2021/11/15 のログ
ロア >  
『はてサで、どうダろうネぇ…。』

じゅるうりと舌のような触手のような
血色の何かが舌なめずりを零す。

手段はいくらでもある。けれど、そうだ、手軽ではない。

何かを得る為には対価が必要だ。
そして、その対価というのは、
互いの価値観が共有出来ていてこそ成り立つものでもある。

『どウでもヨイ。どうでもヨイ?
 切り捨デられぬナラ、闇に居続けルは、難しイ。
 人間の奢リ、エゴ、全デを救えル万能の神ハ、存在シない。
 何故そウ思う? 空が恋ジいのカ? 雛鳥。』

人間は脆くちっぽけだ。定命であり、手を伸ばせる範囲は限られている。
この目の前の化物とて、万能の神にはあらず、
この常世島の闇に潜んでこうして誰かを弄ぶようにする程度が関の山。
それ以上目立てば駆除されるのが目に見えているからだ。

この化物は、見ている。


『………復讐? ほぉ、ホウ、フグジュウ…。』


声は濁る。楽し気に笑う。

『大きイ事を言うヒトの子ダ。
 風紀とハ? 何故風紀ヲ恨む?
 個人個体デはなク? 風紀ゾのモノか?』

異形は問う、問う。

この化物はどうやら風紀委員を知っている。

風紀の誰か個人だというならば、お膳立ても出来ようが、
風紀委員のシステムそのものだというならば、それは大それたモノだ。
 
潰すことは容易ではなく、例え潰せたとしても、
この島そのものが無くならない限り、代替の何かは出て来るだろう。

例え人間でも、仮にも大人がそれを理解出来ていないとは思えないが。

もし理解できていないとするならば、
何が柊をそうさせているのだと、闇は問いかける。

この眼前の、明らかに今柊が居る場所よりも更に暗い場所に居る異形は唆す。

>  
「おお、怖い怖い」

何かが、触手のような 何かが
舌なめずりをする 背筋に、冷たいものが入る
本当に食われるのでは と

対価、この手で対価なんて支払えるのだろうか
支払えるのならば、いくらでも契約は交わしていた

「はぁ、分かっておりますよそのくらい
 夢を見たって良いでしょう 
 万能の神がいないことも痛いほど分かってます
 ……案外、恋しいのかも知れませんねぇ」

昔は、先生になるのが夢だった
それを壊したのは自分自身 
妹さえも守りきれなかった愚か者
目の前の化け物ほどの力があれば そう、思う

「風紀全体、だったんですがね……最近は揺らぎ気味でして
 ま、ただの逆恨みですよ。妹を失った男の」

どうやらこの化け物は風紀を知っているようだ
質問に 一つづつ返しながら、どうするかと思考 しても
この化け物に勝てない以上は仕様がない。

抜いていたナイフを腰に仕舞い 此方の大それた妄想に嘲笑を
実のところ、もう風紀を倒せるなんて思っていない
思っていないが、どうしても打撃を与えたい 一矢を報いたい
駄々をこねる子供のようなそれだ
 
だが最近は、揺らぎ始めているのも事実だ

ロア >  
ギャッギャと異形は笑う。

『ヒトを喰うノモ今はダイヘンだ。
 1人居なグなれバ、大騒ぎ、オオサワギ。
 死体の小指ひどつ、零れダ臓腑の端、そんなモノダ。』

そんな恐ろしい雑談を零す。

対価を支払ったとして、それに見合う何かが得られる保証もない。
ただただ奪われて終わりということだって、この落第街ではあり得る。
奪われるだけならまだマシな状態にだってなるかもしれない。

感情の揺らぎにこの異形は敏感だ。
ヒトを喰う故に、ヒトの変化に敏感だ。

だからこそ、柊の前に現れたのかもしれない。

今日が転機となるか、はたまた転落となるか。
もしくは何も変わらないのか。

それは分からないが。


『いモうド。妹を失っダのが、風紀のせいダと。
 この街のヨウに、焼かれでもしダか?』

流石にこの異形も、柊の過去までは知らない。
病床の妹の為と、手段を違えてしまったかつての青年。
後がない人間の最後の足掻きを封じてしまった風紀委員。

…調べれば当時の担当ぐらいは出て来るかもしれない。
その対象に報いる術ぐらいは見つけられるかもしれないが…。

まぁそれも、表の伝手があれば容易かもしれない。

『ダガ揺らいでいル。そうカ、ソウガ…。』

揺らいでいる要因を吐き出すか?
目の前にいる異形は、地面に開いた穴のようなモノでもある。
何をため込んでいるか、何を悩んでいるか。
吐き出して、反響して、何か得られるモノがあるだろうか?

>  
「おや、貴方のような化け物でも恐れるものがあるとは
 ……驚きですね」

そんな恐ろしい雑談に 肩をすくめよう
奪われるだけ、そんな恐ろしい話はこの街にいくらでも転がっている
だからこそ此方は契約してこなかった、それを恐れて

今日の出会い、それはどうなるかわからないが
今は この化け物と無事に話を済ませよう

「あはは、焼かれていればもっと真っ直ぐに恨めたのですがね」

どうせ迷っている身 この化け物になら話しても構わないかと
簡単に昔のことを話す、逆恨みの原因を。

「とまぁ、こんなわけですよ
 酷い逆恨みでしょう?」

可笑しそうに クツクツと 

逆恨みが過ぎて、当時の担当を嬲って 殺しても構わないのかも知れないが
それに家族がもしいれば、それを悔やむ程度には 揺らいでいる
だから今は袖から見ているしかなかった

「ええ、揺らいで揺らいで 参ったことになってますよ」

なぜだか、この化け物にはすべてを話しても良いような そんな気がする
だからこそ、口を開こう

「とある少女と会いましてね。それが風紀委員だったんですが
 それが妹とよくにておりましてね……風紀も、人間だと思ったんですよ
 良い風紀もいる、とも思いましてね?」

ああ、ここまで吐露したのはいつ以来だろうか
なんとなくに 化け物に対し心地よさも感じて

「不思議な化け物ですね、貴方」

ロア >  
『化物、バゲモノ。所詮は混ザり物。
 ただのヒトの子よりは強かロウ。

 だガ、七つ目の喇叭(ラッパ)の吹かれダこの世界。
 《大変容》のゴの世に、恐れるモノは多く、多グあル。』

この島は悪が跳梁跋扈出来るような場所ではない。
そうでなければ、門の開くこの島は、もっともっと無法地帯だ。

生徒会も、常世財団も、常世学園、ひいては島そのものも、
こうして光と闇に別れているとはいえ、成り立っているのは、
こんな異形とて身を潜めて生きる必要のある世の中故なのである。

『…いいや、イイヤ?』

話を聞き、異形は言葉を零す。

『大切なモノを取りコぼしダ嘆き、哀しみ、
 憎悪に変えデ、それガ生きル為だった。
 失っタ過去に囚われデ、傷ヨり血を流しつづケ、生きル。

 ダのに新たナ縁に揺らいでイル。』


そう言っては異形はずいと柊に近寄る。

老婆の背がぐいと伸びて、男の顔を覗き込むように、見て。

光を未だ失わぬ柊の金眼の煌めきを、その瞼を通すように。

ロア > 『                  』
ロア >  
間近で、異形は言葉を紡ぐ。

『…オレは、オ前のようナ、ヒトの子を知っているヨ。ジってイル。
 魔除けの花。どこカで逢うカモナ。』

しわがれた声が続く。
心地が良いと言うのは、僅かな縁がそこにあるのかもしれない。

『化物ハ皆不思議なモノだ。
 魅入られれば、鳥は地に堕ちて喰われテしまウ。』

>  
「ははは、確かにそうでしょう
 貴方でも怖いことくらいはありますか……失礼いたしました」

この化け物も、恐れるということがあるのだろう
急に 親近感じみたものが湧いて可笑しそうに 笑おう

確かにこの化け物よりも強いものはいるだろう
羨ましくて 羨ましくて その絶望に息をこぼす

「……ははは、優柔不断と言われていたのを思い出しました」

化け物の声は 慣れてきたのか 妙に心地よくも聞こえ
人好きの笑みを崩した 刹那 此方の顔を覗き込む 顔が見えた

「……」

急に近づいてきた顔 それに肝を冷やす
だが、人間らしい そう言われてしまい 
きょとんと開いた目を化け物へと 向け

「おや、それは知り合いたいですね
 魔除けの花……? なんですかそれ」

聞き覚えのない単語 それに頭を回転させ 止めた

「ははは、では……そうですね、私が地に落ちたら食べてくださいよ」

もし、もし 疲れ果てて飛べなくなったら それもいいかもしれない

ロア >  
ゆるりと背丈を元の小さな老婆に戻す。
覗き込んだ翠紅の瞳は、炎にようにちらついていた。

『良い事、良いゴト。
 縁ある故にヒトは在る。独りで生きられぬ故のヒト。』

優柔不断と言われたことのある彼にそう言う。


柊、ヒイラギ。
花言葉は『用心深さ』『先見の明』『保護』

……『家庭の幸せ』

そして柊は、魔除けの花として扱われる。


『縁が呼ブのなら、いつか逢ウこどもあルだろウ。』

疑問符を浮かべる柊に、異形は笑うのみ。


この異形の知り合いに、同じ『柊』の名を冠するモノがいる。
同じように大切な人を失い、虚ろに生きて、
それでもと数多の縁に恵まれて教師に成った男がいる。

だがそれは、今は知らぬこと。

異形は仔細を話すことはしなかった。

ただ今は、ほんのひとかけらの言葉と縁のみ。


『そうカ、そウガ。
 とびキリに美味しクなって居たラ、そうしヨウ。』

願われれば、異形は受け入れる。


雲雀が堕ちて、蓮の咲く沼に沈むなら。

柊、釜雲蓮司。
もし、君がとある蓮が象徴するように滅亡へ導かれるなら、
確かに最期の眠り、この異形が担ってくれるかもしれない。

だがそれは、本当に最後の最後であると、願っている。

君に伸ばされた手は、君と繋がる縁は、
どこかで君を思い血色のカクテルを飲む彼がいるように、
まだまだ、居るのだから。


『さてサテ、草木も眠ル時間がヤッテくる。
 おかえり、オガエリ、ヒトの子、巣ハまだアルだろウ?』

>  
炎のようにちらつく炎は 瞳を釘付けに させた

「ははは、本当に不思議な化け物だ」

最初の恐怖感 それは今はなく、一人の人間と喋っている気分にさせられる

「ええ、貴女みたいな面白い化け物とは また話したいですね」

存外綺麗な顔してるじゃないですか
そう言った口は面白そうに歪められており

「あはは、多分不味いですよ? それでも良いならどうぞ?」

今日も、いい縁に恵まれた気がする
怖いが 話してみると存外に話せる化け物
こんな出会いは早々ないだろう

「ええ、まだありますとも」

最後の最後 こんな良い化け物に食われるならそれもそれでありだろう
クツクツ 喉奥にて笑った後 いつの間にか歩ける足を動かし

「それでは、おやすみなさいませ 夢が見れるのならばよき夢を」

そう言って、ゆっくりと去っていこう
気持ちは 揺れたままだが

ロア >  
どれほどに堕ちても、手を伸ばす誰かは居る。
その手を取るか、払い除けるかは己次第。

出逢った縁を抱え、ヒトは生きていく。

脆くも定命の人間は、そうして《大変容》の後も、数を保ってきた。


吐き出した気持ちが、揺らぐ心が、
たった一度だけ出逢った異形に変えられるとは思っていない。

けれど、それでも、吐き出さずに抱えるよりはマシだろう。


『オヤずみ、おやすミ。ニンゲン。
 オレは"ロア"。異形たル夜闇で隣ニ在るモノ。』

去っていく彼にそう名を告げる。

老婆のような異形は現れた時と同じよう、
黒と眼玉の何かに溶けて闇夜に散っていく。

ご案内:「落第街 路地裏」からさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からロアさんが去りました。