2022/01/14 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に紅龍さんが現れました。
■紅龍 >
【前回までの紅龍おじさん!】
違反部活『蟠桃会』の用心棒、元軍人の紅龍は。
『斬奪怪盗ダスクスレイ』の情報を集めるために探偵の『ノア』に仕事を依頼する。
そんな探偵からの情報を得て、『怪盗』との遭遇に備えるため、風紀委員『芥子風菖蒲』が行った戦闘を分析していた。
そうした日々の中、懐かしさを覚える少女、『マヤ』と知り合う。
そして路地裏では探していた『ガスマスク』を目撃、言葉を交わした。
探偵の調べた情報からは『知のゆびさき』という製薬会社の存在を知り、『マヤ』の血液から精製された薬を手に入れる。
さらには違反部活の武器職人に依頼し、装備を充実させた。
そんな中、他の組織に流された『蟠桃会』の生物兵器が、事件を起こす。
それでどれだけ犠牲者が出ようと関係ない事と思いながらも、気分の悪さを隠せない龍だった。
ご案内:「落第街 路地裏」に『拷悶の霧姫』さんが現れました。
■紅龍 >
「――状況はわかった。
そのまま閉鎖に協力しつつ、情報を集めてくれ」
善意の協力者として送り込んだ部下から報告を受ける。
蟠桃会の作った生物兵器によるバイオハザードは、表向きには単なる暴動事件として報道されていた。
だが、その鎮圧状況は芳しくなく、閉鎖区画内では今も『犠牲者』が暴れまわっているようだ。
「想定よりはマシ、か。
風紀の連中に詳細を流しておいて正解だったな」
それで奴らも本気にならざるを得なかったんだろう。
おかげで、被害はかなり小規模に抑え込めた――はずだ。
「――だからなんだ、って話だよな」
『タバコ』を吸いながら、壁に寄りかかり何をするでもない。
オレの仕事はやった、が。
それでも気分が悪い事には変わりねえわな。
■赤毛の少女 >
そこへ路地裏の闇の向こう側から、
息も絶え絶えに走って来る少女が一人。
紅の髪に、学園の制服。何処かからこの闇の世界に迷い込んで
来たのだろうか。
仕切りに周囲を見渡し、背後を振り向きながら、
今にも転びそうな勢いで足を運んでいた彼女だったが。
壁に寄りかかる男――紅龍を見るや否や、
顔をくしゃりと歪ませて死物狂いで駆け寄ってくる。
「だ、誰だか知らないけど……助けて……!
このままじゃアイツに……アイツにッ……!」
嗚咽混じりの声で、男に縋り付くその顔は血塗れであった。
その頬を伝う涙すらも、血に混じって薄っすらと赤に染められている。
そして彼女が指を示す方向――彼女がやって来た路地裏の闇から、
確かに何者かの、昏い気配を感じることだろう。
■紅龍 >
「――あ、なんだ?」
奥から駆け出してきたのは、赤毛のガキ。
必死の形相で縋り付いてくるが――。
「おいおい、助けを求める相手が間違ってんぞ。
オレに言われたってよ――」
面倒ごとってのは求めずともやってくる。
そんなのは慣れっこだが、今度はなんだってんだ?
とりあえず、ガキを背中に回して、ライフルを手に構える。
ガキが駆け出してきた路地の奥。
出てくるのは鬼か蛇か――。
■『拷悶の霧姫』 >
路地の向こう側からまず聞こえるのは、乾いた靴音。
続いてその奥からゆらりと現れたのは、
狐面をつけた小柄の少女だった。
仮面も、その下から覗く顔の下半分も――やはり血に塗れている。
それは、返り血だっただろうか。
少女とはいえ、その落第街の闇に溶け込むその姿態は、
この暗闇に住む者ですら、警戒心を抱くであろう。
その行歩は、幽冥に舞う霊魂が如く。
現世に迷い込んだ幽世の幻想が如く。
気味が悪いほどに、生気を感じさせないのである。
そうして、その幽冥に舞う影は小さく口を開く。
「……早急に離れた方がよろしいかと」
降り積もる一粒の雪に音を与えたとしたら、
このような音を響かせるのだろう。
凛と凍てつくその声は、ただ静かに何の抑揚もなく紅龍へと
向けられた。
「危険ですので」
彼女が、すぅ、と示した細い指先。
白く細いその切っ先が向かうのは――彼の背中に隠れる影。
紅髪の少女だ。
■赤毛の少女 >
――貴方の後ろから。
獣の様な唸り声が聞こえたのは、その一瞬後のことであった。
■紅龍 >
「――またガキかよ」
現れたのは狐の面をつけた奇妙なガキ。
だが。
小さな姿に似合わず、纏ってる気配はマトモじゃねえ。
しかし、狐面に変わった服装、尖った耳、ね。
――待てよ、この特徴は覚えがある。
「なるほどな――」
チビの方に向けていたライフルを外して、両手を上げる。
『こいつら』に敵対するつもりはない。
少なくとも、オレからは。
「――、謝謝!」
チビからの助言に従って、迷わず地面を蹴りだす。
大きく前転して、背後の殺気を躱しながらチビの隣に滑り込んだ。
■赤毛の少女 >
巨大な爪が空を掻く。
一瞬遅れて、男の背後を掠める防風が、瓦礫を空高く巻き上げた。
男と、爪を放った彼女との距離は至近。
どうあっても、爪は男を捕らえられる筈だった。
骨も肉も、等しく砕かれ切り裂かれる筈だった。
それでも、男の判断が。鍛え抜かれた肉体と反射神経が
今ここに一つの命運を分けた。
あと少し、瞬き一回分でも男の判断が遅れていたのなら。
或いは、僅かにでも男の敏捷性が劣っていたのなら。
赤毛の少女――否。
少女だったモノは、巨大化した獣の右腕をだらりと下ろしながら、
空いた左手で自らの顔を握りつぶす勢いで掴んでいた。
獲物を逃した、悔恨――そして、憤懣。
侮るなかれ。
獣は既に、男の首筋目掛けて跳躍すべく、
今まさに瓦礫を踏み砕いたところなのだから――。
■『拷悶の霧姫』 >
「……感謝は、アレの餌にならなかった時にいただきましょう」
真横へステップを踏み、男から距離を取る。
この一撃は男を狙ったもの。ならば、回避行動に専念するまでだ。
次の一手は、手の内にある。
彼女が跳躍すると同時に、
マントの内側からジャラリと重々しい金属の擦れる音が鳴った。
■紅龍 >
暴力的な殺意が背中を掠める。
喰らっていてもスーツの防刃性能を抜いてくるとは思えんが。
それでも壁に叩きつけられてはいただろうな。
「なんだあのガキ――いや、話は後か」
とびかかってくるガキの腕を避ける必要はない。
いや、一人なら回避が鉄則だが――。
「――あてにしてるぜ、小鬼《おちびちゃん》!」
敢えて飛び込み、ライフルの銃身で巨大化した腕を受け止める。
その膂力に抑え込まれるが、受け止めた巨腕を巻き込むようにライフルを回す。
そのまま脇に抱え込むように動きを抑え込む。
さあ、お手並み拝見と行こうか、お姫様?
■赤毛のケモノ >
変化があったのは、腕だけではない。
腕から肩へ、肩から胴部へ――
今や、少女の姿は獣と化していた。
全身の筋肉が膨張し、醜く膨れ上がっている。
ライフルで腕を抑え込むのであれば、
その腕に残る傷が見えるであろう。
切り傷でも、打撲でもない。
それは――注射痕だ。それも、数多の。
膨れ上がった巨躯は今や、男のそれを悠に超えており、
彼の顔に荒々しく揺れる影を落としている。
理性的に獲物を狙っているというよりは、
眼前の動く標的を獲物と定めているのだろう。
瞳から知恵の放つ輝きは完全に失われている。
脇に抱え込むように抑え込まれ、一度は拘束されるケモノ。
しかし、鼓膜が飛び散るかと思われる程の、
獣の咆哮が挙がれば――更に身体が膨張を始める。
■『拷悶の霧姫』 >
「……ええ。捕縛は頼まれました」
静かに言い放つ。
彼女が外向きに繰り出した掌――
その袖の内から射出されるのは、黒の鎖だ。
ブラックオリハルコン――魔力を通しやすいその幻想金属は、
紫色に光り輝いたかと思えば一直線にケモノへと向かい――
その四肢を絡め取り捕縛する。
ぎちりぎちり、と痛々しい音が響くと同時に、
ケモノが苦悶の咆哮を放つ。
「それでは、きっちり決めてくださいね。
『約束』ですよ――『用心棒』さん」
両手をケモノへ向けながら、少女は言い放つ。
鎖を握る両の手からは血が滴り、剥げたコンクリートに
赤い水溜りを作っている。
■紅龍 >
「――おいおい」
あっという間に全身を獣に変えるガキ――いや、怪物。
一瞬見えた注射痕は、こいつがどこかの実験体だった事が見て取れた。
――どこもやる事は一緒か。
鼓膜が裂けるかと思う咆哮に、耳がイカれる。
音が遠くなった世界にも、やけに通る抑揚のない声。
お姫様の袖から流れ出たのは、紫に輝く鎖。
一時的に抑え込んでいたオレを器用に避けながら、怪物を締めあげていく。
「臨時働きでも、依頼料は頂くぞ」
拘束された怪物は、オレが何をする必要もなく動きを止める。
が、鎖を握る手はやけに痛々しい。
――それでも無表情、ね。
早く終わらせよう。
70口径の拳銃を抜いて、怪物の口の中に銃口を突っ込んだ。
「――再也不見」
引き金を引けば、怪物の頭は内側から砕け散った。
■赤毛のケモノ >
70口径は、無慈悲に頭部を砕く。
その頭部が最後に、彼へ見せたものは。
獣の瞳が最後にそこに浮かべたものは。
――飢餓ではない。では、自らを屠る者への憎悪か。
――憎悪でもない。ならば、この世全てへの厭悪。
――厭悪でもない。然らば、最後まで手放さぬ獣の殺意。
――殺意でも、ない。
そのような激しい感情には、遠く及ばない。
それはただ純粋な――――
『救済』を求めて溺れる者の瞳。
少女が見せた最後の、弱々しい理知の輝きだった。
それが、ケモノが最後に見せた、少女としての生の証だった。
■『拷悶の霧姫』 >
「流石は、元第六六六特務戦隊、
天使の凋落作戦《オペレーション:エンジェル・フォール》の生き残り」
少女はぱちぱちと、静かに手を叩く。
その掌から、赤い血が滴り落ちる。
頭を飛ばされたケモノの肉体は――
先までの強靭さは何処へやら。
風に飛ばされ塵となって消えてゆく。
「そして、今は違反部活『蟠桃会』の協力者――紅龍。
噂通りの腕前ですね」
そこまで口にすると、
自らの作った血溜まりを踏み越えて、
男の元へと数歩、近寄る。
■紅龍 >
塵になって消えていく怪物。
哀れな犠牲者は、その痕跡すら残せない。
「――残念ながら、オレはただの死に損ないだ。
それにアレは――『作戦』なんかじゃねえよ」
手の音に目を向ければ、やけに痛々しい拍手があったもんだ。
「よくまあ、ご存じで。
そこは流石の『黒のお姫様』と言った所か」
噂程度に聞いていた、悪を狩る悪――『裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》』
その構成員の『拷悶の霧姫《ミストメイデン》』
「その仮面、ちゃんと働いてんのか?
それとも対魔術装備相手にゃ、万全とはいかねえのか――」
お姫様の姿は、ぼんやりと霧に包まれてはいるが、なんとか特徴を捉えられる。
おそらくはこれまであった目撃証言も、『認識阻害』の効果が及ばなかった結果なんだろうが。
――いやいや、そんな事よりもだ。
「――じゃねえよ!
なんだその手は!
めっちゃ擦り切れてるじゃねえか!」
近寄ってくるお姫様に駆け寄って、その手をひっつかむ。
「ほら見せろ!
こんなん、さっさと治療しねえと痕が残っちまうだろ!」
治療用パッチを取り出して、やけに小さな手に握り込ませるように押し付けた。
まったく、最近の娘ってのはこういう所気にしねえのか?