2022/01/05 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に紅龍さんが現れました。
■紅龍 >
【前回までの紅龍おじさん!】
違反部活『蟠桃会』の用心棒、元軍人の紅龍は。
『斬奪怪盗ダスクスレイ』の情報を集めるために探偵の『ノア』に仕事を依頼する。
そんな探偵からの情報を得て、『怪盗』との遭遇に備えるため、風紀委員『芥子風菖蒲』が行った戦闘を分析していた。
そうした日々の中、懐かしさを覚える少女、『マヤ』と知り合う。
そして路地裏では探していた『ガスマスク』を目撃、言葉を交わした。
探偵の調べた情報からは『知のゆびさき』という製薬会社の存在を知り、『マヤ』の血液から精製された薬を手に入れる。
違反部活の武器職人に依頼し、軍時代に使用していた弾薬や装備の補充、修繕ルートを手に入れた龍は、最盛期に最も近く装備を充実させたのであった。
■紅龍 >
──にわかに街が騒がしい。
ようは、新年、お正月ってやつだ。
ここしばらくの間、普段と違う空気がこの落第街にも流れていた。
「──やっぱ、ピンとこねえんだよなぁ」
この時期に正月と言われても、オレにはどうにも馴染みがない。
なにせ、『オレたち』にとって正月と言えば春節──いわゆる旧正月の事だからだ。
世の中とは一ヶ月ほど時期が違う。
「そういや、今年はどうすっかね。
特に予定もねえし──穴蔵にいると怒られるしなぁ」
春節に妹と過ごそうとすると怒られるんだよな。
恋人の一人でも作れとかなんとか──いや出来ねえよ。
春節なんだし、家族とダラダラしたっていいじゃねえか。
「軍の頃はそんな事もできなかったんだからよぉ」
思わずため息が漏れる。
最近、妹が手厳しい。
いや、うん、オレを気にかけてくれてるのは分るんだけどな。
■紅龍 >
そんな事を、表通りから一本だけ逸れた路地で考えた。
そう思うと、今の生活は随分と自由になったもんだ。
「――それに、金さえあれば装備も整うしな」
軍時代は、必要だからと申請しても配備されない事が多々あったが。
今は金さえかければ、必要な装備を欲しいだけ用意できる。
もちろん、技術的に可能な範囲は限られるが――それでも、オリジナルがあれば複製できると言うような職人が燻ってるんだから、オレにとってはありがたい話だ。
外見じゃいつもと変わらなく見えるだろうが、今はスーツの下にミスリル繊維でできた多層魔術帷子を着込んでいる。
物理的な防御を超えてくる相手にも、これならまあ、即死しない程度の防御力は見込めるだろう。
「あとは、これか」
『知のゆびさき』とやらが開発した、とんでもない飲む外傷薬。
効果も保証付きで頼もしい薬だが、飲んだら傷は治ってもオレの心臓が破裂しかねない。
それを、妹に預けて数倍に希釈、効果も多少調整したオレ専用の傷薬。
まあ調整の段階で効力は格段に落ちた上に、飲み薬から注射式になったんだが。
「それでも使えないよりはマシだな」
効果としては大したことはない。
通常の数倍、外傷に対する治癒能力が増すだけのもんだ。
だがそれでも、『致命傷じゃなければ死なない』というのはアドバンテージになる。
――ま、即効性も失ってるから予め投薬しておかないと意味がないんだが。
■紅龍 >
「――しかし、こうしてると暇なもんだ。
オレの仕事がねえってのは、大多数にとっちゃ良い事だけどよ」
その辺に転がってたプラ箱を蹴って座った。
懐から『タバコ』を取り出して、火をつける。
煙を吸って吐けば、周囲に複数のハーブが混ざった優しい香りが漂う。
「平和だねえ――」
しみじみと呟いてみると、急におかしくなって笑えた。
こんな街で、平和もなにもあったもんじゃねえだろうになあ?
ご案内:「落第街 路地裏」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
「……ふあー……」
落第街。そこに立ち寄るのは危険だと言うのはこの島での常識でもあった。
しかし、秩序とは無縁の落第街においても、一定のルールは必ず存在する。
有る種の暗黙の了解と言ってもいいかもしれない。
そのルールを守り、地雷を踏まない限り、この街でも一定の安寧というものは存在する。
のだが。
「ねむー……。
ちょっと出てきすぎたかなー……」
落第街に溶け込むような色合いで、しかしこれ以上なく浮いたセーラー服の女は、危険も何も感じずあくびをしながらぽてぽてと歩いていた。
「……んー?」
すん。
ふと、足を止めれば耳をすませるかのようにどこかを見上げ――
「……こっちかな?」
かと思いきや、すたすたすたと何かを見つけたかのように小走りで路地裏へと顔を出せば。
「……! いたいた!
おじさーんっ」
まるで待ち合わせをしていた人間に出会えたかのように笑顔を浮かべ、顔見知りの――“隊長”へと手を降って駆けていく。
「ねーねーおじさん。
……私のこと調べてたってホント?」
伺うように腰を軽く折って、下から覗き込むような悪戯めいた笑顔。
ある種、糾弾や告発のように聞こえる言葉。
けれどその女の顔は、やはり楽しげに綻んだまま。
調査がバレたことの意味合いや、新年の挨拶など当然後回し。私そういうの知らないし。
■紅龍 >
「――んぁ?」
近づいてくる足音、気配。
軽いな――ああ、この歩調は。
「――おう」
片手をあげて挨拶を返す。
この街には浮いたセーラー服だが、この娘にはまあよく似合ってる。
「あー、悪ぃな。
ちょいとお前の保護者だとか棲み処だとか、あとは学籍とかか?
そんなもんを軽く調べてこいって依頼したつもりだったんだけどよ。
まったく、あの犬、突っ込まねえでいいとこまで鼻突っ込みやがって。
――お前にも手間かけさせたみてえだな」
見上げてくる頭に手を伸ばす。
まあこれは挨拶――いや、癖みてえなもんだ。
「んで、どうした。
お前が出歩いてるってことは、ストレス発散中か?」
口元が緩んでるのが自覚できる。
滑稽な話だが、やっぱりこの娘を構ってると楽しいらしい。
■藤白 真夜 >
「……」
一瞬。
何も言わず無表情に。
男をまっすぐに見つめる。
何か、その奥底に秘めるものが無いか、探るように。
「そっかー。
なんていうか、探偵サンが優秀すぎるのも大変っていうか……。
てゆーかそういうのを調べさせるおじさんも大概なおじさんじゃない?」
けれど、その表情はすぐにいつものどこか楽しそうな表情に戻っていた。……きもち寝不足気味だけど。
頭に手を伸ばされても特に嫌がることもなく、ただ男を見上げていた。
「むーん。ストレス発散はむしろ出来てないかなー……。
お正月だっていうのにやたら忙しいし、嗅ぎ回るヤツが居るからなんとかしてって救援は来るし、おじさんはなんかニコニコしながら妙なニオイさせてるし……。
それ、なに? たばこ?」
男から漂う薫りは、悪いものではないとは思った。……別におじさん体臭がしても気にするタイプじゃないけど。
でも、“私は” 強い香り自体がそんなに好きでもなかったし。
(……“憐れみ”の臭いがしたかと思ったけど、……気の所為……?)
この場所にたどり着くきっかけになった臭いを探していたけれど、それは文字通りに薄まって消えたかのようによくわからなくなってしまっていた。
■紅龍 >
――視線がいてえな。
別に隠すような事も、探られて痛い腹もねえからいいんだが。
しかしやっぱ、この手に納まる感じのサイズ感、懐かしくていいな。
「そうなの。
ばっかお前、知ってなかったらお前に何かあった時に困るだろ。
でもまあ、うん、それで迷惑かけたのは素直にすまん」
娘の頭から手を放して、代わりに自分の頭を掻いた。
ここに関してはもう10:0でオレが悪いから何も言えねえ。
しかし――ふん?
懐から自分が咥えてるものと同じ『タバコ』を取り出して、娘に差し出してみる。
「これはタバコじゃなくて薬――いや、ヤバイもんじゃなくて、健康サプリみてえなもんだ。
吸ってみるか?」
吸っても体に害のあるもんじゃない。
一応、法的に未成年が吸っても問題ない――まあ絵面は面白くなっちまうが。
■藤白 真夜 >
「いらなーい」
タバコでないと解れば興味深そうにじーっと見つめていたものの、いざ差し出されるとぷいと顔をそむけた。
私は今の自分の香りが一番好きだから、強い香りは忌避する傾向にある。……あの子とは逆に。
「もー。そういうのは直接私に聞けばいいのに。
あの探偵サン、腕が良すぎるから腕ごとちょんぱすることになりかけてたもん。
私に謝るくらいならあの探偵サンに報酬弾むべきだからねー」
むすーっとどこか拗ねたようにおじさんを見つめながら、でも。
「まあでも、おじさんに悪気が無さそうなのは解ってたかな?
おじさん、“そーゆーカンジ”じゃないもんね~」
……やっぱり今ひとつ……このおじさんからは悪意や害意というものが感じ取れない。
もちろん、そんなもの見せるほうがいわば素人なのだから、見せない術を持っているのかもしれない。
逃げ出した実験体を始末する冷酷さと、その屍を葬る情。
その相反するような情動がこの男の中にはあるはずなのに、私はやはり生暖かいものしか感じ取れなかった。
私を案ずると言ってくれたその言葉のように。
「私はそう簡単にどうこうならないからへーきだよ。
それこそ、お腹空いて倒れるくらいじゃない? 最近はちょくちょくつまみ食いしてるしねー」
こっそり、親に悪戯がバレなかった時のように、舌をぺろりと出して視線をそらした。
……まあ、ほら。コッチに来る理由はそれだし。
「そんなへんてこな健康タバコなんて吸ってる人のほうが、何かあった時困ると思うけどなー?」
というか、前もこのタバコ吸ってたような。
「……っと。言い忘れてた。
一応、私が何かあったときのためってことは、心配してくれてたんだよね?
……ふふ、ありがとね、おじさん。
そんな“何か”なんて、そうそう起きないんだけどねー……」
言いながら、どこか遠いところを見るような瞳になった。
……それこそ、居なかったはずのサンタさんを夢見るような。
■紅龍 >
「そうか、残念」
さして残念でもなかったが差し出したタバコをひっこめる。
興味があるのかと思ったが、そうでもないらしい。
「はは、あいつには追加を弾んどいたよ。
直接ってもな、お前がいつふらふらやってくるかわかんねえし。
オレはお前の連絡先もしらねえんだから、仕方なかったんだよ」
拗ねたように頬を膨れさせる様子に、ついつい笑っちまう。
「そーそー、おじさんね、そーゆーかんじじゃないの。
――いやいや、そーゆーかんじってなんだよ」
一体こいつにオレはどんな感じに見られてんだ。
具体的な『そーゆー』の部分がなんもわからねえぞ。
「腹減ってねえ。
なんか食いもんに困ってるなら、融通するぞ。
普通の飯じゃねえんだろ?」
具体的にはわからんが――ふつうの人間とは違うもんが必要なんだろうって事はわかる。
――ま、こんな『タバコ』吸ってる方がどうだ、ってのは返す言葉もねえな。
「おじさん、生まれつき体が弱くてね。
妹に健康指導されてんの。
大変なんだぞ、運動制限に食事制限に」
体格には恵まれたが、残念ながら中身はボロボロだ。
それなりに無茶を通してきたのもあって、まあ長生きは出来んだろうな。
「――ん?
そりゃあ心配すんだろ。
仮にも可愛い部下だからな――なんだよ、『何か』あって欲しいのか?」
くっく、と笑い声が漏れるのを感じつつ、またマヤの頭に手を伸ばす。
嫌がられないのは有難いが、へんなクセになっちまいそうだ。