2021/10/15 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
大きな騒ぎ、無差別な事件は弱者にとって有り難く
ないものだ。渦中に巻き込まれた場合は当然として、
上手く避けてもその後に波及する影響に呑まれれば
無事ではいられない。

情報を得ようと近づけば巻き込まれる可能性があり、
逃げと傍観に徹すれば状況変化の煽りを受けて痛い
目に遭う羽目になる。

要は今危ない橋を渡るか、後で危ない橋を渡るか。

(今回は、ちったあ運が良かったって言えんのかな)

大きな事件が起こるたびに生まれる『うねり』に
毎度の如く潰されそうになっている黛薫としては
頭が痛い話だが……こと今回に限ってはそんなに
状況が悪くない。

黛 薫 >  
『幸運だった』と思える理由はいくつかある。

まず、断片的に聞いた状況だけで何が起きたかを
概ね把握出来たこと。少し前の風紀委員誘拐事件。
目撃された怪異と広がった呪的汚染。普段通りなら
真っ先に動いたはずの風紀委員特務広報部の動向。

渦中にいると思しき行方不明の風紀委員。
騒動の原因と思われる呪いを広める怪異。
目立った動きを見せない特務広報部の首魁。
丁度最近、全員と接触したばかりだ。

(回ってきた情報を信じるならやってるのはクロか。
怪異だから相互理解は無理、でも理性はある奴だ。
対象は無差別に見えるけぉ、完全な無作為じゃ無ぃ。
んなら最悪出会っても、巻き添えを回避する目は
あるってコトだ)

(本来鎮圧に当たるはずの特務広報部に動きは無ぃ。
つまりこの動きは予定通りなんだろ。どーやったか
知らねーけぉ、一枚噛んでんのな。クロが欲しがる
材料持ってたってコトか?本来自分らでやんなきゃ
いけない撹乱と圧力、誘拐された風紀委員の奪還に
必要な行動を肩代わりさせてる、ってか)

事前情報が充実していたお陰で、状況把握に伴う
リスクは最低限に抑えられた。普段なら限界まで
胃を痛めて緊張の糸を張り続けなければいけない
事態を容易く乗り越えられる目処が立つのは僥倖と
言う他ないだろう。

何より大きいのは『自分にも傷を残した怪異が
無差別に見える暴れ方をしている』という点だ。

僅かに間隔が空いたとはいえ、状況だけ見れば
自分も被害者に見える。いっそ気味が悪いほど
都合良く進んだ自分の扱いに『理由』が付けられ、
悪く言えば責任逃れの言い訳が整ったことになる。

黛 薫 >  
とはいえ、普段は大きなマイナスを我慢しなければ
ならないところをゼロに近い損失で逃げられそうと
言うだけの話。個人的な事情に目を向ければあまり
ありがたくない要素もある。

ひとつ。誘拐された風紀委員を知っていること。

一度出会っただけ、ギリギリ顔見知りの範疇では
あるが、知り合いや友人とはとても名乗れない仲。
しかしその1回で親切にされた恩があるし、何より
彼女が以前どんな目に遭ったかを知っていたから、
もっと厳しく線を引いても良い、なんて口走って
しまった後悔がある。

「だっっから、もっと自分を大切にしろって……
言ったっつーのに、ホントバカ、くっそがよ……」

仮に自分があのときもっと強く言っていたとしても
変わらなかっただろう。彼女は底抜けのお人好しで、
落第街は善良な者から食い物にされる場所。

負い目を感じるのはむしろ彼女に対して失礼だし、
何か出来たかもなんて悔いるのは傲慢でしかない。
ただ、縁あってそんな話をしてしまったから……
じくじくと心に棘が刺さったような痛みが走る。

黛 薫 >  
もうひとつ有り難くない点。今回の一件で様々な
組織が打撃を受けたが、そのうちのひとつに軽い
縁があったこと。

「そっちが先に潰されちゃ世話ねーんだよ……」

『梟』の印章が記されたライターを片手にぼやく。
どうしても『潰されそう』になったら頼れ、と。
ひとつの駆け込み寺としてアテにしていた組織は
どうも集中的に狙われたらしい。

元々大きな組織ではなかったが、過去に何度か
潰されても緩やかに活動を再開していたという
しぶとさを耳にしていた。何より接触した者に
そんな小組織に収まるとは思えない大きな器を
感じていたから……もしかしたらという期待を
勝手に抱いていたのだ。

(……でも、もし)

これだけの被害を受けてまた再始動するようなら。

『弱い組織』というのは見せかけで潰されても
潰されても、心臓部だけは守り切るシステムが
構築されているのではないか。それこそ、獣に
喰われかけても尻尾を切って逃げる『蜥蜴』の
ような、そんなシステムが。

「いぁ、流石にそれは期待し過ぎだよな……」

黛 薫 >  
幸運に恵まれた中で情報収集が出来た今回の一件、
何より実感するのは異能と体質の変容は予想より
遥かに大きな枷になっているということ。

元々ギリギリの綱渡りを続け、致命的でない犠牲を
払い続けながら生きてきたのだ。マイナス面が更に
大きくなれば容易に限界を迎えるのは当然だろう。

(……何か、気が晴れるよーなコト、なぃかなぁ)

精神が擦り減っているのがひしひしと実感出来る。
これ以上悪くなれば、いつ何処で糸が切れるやら。
また騒ぎを起こしてしまえば、今度は温情のある
措置では済まないのではという不安もある。

安全を期すなら部屋に閉じこもるのが1番良い。
しかし、それで精神を持ち崩せば本末転倒だ。

今までなら外に出て気分転換の材料を探して
いたところだが、外に出る負担も大きくなった。

「……詰んでね?」

黛薫は、一旦考えるのをやめた。
願わくば今回のような小さな幸運が転がってきて、
その場凌ぎでも気分転換が見つかればよいのだが。

ため息ひとつ漏らして人気の無い路地の向こうへ……。

ご案内:「落第街 路地裏」から黛 薫さんが去りました。