2021/10/26 のログ
伊都波 凛霞 >  
「………」

矢継ぎ早に問いかけるモノに、少ししゃがみ込んで視線を同じ位置へと落とす
全てを口にするわけにも行かない
そして全てを教えたところで納得もしないだろうことは明白だった

「私が今言えるのは、今口にしたことだけ」

「モノちゃんが"今のまま"のうちは、何も教えてあげられない。
 …納得してとは言わないけど、私を困らせたくなかったら、言うとおりにして」

モノ・クロ > 「……うーん」

凛霞お姉さんを困らせるのは、嫌だ。

でも。それだったら。

「凛霞お姉さんがいなくて、困ってる人は、いいの?」

凛霞お姉さんがいなくなって、困ってる人はいるはずだ。風紀委員然り、学園しかり、そしてこの落第街然りだ。

「”今のまま”じゃ駄目なら、変わればいいの?」

伊都波 凛霞 >  
「私のせいで困らせてる人がいるのは知ってる
 でも私はちゃんと、色々終わったら責任は取るつもり」

だからこそ、今以上に困らせる人、そして犠牲になる人を増やしたくない

「…そうだね」

「この島は人間の多い世界。理に外れる人や馴染めない人もいるけど…
 そういった人達は異邦人街なんかに集まってる。
 モノちゃんが人間に関わっていきたいのなら…もっと人に寄り添わないといけないね」

モノ・クロ > 「人に、寄り添う……」
記憶に出てくるのは、自分に群がる人々。

欲望を自らに詰め込んでいく人々。

逃げる人々。

狂う人々。

無為な死を選ぶ人々。


クロが、滅ぼすべきだと。唾棄していた、人々。


「………」
自分の手を見る。
自らのそれはなく、呪紋によって象られた手。
人の願いが沢山詰まった、呪いの手。
沢山の人間を狂わせた、呪いの手。

「寄り添う、って。どうすれば良いんだろう」
近づけば皆逃げる。触れれば皆発狂する。
寄り添うために必要な環境が、モノには無い。

伊都波 凛霞 >  
「それは…」

「…私には、答えをあげられない」

自分は、この子とは違う
わかってあげられる部分もあるかもしれないけれど
決定的に違う存在だとも思っている

「頑張っても寄り添えない子だって、いるから。
 …それでもその方法を模索することは、きっと無駄にはならない」

例え、諦めるという結論になったとしても
それは一つの答えとして、残るはずだ

「……モノちゃんは言葉が理解る。お話が出来る。
 寄り添おうっていう気持ちがあったら…これまで理解出来なかった言葉やお話も、理解できるようになるかもしれないね」

「私のことなら大丈夫だから。
 モノちゃんは自分のためにもっと時間を使って、ね」

モノ・クロ > 「……私はね。自分の為に時間はいっぱい使ってきたつもりなの。自由になって、自分のやりたいことを一杯やって。
でも、今は違うの。
凛霞お姉さんが囚われてるって聞いて、助けたいって思ったの。

私、凛霞お姉さんの助けになりたい。

ちゃんとお話できた凛霞お姉さんを助けたいの。」

ミシリ、と。黒く染まった左頬に、罅が入る。

『おい、モノ!』

くぐもった声が聞こえる。

「そのためなら、なんだってしてあげたい」

みしり、みしりと。罅が広がっていく。はら、はらりと。呪紋によって繋ぎ止められていた髪が舞う。

『やめろ、モノ!』

煤けた匂いが、モノから漏れる。

「そのためなら、私は………」

伊都波 凛霞 >  
「──大丈夫」

目の前で、変質してゆく怪異の姿
それを止めようとしている声も、僅かながら届いた気がした

「私に助けはいらないよ」

はっきりと、そう口にした

モノ・クロ > 「…………っ」
止まる。頬は罅割れたままだが…

「どうして、止めるの?」
左目は機能しなくなった。何も、見えない。

「困ってるの、お姉さんなのに」

「どうして」
お姉さんのためなら、死んだって構わないのに。

「私は変わらなきゃいけないのに」
クロを手放すことだって、したのに。

「どうして止めるの!?」

慟哭。悲しみの声が、響く。

伊都波 凛霞 >  
「言ったよ」

「…必要ない、って」

もう一度、言葉にする
はっきりと

「"貴方"が寄り添うべきものは私じゃなくて、人
 人の言葉を聞いて、人の想いを想像して、人の困ることをしない」

人と違うモノにとっては、難しい注文なのかもしれない
あるいは、無理難題。永遠に叶わないこと
それでも一人の人間として、願うように、そう口にする

モノ・クロ > 「凛霞お姉さんだって人じゃない!」
叫ぶ。

「凛霞お姉さんが、私を………っ、人として、扱ってくれて!嬉しかった!だから、私、凛霞お姉さんの為に、って!思ったのに…!」

慟哭する。しかしそれでも涙は出ない。
その機能はとうに失われてしまったのだから。

「私、知ってるよ!貴方がずっと人の助けになるために行動してて、今だってそうなんだって!でも――――」

ざわざわと。呪紋が波打つ。制御から外れつつある。

「どうして貴方が!人を助ける貴方が!人の助けを拒むの!?」

伊都波 凛霞 >  
「私を人だと思うなら、私にも事情があるってことも理解って」

「人は0か1かで考えられるものじゃない…。
 困っていて助けが必要な時も、困っていても誰かに関わってもらいたくない時もある」

言葉は、淡々と

「…そういうことを分かれるようにならないと、
 私と…人と一緒にいるっていうのは、難しいと思う。
 人と寄り添う…っていうのは、そういうこと」

モノ・クロ > 「なら、教えてよ!わからないもの、私h―――――――」

言いかけたところで、かくり、と。止まる。

主導権が、クロへと、移る。

「………アー…クソ痛ぇ。ったく、モノのやつ…」
自らの手を、左頬に添える。埋まり、馴染み、罅が消えていく。

「モノが…済まんな。感情的になると止まんねぇからな…でも、アンタも悪いんだぜ?事情を全く話さないなら納得も出来るわけがねぇ。

アンタを助けるためにモノが行動して、どれだけ犠牲が出たかわかってるよな?」
光を取り戻した左目で、凛霞を見る。

伊都波 凛霞 >  
「納得できなきゃ引き下がれないなら、人には寄り添えないよ」

主導権が変わったらしい、小さく肩をあげて、苦笑する

「人の沢山いる世界で生きるなら、
 納得できなくても理解はしなきゃいけないコトなんて無限にある
 他人の事情を顧みれない誰かは、内には入っていけないよ」

それは勿論、自分にだって該当する
話せない事情がある、と一度説明したことを何度聞かれても納得させる言葉は出せないのだ

モノ・クロ > 「幾日探して見つけ出したやつが、ボロ衣着て無事です、秘密にしろ、帰れって言われたって納得も出来なけりゃ理解も出来ないだろうよ」
何人も、何人も巻き込んで。自分に『厄災』という渾名がついて。方法を変えて探し出して。漸く見つけて拒絶であれば、誰だって憤慨するだろう。

「せめてなぁ…もうちょっとなにかなかったのかよ、頼めることとか。モノのやつ、自分がいたら誰かが死ぬっていうから死のうとしたんだぞ?」
自分の、罅割れていた左頬に触れる。
あれは、自分に対する拒絶だった。クロがいなければ、という。

自分がいなければ、モノは存命出来ないというのに。

伊都波 凛霞 >  
 「気持ちは、嬉しいと思ったよ」

小さく溜息を吐く

「でも、そういう言葉は寄り添えてから言うべきこと…。
 貴方達は沢山の犠牲を出しすぎた。
 それが私の為だ、って言っても誰も納得しないし理解もされない」

視線をゆっくりと、辺りへ巡らせる
もう、皆は逃げた後だろうか

「言い方や手法を変えたところで、何もして欲しくないことには変わらない。
 回りくどい言い方をしたって伝わらないことは、もうわかってるからね」

過去のあの子とのやり取り
そこから多少なり変わったのだろうか
それを汲み取ることは、今の対話では殆ど出来なかったが
あるいは、クロが先に出てきていれば違ったのかもしれないが…

「それでも伝わらなかったなら、後々を見据えてすら、納得も理解すらも出来ないなら
 あの子は人の中では生きていけないのかもしれない、そういう結果だって、ある」

「……それとも、もっとヒドい、突き放すような言い方をすれば良かったと思う…?」

モノ・クロ > 「一応、言っておくが。

引き金に指を掛けさせたのは、俺でもなく…ましてやモノ自身でもないぞ?
利用されてるってわかってて、それでもアンタのためだって暴れて…。
確かに誰も納得しねぇし理解もされねぇだろう。方法が間違ってんだから。
なら、その方法を教えたのは、誰なんだろうな?」
クロは知っている。教唆した人間を知っている。
モノを介して聞いていたから。
それでも良いと、モノが言ったから。

「回りくどく言って伝わらねぇなら直接的な方法で言わねぇと伝わらねぇのは当たり前だろう。それが酷かろうが突き放す言い方だろうが、その方がまだ理解も納得も出来るだろうよ。

最悪、救いのない世界を彷徨い続けるより、いっそ殺してしまったほうが救いがあるかもしれないぜ?」

伊都波 凛霞 >  
「それで、自分は悪くない、って言いたいのなら。
 きっとそこから先に、貴方達は進めないと思う」

言いたくもない言葉を言わされる
胸が痛む。心が拒否する
けれど、彼らは怪異
根本的なところで、相容れないのなら

──この子、クロの言うことはあながち間違っていない

「…君達が死ぬことで害を撒き散らさないなら、という前提だけお
 ………私が責任を以って…──殺そうか?」

言葉にするだけで、悲しい気分になる
退魔の家柄を補佐し続けてきた一族の跡継ぎがこんなことでいいのかと悩むこともあったが
言葉も理解れば、話も出来るこの子達に普通の怪異以上の何かを感じることは、過ちだっただろうか
もし過ちだったとするなら、どこかで断ち切らなければならない

モノ・クロ > 「………本来なら。誰かを殺せば、その責は一生ついてまわることになる。
残念な事に俺はその責を負いすぎてこうなっちまった。モノだってそうだ。あいつもその責がわからないぐらい人の死に触れちまった。」
だからといって、許されることではない。
死は未来を奪う行為であり、可能性を潰す行為なのだから。

クロは願いによってその命を奪い、モノは呪いによってその命を奪ってきた。
今だってこの呪紋に残る怨嗟がずっと囁いている。
逃れることなんて出来ない。

「……一応聞いておく。あんた、人を殺したことは?」

伊都波 凛霞 >  
「あるよ」

そう答えた声は冷ややかなもの
風紀委員として、落第害の悪漢を相手に立ち回り、結果命を奪うことになったことはある
異能者との戦闘行為、加減をする余裕もなかった
思えばあれ切り、ではあるが、殺めたことに間違いはなかった

「安心して」

「怪異なら数え切れないほど仕留めてる。ただ──」

言葉を切る
この子の特性は、強力な呪詛
そういった類の怪異は、死すら糧とすることがある

「貴方達が殺して死ぬのかどうか。
 殺すことで影響を及ばすのかどうか。
 そこまではわからない。答えをもらうまでは、君達が望んだとしても、殺せないよ」

モノ・クロ > 「…モノは人間だ。殺せば死ぬ。
俺は…呪いの塊だからな。少なくとも殺したやつには影響がある…が。それをモノが望むとは思えねぇ。

別に俺はこの世に未練があるわけじゃねぇし…なんなら恨んでもいる。死ぬことは別に構わねぇ。けどモノが望まねぇことはしたくねぇ。だから…主導権を、渡す」
かくり、と。また、止まる。そして。

「…………」
モノは、黙ったまま。考えている。

伊都波 凛霞 >  
「お話、聞いてた?」

入れ替わったらしいモノへと、声をかける

「私はさっき、私が困らせた人がいることに責任を取る、って言った。
 それには君が"結果的に"殺した人達も含まれてる──」

「……痛みを与えず殺す方法も、知ってる」

知識の上ではね。と言葉を続けて

モノの、選択を待つ

モノ・クロ > 「…うん。聞いてた。」
俯く。

「私は…凛霞お姉さんに、殺してほしくない」
そうしたら、ずっと凛霞お姉さんは、背負っちゃうから。

私の呪いを引きずることになっちゃうから。

「でも、クロにも死んでほしくない。」

「でも、クロを開放したらいっぱい死ぬ」

「どうすればいいか、わからない」

伊都波 凛霞 >  
「…呪いを解くことは?」

方法があるのか
あるとして、知っているのか
解いたら、どうなるのか

「急いで答えは出さなくてもいい、けど。
 …しばらくの間、私のことは忘れていて」

目を細め、口にしたくもない言葉を告げる
もしそれでもまだ、この子の自制が効かないようであれば…
人間として討伐しなければならない

既に、その領域にへ踏み込んでいるが、今ならまだ姿を眩ませることもできるだろう

モノ・クロ > 「…呪いを解いたら、クロが死ぬ。やろうと思えば、出来る。」

でも。私はクロが救われて欲しい。


「決めた。」


やれることは、やろう。どうなるかは、わからないけど。

「離れてて、くれる?もしものことがあったら、駄目だから。」

今からやるのは、賭けだ。

呪いは、祈りの力によって行使される。

それを上回る意思を、乗せれば。

変異を、起こせるのではないか、と。

伊都波 凛霞 >  
救われて欲しい
それはキレイな願いだ
けれどそれで犠牲になる人間のことは?
狂乱し、自ら命を断つしかなくなる者のことは…?
大切なものと天秤にかけられないのはわかる
けれど人は、人間の心だったなら…それは天秤にはかけられない

「………」

モノは何かをはじめようとしていた
何かを決めたようだった
だったら、それを見守ろう

周辺の構成員は、既に退避済みなのを確認していた

モノ・クロ > 「…………」
ざわ、と。呪紋が波打つ。
ざわ、ざわ、ざわ、と。蠢いていく。
真っ黒だった呪紋が、灰色に染まっていく。

「…………っ」
呪紋が剥がれる。焼け焦げた匂いがする。
髪が舞う。呪紋で繋ぎ止めていたモノが、解けていく。

「ァ…………ッ」
痛む。軋む。今まで騙していたものが、襲ってくる。
呪紋で押さえつけていた傷が開いていく。
ズタズタに、ボロボロに、焼け焦げた体が露わになっていく。

「ああああああっ!」
自分はどうなっても良い。
クロと、凛霞お姉さんが救えたら、それで。

血反吐を吐きながら、作り変えていく。
クロを。呪紋を。願いを。

伊都波 凛霞 >  
ただ、その様子を見ていた
否、見定めていた…というのが正しいかもしれない

どんなに頑張っても
どんなに意思を強く持っても
どうにもできないことは、いくつもこの世の中には在る
それを覆すことを、人は"奇跡"と呼ぶ

無論、そんなことは都合よく起こるものじゃない
人間と相容れないように感じたこの怪異の子が
自らを無理やりに変えようとしている

苦しみ、血を吐き、痕を晒して

友人ならば応援すべきなのだろうし
手伝えることがあるならば、手を貸すべきでもある

けれど、見守った

"ダメだった時"に、自身の感情を置き去りにするために

モノ・クロ > 「ぅ、ァ…………っ」
クロの意思を無視して。
数多の願いの声を無視して。
自分の意思だけに染める。

呪紋が灰色に染まっていく。
逃れるようにまだ黒い呪紋が暴れている。

黒く塗りつぶされた顔の左半分が、剥がれていく。

焼けただれた顔が、露わになっていく。

血が吹き出て、意識もはっきりしない。それでも、強く願った。

『皆を助けたい』と。

暴れていた呪紋が、ぴたり、と。動きを止めた。

受け入れるように、灰色に染まっていく。

呪紋から解き放たれ、放り出されたモノを置き去りに…それは、人を象っていく。

伊都波 凛霞 >  
終わったのだろうか

声はかけず、ただじっと…見守って
様子を伺う

人から齎された、人に害を与えるモノ
多くの犠牲は、強い願い一つで変えられる程のものなのか…

願望機 > 人型のそれは、凛霞の方を向いた。
顔もなく、目もなく。しかして視線はそちらにあり。

人ではない。呪いでもない。

『人の子よ。何を願う?』

まるで神が語りかけるかのように、凛霞へと言葉を向ける。
音ではなく、直接頭に響かせるようにして。

伊都波 凛霞 >  
「………」

おづいう変化を遂げたかは、見ただけでは理解できなかった
しかし、別のモノに変わったのだ、ということは理解る

そして発せられる問いかけは…
何を望むか、などという…漠然としたもの
頭の中に響くものに、僅かに頭を手で抑えながら

「…よくわからない、な」

「貴方、何?」

願望機 > 『我は【願望機】なり。願いを叶えるための、存在である。
モノの願いを通じ、誰かの助けとなるべく。元の機能を取り戻した。』

つまりは、クロの元であり…その憎悪などが抜けたものだと思えばいいだろう。

モノは、斃れたまま、ピクリとも動かない。

『願いを叶えるには対価が要る。人を呪えば自らにも呪いが降りかかり。誰かの救いを求めれば、誰かに不幸を齎すことになる。

良く、考えられよ。汝の願いを。』

伊都波 凛霞 >  
「…そっか」

なるほど
この怪異が発生した、大元の存在
そうやって生まれたものなのだと、理解した

じゃあ、と…視線を向ける

「──いいです。願いは自分の力で叶えるので」

そう、言い放った

願望機 > 『…そうか。賢明だ。我に頼る者など…いるべきではない。汝にはモノが世話になった借りがあるゆえ、聞かせてもらったが。

無いというのならば…そうだな。これだけは、わたしておくことにしよう』
しゅる、しゅるり、と。灰色の呪紋が凛霞の目の前で固まり、玉となる。

『モノの願いだ。お前を助けたいという願いを形にしたものだ。何か汝に危害を加えるような事があれば…その玉を使うと良い。砕けば、【願いの残滓】が、汝を助けてくれるであろう。』
つまりは。これは召喚石のようなもので。一度だけ、危機を救ってくれる【呪い】である。

『対価は、要らぬ。もう、払われているからな』
視線を、モノに向ける。

もう、動かない。

伊都波 凛霞 >  
「………」

珠を受け取る
…呪いではなく願いがカタチになったもの
自分を助けたいという気持ち
それが確かなもので、そんなはずのない重みを感じる
願望機は、続けてそれを呪いと称した

「…そう。じゃあ…お守りにしよっかな」

暗に、使うことはきっとないだろうと
その気持ち、願いは嬉しいし、有り難く受け取らなければならないもの
それでも今はそれが出来る状況ではなく…それは自分自身で打破する必要があった

「……あの子はどうなったの?」

受け取った珠を懐へ仕舞い、問いかけた

願望機 > 『元より死していたものだ。それが…元に戻ったに過ぎぬ。』
悔恨を含む、言葉。

『モノは、呪いによって繋ぎ止めていたに過ぎぬ。私…クロによって、な。あまりじっくりは見ぬほうが良い。その方が、彼女のためでもあろう。』

事実、モノの亡骸は、凄惨の一言だった。
呪紋が這っていた所は余すところ無く傷があり、顔の左半分と、左半身は焼け爛れ、肩から先は炭となって欠けていた。

『事実、私は一度…あれを見て、狂ったからな。願望機という役割を捨てクロとなったのも…それが原因だ』

伊都波 凛霞 >  
「……とりあえず、このビル封鎖しないとね」

痛ましい姿からは視線は逸らさない
彼女達の言葉を信じるなら、人間から齎された姿
そして、自分が齎した姿だ

「…貴方はどうするの?」

願望機 > 『さて……モノの願いには我の救いも込められていた。故に願望機に戻っても意思は残っておるようだが…正直、どうするべきか迷っておる。

下手な願いを叶えれば厄災を招き、姿を消せばモノの願いは叶えられぬ。

所謂、板挟みというやつだ』
願望機は、願われたものを叶えるだけであり、全てを救う術を知るわけではない。
そも、対価を要する時点で全てを救うのは有り得ないのだから。

『しばらくは、放浪しようかと思っておる。願望機としてではなく…個人として。』

クロ > 「まぁ、つまり…クロとして、ってことだ。人間に対する恨みこそあれ…モノに願われたのなら仕方ねぇ。俺も『皆が救われる方法』ってのを探すことにするよ」
伊都波 凛霞 >  
「…そうだね。でも、おせっかいかもしれないけど…」

「貴方のその存在は、口外しないほうがいい。
 願いは自分…人の力で叶えるものだけど、悪用しようとする人は…沢山いるから」

そのあたりも人間のことをもっと勉強したらわかるようになるかも、と付け加えて

「………」

もう一度、身体を横たえるモノに視線を落とす

「それから…ん、なんでもない。気にしないで」

何かを言おうとして、口と噤む
"皆が救われる方法"
果たしてそれが在ったとして、何か…
否、探すこと自体は、自由だ

「…そろそろ行くね。
 自分の仕事もしなきゃいけないし、このビルに誰か入らないように細工もしないと」

クロ > 「わかっている。幾億もの願いに耳を傾けてたんだ。人間の怖さぐらいはわかってる」
だから、あんなにもおぞましく、黒く染まったんだ。人の死にも厭わない存在になっていたんだ。

「………まぁ、これは俺からの小言だが。あんまり人の願いを無下にしてやるなよ。」
モノを一瞥して。彼女がかつてやったように、体を引き伸ばし、ワイヤーアクションのように飛び去っていくだろう。

伊都波 凛霞 >  
飛び去って往く姿を見送り大きく溜息を吐く

「…何も理由なしに、人の願いを無碍にするわけないじゃない」

視線を落とし、小さく目元を拭った
でも落ち込んでいる余裕は、自分にはない

懐から取り出した端末を操作し、メッセージを打つ

『落第街に出現し無差別に甚大な被害を生み出していた怪異と接触
 アジト○○番から構成員の撤退後…現在は無力化
 影響とその残滓を警戒するためにアジト○○番を放棄、封鎖されたし
 ──以上』

「………」

ふぅ、ともうひとつ、深い溜息
自身も去ろうと踵を返し…踏み出す前に、もう一度…背後を一瞥する

誰かに討伐されなかっただけ、良かったのか。それとも

「(……そんなこと、わかるわけないか)」

前に進む足取りもやや重く感じながら、自身のやるべきことを為すため、その場を後にした

ご案内:「落第街 路地裏」からモノ・クロさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」から伊都波 凛霞さんが去りました。