2021/12/08 のログ
紅龍 >  
 この落第街という街は、常世島の秩序からはじき出された、所謂はみ出し者どもの街らしい。
 だからというわけじゃないが、オレみたいな訳ありが住み着くには随分と都合がいい。
 問題は――。

「――ちっとばかし、治安がわりぃよな」

 はみ出し者や訳あり共の掃き溜めってんだから、当然だが。
 治安維持組織の風紀委員とやらの巡回も、精々が大通りまでだ。
 自分の身は自分で守るしかない。
 この街で誰かの助けにすがるのは、宝くじに当たるのを祈るようなもんだ。

「ふぅ――、もっと平穏無事に、静かに暮らしてえもんだよなぁ」

 口に出してみたが、滑稽な台詞だ。
 戦争屋崩れに、そんな上等な生活は望むべくもない。
 

紅龍 >  
『――お、誰かと思ったら紅さんじゃねえっすか』

 声を掛けてきたのは、街をぶらついて何度か顔を合わせた、チンピラの一人だ。
 赤毛のガキだが、生まれが同じ地方らしい。
 それを知ってから、こう顔を見ると気安く声を掛けてくるようになっちまった。

「よう、相変わらずふらふらしてんのか、チンピラ」

『チンピラはやめてくださいよ。
 それより紅さん、どうしたんすか、そんな重装備で』

 背中のライフルを言ってるんだろう。
 まあそりゃあ、70口径のライフルなんざ担いでたら、重装備にしか見えないだろうな。

「目ぇつけられちまったんだよ。
 知ってんだろ、噂の斬奪怪盗」

『げ、マジっすか。
 よく生きてたっすね、さすが紅さん』

「見逃してもらったんだよ。
 オレみたいな『一般人』が、まともにやりあってどうにかできるわけねえだろ」

 事実、逃げ回れる空間が無けりゃ、殺されるだけだった。
 いや、最初からただ『殺す』ために来られてたら、今頃は生ごみと一緒に焼却処分だ。

『そっすかね。
 ああでも、その怪盗、この前ガスマスクの変なヤツともやりあってましたよ』

「あん?
 んでなんだ――死んだのか、そのガスマスク」

『いや、なんか生きてたみてーっすよ。
 なんつーんすか、痛み分け?』

「――は、そいつはすげえな」

 どうやら、そのガスマスクとやらも随分ととんでもねえヤツらしい。
 出来る事なら敵対しないでいたいもんだが。

『――なあ、紅さん、俺にも一本くれません?』

「あ?
 ――たく、しょうがねえな」

 懐から『タバコ』を取り出して、くれてやる。
 火をつけてじっくりと吸うと、気分よさそうに吐き出した。

『っかー、これこれ!
 もったいねえっすよ、これ、売りもんにしたらぜってー稼げますよ』

「そういうもんじゃねえんだよ。
 量産できるもんでもねえから、諦めな」

 ヘッドギアの機能を起こして、時計を網膜投影する。
 少しばかり、道草しすぎたようだ。

「さ、て。
 オレは引き上げるぜ。
 道草食ってて、怪盗に襲われたんじゃ、目も当てられねえからな」

『あ、うっす。
 そんじゃ、また頼みますよ、これ』

「だーから、売りもんじゃねえ、つってんだろ。
 ――ま、気が向いたらな」

 紙袋を小脇に抱えて、『穴蔵』に向かう。
 去り際に「またな」と声を掛けてはやったが。
 さて――この街でいつまで『また』がある事やら。
 

ご案内:「落第街 路地裏」から紅龍さんが去りました。