2021/01/24 のログ
■神代理央 >
「さてね。その辺りは御想像にお任せするとしようか。
見ての通り…か。一概に否定出来ぬのも困りものだな」
笑みを零す男に、些か不機嫌そうな声色で答えつつも、それだけ。
男の軽口にも短い言葉で答えると、小さく溜息をついて言葉を締め括る。
――男は、風紀委員会を畏れている風には見えない。軽口とはいえ、仮にも風紀委員会の総本山へ、との言葉にも動揺を見せる事は無かった。己の事を知っているのなら、本当に連れていかれる可能性だって考慮するだろうに。
それはつまり、男には絶対に連れていかれない自信があるのか。或いは、本当に善良な市民でしかないのか。或いは――どんな後ろ暗い事があっても、それを隠し通せるのか。
何方にせよ、多少気に掛けた方が良い相手には違いない。
「迷惑であると思うなら、端からこの様な場所を訪れぬ事だな。
学生街に居を構え、正当に、真っ当に。そのハニーとやらに会いに行けばよいだけの話だろう」
背を向ける男に返す言葉は、さして音量の大きなものではない。
聞こえていようがいまいが構わないと言う様に、返す言葉。
そうして、片手を上げて立ち去ろうとする男を黙って見送る。
別に、再会の言葉を交わす仲でもなければ、互いに名乗りすら上げていない身。
気の利いた別れの言葉など望んでいないだろう――と、思った矢先。
「私とて、血の通った人間だからな。欲も悩みも幾らでも抱えているものさ。
……しかしまあ、何というか。皆、貴様程に損得勘定で動ける理性を持って欲しいものなのだが。御忠告有難う。次は、喫煙場所にも気を付けるとしよう」
深々と吐き出した溜息は、現れた者達へと向けられたもの。
今更仰々しく構える必要も無い。既に、主の危機を察して多脚の異形は駆動を始めているのだから。
「………そう。私が此処にいる理由。私が風紀委員を務める理由は答えたさ。望まれたからな。
しかし……いや、それ以上は無粋だし、アイツも望んではいないだろう。我々……いや、私が掲げる理念など、所詮は相容れぬものだ」
ぽつりと呟いた言葉は、もう男に向けたものではないのだろう。
『神代理央』が風紀委員として常世島に居る理由と『風紀委員』として犯罪者と対峙する理由は、また別物。
だが、それを語る様な時間と場所でもない。何より、大勢の邪魔者で雰囲気も台無しだ。
何、また何れ、語らう時もあるだろうし。
「……さて、仕事の時間か。精々良い的になってくれよ。溝鼠共」
律義にも、羅刹が戦闘の余波に巻き込まれぬ距離まで立ち去ったのを見送ってから始まった戦闘。
その結果は――まあ、語る迄も無いだろう。
後日、彼の元には"何時もと変わらぬ"報告書が届くのだろうか。
『デコイによる自爆は効果が無かった事』
『復讐者の襲撃の余波によって、特務広報部が幾つかの小規模な違反部活を壊滅させた事』
『神代理央が、落第街で出会った男の情報を得ようとしている事』
彼の組織だからこそ、得られる情報。
鮮度の高い、信憑性のある、確実な情報。
そして、風紀委員会よりも一手先を行くだけの、武器。
地下深くで暗躍する蜥蜴は、鉄火をも腐食させる猛毒足り得るのか。
今宵の邂逅から、其れを伺い知ることが出来るのは――きっと、神様だけなのだろうから。
ご案内:「落第街 路地裏」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」から羅刹さんが去りました。