2022/05/02 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」にスティールバイソンさんが現れました。
スティールバイソン >  
夜。落第街。路地裏にて。
俺様は今。

「猫ちゃあああああん……どこでちゅかぁ………」

猫探しをしている。
俺様の部下も今頃、虱潰しに探して回っているだろう。
俺様たちが探しているその猫は。

メタリックレッドの足甲がその辺の小石を踏み潰す。

「猫ちゃん…………今なら痛いことしねェんですよぉ…」

猫撫で声。そして首輪をした三毛猫を注意深く探す。

スティールバイソン >  
イライラする。
なんで俺様が猫一匹の気まぐれのためにこんな地道な努力をしなきゃならねェ?
頭のネジのとんだ金持ちの飼い猫だかなんだか知らねェがよ……

「ぬあああああああああああああぁぁ!!」

近くの壁を殴る。
何度も何度も、壁を殴る。

「イライラするんだよォ!!」

放置されている盗難車両の原付きを空中高く蹴り飛ばす。
路地裏に轟音が響いた。

ご案内:「落第街 路地裏」にハインケルさんが現れました。
ハインケル >  
「うわわわ~~~」

どことなく間の抜けた声がする
それはどこか、たった今男が蹴っ飛ばした原付き
それがすっ飛んでいった方角、つまりは空中からである

声のした方角を確認すれば見えるはずである

そう、空から男目掛けて降ってくる、女の子の姿が

スティールバイソン >  
その時、物陰から何かが飛び出してきた。
三毛猫、それも首輪をしている。
ようやく見つけたぜ………!!

「逃げるんじゃねぇぞ………」

月のない夜空。あるにはあるんだろうが、月齢で1.3。
爛々と煌く星に仮面部分についた金属製のツノが反射して光る。
怯える猫に手を伸ばした時に。

「ぐえ!?」

上から降ってきたダレカのせいで倒れ伏す。
なんだ、空から女が!?

「てめぇ…………!!」

このスーツの良くないところは、起き上がる時にちょっとばかし苦労するところだ。
このアマぁ………!!

ハインケル >  
クッション、というにはいささか固い
降ってきた女の子が普通より頑丈な女の子でなければ大怪我をしていたかもしれなかった…
よかった、ちょっとだけ頑丈で

「あいたたた……もー、スクーターが飛んでくるなんて今日の天気どうなって…… あれ?」

自分のお尻の下の固いモノが動いた気がする
なんか紅い金属の像みたいなものに向けて落下した、ような気がしてたけど
まあ落第街だし…なんかそんな胡散臭い像を崇めてる変な宗教かなんかの置き忘れかなぐらいに一瞬で脳内変換されていたのだが

「うわ!像が動いた、だけじゃない、しゃべった!!」

わわわと慌てて飛び退いて、辺りをわたわたと見回している少女
驚いて逃げていくねこ?が見えた、かわいいね、猫ちゃん……じゃない、そうじゃない

「えっと…」

「だ、大丈夫? あの…リビングアーマー系の人か何か…?」

スティールバイソン >  
「おああああぁ!! 待ちやがれ!!」

猫に手を伸ばすが、逃げていく。
クソッ!! クソクソクソぉ!!

「誰がリビングアーマーだぁ!!」

起き上がって地団駄を踏む。
それだけで周囲が揺れるくらいの破壊力はある。

「テメェ……あの猫の価値が理解ってんのか!?」
「あの猫の首輪からぶら下げてる硬化テクタイト複合の強化ガラスの中にはなぁ……」

「時価2500万の宝石『アナザーオリオン』が入ってんだぞォ!!!」

ハッ!? いかん、これは喋ってはいけないことだった!!

「こ、これを聞いたからにはテメェ……五体満足で帰れると思うなよ!!」

激情のまま掴みかかる。
女の細腕、だが関節外れるくれーは覚悟しろよ!!

ハインケル >  
うわ、なんかめっちゃ怒ってる
…もしかしてめちゃくちゃ猫好きな人?だったのかもしれない…

「うえぇ!?だってだって私の知ってる動く鎧の人そっくりなんだもん!」

彼は今日も異邦人街をさまよっているのだろうか…さまようことが宿命のような人だった…
いやそれは今はどうでも良いんだってば

鎧の人は今逃げていった猫の価値を怒気の孕んだ声で丁寧に説明してくれた
…ちゃんと細かく説明してくれるんだ。怒らせちゃってるけど、悪い人じゃなさそう

「そっかぁ…ごめんね。なんだか大変なことしちゃって…ご丁寧に説明までしてもらっちゃって…って、えぇぇぇぇー!?」

急に掴みかかってきた鎧の人、反射的に後方へ飛び退いて難を逃れたもののここは路地裏、狭くて満足に動き回れる場所でもない

「キミが勝手に説明してくれたんじゃないのー!!
 猫ちゃん逃がしちゃったのは悪いと思うけど、そこは自業自得じゃないかな!?
 あとお尻の下敷きにしちゃってごめんね!!」

脱げそうになった帽子を片手で抑えて、警戒態勢をとりつつ、一応謝っておいた

スティールバイソン >  
「テメェ目ん玉どこにつけてやがる!?」

この可動性、造形美……硬質さに関節の防護性能ッ!!

「このビッカース硬度で2000を超える複合合金の美しさが!!」
「わかんねぇかぁ!!」

声を荒らげて飛び退いた女に向けて突進する。
ゴミ箱、誰かがどっかから持ってきたマンホールの蓋、
雑居ビルに続くチープな階段も!!

全部!! 吹き飛ばしながらだ!!

「俺様はテメェみたいな跳ねっ返りとセロリとタダ働きと自業自得って言葉が……」

さらにメタリックレッドに覆われた手を伸ばす。

「大っ嫌ぇなんだよッ!!!」

ハインケル >  
うわあやばい!この人お話通じないよ!!
落第街って…色んな人がいるよね……
なんかしんみりと思ってしまった

いやいやしんみりしてる場合じゃないんだってば

まるでブルドーザーのように突進して来る鎧の人
後ろに下がっても、これはどうしようもないのが視覚的にわかる、凄まじい迫力…

「もー、アタシ、ちゃんと謝ったんだからね!?」

ズン───

小さく路地裏が揺れる
それが鎧の男の突進によるものでなく
少女の一歩の踏み込みのせいによるものである、と気づいた者は
まぁ近くで観戦している者がいたとしても、いないだろう

「うらー!!」

伸ばされた手に、華奢にしか見えない少女の手が向かい伸びて──

ガシィ!!!

少女の体格を考えればまるでありえない、手四つである
その矮躯から感じられる重さ──、パワーは、まるで屈強な大人数人が纏まって向かってきたかのような
そんな力強さを感じさせる

それでも大きく後ろへと押されながら、視線を路地の間から覗く空へと向ける
雲は厚く、月の光は見えていない───

スティールバイソン >  
「オメェに謝られたって2500万の価値はねぇよッ!!」

もう少しで女に触れる!!
怪我ぁさせりゃ心からの“侘び”の一つも入れたくなるかぁ?

「この体格差でッ馬鹿がァ!! 犬が西向きゃ尾は東ィ!!」

そして、女は。両手を伸ばして。
手四つ!? そしてこの力……拮抗しているのか!!

「こんなことがぁぁぁぁぁぁ!!!」

だが押し切れる!!
あの頭のおかしな大陸服の女みてーに理合を握ってる類じゃねェ!!

「このテルミナスセブンのッ!! スティールバイソン様が!!」
「何度も何度もナメた真似されてッ!!」

さらに力を込めて押す!!

「黙っていられるかああああああああぁぁぁ!!!」

ハインケル >  
「そりゃそーだけど!お詫びに猫ちゃん探し手伝ってあげたりくらいできるじゃーん!!」

拮抗は一瞬
ライカンスロープである少女の膂力は常人とは一線を画する
それでも、異能による強化をされている眼の前の鎧の男とは体格が違いすぎる
体格が違うということは重心が違うということ
そんな細かい話は少女にはさっぱりわからなかった、が

要するに、力押しだけじゃ不利、ということ──

「んく…っ!!」

更に相手が力を込めようとしているのが雰囲気で伝わる…むしろ、バレバレだ
怒号とともに相手の押す力は更に強く、苛烈になってゆく
これは、流石に───

「んぎー、もう無理っ!!」

それまで手四つでなんとか耐えていた少女はそう叫ぶと──

組んだ手を起点に、地を蹴ってまるで馬跳びのように鎧の男をぴょいんっと飛び越えた
少女の背後には瓦礫の山があり、追い詰められていたので前に逃げるのは仕方ないことである

スティールバイソン >  
「俺様の目的を知った得体の知れねェ女を信用できるか!!」

押し切れる!!
俺様は男女差別はしねぇぜ!!
骨の2、3本も覚悟しやがれ!!

と、その時。

「!?」

飛び越えた!?
なんて身のこなしの軽さ……じゃ、なく、て。

「うおおおおおおおおおおぉ!?」

眼前の瓦礫の山に頭から突っ込んだ。
全パワーを集中させたぶちかまし、瓦礫が粉砕されて俺様は埋まる。

「ぶあ!!」

首だけ突き出して。

「テメェ異能者か……こうなりゃ手加減はナシだ…」
「ブチのめしてやらぁ!!!」

まずは瓦礫の山から出なければ。
両手足を我武者羅に突き出して脱出を試みる。

ハインケル >  
両手をぷらぷらとさせながら、瓦礫に埋まる彼を眺める
…うん、起きるのに苦労してる
あの鎧、結構致命的なんじゃ?

「異能者じゃないかな…でもどーせ私のお話聞いてくれないんだろーし、それでいいや…」

はあ、と諦めにも似た表情
そして

「どっちかというと、魔術師かな」

片手を差し向け、唇が薄く言霊を紡ぐ
簡単な初歩魔術だ、詠唱も必要ない
大気中の水分、そして瓦礫に含まれる土埃
元素に働きかける初歩魔術の複合──泥濘<スネア>
瓦礫からの脱出を試みる鎧の男の手元、そして足元が湿地の如くぬかるんでゆく

「で、ちょっと気になったんだけど…」

「テルミナスセブン、って?」

突進の前に彼の叫んでいた名前を口にする
さて、聞いたことはあるような気がするが、ぱっ思い出せない
あとでエルちゃんにも聞いてみよう

スティールバイソン >  
「何ィ!? テメェみたいな怪力の魔術師がいるわけ……」

途端、俺様の身体が足元に沈んでいく。
な、何故だ!! 魔術師ってのは大抵、ひ弱な…!!

「ぐ、ぬあああああぁぁ!! クソ!! クソぉ!!」

スーツの重量でズブズブと足元に沈んでいく。
周囲の瓦礫を女に3、4個投げつけた辺りで抵抗も終わり。

既に腰までぬかるみに沈んでしまった。

「テルミナスセブンってのはなぁ……」
「七人の強大なるヴィランの組織!!」
「終端の七人の名に恥じぬ悪の華!!」

「そいつを敵に回したんだ…テメェはもう終わりだぜ………!」

そのまま必死に脱出を試みる。
だが周囲に掴めそうなものはない……!!

ハインケル >  
「そんなことないよー、ちょこっと力が強くってちょこっと頑丈なだけ~」

まぁ人間じゃないしね、という言葉は飲み込んでおく
鎧の彼は自分を普通の人間のカテゴリで考えているようだし

「あ、もがくと余計に……ってもうすごい沈んでるし…大丈夫だよ、そんな深くまで魔力浸透しないから」

あれよあれよという間に半身がぬかるみに沈んだ鎧の人
ゆっくり歩み寄って、しゃがみこむと視線的にちょうどいい感じ

「七人の兄弟なるゔぃらん…ふんふん、なるほどなるほど…そういう組織があるんだね」

もしかしたら前に聞いたことがあるかもしれないけど、今度はちゃんと覚えておこう
テルミナスセブン、七人の兄弟なるヴィランの組織…兄弟なのかー、この人は長男かな?なんてズレたことを考えながら

「えぇー、敵認定されてる!?
 キミが割りと一方的に襲ってきただけだよ!?
 ね、猫ちゃんのことは仕方ないとしてさあ!!」

わたわたと手をばたつかせながら弁明
スネアの魔術だってずっと襲ってくるから仕方なく使ったのに…人生ってままならないね、エルちゃん

「…あ、でもさあ、敵なんだったらここでろくに動けない君を始末しておくほうが無難ってことになっちゃうんだけど」

「……それでも敵認定?」

小さく小首を傾げながら、そう問いかけてみる

スティールバイソン >  
「ちょこっとで俺様と力が拮抗するわけあるかァ!!」

ジタバタしながら叫ぶ。
クソッ、周りの部下どもに連絡をしても間に合うわけがねぇな!?

「そうだ………俺様たちは三大原則に従い、自分をナメた…」

その時、目の前の女が怖いこと言い出した。
え、始末。え。

「………嫌だなぁ、冗談に決まってるじゃないですか…」
「あなたみたいな美しいレディーを組織的に追い回すなんてこと、世間が許しませんよ…」

「ああ、残念だ。ここから脱出できない無力な俺には」
「あなたを表までエスコートすることができませんからねーハハハ」

「……本当に始末なんてしません…よね?」

ハインケル >  
「うん、始末。
 もうちょっとスネアの魔術深くして頭まで埋まってもらってから上を舗装したら」

「多分ここならバレないよー?」

いとも簡単に説明される犯罪計画
そう、此処は落第街…人が一人消えても、生き埋めにされても
別に何も不思議ではないのだった

そしてすぐにはじまった掌返し、うわー…という顔をせざるをえないハインケル

「うわはぁ…絵にかいたような掌返しだぁ…」

「うん、しないよ。そうしたらどうするのかな、って思っただけ」

こういう人達も、この街には必要だからね
そう内心ひとりごちて、立ち上がる

「えーっと、スティールバイソンさん、だっけ。さっき名乗ってたよね。
 おじさんの名前と匂い、覚えたから。お詫びにさっきの猫ちゃん見つけたら教えてあげる!」

猫を逃がしちゃったり、上から落ちて下敷きにしちゃったりはいろいろな不可抗力が重なったとはいえ、明確に彼に与えた損害
その後は…うん、自業自得なので特に何もしてあげない

「スネアはすぐに乾いてくから、おじさんのぱわーならすぐに出れるかな。
 その鎧だと、ちょっと大変かもしれないけどー」

くすりと笑って、ポケットから飴を一つ取り出して、口に頬張る
見上げると雲の切れ目から鋭い月がうっすらと姿を見せていた

「あたし、猫ちゃんには好かれるからきっとすぐ見つかるよ」

にこー、と人懐っこい笑みを浮かべる

でも出るのに手はかさないのだった
また襲ってくる前に、この場を離れたほうがいいぞという警戒心が働いたのかもしれない

スティールバイソン >  
生き埋め!?
生き埋めにしようとしてらっしゃる!?
そんな残酷な殺し方で死にたくない!!
生きたい!! 生きていたい!!
やっちゃいけない殺し方で苦しんで死にたくなーい!!

「ごめんなさい!! ほんっとうごめんなさい!!」
「襲いかかったのは謝ります、不機嫌だったんです!!」
「でもあなた様も怪我一つないし……」
「こ、ここで俺を殺したら後味が悪いですよ………」

仮面部分の下から半泣きの声が聞こえてくるだろう。

「ああああああ、申し訳ありません!! 俺が…平に俺が悪うございましたぁぁぁぁ」

目が!! 目が怖い!!
本当にこの御方は人を殺したことがあるのかなぁ!?
だったら怖すぎる!!

話が通じるのに相手を殺す選択肢があるのは怖すぎる!!

「は、はい………ありがとうございますぅぅぅぅぅ」

相手に必死に頭を下げたが、現状イモムシがうねるようにしか見えないだろう。
そんなことより………

匂い。名前。覚えた。覚えられた。
怖い。怖い怖い怖い!!

ダラダラと仮面の下で涙とヨダレを垂らしながら。
俺はもう生きたいとしか考えていなかった。

ハインケル >  
「………」

頬を掻く
あれ、もしかしてこの人……
い、いや…言うまい…

「此処、落第街だよ?」

「人殺すってだけで顔色変えちゃうような人、長生きできないよ」

聞こえてくる半泣きの声
それに返すのは穏やかで、優しい声色
口にする言葉は、残酷なものではあるのだけれど

「え、ええっと…」

なんかすごく怖がられている
すごそうな組織の名前とか、背負ってるみたいだったのに
これは…やはり…
い、いや、言うまい(2回め)

「じゃ、じゃあアタシもう行くから!またね!」

ものすごい居辛さを感じて、少し慌てたようにして背を向け走り出す
途中からフロートの魔術を唱え、夜の空へ──

「……うーん、ヴィランの組織…?」

夜風を切りながら首を傾げる
なんだろう、ああいう人達にはあんまり
本気で悪いことを続けて、手のつけられないレベルにはなって欲しくないなと思った
もし、もしも、ないとは思いつつ彼ら?がこの薄汚れた街のバランスを崩す程になったら……

兜の奥から聞こえた、咽ぶような声を思い出す

「後味か~~~」

んべっ、となんだか美味しくなくなった感じのする飴を吐き捨てて、夜空へと消えてゆくのだった

スティールバイソン >  
「は、はい……わたくしは覚悟のない半端者です…!」
「道の端で口開いて埃でも食べながら生きて参ります……!!」

嫌だ、死にたくない!! 死にたくない!!

その直後にもう行くから、という言葉に。
脱力した。
彼女の影が消える頃。

「はぁ………」

魂が消えそうな溜息を吐いた。

 
その後。
俺様は駆けつけた部下に救出された。
脱走した三毛猫は風紀委員に保護されたらしい。

……ショックで3日寝込んだ。

ご案内:「落第街 路地裏」からハインケルさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からスティールバイソンさんが去りました。