、このような場所に住んでいるなら余計に。

そして突然飛んできた金属製の品、魔術刻印が目に入り、反射的に探査魔術を即座に走らせれば、とりあえず触っても危険がないぐらいはわかった。
受け止めればそれは丁度自分のような風体で地理に詳しくない者にはぴったりのもので。
「何から何まで悪いね、ミスター黒龍。この恩はいつか返すよ。それじゃあ、また、何処かで。」
チェーンを作り出して懐中時計をベストに結ぶと、設えたようにポケットに収まった。

去りゆく背中を見送ってから、言われた通りに方位を確認してみてから、こちらも夜闇に消える。

ご案内:「落第街 路地裏」から黒龍さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からジーン・L・Jさんが去りました。