2022/01/06 のログ
■藤白 真夜 >
「あーそっかー……連絡先かー……うーん……」
少し、考え込む。なんかこれナンパっぽいと思ったけどそこは流した。
別に私は教えてもいいんだけど、真夜に繋がるしあの子がびっくりするだけなのよね……。
「……まあ、おじさんそーゆーカンジじゃないし、いっか。
これ、……出来てる?」
思い出したかのようにスマホを取り出せば、もらっていた連絡先にこっちからコンタクトを取ってみる。
……スマホあんまり触らないから出来てるか自分じゃ自信なかったけど。
「でも、私ほとんど留守にしてるってゆーか寝てるってゆーか……超高確率で“間違い電話”になるからアテになんないよ、たぶん。
……あ。
それとも、人のことが心配で調べがちなおじさんはもう私の、……“真夜”のコトもわかってるのかしら?」
言うと、また弱みを見つけたようなにんまり顔でおじさんのこと楽しそうに見つめちゃうんだけど。
「ごはんって言っても、前も言ったけど私は血を集めに来てるだけだからね~」
食事と言ってもいいかわからないけど、生きるために必要なものを摂ることを食事というなら、私たちの食事は血だったから。
「ふふ、妹さん居るんだ。なんか意外。……いや、意外でもないか。
冷たいようで温かい人間って、何か大事なモノを持ってるひとが多い気がする」
その言葉は、男に向けたようなものであって、違ったかもしれない。
それは何かを失ったような、それでいて大切な響きを以って聞こえて――
「……私の健康は、他人の命で成り立ってる。……命っていっても血だけどね。
今はもう殺しはしなくていいし。
……でも。
……やっぱり、そういう『何か』があったほうが、私は面白いんだ」
撫でられながらおじさんを見上げる瞳は、やっぱり特に何か感じ入るものはなかった。……髪の毛くしゃくしゃにならなければ良いやくらいの。
「……あなたには、妹さんが居てくれて良かったね」
でもその言葉は、どこか寂しそうに聞こえたかもしれない。
健康指導とやらに、どこまで情があるだろう。どこか管理するような言葉にも聞こえる。
けれど、……糧を与え家族と共に生き永らえるための行いと、その奉仕。
私と真夜の関係に似て非なるその繋がりに。
その労いの言葉は、私には絶対に届かないモノだったから。
眩しいものを見るように眇めた瞳と、……微かな羨望をこめて。
■紅龍 >
「――なんだ、教えてくれんのか。
んー、おう、大丈夫だ。
――安心しろ、お前の大事な半身には手を出さねえし、出させねえ」
網膜上に投影された連絡先を登録しながら、にんまり顔のマヤを見つめ返す。
まったく、ほんとに猫みてえな娘だ。
「なるほど、やっぱ血液になんのか。
どんな血でもいいってわけじゃなさそうだな」
少なくとも好き嫌いがあるのは、以前の事でわかってる。
一応こっちをうろうろしている間はオレが保護者みてえなもんだ。
必要なもんがあるなら供給してやりてえところだが。
「冷たいようで温かい、ねえ。
どうなんだろうな――ただ、甘いだけかもしれねえぞ」
笑いながら、マヤの頭を撫でる。
嫌がらないもんだから、つい手が動いちまう。
年頃の娘の髪なんざ、べたべた触るもんじゃねえんだろうが――
「あー、――」
少し考えて、右手のグローブを外す。
――寒ぃな。
素手でもう一度マヤの頭に手を伸ばし、髪を梳くように、整えるように撫でる。
――久々だな、■■以外の娘に触れるってのは。
妙に手が温かく感じる。
不思議な気分だ。
「面白い、か。
じゃあ、お前からするとオレは中々、つまんない相手なんじゃねえか?」
どうやら嫌われてはいねえが――オレはこいつの欲求に答えられる人間じゃねえ。
さぞ面白くない事だろう。
「んーぁー、――まあな。
でもあいつだけじゃねえぞ。
今は――お前もいるしな」
ぽんぽん、と頭をかるく叩く。
そうだ――経緯はともかく。
今はこいつも、マヤもオレが守らなきゃならねえ一人だ。
「――はー、しっかし、お前やっぱこう、丁度いいな!
サイズ感っつうか、ちょうどおさまりがいいもんで撫で心地がいいぞ」
ついつい、このフィット感みてえなもんを楽しんじまう。
まったくセクハラもいいとこだが――。
■■も、この年頃に自由だったなら、こうして遊んでやれたんだろうか。
■藤白 真夜 >
「ちょっとーっ。あんまりぽんぽんするのはやめてくださる?」
むすーっ。撫でられる分にはおとなしいけどぽんぽんすると反応した。
それこそ猫みたいにぷいっと顔を背けて翻れば、おじさんの手を躱す。
「……うーん……おじさんはつまるつまらないで言うと、つまらなくは無いけどコーフンはしないってカンジかなー……“そーゆーカンジ”じゃないし」
……おじさんがその気になったらそれはそれで面白そうだけど、今はもう、そう求める気分でも無くなっていた。
……血が足りてきたからなのか、真夜に怒られたくないからなのか。……私にも情のようなものがあったのかは、わからないけれど。
「……真夜のコト知ってるなら話が早いわ。
私にとっては、あのコに失望されるのが一番つまんないってだけのハナシ。
今のおじさん相手に“つまること”したらそれが一番怒られちゃうし。
……いや、怒られるのは怒られるので嬉しいんだけど」
振り向いて、おじさんのほうを見やる。
何にでも楽しそうだった瞳は少し落ち着いて、やっぱりまたまばゆいモノを見るように眇めた瞳で。
「“何か”あったら……真夜のこと、お願いね。
私はむしろ、迷惑かける側だからね。……こういうところでしか、繋がりを感じられないから」
どこか散歩にでも出かけるような足取りで、歩き出す。
……そう。
私はこの街に、血を集めに来ているだけ。
殺さずに済む程度のモノを探すには、無い筈のこの場所はやっぱり……ひどく丁度良かったから。
「おじさん、妹さんのこと大事にね。
……私も、……自分と繋がりのあるものは、大事にするつもりだから」
その言葉に、どこまで実感があったかわからない。私にそういうことはわからない。
お前も居ると言ってくれたナイーブで優しいこのおじさんを大事にできるかも、繋がりを持った実感もわからなかった。
だから今はただ。
自分ではない、けれど自らの内側から湧き上がる欲求に応えるため。
……落第街の奥へと、足を進めた。
紅い、血を求めて。
■紅龍 >
「はーいはーい、やめますよ。
お前が可愛いもんだから、つい構いたくなっちまうんだよ」
許せとは言わんがまあ、大目に見てほしいもんだ。
まったく、表情が良く変わって飽きせない娘だな。
「コーフンするとかしないとか、年頃の娘が言うんじゃありません!
いやほんと、そーゆーかんじってどーゆーかんじなんだよ――」
笑いながら相手をしていたが――そうか。
本当にこいつは、『真夜』の事が大切なんだな。
「――おう、安心しろ。
『真夜』も『マヤ』もしっかりお願いされてやる。
迷惑だってよ、遠慮なくかけてこい。
そうだな、お互いに――大事なもんから手は離さないようにな」
マヤの言葉に、返せる言葉はいくらでもあった。
だが、言葉をいくら弄しても、それが伝わるかといえば、そうじゃない。
だから、きっとここからは行動で伝えてやるしかないんだろう。
縁や繋がりなんてもんは――言葉じゃないからな。
「気を付けて行けよ。
――また、いつでも遊びに来い」
細く煙を吐きながら、マヤの背中を見送る。
――マヤに触れた右手は、離れてもまだ、温かかった。
ご案内:「落第街 路地裏」から藤白 真夜さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」から紅龍さんが去りました。