2022/01/14 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に紅龍さんが現れました。
紅龍 >   
 【前回までの紅龍おじさん!】

 違反部活『蟠桃会』の用心棒、元軍人の紅龍は。
 『斬奪怪盗ダスクスレイ』の情報を集めるために探偵の『ノア』に仕事を依頼する。
 そんな探偵からの情報を得て、『怪盗』との遭遇に備えるため、風紀委員『芥子風菖蒲』が行った戦闘を分析していた。
 そうした日々の中、懐かしさを覚える少女、『マヤ』と知り合う。
 そして路地裏では探していた『ガスマスク』を目撃、言葉を交わした。
 探偵の調べた情報からは『知のゆびさき』という製薬会社の存在を知り、『マヤ』の血液から精製された薬を手に入れる。
 さらには違反部活の武器職人に依頼し、装備を充実させた。

 そんな中、他の組織に流された『蟠桃会』の生物兵器が、事件を起こす。
 それでどれだけ犠牲者が出ようと関係ない事と思いながらも、気分の悪さを隠せない龍だった。
 

ご案内:「落第街 路地裏」に『拷悶の霧姫』さんが現れました。
紅龍 >  
「――状況はわかった。
 そのまま閉鎖に協力しつつ、情報を集めてくれ」

 善意の協力者として送り込んだ部下から報告を受ける。
 蟠桃会の作った生物兵器によるバイオハザードは、表向きには単なる暴動事件として報道されていた。
 だが、その鎮圧状況は芳しくなく、閉鎖区画内では今も『犠牲者』が暴れまわっているようだ。

「想定よりはマシ、か。
 風紀の連中に詳細を流しておいて正解だったな」

 それで奴らも本気にならざるを得なかったんだろう。
 おかげで、被害はかなり小規模に抑え込めた――はずだ。

「――だからなんだ、って話だよな」

 『タバコ』を吸いながら、壁に寄りかかり何をするでもない。
 オレの仕事はやった、が。
 それでも気分が悪い事には変わりねえわな。
 

赤毛の少女 >  
そこへ路地裏の闇の向こう側から、
息も絶え絶えに走って来る少女が一人。
紅の髪に、学園の制服。何処かからこの闇の世界に迷い込んで
来たのだろうか。

仕切りに周囲を見渡し、背後を振り向きながら、
今にも転びそうな勢いで足を運んでいた彼女だったが。

壁に寄りかかる男――紅龍を見るや否や、
顔をくしゃりと歪ませて死物狂いで駆け寄ってくる。

「だ、誰だか知らないけど……助けて……! 
 このままじゃアイツに……アイツにッ……!」 

嗚咽混じりの声で、男に縋り付くその顔は血塗れであった。
その頬を伝う涙すらも、血に混じって薄っすらと赤に染められている。


そして彼女が指を示す方向――彼女がやって来た路地裏の闇から、
確かに何者かの、昏い気配を感じることだろう。

紅龍 >  
「――あ、なんだ?」

 奥から駆け出してきたのは、赤毛のガキ。
 必死の形相で縋り付いてくるが――。

「おいおい、助けを求める相手が間違ってんぞ。
 オレに言われたってよ――」

 面倒ごとってのは求めずともやってくる。
 そんなのは慣れっこだが、今度はなんだってんだ?

 とりあえず、ガキを背中に回して、ライフルを手に構える。
 ガキが駆け出してきた路地の奥。
 出てくるのは鬼か蛇か――。
 

『拷悶の霧姫』 >  
路地の向こう側からまず聞こえるのは、乾いた靴音。
続いてその奥からゆらりと現れたのは、
狐面をつけた小柄の少女だった。
仮面も、その下から覗く顔の下半分も――やはり血に塗れている。
それは、返り血だっただろうか。

少女とはいえ、その落第街の闇に溶け込むその姿態は、
この暗闇に住む者ですら、警戒心を抱くであろう。

その行歩は、幽冥に舞う霊魂が如く。
現世に迷い込んだ幽世の幻想が如く。
気味が悪いほどに、生気を感じさせないのである。

そうして、その幽冥に舞う影は小さく口を開く。

「……早急に離れた方がよろしいかと」

降り積もる一粒の雪に音を与えたとしたら、
このような音を響かせるのだろう。
凛と凍てつくその声は、ただ静かに何の抑揚もなく紅龍へと
向けられた。

「危険ですので」

彼女が、すぅ、と示した細い指先。
白く細いその切っ先が向かうのは――彼の背中に隠れる影。
紅髪の少女だ。

赤毛の少女 >  
 
――貴方の後ろから。
獣の様な唸り声が聞こえたのは、その一瞬後のことであった。 
 
 

紅龍 >  
「――またガキかよ」

 現れたのは狐の面をつけた奇妙なガキ。
 だが。
 小さな姿に似合わず、纏ってる気配はマトモじゃねえ。
 しかし、狐面に変わった服装、尖った耳、ね。

 ――待てよ、この特徴は覚えがある。

「なるほどな――」

 チビの方に向けていたライフルを外して、両手を上げる。
 『こいつら』に敵対するつもりはない。
 少なくとも、オレからは。

「――、謝謝!」

 チビからの助言に従って、迷わず地面を蹴りだす。
 大きく前転して、背後の殺気を躱しながらチビの隣に滑り込んだ。
 

赤毛の少女 >  
巨大な爪が空を掻く。
一瞬遅れて、男の背後を掠める防風が、瓦礫を空高く巻き上げた。

男と、爪を放った彼女との距離は至近。
どうあっても、爪は男を捕らえられる筈だった。
骨も肉も、等しく砕かれ切り裂かれる筈だった。

それでも、男の判断が。鍛え抜かれた肉体と反射神経が
今ここに一つの命運を分けた。

あと少し、瞬き一回分でも男の判断が遅れていたのなら。
或いは、僅かにでも男の敏捷性が劣っていたのなら。

赤毛の少女――否。
少女だったモノは、巨大化した獣の右腕をだらりと下ろしながら、
空いた左手で自らの顔を握りつぶす勢いで掴んでいた。
獲物を逃した、悔恨――そして、憤懣。


侮るなかれ。

獣は既に、男の首筋目掛けて跳躍すべく、
今まさに瓦礫を踏み砕いたところなのだから――。

『拷悶の霧姫』 >  
「……感謝は、アレの餌にならなかった時にいただきましょう」
 
真横へステップを踏み、男から距離を取る。
この一撃は男を狙ったもの。ならば、回避行動に専念するまでだ。
次の一手は、手の内にある。

彼女が跳躍すると同時に、
マントの内側からジャラリと重々しい金属の擦れる音が鳴った。

紅龍 >  
 暴力的な殺意が背中を掠める。
 喰らっていてもスーツの防刃性能を抜いてくるとは思えんが。
 それでも壁に叩きつけられてはいただろうな。

「なんだあのガキ――いや、話は後か」

 とびかかってくるガキの腕を避ける必要はない。
 いや、一人なら回避が鉄則だが――。

「――あてにしてるぜ、小鬼《おちびちゃん》!」

 敢えて飛び込み、ライフルの銃身で巨大化した腕を受け止める。
 その膂力に抑え込まれるが、受け止めた巨腕を巻き込むようにライフルを回す。
 そのまま脇に抱え込むように動きを抑え込む。
 さあ、お手並み拝見と行こうか、お姫様?
 

赤毛のケモノ >  
変化があったのは、腕だけではない。
腕から肩へ、肩から胴部へ――
今や、少女の姿は獣と化していた。
全身の筋肉が膨張し、醜く膨れ上がっている。

ライフルで腕を抑え込むのであれば、
その腕に残る傷が見えるであろう。
切り傷でも、打撲でもない。
それは――注射痕だ。それも、数多の。

膨れ上がった巨躯は今や、男のそれを悠に超えており、
彼の顔に荒々しく揺れる影を落としている。

理性的に獲物を狙っているというよりは、
眼前の動く標的を獲物と定めているのだろう。
瞳から知恵の放つ輝きは完全に失われている。

脇に抱え込むように抑え込まれ、一度は拘束されるケモノ。
しかし、鼓膜が飛び散るかと思われる程の、
獣の咆哮が挙がれば――更に身体が膨張を始める。

『拷悶の霧姫』 >  
「……ええ。捕縛は頼まれました」

静かに言い放つ。
彼女が外向きに繰り出した掌――
その袖の内から射出されるのは、黒の鎖だ。

ブラックオリハルコン――魔力を通しやすいその幻想金属は、
紫色に光り輝いたかと思えば一直線にケモノへと向かい――
その四肢を絡め取り捕縛する。
ぎちりぎちり、と痛々しい音が響くと同時に、
ケモノが苦悶の咆哮を放つ。
 
「それでは、きっちり決めてくださいね。
 『約束』ですよ――『用心棒』さん」

両手をケモノへ向けながら、少女は言い放つ。
鎖を握る両の手からは血が滴り、剥げたコンクリートに
赤い水溜りを作っている。

紅龍 >  
「――おいおい」

 あっという間に全身を獣に変えるガキ――いや、怪物。
 一瞬見えた注射痕は、こいつがどこかの実験体だった事が見て取れた。

 ――どこもやる事は一緒か。

 鼓膜が裂けるかと思う咆哮に、耳がイカれる。
 音が遠くなった世界にも、やけに通る抑揚のない声。
 お姫様の袖から流れ出たのは、紫に輝く鎖。
 一時的に抑え込んでいたオレを器用に避けながら、怪物を締めあげていく。

「臨時働きでも、依頼料は頂くぞ」

 拘束された怪物は、オレが何をする必要もなく動きを止める。
 が、鎖を握る手はやけに痛々しい。

 ――それでも無表情、ね。

 早く終わらせよう。
 70口径の拳銃を抜いて、怪物の口の中に銃口を突っ込んだ。

「――再也不見」

 引き金を引けば、怪物の頭は内側から砕け散った。

 

赤毛のケモノ >  
70口径は、無慈悲に頭部を砕く。

その頭部が最後に、彼へ見せたものは。
獣の瞳が最後にそこに浮かべたものは。

――飢餓ではない。では、自らを屠る者への憎悪か。

――憎悪でもない。ならば、この世全てへの厭悪。

――厭悪でもない。然らば、最後まで手放さぬ獣の殺意。

――殺意でも、ない。


そのような激しい感情には、遠く及ばない。


それはただ純粋な――――
『救済』を求めて溺れる者の瞳。
少女が見せた最後の、弱々しい理知の輝きだった。 
 
それが、ケモノが最後に見せた、少女としての生の証だった。 

『拷悶の霧姫』 >  
「流石は、元第六六六特務戦隊、
 天使の凋落作戦《オペレーション:エンジェル・フォール》の生き残り」

少女はぱちぱちと、静かに手を叩く。
その掌から、赤い血が滴り落ちる。
頭を飛ばされたケモノの肉体は――
先までの強靭さは何処へやら。
風に飛ばされ塵となって消えてゆく。

「そして、今は違反部活『蟠桃会』の協力者――紅龍。
 噂通りの腕前ですね」 
 
そこまで口にすると、
自らの作った血溜まりを踏み越えて、
男の元へと数歩、近寄る。

紅龍 >  
 塵になって消えていく怪物。
 哀れな犠牲者は、その痕跡すら残せない。

「――残念ながら、オレはただの死に損ないだ。
 それにアレは――『作戦』なんかじゃねえよ」

 手の音に目を向ければ、やけに痛々しい拍手があったもんだ。

「よくまあ、ご存じで。
 そこは流石の『黒のお姫様』と言った所か」

 噂程度に聞いていた、悪を狩る悪――『裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》』
 その構成員の『拷悶の霧姫《ミストメイデン》』

「その仮面、ちゃんと働いてんのか?
 それとも対魔術装備相手にゃ、万全とはいかねえのか――」

 お姫様の姿は、ぼんやりと霧に包まれてはいるが、なんとか特徴を捉えられる。
 おそらくはこれまであった目撃証言も、『認識阻害』の効果が及ばなかった結果なんだろうが。

 ――いやいや、そんな事よりもだ。

「――じゃねえよ!
 なんだその手は!
 めっちゃ擦り切れてるじゃねえか!」

 近寄ってくるお姫様に駆け寄って、その手をひっつかむ。

「ほら見せろ!
 こんなん、さっさと治療しねえと痕が残っちまうだろ!」

 治療用パッチを取り出して、やけに小さな手に握り込ませるように押し付けた。
 まったく、最近の娘ってのはこういう所気にしねえのか?