2022/07/26 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」にソライアさんが現れました。
ソライア > ――走る、走る。
乱れる息、縺れる足。
転び、起きては傷だらけになりながらもそれでも決して足を止めない男が一人。
腕には大事そうに抱えたアタッシュケース。
中身は、とある組織が集めた実験データ。

ゴミを蹴飛ばし、後ろから迫ってくる何かから逃げる為、血走らせた目を動かしながら――

ふと、脚が動かなくなった。そして鋭く走る痛み。
派手に転ぶ。見れば脚に霜が降り、凍り付いていた。

「――あまり手間取らせるな」

コツ、と響く革靴の音。響く声は女のもの。
入り組んだ路地裏、男が来た方とは別の場所から現れた女は、
尚も這って逃げようとする男の半身を凍らせて地面に縫い留めた。

ソライア > 「逃げる場所などどこにもないぞ」

尤も、何処へ逃げようと追うつもりだが。
男の傍へ歩いて行けば、アタッシュケースをその手から奪おうと手を伸ばす。
漏れる冷気は周囲を冷やし、夏場なのにも関わらず冬のような寒さだ。

足掻き、ケースを奪おうとする手から守ろうと伸ばす腕を凍らせる。
さて、この男はどこまでもつだろうか。

「何の目的があってデータを持って逃げたかは私の知る所ではないが。
貴様の寿命を縮めたのは貴様自身というのは分かっているな」

無表情に。無感情に。
見下ろし、告げる口。

ご案内:「落第街 路地裏」に清水千里さんが現れました。
清水千里 >  
「やあやあそこのお嬢さん、こんな物騒なところで物騒なことをしているねえ。
 いや、場所にあってるからいいのか、うん?」

 突如虚空を切り裂いて――まるで"門"のように――その場にいた誰からも気付かれず、
 仄暗い裏路地に明るい女性の声が響く。

 振り返ってみれば空に浮かぶ女性の姿。

 清水千里、20代女性。常世学園講師、図書委員会委員兼顧問――彼女について公に知られているのはそれぐらいだろうか。

「悪いねー、キミ。回収班が環状交通の渋滞に引っかかって遅れちゃって。その腕と足、大丈夫?」

 ソライアを意に介さないように、逃げようとした研究員の方を嗤って。

「まあ、大丈夫なわけないか」

 人差し指をくるくると、渦巻くように動かして、分かる人間には分かるだろう、
 "魔力"のような力のカタマリを、彼の凍らされた箇所に向かって投げつける。

 もし妨害に遭わなければ、そのカタマリは男を拘束する冷気もろとも吹き飛ばし、氷塊を叩き壊すだろう。

ソライア > 突如聞こえた女の声。
――その者の足音も、気配すらも感じなかった。
だが同じ組織の者とは違う、という事はすぐに分かった。
一つ目を瞬くと宙に浮かんでいる女の姿を捉えた。

己の事など意に介さない。或いは眼中にない。
そんな女の言動にも、激昂する事なくただ無言を貫く。

眼中にないならそれでも構わなかったが、
この男を助けようとしている動きだけは静観出来ない。
女から投げられた魔力の塊。それを防ぐように分厚い氷の壁がそびえたつ。

「…何のつもりだ?」

清水千里 >  
 ぱしゃり。

 黒より深い裏の静けさに、乾いた破裂音が響いた。

 純なシャボン玉が壁に当たって淡く彼方へ消え去るように、
 そのカタマリは氷の壁に防がれ、泡沫の如く闇夜に消えた。

 後にはその痕跡すらなかった。


「『何のつもりだ?』」

 彼女は今度はソライアに向き直って、彼女の愚かさを嗤った。

「ナンセンスだ! 今この状況で、君はそんなことが聞きたいのか?
 今何が見えている? 何が聞こえている? そして、"何をも感じなかった"?
 もう一度考えるべきだな、何を聞くべきなのか」

 今度は腕を振り、すると宙に浮かぶ身体は地面に降り立った。

「とはいえ、聞かれたからには答えを用意せねばなるまい?
 私はその男に用がある。追われる価値のある男だ。だから回収しに来た。
 不届きな輩が彼の命を狙っているやもしれないからな。
 もちろん、協力してくれるね?」

ソライア > 弾けて消えた魔力の塊。
氷の壁を破壊する事もなく、ただただパチンと消えたそれ。
作った壁は役目を終えればボロリと崩れ落ちていく。

己の言葉に、漸く存在を認めたのか向き直った女。

「……」

問いかけた言葉を嗤う女にも、表情一つ変えず。
女の身体は地面へと降りた。
聞いた事を嗤ったというに、答えてくれる辺り律義であるのか。

「そうか、回収。
ならば私とは逆の目的になるな」

無論女の協力などするつもりはないが、かといって下手に騒ぎを起こすのも厄介だ。
己の目的…ひいては組織の目的は、
逃げた男が持ったデータの回収と男の存在の抹消なのだから。

清水千里 >  
「ソライア・ウェスト、ここは矛を収めないか?」

 その名前を知っていたかのように、女はソライアに話を持ちかけた。

「ここで戦うのは疲れる。なにせ今日は熱帯夜だ、汗をかくからな。
 我々はその男とその男の持つデータについて、
 君が君の上司に任務を完遂したと言えるよう、ここは穏便に取り計らおうじゃないか。
 その男はこの地上から消える。なかったことになる。
 もはやどこにも――落第街で死んだんだろうな、ここはそういう場所だから。
 ビューローでは証人保護プログラムというらしいな?」

「データも――よろしい、持って帰っても、ここで破壊しても、もちろんいいとも。
 "我々"はそれを必ずしも必要としていない。
 どうだい、興味深い提案だとは思わないか?」

ソライア > 己の名を知っている。何故?
…いや、探ろうと思えば探れるだろう。
一応は研究職員として働いているのだから。
とはいえ、女とは面識など一度もなかった筈だが…。

熱帯夜や汗を掻くなどという事とは
無縁な己にはその一言は全くもってどうでも良い話ではあったが、

「――その言葉はどれ程の信用が出来る?」

得体の知れない女だ、という事は分かる。
だからこそ、安易に乗るのは此方がリスキーだ。
二つ返事で頷く訳には、残念ながらいかない。

清水千里 >  
「信用というものは君がするものだ。そして決断というものは――私が"させる"ものだ」

 ソライアの足元に一葉の写真をヒラリと飛ばす。

 見やれば、それはソライアの妹、あるいは彼女の仲のいい同僚の盗撮写真。

「"今の段階で"手を出したりはしないから安心したまえ。私たちはここに来る前から、キミたちのことを調べていた。
 あくまでその一例として出したまでだ」

 ちなみにその写真を撮ったのはそこの彼だぞ? と、地面に倒れる男を指さしてウインクし。

「もし本当に君を抹殺するつもりなら、君の目の前に現れることなく、君の意識外から君を攻撃していただろう。
 それが能力者に対する最良の対処方法だ。実際、そうする連中もいる。だが我々は、そういう手荒なことはしない。
 われわれとしても、人死には御免なのでね」

ソライア > 「あぁそうだな。
信用は此方がするものだ――」

足元に舞い降りた写真。
それに写った人物が誰かを悟れば、初めて表情に感情らしきものが現れた。
眉間にほんの僅かに、皴が寄っている。写真を拾い上げては

「…貴様…」

己になら兎も角、妹にとなれば話は変わる。
彼女は姉である己とは違う、とても良い子だ。
だから、巻き込む訳にはいかない。
己は今脅しを掛けられている、ということか。
チラと地面に縫い留めたままの男を一瞥する。

「異能者とはいえ、人間である事に変わりはない。
意識外から攻撃されれば手も足も出ないな。
――分かった」

数拍の沈黙の後、男を拘束していた氷を壊した。
動けるかは兎も角として、まだ辛うじて生きてはいる様子。
…しぶとい男だな。

清水千里 >  
 ソライアの眉間にしわが寄っていることを感じ取って、女はため息を吐く。

「私が言うのもなんだが、気を悪くしないでくれ。我々とてその男を生きて家まで帰さなきゃならんのだ。
 キミに妹がいるように、この男にも家族がいる。
 だからどうというわけではないが、それが我々が卑怯な手段を使う理由なのだ。
 結局同じなのだよ、君も、私も。どこにくびきがあるかという些細な違いがあるのみだ」

 さて、と言って、女は男に近づき、男の肩を持つ。

「データは好きにしたまえ。後は君の思いのままだ」

 そう言って、ソライアが何も言わなければ、その場から立ち去ろうとする。

ソライア > 「正直に言えば、私個人はその男の生き死になどどうでも良い。
ただ仕事だから従っているだけだ。」

女の言う通り、己もその男も然したる違いはないのだろう。
とはいえ同情心で見逃す、なんて真似はしないが。
…今回は思わぬアクシデントが起こっただけのこと。

「あぁ、好きにさせてもらおう」

男の肩を支え、立ち去る女を眺める。
その背が完全に消えるまで、己は此処に居るとしよう。

ご案内:「落第街 路地裏」から清水千里さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からソライアさんが去りました。