2021/10/10 のログ
伊都波 凛霞 >  
「こんな時間にお仕事なんて、大変ですね」

やんわりと微笑んで言う様子には含みは感じられない
しかし、少女も全く警戒をしていないわけではなかった

無論、此処は落第街
正規の学生でない不法入島者、違反学生、異能犯罪者達の巣窟である
ただし、やむを得ず此処に住み、暮らす人もいる
そういった住人には、手を差し伸べることも必要…
だからこそ、見た目だけで判断などせずに、平等に声をかけているのだ

──勿論、危険な相手に声をかけてしまうことは折込み済みで

…男に投げかけられた言葉に、讃えていた笑みは消える
ほんの一瞬、その身体も強張ったように見えた

けれど同時にそんな言葉を投げかけられるということは、と
おかげで気持ちの切り替えも、すぐに済んだ──

男の声と共に、自身の側頭部に向けて迫る砂袋
風を切り迫るそれを左手で捕らえる
野球の軟球をキャッチするように、体幹をブレさせることもなく、掴み取った

「…これが仕事、ですか?」

先程までとは打って変わって、文字通りの真剣じみた鋭さを湛えた表情
凛とした声と視線が、射抜くように男を見据え……
徐々に周囲に集まりつつある気配を牽制するように、ゆっくりと視線を巡らせる

羅刹 > 砂袋を難なく受け止められ…驚きもせずやっぱりか、と男は思う
そんな眩しい者がわざわざ落第街に来る
仕事ということもあるだろうが、自信があるのだろう
何があっても、何とかなるという自信が。

そして風紀にとって自信とは実力に裏打ちされたものだと男は考えている
ならば、この相手は鉄火と同じかあるいはそれ以上か

「おっと驚いた。…おいおい。俺は何もしてねえよ。揶揄っただけだ
最近は幽霊騒ぎもあるようだしな。それじゃないか?」

飛んできたものに驚き、それを受け止めた相手に驚いたように見せかける
異能か、あるいは…考えにくいが培った反射神経か
どちらにせよ、不可知の攻撃で無ければ通用しないことはわかった
なら、丁度いい
派手で無い分、鉄火以上に厄介な部分があるこの女の情報を得られるのは有難い

それに、実験にもなる
こちらの策に、別の風紀がどういった反応をするか

「疑われたら仕方ねえ、無実だろうと、そっちはいくらでも白を黒にしちまうからな
…俺は逃げさせてもらおうか」

恍けた後、怖い怖い、と言いながらゆっくり男は引いていく
追いかけても追わなくても…代わりに、辺りの気配は殺気に近いものへと変わっていく
所持しているのは間違いなく銃器
嗅覚聴覚が優れているなら、油のにおいや…機械が擦れ合う音も聞こえるだろうか

路地を塞ぐように女生徒の左右にそれぞれ2人、そして後ろに3人、男が逃げる方向から2人、廃ビルの上に2人の気配が満ちる
いずれも異能持ちではないのか、小型の拳銃とナイフで武装し。
陣形は、一気に攻撃を受けないよう間隔を空けて
それぞれの格闘技術などは少女に及ぶべくもないだろう。
しかし、少女にとって問題なのは何処かから飛んでくる物体だろう

最初砂袋であったそれは、手のひら大の鉄球になり少女に襲い掛かり始める
位置の共有が完璧になされているのか、迫る集団の進軍を止めることはなく、路地の奥から不定期に少女に攻撃が加えられる
鉄球の狙いは、機動力を奪うため、腰や足に向かって。

更に路地からは、少女を捕らえるため覆面を付けた男たちが迫る
時間が経てば、状況は女生徒にとって悪くなっていくだろうか。
今も、男は指示を出し続けているのだから

伊都波 凛霞 >  
「初対面の女性を誂うのは関心しないっていうか」

左手に握られた砂袋に視線を降ろして、小さく溜息

「幽霊にしては生きた殺気があちこちからって感じですけど…?」

しかし目の前の男が指示を出している様子はない
ならば男と関連付けるのは…と、思っていると、飛来した鉄球が鼻先を掠める
風切り音に咄嗟に身を反らした結果、避ければしたものの…

「(……5、6…? 違う、もっと…!)」

路地である故に遮蔽物は多くない
そして自身の運動能力も万全とは言えない

更に迫る覆面の男達
これは明らかに統率が取れているように見えた
ならば…と、焦りを抑え
不定期に飛来する鉄球の弾道、その延長線に男…羅刹が入るポイントへと位置を取る

もし彼が何かしらの指示をしているのならば…余程でなければ多少はその攻撃に迷いが生じる
それを察知できるか否かは、只管に気を張り詰め見極めるしかないのだが

「…っ、もう…!」

そんな計算をしつつも複数迫る覆面は恐らく数的に徒手ばかりでは手に余る
そう判断すると両腕の制服の袖から鈍色の鉄棍、トンファーがするりと滑り落ち、手に握られる

応戦する以上どうしても距離をとった男への警戒は薄いものになるが…やむを得ず

羅刹 > やはり、何がしかで飛来物はあまり有効ではない
ならば、人的有利を生かす戦法に移ろう

「ははは。全くだ。だがまあ、殺気なんてのは、俺にはわからねぇなあ」

などと言いながら、飛来する鉄球に焦りも見せない羅刹
そのまま煙草すら吸い出しそうな雰囲気だが
警戒が薄まったとはいえ、羅刹に何ができるわけでもない

羅刹もまた、相手を攻撃する異能ではなく
自身の肉体でしか戦えないからだ
そんな能力で、風紀委員に対して近接戦を仕掛けるほど馬鹿ではない
そして、射線に自分が入れられているとわかっても無駄に動きはしない

鉄球の投射は…少女の計画によって、頻度と速度が下がる
しかし、それは躊躇いではなく再計算の時間だ。
少しして放たれる鉄球は…空中で軌道を変え、羅刹や部隊を巧みに避けるようにして襲い掛かり始める

明らかに、単なる投擲ではなく異能による操作が入っている
羅刹も、拳銃の間合いまで近づいた部隊も動かないことからも、そこを避けるように攻撃していることがわかるだろうか
逆に言えば、彼らの居る位置は安全だということでもあるが、気づけるかどうか

そして近づく覆面達も、決して安易に距離は詰めず拳銃の間合いで少女に銃口を向け
当たらずとも動きを阻害するため、銃声が抑えられた拳銃が光る度、狙われるのはやはり足元や足そのもの
逃げも追いも、足が肝要であるから…そこを狙う算段
けれど、今まで見た少女の動きならば…光と僅かな音さえあれば、統率の取れた射撃だからこそ避けられる可能性は高いだろう

そこで指示は止まらず、更に
『殺気のない』気配が路地に近づいてくる
実験として…仕込みをしていたとある人員を一人、ここに誘導している。
が、その前に…銃弾か鉄球が命中し…動きが止まれば、その瞬間に部隊は一挙に少女を抑えにかかるだろう

あるいは、打開策としては。
年嵩は少女と同じかそれ以上の部隊の男たちを倒すことができれば、その方向は手薄になるだろう
警邏が居るという情報上、あまり多くの人数は裂けなかったが故に。

伊都波 凛霞 >  
「…くっ……!」

男から返ってくる返答は、笑いの混じった呑気なもの
男、羅刹を斜線にいれると、投擲の空気が変わる
明確に、という程ではないが味方への被害を避ける間合いと攻め方…
そしてその中に、男も入っているように思えた

トンファーを長い間合いで振って牽制し、
銃弾など見て避けられるわけがない為、銃口の向きと引き金を引く気配を頼りに、逃げる
その読みやすさ、には群れを統率する者がいるのはやはり明白で

「(狙ってるのは…脚)」

せっかく治った脚をまた壊されるわけにはいかない
跳び、壁を蹴って、狭いながらも器用に謎の集団からの攻撃を隙かし続け…

「──ふっ!」

跳ぶと同時に距離を詰め、銃を構えた男の手を払い落とすように鉄棍で打ち下ろし、
周りにいた反応の遅れた男の足を掬うように靭やかな脚で払う
そして位置に留まらず、再び距離をとる──

"多対一での乱戦に慣れ、戦い方を熟知している"

そう思わせるに、十分な動き

「っ…まだ続けるなら、全員捕まえるけどっ!」

僅かに乱れた呼吸を吐きつけ、声を張る
怪我はさせたくないが、状況が状況
なおかつ、次第に押されているのも理解していた
一気に攻勢に出なければいずれは、当たる

神経を避けることに集中しているのもあってだろう
──近づいてくる、殺気を纏わぬ気配には、気づいた様子はなかった

羅刹 > 素直に、羅刹は感心していた
例え、自分に同じだけの身体能力があったとしても
あれだけ的確に対処できるかどうか

鉄棍で打たれれば、骨など罅が入るか折れるかぐらいは容易だ
そうなれば、攻撃された部隊員はうめき声を上げるも、拳銃の合間に立ち上がり…利き手と逆にナイフを握り。
女生徒が、違う部隊員に近づくのを牽制し始める

これなら、この女生徒が一人で居るのも納得だ
他に誰かが居れば逆にこの動きはできない
多対一でこそ輝く才能だろう

「隠す必要もねえか。
だが、増援が来ねえとまずいのはそっちじゃねえのか?」

部隊員たちは何も答えないが
その奥から、羅刹が声を上げる

消音とはいえ、多少は音もするし発光も見られる
警邏ということは報告し合うこともあるだろう
増援が集まってくる前に、何らかのカタを付ける必要がある

――この女は、敵に対しては強いだろう。それが風紀という強さでもある
  ならば、守るべきものを増やしてやればどうか

それが、実験の内容だった
夏ごろから密かに続けていた誘拐と解放
ただ誘拐しただけではなく、部隊員の、心を抉る能力によって精神を極限まで弱らせ

羅刹の特殊な能力によって一つの命令を、誘拐被害者に擦り込んだ

『何もなければ全てを忘れ普段通りに過ごせる。
だが、この声からメッセージが入った時、その内容に一度だけ従わなければならない』

機会を限定し、命に関わる命令をしないことを条件に
心を炎に抉られる能力から逃れる為に被害者はそれを無意識に受け入れていった


今回ルートを指定し、他の部隊員に護衛させて『呼んだ』のは

何の変哲もない、ただの女子学生だ。もしかすると知り合いかもしれないが、それは組織には関係が無い
違反部活生でもなく、普通に暮らしていた女生徒
明らかに場違いな存在が、この場に現れ

『せーんぱーい!ここに来たら先輩に会えるってあの人が―!』

虚ろな目で、笑ったまま。
果敢に部隊員を倒す風紀委員に突進し抱き着こうとしていて
ただし、少なくなった銃口と飛来する鉄球は未だ風紀委員に向けられたままである

直接女生徒を狙っていないからこそ、羅刹への傾倒は揺るがず
ただ、女生徒は敬慕の表情のまま『邪魔』をしようと迫る

部隊は、無関係の生徒を巻き込むことも躊躇っておらず。
風紀委員が感じる、引き金を引く気配は変わらず弾丸が発射される予感を感じさせるだろう

動きを止められればそのまま風紀委員の体を弾丸が貫き。
女生徒を庇えばそれもダメージとなるだろうという狙い

嘲りも何もなく、手段も択ばず
ただ羅刹はその結果を見る

伊都波 凛霞 >  
隠す必要もなくなったのであろう、男の声
…訝しんでいなかったわけではない
けれど残念に思う気持ちを押し込めて、それならもう何も遠慮する必要がない、と

今の自分が発揮できる範囲の能力でも、十分に全員を伸して回ることは可能だと
鉄棍を握りしめ、その表情をより引き締まったものへと変える

──男の目算通り、この女生徒…
凛霞は個人能力が"高すぎる"故に、集団行動では足並みを揃えるために大きくその性能を制限される
問題は…それが"仲間"以外にも発揮される、ということ

「──っ!?」

唐突に聞こえた言葉に振り返る
周囲から漲る殺気に完全に隠された、女生徒の気配
なんでこんな場所に、こんな時間に、こんな時に──
そう巡る思考は、向けられた銃口から発せられる殺気に寸断される

「来ちゃダメ!!」

地を蹴り、こちらに向かおうと歩みを進める女生徒へと一足跳びに
その行動は、先程まで冷静に射線を読み、対応していた女とは思えないほどに"考えなし"の、咄嗟の行動に見えるだろう
全ての射線から、女生徒を遮るように近づいた凛霞は──

「…っ、あ……」

虚ろな目をした女生徒に抱きつかれ、そのまま一瞬の自由を失った
それも仕込みである、と脳裏に過ぎった時には、引鉄が引かれ……

「ぅあうッ───」

短い悲鳴
鉄球が片足、太腿部に命中し鈍い音を立て、
同時に、脚に向けられ放たれた銃弾が両足の膝を裏から撃ち抜き…支えを失ったその身体ずるりと女生徒の前へ崩折れる

「ぅ…ぅぐ」

ずくんずくんと走る激痛に苦悶の表情を浮かべ、見上げるように、その視線を男…羅刹へと向けていた

羅刹 > 今迄は、力押しをしてきた
銃器、暴力、人数、果ては神話生物の影絵
けれど、それをもってしも風紀という壁は高い
ならば、内側から崩していこうと計画していたことだったが

「お優しいことだ」

一足飛びに、闇を駆ける姿を見て一言呟けば
その直後に空気が抜けたような音と、硬いものと硬いものが当たる音

(全く。…こんな奴らばっかりならな)

思考を少し過去と現在に巡らせるが
彼女が大声を上げたため、増援が駆けつけるかもしれない
この後のことは、迅速に、だ。

「こいつ…囮は、『表』まで送れ。
後は…こいつはさっさと拘束して連れ帰れ。内情を吐いてもらう
『尾』も呼んである。2-3-2に運べ」

かすり傷は残るものの、無関係の生徒は命令を終えたからか正気を取り戻し、混乱し始める
騒ぎが大きくなる前に部隊の一人が女生徒を引きはがし、連れ去っていく
これは、敢えて手がかりを残すため

こんなところを一人で任され、あれだけの動きをする人材である
風紀にもまた、何がしかの動きが期待できるだろう

端的に指示を出せば、残った部隊員が、警戒しつつも崩れ落ちた女…凛霞という名前は知らないが。
風紀委員を拘束しにかかる
とはいっても、後ろ手に女の両手を掴み、複数人で取り囲む程度ではあるが
抵抗するなら、ケガをした足に容赦なく打擲が加えられるだろう


見上げられた男は、上から見下ろしながら

「確か…お前ら風紀の犯罪者に対するやり方は従順にしてりゃ殺しはしねえ…だったか?
うちのモンが鉄火に世話になった分、返さねえとな?」

彼女は知っているのだろうか
一時期、鉄火預かりでとある組織のメンバーが捕えられ、尋問されていたことを
そしてそのメンバーが紆余曲折あり、奪還されたことを

嘲るような口調ではあるものの笑うことも無く、むしろどこか悔し気に。男は淡々と指示を出す
少し運ばれてしまえば、電子手錠によって両手両足が戒められ、目隠しと分厚いヘッドフォンによって視覚聴覚を防がれる
何も起こらなければそのまま…風紀委員が送られるのは冷たい地下室となるだろう―――

伊都波 凛霞 >  
「……っ」

痛む脚を抑えながら、連れて行かれる女生徒に視線を向ける
この後に及んでも他人の心配を優先する様子はさぞ甘いものに見えるのだろう
今後、再びまた彼女がこうやって利用される可能性があることが、悔しかった

「ッ、触ら、ないで…っ! うあっ…!!」

抵抗する素振りを見せれば負傷した脚を容赦なく痛めつけられる
苦悶の声が何度か続けば、漸く憔悴したか声は止み…

「…鉄火…?」

額に脂汗を浮かべながら見上げると上から降ってきた言葉
確かに"彼"を疎んでいる落第街の住人は多いだろう
ある種の報復か、それともただの言葉嬲りなのかはわからなかったが

机上に睨めあげる視線も、そして聴覚も塞がれてその自由を奪われ…
風紀委員、伊都波凛霞は落第街警邏中に行方不明
『蜥蜴』に、その身柄を拘束されることとなった──

羅刹 > 一度解放された生徒は餌だ

何も知らず、ただ落第街で怖い目にあった、と証言してくれることだろう
他の警邏によって、伊都波凛霞が行方不明になったことは滞りなく本部に伝えられ
優秀な風紀委員であればそこからルートを辿ることもできるだろう

落第街の奥。最も淀んだ場所に運ばれたことも。

捕虜となった風紀委員はすぐに殺されることはない
貴重な情報源でもある彼女を無為に殺すなど、蜥蜴の頭は許さない
食事も簡素ながら与えられ、死なぬようケガを最低限治療される

その後にどうなるかは、彼女の態度次第となるだろう――

ご案内:「落第街 路地裏」から羅刹さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」から伊都波 凛霞さんが去りました。