2021/12/16 のログ
紅龍 >  
「へ、ときめいてくれるならオレもまだ捨てたもんじゃねえな。
 その代わり、そん時ゃ、お前さんに一月みっちり付き合ってもらうからな」

 『対象』を確実に『殺す』としたとき、なによりも重要なのは情報だ。
 嗜好や癖、考え方や感情の動き、歩きだす時に出る足は右か左か。
 ありとあらゆる情報を手に入れようとしたとき、一番手っ取り早いのは。
 全てを観察できるほど、『対象』と親密になる事だ。

「――そうかい。
 まあ、そうだな。
 お前を殺すのは、オレには楽しめそうにねえな」

 一度会っただけで、懐かしさを覚えた。
 二度会った今日は、見られた事に焦った。
 とっくに情がわいている。
 もし『その日』が来るとしても、オレは『それまで』の方が楽しいと感じるだろう。
 そして殺し合えば――どっちが死んでもやり切れねえな。

「気持ちはまだオニイサンでいてえんだよ、せめて。
 あー、無理すんな。
 つか禁欲中ってなんだよ」

 ダイエットでもしてんのか、こいつ。
 そんなの必要には思えねえが――

「――見落とし」

 そう、それだ。
 『種』は確かに小さい。
 直径は2㎜以下、色も血肉の中じゃ見分けがしづらい。
 だが、それにしたって見つからなすぎる。
 あくまでこれは植物だ。
 『根』を手繰れば『種』に辿り着かなきゃおかしい。

 ――それがない、って事は

 動体センサ―が離れたなにかを察知した。

「――マヤ!」

 思考を介さない咄嗟の行動ってのには、そいつの本質が現れる。
 オレは咄嗟に、目の前の娘の腕を掴んで引き寄せた。
 そのまま抱き寄せるように、腕の中に庇う。

 ――暗がりに転がった腕が蠢いていた。
 腕が跳ねたかと思えば、そこには赤黒い『花』が咲いている。
 そして、その中央に成った『実』が、一瞬ふくらみ――爆ぜる。

 巻き散らされるのは、多数の『種』。
 生き物に触れれば、無差別に寄生し、宿主を吸いつくす、災厄の『種』だ。

 スーツに当たった『種』が弾かれて地面に転がる。
 壁や道に当たった『種』はあちこちに散らばっていく。
 この『種』が万が一にも生身に当たれば、処理が必要だ。
 オレは問題ない、『ワクチン』もある。
 だが、マヤは――。
 大丈夫なんだろう――それでも体は動いちまったんだ。
 

藤白 真夜 >   
「……ふーん? ……そっか」

 楽しめない。
 男の言葉には、やはり残念だという気持ちがあった。
 けど、そういうおじさんの顔は、悪くなかった。
 そこに、感情は浮かんではいなかったかもしれない。
 殺しを生業として、何も感じずに殺しが出来るあなたは。
 けど。
 あの時、私に銃口を向けた男の顔に似て。
 その奥には、“情”があるように私には見えたのだ。
 それが、何を目的としたものであっても。
 それが、私を通して何かを見ていたのだとしても。


「だってー。
 そんな目の前で女を解体するおじさんとかいう猟奇的なモノ見せられたら私だってちょっとは――、」

 コーフンしそう……なんてふざけた言葉は、最後まで続かなかった。

「――きゃ」

 おじさんに抱き寄せられたまま、呆気に取られて声が漏れる。
 別に、抵抗も特段なかった。男と違って何かを察知するモノがあるわけでもないし、触れられればただの女に過ぎない。
 ……しかし、私の異能は違う。
 それは、生存本能を形にして肥大化したモノに近い。
 自分が意識しなくとも危険を防ごうとした意識は――、はたして、その異能が働くことはなかった。
 種は全て、男のスーツが弾いていた。
 行き場を失ったように、女の周りにふわりと血の香りとともに赤い霧が漂うだけで。

 異能と同じく、男の腕の中でぽかん、と呆気に取られた表情をしていたものの。

「……ありがと、紅さん」

 にこりと、小さく微笑んだ。

「これ、大丈夫?なんか、凄いの咲いてたけど……。
 ていうか、これ見つかんなかったのやっぱりおじさんの仕事が甘いせいじゃない?
 おじさんがどぎゃーんって吹っ飛ばしたからじゃないー?」

 でも、すぐにまた誂うようににまにま男に抱かれたまま上目遣いに意地悪そうな顔になったケド。 

紅龍 >  
「――おう」

 腕の中に感じるマヤの『重さ』。
 香る血の霧の中に混じる、年頃の娘の匂い。
 ああダメだな――これはダメだ。

「うるせえ、とりあえずお前が無事ならいいんだよ!
 あーくっそ、マジで焦ったじゃねえか」

 自分の感情を誤魔化すように、乱暴にマヤの頭を撫でる。
 『種』はとりあえず、一つも寄生は出来なかったようだ。
 まあその辺のネズミが頬張りでもしたら面倒にはなるが――さすがに今度はセンサーには何の反応もない。
 『花』も枯れて、『実験体』に這ってた『根』も枯れた。
 とはいえ、この路地に散った『種』を全部回収するのは不可能だ。

「――ったく、こりゃあ、燃やすしかねえな」

 回収は一つでもすりゃあいいだろう。
 ついでに枯れた花も必要か。

 ――で、目撃者、か。

「――こいつは、『闘争の種』っていう寄生植物だ。
 生き物に無差別に寄生して、操って、暴れまわる。
 戦争で『兵士』を使わずに敵を殺すための、『生物兵器』だ」

 マヤを撫でながら、口を滑らす。

 ――ああ、ずるい大人になってくもんだ。

「オレの母国の軍事機密で、違反部活の研究成果。
 常世島の研究室すら欲しがる、正真正銘の生物兵器。
 見たことあるか?
 ゾンビ映画ってやつ。
 これを使えば、アレと同じような事が起こる」

 一通り話してしまってから、腕の中を見下ろす。
 赤い目を、同じ色の目を見る。

「――お前、オレの部下にならねえか。
 協力者、でもいい。
 とりあえずそうすりゃ、オレの監督にある以上、お前を殺す必要は無くなる」

 

藤白 真夜 >   
「……んー?」

 女のほうはというと、あんまりわかっていなかった。
 ただ抱き寄せられるままに男の胸に収まり、そのぶっきらぼうな返事に何かを感じたのか、微かに微笑んだまま男を見上げて頭を傾げ――、

「むにゃッ。
 ちょっとーっ?なんなのーっ」

 ぐしぐしと撫でられた。
 口で文句を言ったり、おじさんちょっとてのひらゴツゴツしすぎかも、とか思いながらも、やはり特に抵抗はしない。

「へー……よくそんなの考えつくなあってところは面白いんだけどね~。
 もっと別の方向に使えば――まあ戦争の道具なんて全部そんなものね」

 聞かされる話はやはり血なまぐさいもので、でもやはりどこか話半分に聞いていた。実際、そんなに興味があるわけでもなかった。ロクでもないものなのは見てすぐわかったことだし。
 撫ぜられる掌に、応えるように頭を揺らしたりしながら。

 だから、続く言葉には驚いた。ぱちぱちと目を瞬かせ、男の目を見上げた。

「……あははは!……おじさん、ナイーブだねえ。
 それとも真面目、なのかな。
 ……はぁ~。もっと別の意味でナンパされたかったなー」

 ……ここで断れば、この男は私を殺しに来てくれるだろうか。
 しかし、……この男の情のこもらない殺意には、興味も無かった。
 だから。

「いいよ」

 そこに、私の殺しに執着する感情は、無かった。
 だから、私の顔に浮かぶものは強い喜びとか落胆ではない。
 ただ小さく。
 この男につまらない殺しをさせないための、慈悲の微笑みを浮かべた。

「それで、おじさんのつまんない殺しが一つでも減るならね。
 あ、でも部下は無理かも。怒られちゃう。
 あと、私絶対役に立たないから。私、ほとんど寝てるし。
 あと――
 私、取り扱い注意だから。最初に言ったよね?」

 同じ小さな微笑みを浮かべたまま、男の“首”に指を伸ばした。
 ……私も、ちゃんと見ていた。
 おそらく、あの植物は肌に触れる必要がある。
 だからこそ、あのスーツで弾けた。
 だからこそ、……植物はあの首筋を狙った。
 あのスーツには歯が立たない。でもあそこなら、私でも届くだろう。

「まあ、おじさんには優しくするケド。
 ちょくちょくやんちゃすると思うよ?」

紅龍 >  
「おじさんはナイーブで真面目なの。
 普通にナンパされたかったら、あと五年は我慢するんだな。
 おじさんからしたら、まだまだ『女』じゃねーの、マヤちゃんは」

 名残惜しく感じながら腕を放す。
 返事は聞かなくてもわかっていた。
 そういうだろうと思ったから、余計な事まで聞かせた。
 殺しに美学を持つ娘だから、オレの『仕事』は面白くないだろう。

「いいんだよ、そういう肩書しょっときゃ、雇い主どもも手は出さねえ。
 役に立つかどうかは、指示を出す人間が無能かどうかだしな。
 ――あん?」

 微笑むまま、マヤの指がオレの首に伸びる。
 それにオレは、反応も出来なければ、抵抗する気にもならなかった。

 ――ああ、死んだなこりゃ。

 思わず笑い声が漏れた。
 命を握られてる――こんな娘に。
 それが妙に面白く、悪くない気分だった。

「やんちゃな子供の面倒を見るのも、大人の役目だ。
 まあ、優しくしてくれんなら嬉しいけどな。
 おじさん、あんまり厳しいと泣いちゃうから」

 擬音にすりゃ、にぃってとこか。
 自分でもやけに楽しそうな笑みを浮かべてるのが分かる。
 首に触れるマヤの手に、手を重ねた。

「――さて、そろそろ後片付けしねえとな。
 マヤ、一つ、最初の仕事だ」

 握った手を放して、視線を外して、路地の向こうを示す。
 その向こうは大通りで、その先は歓楽街――『表』の世界だ。

「『表』に戻ったら風紀委員を呼べ。
 『歓楽街の外れ』で火事だってな。
 奴らも、通報があった以上は動かない訳にはいかないだろ」

 それから足元の『遺体』を見下ろして、呟く。

「せめて、葬られる時くらいは、人間として葬られるべきだ。
 名前もわからなかったとしても、な」

 そして、ラックに提げた焼夷手榴弾を手に取る。
 火葬するには不十分な火力だ。
 クソみてえな植物は燃えるが、骨や肉は残るだろう。
 それが勝手な都合で殺されたヤツへの、せめてもの手向けだ。
 

藤白 真夜 >   
「五年経ったらおじさんがそれ以上におじさんになっちゃってるんですけどー」

 ぶー。面白くなさそうに言いながら、でもやっぱり気分は悪くなかった。
 というか、今のは結構ナンパだったと思う。色んな意味で。
 離れていく男の“温かさ”を前に、指先は空を切る。
 ああ。ずっとなんだか物足りないと思っていた理由が解った。
 この人の纏うムキムキではどうにも、触れた気にならないんだった。
 それは、ようやく触れられた肌の温もりでもあったから。


「おーっ……!」

 この女、急に興奮した。
 いえ別に変な意味ではなく。
 火事が起きる理由だとかそういうのよりも、“それっぽい”命令が出たのが嬉しかったのだ。

「そっかー、歓楽街扱いなのね。
 ……無いものとされる、ね……。
 ま、いーや。わかったわ。……あ、いや、了解ボス!とか言ったほうがいい……!?」
 
 やっぱりちょっとテンションが上がっていた。
 こんな時でも、この女の優先順位が変わることはない。一番大事なものを得られない今、気の向くままに面白そうなものを見つめている。
 今はそれが男との関係なだけであって。
 当たり前に死んだ“運のない誰か”に向けられることはもう無い……はずだったけれど。

「思い出した。
 ……私、血を補給しにきたんだった。
 ……ねえねえ。いきなりだけどやんちゃしていい?」

 言うが早いか、というか男の返事を待つ気がないのか、女の掌からぼとぼとと血が溢れはじめる。
 それは、『遺体』に向けて広がっていった。
 しかし、ぷつぷつと何かを避けるような穴が開く。
 『種』だ。
 種を避けるようにして、しかしもはや肉塊のようなその遺体を――ごぽり、と血の沼に引きずり込む。

「――」

 その時の表情は男と出会って、はじめて。
 不快なモノが浮かんでいた。
 私の感覚として死体はそもそも、不味い。
 種という不純物を避けながらであることも、砂を噛むような感触を与えた。
 アレがどういう扱いを受けていたかまでは、私には届かなかった。
 ……そのナカには、暴力的な感情しか、残っていなかったから。

 けれど、呑み込む。
 他ならぬ私が……多少穢れているからと言って、その血肉と死を無駄にすることこそ、間違えていた。
 歪に見えるし、事実冒涜的なモノにも見えるかもしれない。
 けど、私にとっては。
 その死の感情を遺し、自らのナカで糧にする。
 それこそ、死者へ祓う礼儀でもあった。

「じゃあ、行ってくるね。
 他はどうにもできないから、燃やしてあげて」

 種が植わっていた部分や、腕、花の痕跡はまだ残っている。
 いずれにせよ、火は放たねばならないだろう。
 あの女を呑み込んだ血の沼が干上がると、紅く輝く砂のようなモノが私の元へ戻ってくる。
 しかし、ほとんどがその場に残っていた。
 私にもどうにも出来ない部分。種が残っていたのか、汚染がひどかったのか、私にはわからないけれど。

「……お前達にはあげないわ」

 異能を揮う。
 液体であった血はカタチを変え、その場に残る血を練り上げると、花のカタチになった。
 赤い、バラ。
 手向けの花としてはあまりに不釣り合いなそれは、しかしすぐに散った。
 確かにそこに在ったのだと、血の香りと散った花びらだけを残して。 

藤白 真夜 >  
「……じゃーね、おじさん」

 別れ際に、男を振り返る。
 ……機械や、歯車のような男だと勝手に思っていた。
 どこか冷めたような雰囲気が確かにある。
 でも。

 この男は、必要に駆られてあの女を解体した。
 なのに、その女を手向ける感情が、温かさが残っている。
 それはきっと、くるしい。
 死に向かう感情と、それにより得るものがどちらも温かい私には、きっと一生わからないことであった、けれど。

「あなたは正しいことをした。
 ……私も、助けてくれたし、ね?」

 あの時、助けてくれた男の情は。
 殺してバラしてなお、手向けるその情に。
 私も少しでも添えるよう。
 せめてでも、花を残したのだ。

紅龍 >  
 五年経ったら――言っておいて、オレの方が生きてるか怪しいが。
 そんときゃ、随分といい女になってる事だろうよ。

 指先が離れた時、やけに寒く感じたのは。
 多分、この島に来て初めて――触れ合った名残だろう。
 それを寒く感じられるのはまだ、オレが『人間』で居られているからなんだろうか。
 なんて、そんな問いに答えてくれる相手なんざ、いないのだが。

「察しが早いのは優秀な証拠だ。
 が、ボスはやめてくれ。
 どうせなら准佐か隊長にしてくれ、慣れてるから」

 楽しそうな様子をわざわざたしなめる必要もない。
 苦笑だけは浮かべてやるが、やる気になってくれるのなら良い事――

「んだ、補充式なのか――」

 マヤが生み出した光景を、ただぼんやりと眺めた。
 その意図がどこまでのものかは、察しきれない。
 だが、その行為が何を意味するのかは、正しく理解してやれた、そう思いたい。

「――いい仕事だ」

 散った花を眺めて、掛け値ない言葉を返す。
 オレにはできない、十分すぎる弔いだ。

 オレの指示を受けて離れていくマヤ。
 振り向いたその表情は――

「正しい、か」

 ――ああ、どうやらオレはまだ、ちゃんと『人間』らしい。

「助け助けられはお互い様だろ。
 謝謝――いや、『ありがとう』だな」

 ここまで踏み込ませておいて、他人行儀に『謝謝』はないだろう。
 なら伝える言葉は『ありがとう』だ。

「本当に、いい仕事だぜ、マヤ。
 これからも頼りにするから、覚悟しとけよ」

 笑ってその背中を見送りながら、言葉を掛ける。

「暇だったらいつでも遊びに来い――回见!」

 その背中が見えなくなれば、急に頭が冷えていく。
 頭で算盤を弾きながら、雇い主への報告を捏造する。

「――正しくはねえよ」

 屈んで、紅い花弁を一枚拾い上げた。

 ただ――正しく有りたいと、願ってはいる。

「さて――仕事だ仕事」

 花弁を一枚だけ懐にしまい、『種』と枯れた『花』を回収。
 そして、速やかに路地を火の海に変えて、オレは『穴蔵』に帰る。

 ――その日、風紀委員への通報で、歓楽街の外れで起きた火事は早期に鎮火された。
 その後日、一人の名もない人間が、無縁墓地に埋葬されたという出来事は、噂にもならず風に消えるのだった。
 

ご案内:「落第街 路地裏」から藤白 真夜さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」から紅龍さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」にハインケルさんが現れました。
ハインケル >  
「~♪ ♪」

薄暗い路地裏を鼻歌まじりの少女が歩く
雨の後だからかあちこちにある水溜りを器用に避けながら、軽やかにステップを踏むように

「ふん、ふん♪ この辺りもなんか少し治安よくなった?」

あんまり表でわるそーなことしてる人がいないようだ、というか
もともと人気が少ないところではあったけど、ここまでだったかなー、なんて
過去の記憶をまさぐりまさぐり

少し前にちょっとしたドンパチがあったらしいし、その関係かな
というのはなんとなーく、仕入れた情報と照らせばわかるきもする

ご案内:「落第街 路地裏」に雪景勇成さんが現れました。
雪景勇成 > ――先の『戦火』からこっち、最近は派手なドンパチといった事は然程も無い。
あんな規模の戦闘が毎度頻繁にあっても、それはそれで問題だろうが。

「――気が付きゃ結構”片付いてる”な…。」

ぽつり、と呟く。先の戦火からまだそんなに期間は空いていないが、その痕跡は薄れつつある。
もっとも、それは物理的なもので…アレが齎した真理的なモノは色濃く残り続けるのだろうが。

パシャリ、足元の小さな水溜りを構わず踏み鳴らし、僅かに水を跳ねる音が人気の無い路地裏に響く。

――と。

「……ん?」

気配と音を感じたのか、前方へと意識を戻す。どうやら前方から誰か来ている様だが…。
この時間帯、この辺りで擦れ違うのは珍しいな、と思いつつも気だるそうな足取りは変わらぬまま進む。

ハインケル >  
「ン?」

歩いていると前方に人影を発見する

互いが視認できる位置でぴたりと足をとめ、ピッと片手を挙げた

「こんばんわー!!」

大きな声
それは余りにも明るい声色で、余りにもその場所にそぐわなかった

「こんなトコロでお散歩ですかぁ?」

雪景勇成 > 「……おぅ、こんばんわ。」

こういう時間帯、こういう場所で擦れ違うのは大抵訳ありだったり癖の強い者が多いが…
ちょっと予想外の方向性でまた癖の強い輩と遭遇したような気がしないでもない。

自然とこちらも、相手の姿が分かる程度の距離感にて足を一度止めて。
まぁ、少々面食らいはしたが直ぐに何時もの無表情へと戻りつつ。

「…まぁ、そんな所だな。暇潰し…あー、『楽しい事』探しみたいなもん。」

或る人物に少々影響されたのか、緩く肩を竦めながらそんな他愛事を。
漠然とし過ぎている中身だが、小難しいよりシンプルな方が男は好きだった。

「…んで、そっちも散歩か何かか?」

どうせ暇していたのだ。こちらからも尋ね返しながら煙草を緩く蒸かす。

ハインケル >  
少女は跳ねるように、少年に近づいてゆく
そして愉しげにその周りをまわりながら

「ふふっ、楽しいコト?」

「そんなの、こんなトコロで探すより、向こうの街で探したほうがきっと一杯だよー?」

あっちー、と指をさす方向は大通り、ひいてはその向こうの歓楽街を指して

「うんうん、アタシもお散歩みたいなものー。あー、『悪いコト探し』みたいなもん♪」

わざわざ少年の言い方を真似るような口調で、無邪気に微笑みながら言葉を返す
緊張感なく接近してきたことといい、まるで無防備のようにも見えた