2022/07/19 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
この街は、何時も通りだ。
その原因を何に求めるべきなのかは分からない。
常世学園か。島外の犯罪者達か。それを許す世界情勢か。
少なからず"弱者"の集った此の街の功罪を明確に線引き出来る者は少ないだろう。
「……だからこそと言うべきか。されども、と言うべきか」
"現場"に立つのも、諸々都合があって随分と久し振りだ。
だが、求められる事は何も変わらない。
自身の異能と風紀委員会での立場は、結局の所────
「……Bombardierung starten!」
落第街の深淵にほど近い、路地の路地。裏の裏。決して表には成り得ないその場所に、小柄な少年と、巨大な異形の群れ。
背中から無数の砲台を生やした金属の巨大な蜘蛛…の出来損ない。
無数の脚を踏みしめて、少年の放った言葉と同時に──天をも焦がす、火焔の砲火が轟音と共に降り注ぐ。
■神代理央 >
響き渡る轟音は、2回。
…まあ、何時もよりは"控え目"だ。
抵抗が激しければそれ以上の攻撃も必要だったかも知れないが──最初の効力射で、既に敵の戦意も戦力も大きく削がれてしまった。
肩透かしも良い所だが…まあ、仕方あるまい。
「…此方からの攻撃は停止する。既に制圧部隊は向かっているのだろう?なら、しっかり言い含めておけ。緊急事態の際には、敵からでは無く私の砲撃から全力で逃げる様に、とな」
小さな溜息と共に通信機に言葉を投げつけて、そのまま遮断。
本庁の方とて、今更此方に吠えたくる事もあるまい。
「……全く。猛暑だろうと真夏日だろうと、此処の連中は何時も元気な事だな」
出来れば、夏と冬は大人しくしていてほしい。
そんな願いも届かずに、背後に鎮座する多脚の異形達に視線を向ける。
しゅうしゅうと音を立てる砲身は、見ているだけで脱水症状を起こしそうだ。
ご案内:「落第街 路地裏」にノアさんが現れました。
■ノア > 響く轟音、焼け落ちる鉄塊。
燃料缶に引火でもしたのか、燃え上がった炎が路地裏を赤く焼いていた。
「――っと、止んだか?」
陰にしていたコンクリート片から這い出て轟音の主を見やる。
風紀委員、中でも俺達からすれば札付きの危険物『特務広報部』
その長たる神代理央が、そこには居た。
「『鉄火の支配者』ってのは相も変わらず勤勉だな……」
ぼやくようにして、その前に躍り出る。
食ってかかれるような異能がある訳でも無い。
ただの時間稼ぎ、そのために己の身をさらす。
「あんたも夏休みの時期だろう、バカンスにでも行って来れてりゃ俺達としては助かるんだが」
火の粉が落ちてくる。
僅かに触れた左腕の包帯が、溶け落ちるように消えて行く。
■神代理央 >
ひしゃげる様な不快な金属音と共に、異形達の砲身が一斉に青年に向けられる。
未だ熱を持ったままの砲身が再度砲弾を吐き出さなかったのは、単に主たる少年がそれを命じていない事と──青年が取り合えず敵対的な行動を見せなかったから、であった。
「私達の『敵』が能天気にハワイ旅行でも楽しんでくれるのなら、私だってゆっくり休暇を取る事を考慮するがね」
青年に向けられるのは、愉快そうな色を滲ませた尊大で高圧的な言葉と、表情。
目の前の青年が敵か、味方…敵ではないのか、どうか。
それを見定めようとするかの様に、僅かに瞳が細められる。
溶け落ち、灰燼と化していく青年の包帯に、ほんの一瞬、視線が向けられた。
■ノア >
一斉に向けられる砲身。
距離を置いて尚肌を焼く赤熱したそれ。
幾度となくこの街の者を焼いて来た暴威を前に諸手を挙げる。
溶け落ちた包帯の下、露わになるのは樹木の腕。
「敵ねぇ。存外俺達もこの島の為に身を粉にして働いてんだが」
分かってもらえないもんだなぁ、そう言いながら仰々しくため息を吐く。
細められた目、見定める視線。
品定めするようなその圧を前に、男はヘラヘラと笑う。
視線がこちらを向いた、それだけで十分。
逃げるべき奴らを逃がせたなら、それで目的は達されるのだから。
「意外なもんだな、問答無用で殺しに来ると思って折角用意してきたってのに、一発も飛んでこないとは。
戦闘狂って噂は眉唾物か?」
実際、意外だったと言えばそう。
金色の眼を少年に向け、時折視線を後ろにやってさっさと逃げろと指示を出す。
男にとって敵意が無い事は態度を見れば明白ではあるが、
神代理央にとって男は敵として見えるだろう。
■神代理央 >
「正式に申請し、正式に生徒か島民となれば別に此方もどうこうは言わぬよ」
青年の溜息に、小さく肩を竦める。
この手の話は得てして分かり合えない──というより、風紀委員として此方が譲る訳にはいかないという立場もあるが──ものだ。
だから強く説得も試みない。"そういう事"はそういう事が得意な心優しい風紀委員に任せれば良いのだから。
其の儘、煽る様な青年の言葉にも溜息を吐き出すばかり。
相変わらず、その砲身は青年に向けられた儘ではある、が。
「少なくとも、君は私に敵対行動を取ってはいない。君は私に危害を加えようとはしていない。だから──」
砲身が、軋む。
「君には、危害は加えないとも」
僅かに仰角を上げた砲身から、放たれる1発の砲弾。
少年と青年の上方へ放たれたソレは、今正に逃げ出そうとした者達へと火薬と重力の力で以て雷鳴の様な轟音と共に迫るが────
■ノア >
「正式に……な。そいつがどんだけ難しい事かってのは、語るまでも無いんだろうけどな。
――あぁ、そうだ。どうだい、蓮司の奴は元気に教師やってるかい?」
正規の学生、あるいは島民になる事、それ自体は手段を問わなければできないという事では無い。
ただ、脛に傷のある者のたまり場であるここの連中にとってそれが如何に難しい事であるかは、言うまでも無く。
澱み、汚れ。その中に居すぎた物は清い場所では息ができない。
だからこそ、この街は幾度となく焼かれては再生を繰り返す。
砲身が、ずれた。
己に向けられていた物が照準を合わせたのは、己の逃がした者達。
一瞬の閃光と爆音の後、本来であれば彼らを灰に化しただろう。
その刹那に身体が動いた。
樹木の腕、異形のそれは雷鳴よりも早く形を変え砲弾を受け止める。
轟、と。
巻き上げられた砂埃が明けた頃には、左腕の弾け飛んだ男の姿がそこにはあった。
「――っああぁぁぁ」
痛い、痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
歯を食いしばって尚足りない。漏らした息が悲鳴に変わる。
――それでも、その猛威を己の後ろには逸らさない。
「……っく、っそいってぇっ!」
言いながら腕を再生させる。借り物の力、望まず得た異形の姿。
再生と共に、肩口から先へと根が伸びていく感覚がある。
欠損の修復、それと同値の己を植物が浸食していく。
それでも、元通りに戻った腕を軽く振り、改めて少年に向き合う。
「悪いなぁ、神代理央。
どっちかってぇと自分より他人が傷つけられる方が胸糞悪いんだわ」
息も絶え絶えに言う。神代理央、彼の名だ。
落第街の畏れる『鉄火の支配者』では無く、彼という個人を指す名だ。
言いつつ、改めて両手を挙げる。話をしようぜ、少年と。そう口の端を釣り上げて。