2022/08/14 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に紅龍さんが現れました。
紅龍 >  
 常世学園、歓楽街。
 その中でも一際治安の悪いとされる、行き場のない連中が流れて集まった区画――通称、落第街。
 喧嘩も売春もクスリも日常茶飯事なこの場所も、別に四六時中武装をしていないといけないほど、危険ってわけじゃねえ。

 昼飯を適当に買って、現場に出てる部員どもへの差し入れを終わらせた、陽の高く上がった一番暑くなる時間。
 日差しを避けるのに路地裏に入ったら、あっという間に鬱陶しい気配に囲まれた。
 とりあえず表通りを巻き込まないよう、深く入り組んだ所まで誘導する。

 心当たりはあり過ぎるもんだから、何とも言えなかったが。
 裏通りの奥で立ち止まったオレの前に顕れた、金で雇われたんだろう、薄汚いなりの男女。
 そいつらが一斉に、『なにか』を呑み込んだ事で事情が分かる。

 あっという間にそいつらの全身に、植物の根が張り巡らされて行き、肉体に不可逆の変化をもたらしていく。
 オレを囲んで優位を崩さないところを見ると、理性も知性も残っているタイプだ。
 厄介極まりない。

 寄生植物型生物兵器『闘争の種子』。
 そのデータを手に入れた、どこぞの部活の仕掛けだろう。
 間違いなくこの島で、『こいつら』の狩り方を熟知しているのはオレだろうからな。

「――だからってよ。
 四人も並べて、捨て駒にするかね。
 感染が広がったらどうすんだよ、と」

 完全に寄生変異した種子どもは、オレの様子を窺いつつ、襲い掛かるタイミングを測っている。
 こっちの手持ちは、昔懐かしい有名なデザートイーグルが一丁、ジャケットの下に仕込んでる、短剣が一本。
 一匹二匹は狩れる装備であるにはあるが――四対一となれば、かなり苦しい状態だった。
 

ご案内:「落第街 路地裏」に『拷悶の霧姫』さんが現れました。
ご案内:「落第街 路地裏」に人斬りさんが現れました。
ご案内:「落第街 路地裏」から人斬りさんが去りました。
『拷悶の霧姫』 >  
近場の建物の影からその様子を窺う影が一つ。
佇んでいるのは、仮面の少女だ。無言のまま、その様子を見ている。

落第街の路地裏は、
表の世界とは異なる倫理観、治安状態を有する落第街の中でも、
危険な場所の一つだ。まともな感覚を持った人間であれば、
まず好んで寄り付くことはしないだろう。
或いは腕に覚えがあれば、別であるが。


――『闘争の種子』ですか。

仮面の下の目を細める。
落第街で蒔かれたその凶悪な種は今も尚、
闇の街の奥深くまで根を張っては広がり続けている。
見えないところで、しかし着実に。

――監視網にかからない範囲を少々歩き回ってみようかと
  足を運んでみましたが。

さて、眼前の男――紅龍。
中華系の地球人で、異能こそ有していないが、手練の男だ。
優れた武装、そしてそれらを余すことなく十全に使いこなす
その戦闘能力に評価すべき点は多い。

――改めて、見せて貰いましょうか。

闘争の種子に侵された者達については勿論、眼前の男にしても。
もう少しデータが必要だ。
少女は、コートの下の鎖に手をかけながらも、
もう少し様子を窺うこととした。

紅龍 >  
 実のところ『闘争の種子』への対処法自体は、いたってシンプルだ。
 燃やすか、宿主の脳幹部を破壊するか。
 まあどちらにしたって、宿主の命はないものと思え、って所だが。

「――なあ、お前ら。
 今すぐやめようぜ、こんなの。
 まだ寄生してから時間が浅い。
 今すぐやめてくれりゃ、綺麗に『除草』して元に戻してやれる。
 ついでに、うちで働き口を探してやったっていい――だからよ」

 そう、声を掛けてみるが。
 返ってくるのは威嚇するような唸り声だ。
 やる気は十分――というよりは、後には引けない、そんなところか。

 恐らくオレが武器をてに収めようとしたら、即座に襲てくるだろう。
 生身でこいつらに殴られたら、即死はしなくとも負傷は確実。
 せめて、一匹でも数が減ってくれりゃぁ――いや、三匹もきついな。
 
 まったく、こういう時に限って武装してない上に、部員共に連絡も取ってねえ。
 こんな時こそ、どこぞのヒーローに助けてもらいたいところだ。
 

『拷悶の霧姫』 > 暫しの様子見。
その最中に、男の口から放たれる言葉。
 
――成程。見た目通りの軽装備という訳ですか。

流石に自衛用の拳銃くらいは持ち歩いているのだろうが。
流石に異能や魔術無しの身では、荷が重い状況であろう。
様子を見ることで、
どうやら相当の危機に瀕しているらしいことを改めて理解する。

だからと言って、こちらが危険を背負った上で
助けに行く価値は何処にあるのだろう。
別に、あの男が此処で肉塊になろうと何の感情も湧かない。
その筈だ。この心は、そのように在る。

この心は一度――殺されている。

心は動かない。胸は高鳴らない。鼓動は波一つ立たぬ湖面。
寝ても覚めても、普遍的な静がそこに佇むのみ。

人が死に、腐り、溺れていく。
これは紛れもない落第街の日常の一つ。
ありふれた光景。

ならば。

『拷悶の霧姫』 >  
もし、そうだとしても。


『――恩は返すもんだぜ』


こういう時、決まって頭の中に響く声がある。
それはかつて自らを導いてくれた愚か者の声で、
虚ろな伽藍堂の中に残された数少ない灯火の一つ。


鎖の束、数にして3つ。
その束をコートから取り出せば、指先から魔力を込める。

魔導合金――ブラックオリハルコン製の魔導鎖は、
一切の干渉なく彼女の魔力を通す。


鎖は、放たれた。

魔導鎖は彼女の意思に従い、手から放たれた後――
物理法則を置き去りにした、超軌道を描く。

放たれた3本の鎖は一斉に、弾丸の如く翔ける。
鎖は瞬く間に、感染者達の四肢を封ずるように巻き付いていく。

鎖の根本に手を添えながら、少女は暗がりから一歩、踏み出した。


「大変な状況に置かれているようですね、用心棒さん」  
 
闇深きこの街に不釣り合いなその声は、薄氷の如く。
繊細で、凛とした音として路地裏に響いた。 

紅龍 >  
 闇の中から滑る様に、黒い鎖が放たれる。
 その数は三。
 見覚えのある鎖は、瞬く間に感染者の身体を拘束する。

「――最高のタイミングだぜ、ヒーローさんよ」

 ――理性と知性が残っている事には、デメリットがある。
 経験が足りないと、予想外の事態に動揺し、行動が遅れるのだ。
 つまり、今の瞬間。

 仲間が拘束され、動揺した四人目。
 そいつの胸に、デザートイーグルを抜き打ち、.44AE弾をぶち込んだ。
 もちろん、それで殺せるわけじゃねえ――が、こいつらはまだ人間だ。
 他に道がなかっただけの、ただの人間だ。

「小鬼――こいつを打ちこめ!
 それでこいつらは、『除草』できる!」

 胸から血を流しながら、衝撃でもんどりうつ四人目を抑え込みながら、懐に常備していた、圧力注射型のアンプルを数本、お姫様に向かって投げ渡す。
 それが受け取られるか――確認もせず、オレは抑えた四人目に、アンプルを打ちこんだ。

 妹が開発して改良した『除草剤』は、あっという間に、宿主の中の寄生体、植物部分だけを枯らし、無害化する。
 暴れていた四人目は、寄生体の力を失い、すぐに気を失った。
 肉体の損壊や変化により後遺症は皆無じゃないが。
 これで、少なくともこいつは、まだ『人間』として生きられる――。
 

『拷悶の霧姫』 >  
「ヒーロー。小鬼。呼称がよく変わりますね。
 いずれでもありませんが」

新たにコートから漆黒の鎖を放つ。
爪の先に至るまで僅かの狂いもなく整った細指。
そこを伝って、青白い魔の奔流が、再び鎖に伝えられる。

新たに放たれた3本の鎖。

放たれる。
鋭くも靭やかに。

男が投げたアンプルが少女に迫る中、鎖を放ったままに
宙空へ突き出していた右手首を、くっと内側へ曲げる。
刹那、鎖は呼応するようにその動きを変え、
穏やかな風に靡く細糸の如き柔軟性で以て、その全てを絡め取った。

その後は――一つの瞬きが終わるまでに、
拘束した感染者にアンプルが打ち込まれていたことだろう。

御伽噺の幻影の如く、伝承に流れる幽鬼の如く。
その場に似つかわしくない、女の影が一つ。
彼女は哀れな犠牲者達の姿を、
何の感慨もない瞳で仮面の下から見つめていた。

「以前の手当代は、これにて――」

そうして以前、男に手当をして貰った掌を見せる。

鎖によってアンプルを打ち込まれ、
次々と意識を失っていく感染者達。
その様子を一瞥した後、
少女の影は男へ向けていた掌を静かに握りしめる。


「――支払った、ということで」

最後の一人がどう、と地面に鈍い音を立てて倒れると同時に。
全ての鎖が少女のコートの内側へと収まるのであった。 
 

紅龍 >  
 
「――お見事、公主」

 あ、っという間のお手並み。
 無感動、無感情の鎖捌きは正確無比。
 倒れた残りの三人も、寄生体が枯れて、元に戻りつつあった。

「手当――?
 あー、そんなもん気にしてくれたのか。
 哈哈――それで助けてもらえたってんだから,ありがてえな」

 鎖がお姫様のコートに収まりゃ、オレはすかさず『タバコ』を出して一服入れる。
 まさか、もう一度会っておきたいと思った相手に、運よく助けてもらえるとは思いもしなかった。

「你好、公主。
 どうだい、景気のほどは」

 気安く声を掛けながら、足元に転がった四人の状態を眺める。
 どいつも、致命的な後遺症はなさそうだ。
 身元を調べて、後で研究区へ送ってやるとするか。
 

『拷悶の霧姫』 >  
「公主でもありませんが」
 
返答を寄越しながら、少し先で倒れている輩に目を落とし、
その全ての顔を脳裏に焼き付けておく。

一人くらい持ち帰っても良いが――
恐らく直接口から情報を得ようとしても、
あまり有益なものは得られないだろうことは、
先の仕掛け方から予想がついた。

監視下に置きながら、一旦泳がせておくのが得策だろう。

現場処理の面に関しても、
男の身の上やコネクションを考えれば、
事後処理を十分に行うことができることも予想がつく。

そこまでさっと思考を走らせた少女は、
それきり倒れている者達には目をやらず、
こちらに声をかけて来ている男の方へとその仮面を向けた。

「没什么《問題ありません》。

 さて、どうでしょう。
 私はただ、この落第街の均衡を見守るのみ。
 今のところは、
 いつも通りに時が過ぎているように見えますが」

それなりに流暢な異国語を投げて返しながら、
語を継ぐ。

「それでも不穏の『種』は様々な所にばら撒かれていますからね」

闘争の種子に限った話ではない。
落第街に散らばった魔導書、
人の手で使役可能な悪魔、偽造悪魔《ディアブロ・ファルサ》――
他にも数多くの不穏の種が、この街には散らばっている。

「目に見えないところで、根は深く深く張り巡らされているものです」

それだけ口にしつつ、少女はコートを翻す。

紅龍 >  
 
「公主だろ、お姫さま」

 肩を竦めて見せるが、どうもお気に召さない様子だ。
 まあ、それでもお姫様はお姫様だがな。

「へえ、喋れんのか、意外だな。
 ――不穏の種、ね。
 言っちまえば、火薬庫みてーなもんだからな。
 火が着いちまえば、いつでもドカンだろうさ」

 一服入れてから、コートを翻すお姫様に、一枚の名刺をシュリケンよろしく投げた。

「――ちょいと、部活を建てようと思っててね。
 この街にしか居場所がねえ連中を集めて、『不殺』のプロフェッショナルに育てるつもりだ」

 用心棒と、問題解決――そのプロフェッショナルに。
 バケモノを狩り、人間を殺さず、守るべきものを守れる――落第者の軍隊に。

「お前ら、表立って動くのは得意じゃねえだろ。
 もし、オレらが使えると思えばいつでも連絡しな。
 オレとしちゃ――あんたらとは協調していきてえからな」

 そう声を背中に投げかける。
 

『拷悶の霧姫』 >  
「日常会話程度であれば、ですが」

この島自体、異国の人間どころか異世界の者達が蔓延っている。
勿論全てをカバーできよう筈もないが、
幾らかの会話や風習を少女は理解しているつもりだった。

『彼らの文化を理解し、できる範囲で尊重すべきだ。
 相手の信頼を得たければ、まずは相手に共感をすることだ。
 
 別に、感情が表せなくたって共感は示せる。
 相手の言語を、文化をなぞって見せる。
 相手の考えを認めてやる。それだけで共感は成立するんだぜ』

かつて自分に語って聞かせた愚か者の言葉を思い出しながら、
少女は一瞬だけ目を閉じた。

「この街で不殺の旗を掲げるからには、相応の力と覚悟が必要ですね」

投げられた名刺を、振るった右手の人差し指と中指で止める。

男の主張に対して、多くは語らない。
最低限、必要な言葉だけを投げかけた。
誰もが分かりきっているような根拠を並べ立てずとも、
その難しさについて男は理解できているだろう。
裏で生きる人間。
それも、今日ここに両の足で立っている者ならば。


「必要以上に均衡を乱さなければ、
 私達から干渉することはありません。
 
 貴方がたを使うことも、逆に貴方がたに使われることもないでしょう。 

 ですが、個人的に一つだけ――」

空気が、一変する。
何も色を感じない少女の声色が、冷たく突きつけられる。

先程までとは、異なる気配が少女から放たれている。
その異様さを目の当たりにすれば、空気が歪み、
膨張するような錯覚を覚える者も居るだろう。

「『貴方がた』が不殺を謳い、立ち上がるというのであれば――
 これから立ち上がるその部活を代表し、
 『約束』をして貰いましょう」 
 
これは契約だ。
これまでに無い、大きな契約だ。
一人の男の約束は今後、大きく波及していくことになるだろう。

「蛮勇を掲げる覚悟があるというのならば、
 他でもない貴方が、代表して述べるべきでしょう」

『拷悶の霧姫』 >  
 
 
「『貴方がた』は、『不殺』を貫き、人々を守る。
 貴方が口にしたことです」
  

仮面の下の瞳が、人知れず淡く輝く。 
人を魅了する宝石の如く、澄んだ光を放つ。

 
「『約束』してくれますね――?」 
 
 
 
 
 

紅龍 >  
 
「――ご心配どうも。
 均衡を乱すようなつもりはねえよ。
 使ってもらえねぇのは残念だがな」

 へら、と笑いながら。
 小さなお姫様の、大きな黒に紅い目を向ける。

「――無論、『約束』するさ」

 笑いながら『タバコ』をふかし。
 わずかの躊躇もなく答えを返す。

「それくれえの事はやってみせねえと、この街で胸を張って生きていくのは難しい。
 ――オレは、オレを慕ってくれる奴らを、一端の人間にしてやりてえのさ」

 オレに出来る事は、『狩り』の技を教える事だけ。
 それで救ってやれる人間は――ほんの少しかもしれねえが――。

「『約束』だ公主。
 オレは、『オレ達』は死んでも『生きて』信念を貫く。
 しっかりと、その可愛らしい目で見届けてくれよ」

 

『拷悶の霧姫』 >   
呪詛呪縛の杯は、男の言葉により満たされる。

その契約は、男の言葉を通して確かに交わされた。

「貴方の覚悟、聞き届けました」

少女は仮面の下の目を静かに閉じる。

その顔に感情の色が表れることはない。

だが、もしその顔を見ることができる者が
――眼前の男を含めて――居たとしたら、
その凍てつく表情が、
何処か満足気なものに見えなくもなかっただろうか。

「互いに背を向けることもあるでしょう。
 しかし、同じ方を向くこともあるでしょう。
 
 未来など読めませんが、
 その覚悟を私は評価し、約束を見届けることとしましょう」

無色透明の言葉を投げ渡した後。
少女はコートを翻し、闇に消えていくことだろう。

紅龍 >  
 
「頼んだぜ、公主――あんたの事を忘れなけりゃ。
 オレも道を外さねえで済みそうだ」

 肩を竦めて笑って――その背中を見送る。

「再见――また会おうぜ、お姫様」

 その姿が闇に消える。
 黒のお姫様に評価されたってのは、それなりに嬉しいもんだ。

「――さて、早速お仕事するとしますか」

 転がる男女四人。
 こいつらを研究区に押し込んで――余罪がなけりゃ、表の世界に帰れる事もあるだろう。
 運が良けりゃ後遺症も少なく済む。
 李華の治療だ――何とかなるだろう。

「あー、部活の名前考えておかねえとなぁ。
 いつまでも個人名義でやらせとくわけにもいかねえし。
 まったく、面倒な仕事ばっかだぜ」

 そうしてオレは、馴染みの研究室に連絡する。
 さぁて、この四人をどうやって運ぼうかねえ――
 
 

ご案内:「落第街 路地裏」から『拷悶の霧姫』さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」から紅龍さんが去りました。