2021/12/08 のログ
■紅龍 >
この落第街という街は、常世島の秩序からはじき出された、所謂はみ出し者どもの街らしい。
だからというわけじゃないが、オレみたいな訳ありが住み着くには随分と都合がいい。
問題は――。
「――ちっとばかし、治安がわりぃよな」
はみ出し者や訳あり共の掃き溜めってんだから、当然だが。
治安維持組織の風紀委員とやらの巡回も、精々が大通りまでだ。
自分の身は自分で守るしかない。
この街で誰かの助けにすがるのは、宝くじに当たるのを祈るようなもんだ。
「ふぅ――、もっと平穏無事に、静かに暮らしてえもんだよなぁ」
口に出してみたが、滑稽な台詞だ。
戦争屋崩れに、そんな上等な生活は望むべくもない。
■紅龍 >
『――お、誰かと思ったら紅さんじゃねえっすか』
声を掛けてきたのは、街をぶらついて何度か顔を合わせた、チンピラの一人だ。
赤毛のガキだが、生まれが同じ地方らしい。
それを知ってから、こう顔を見ると気安く声を掛けてくるようになっちまった。
「よう、相変わらずふらふらしてんのか、チンピラ」
『チンピラはやめてくださいよ。
それより紅さん、どうしたんすか、そんな重装備で』
背中のライフルを言ってるんだろう。
まあそりゃあ、70口径のライフルなんざ担いでたら、重装備にしか見えないだろうな。
「目ぇつけられちまったんだよ。
知ってんだろ、噂の斬奪怪盗」
『げ、マジっすか。
よく生きてたっすね、さすが紅さん』
「見逃してもらったんだよ。
オレみたいな『一般人』が、まともにやりあってどうにかできるわけねえだろ」
事実、逃げ回れる空間が無けりゃ、殺されるだけだった。
いや、最初からただ『殺す』ために来られてたら、今頃は生ごみと一緒に焼却処分だ。
『そっすかね。
ああでも、その怪盗、この前ガスマスクの変なヤツともやりあってましたよ』
「あん?
んでなんだ――死んだのか、そのガスマスク」
『いや、なんか生きてたみてーっすよ。
なんつーんすか、痛み分け?』
「――は、そいつはすげえな」
どうやら、そのガスマスクとやらも随分ととんでもねえヤツらしい。
出来る事なら敵対しないでいたいもんだが。
『――なあ、紅さん、俺にも一本くれません?』
「あ?
――たく、しょうがねえな」
懐から『タバコ』を取り出して、くれてやる。
火をつけてじっくりと吸うと、気分よさそうに吐き出した。
『っかー、これこれ!
もったいねえっすよ、これ、売りもんにしたらぜってー稼げますよ』
「そういうもんじゃねえんだよ。
量産できるもんでもねえから、諦めな」
ヘッドギアの機能を起こして、時計を網膜投影する。
少しばかり、道草しすぎたようだ。
「さ、て。
オレは引き上げるぜ。
道草食ってて、怪盗に襲われたんじゃ、目も当てられねえからな」
『あ、うっす。
そんじゃ、また頼みますよ、これ』
「だーから、売りもんじゃねえ、つってんだろ。
――ま、気が向いたらな」
紙袋を小脇に抱えて、『穴蔵』に向かう。
去り際に「またな」と声を掛けてはやったが。
さて――この街でいつまで『また』がある事やら。
ご案内:「落第街 路地裏」から紅龍さんが去りました。