2022/11/19 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」にジョン・ドゥさんが現れました。
ジョン・ドゥ >  
「お~、こわいこわい……」

 おっかない先輩様が暴れてる表通りから、こそこそ隠れて裏通りに退散退散。
 ちょっと落第街ってもんの様子を見に来ただけだってのに、おっかない場面に出くわしちゃったな。

「でもまあ」

 周りを見る。表から身を隠しに飛び込んだ連中が多いらしい。
 俺の着けてる腕章が気に入らないんだろうな、視線が刺さってくる刺さってくる……こりゃあ、突然刺されてもおかしくないな。

「逆効果だよなあ、あれ」

 俺みたいなヤツからすると、あんなことされたら、むしろぶっ殺したくなって反骨精神ってのを育てちゃいそうだ。
 実際、同じ風紀委員ってだけで、今まさに殺気が凄いしなあ。
 

ジョン・ドゥ >  
 でもなんというか、落第、なんていうからもっと荒んだ街をイメージしてたけど、そうでもないんだな。まあちょっと貧民街みたいな空気はあるが、それも悲観的な空気じゃなくて、活力がある。

「くくく……むしろこっちの空気の方が肌に合うかもな」

 俺自身、とても育ちがいいとは言えない半生だしな。これくらいの方が居心地がいい。
 ああえっと、そうだそうだ。様子を見に来ただけ、とは言ってもだよな。

「あー、あんたら、はやくこの辺離れた方がいいぞ。巻き込まれたらたまったもんじゃないだろ。
 ……あ、むしろ俺の近くにいた方が狙われないのか?」

 よくわからないな。あの先輩様、必要なら俺くらい平気で巻き込みそうだ。
 この場所に居たのは自己責任だ、とか、それくらいは言いそうな気がする。

「まあいいか。とりあえずさ、俺、特に何かするつもりないし、あんまり怖い顔しないでくれよ、な?」

 両手を挙げて笑ってみる。なんとなく、戸惑ったような雰囲気だ。
 あーよかったよかった。風紀と見ればだれかれ構わず、ってほどではないらしい。
 とはいえ、仲良くしようぜ、って空気じゃないよなあ、これ。個人的には仲良くしたいとこなんだけどなあ。
 

ジョン・ドゥ >  
「……静かになったか?」

 表のやり取りは終わったのか?なんだか女が立ちふさがっていたようだったが。

「あー……悪いな、俺にあれ、止める権限ないんだよ。暴力の方も、言わずもがなって感じでさ」

 なんとかしてくれよ、って感じの視線が痛いなあ。そりゃあ、俺だってあんなおっかねえやり方、あんまり賛同したくないけどさ。

「あー、まー……無理なもんは無理、って事で。対人だったらまだしもなあ」

 あんなゴツイもんを連れ歩いてるやつをどうにかするなら、狙撃銃でも欲しいところだ。まあ……狙撃の腕はあんまり、いいとは言えないんだけど。
 

ジョン・ドゥ >  
「……うぉっ!?」

 少し静まっていたかと思えば、また爆音で、体が竦んだ。戦場である程度慣れてると言えば慣れてるんだが、案外、戦場でこんな爆音を頻繁に聞く事ってのはなかったりして。
 正直なところ、下手な戦場よりもおっかないと思うね。

「あー……あんたら、こんなのしょっちゅうやられてんのか。流石に同情したくなるな」

 こんなことをされ続けていたら、そりゃあ風紀委員と見れば殺気の一つもぶつけたくなるだろうな。
 だからと言って、公的な身分を持たない「いない事になってる」この街の住人には、訴える手段がない、と。

「……くそったれ」

 どれだけ歪な構造だよ。社会正義、社会秩序が聞いてあきれるな。こういう場所に居る人間を助けられない正義とやらに、どれだけの価値があるんだ?
 どうにも、俺には理解できる気がしない。
 

ご案内:「落第街 路地裏」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
「そぉ、いつものこと」

何やら物珍しい顔がいるらしい。
騒ぎを聞きつけてやってきてみれば、成る程この場には似つかわしくない――というか。
針の筵に在る、ともいえる青年を認めた。
くわえたロリポップを、ころり、と転がして、女は笑う。

「風紀委員さんがみんなああってわけじゃないケド――フフフ。
 思うところアリ、って感じだな……?」

さて、諸人の列を割り、ほんの行きがかり。
おうちに帰る途中です、くらいの安穏とした調子で近づく。
さしたる驚異も恐怖も感じていない。せいぜい、風が強いな、くらいの。

ジョン・ドゥ >  
「聞き分けのいいワンちゃんにはなれそうにないね……うぉっ」

 急にかけられた声に驚いた。まさか、住人の方から声を掛けられるとは思わなかったからな。

「あー、まあ、先輩殿はともかく、歓迎会じゃ優しいやつもいたからな。それも、美女がな。はは!」

 思い出すと愉快になる。それくらいに、いい女がいた。まあこの女もなかなかいい女だな。

「ちなみに俺も風紀委員だけどな……あんたみたいないい女がいるなら、こっちに入り浸るのもいいかもな」

 正直に口にしてみたが、ちょっと白々しい言い方か?ナンパに聞こえるかもな……。

「思う所は……まあ、あれを見たらな」

 ない方がおかしいだろ、って意味を込めて肩を竦めた。この女も、この街にいるって事はなんかワケ有りなんだろうが……どっかで見たような気がするなあ。
 

ノーフェイス >  
「えー、羨ましぃ~。紹介してくれない?」

呵々大笑の有様に、和やかに微笑むそれは美貌と言って差し替えずとも、――そう。
あまり直視しないほうが良い類のそれだ。
いい女、の基準が、造作だけ――であるかどうかの話。

「こっちは不便だよ。それでもチャンスがある。挑戦の機会が。
 キミのように、"望んでこちらに来る"のなら――作法を守れば誰も拒みはしない」

視線を巡らせた。
追い立てられた弱者たちを、炎の色が睥睨する。

「彼らはどうだろ。
 みずからの意志で、この街にいるのなら――"自己責任"だ。
 撃たれても文句は言えないんじゃないカナ?」

砲火の雨にさらされようが、連れ込まれて犯されようが、溺れさせられようが。
ここでは法による"罰"はくだりづらい。法が人を守る範囲外だ。

「あっちでドンパチやってる連中の是非はさておいても。
 "みずからの意志でなく、ここに留まらされている者"――
 この中にもいるんじゃないか……? その救済が。
 風紀委員会の仕事だって聞いたことがあるけど?」

最初から、選択肢すら与えられなかった者たちが。
選択肢などないと教え込まれた者たちが、いる。

二級学生。正規学生になれなかった者たち。外から買われてきたものたち。
拾われた者たち――たいていが違反部活の"手足"になっているような。
非正規入国をした外国人労働者、なんて言えば、外から来た者にも伝わりやすいか。
搾取される側は、今回の場合、表でも裏でも被害者だ。

「なーんでかボクにはそういう声全然かかんなかったんだよな。
 一年くらいふらふらしてたんだけど、
 結局召し上げられないまま犯罪者になっちゃった」

道化者のように大げさに肩を竦める。
"弱者"として扱ってもらえなかったらしい。

ジョン・ドゥ >  
「はは、やだね……俺のチャンスが減るだろ?」

 やっぱりこいつ、どっかで会っ――――《同調》――――いや、初対面か。

 相手は美人だが、どうにも俺の趣味じゃない。美女同士の絡み自体は、目の保養になる分嫌いじゃないが……あくまで目の前でやってくれればの話だし。

「チャンスねえ。まあ、俺は首輪付きみたいなもんでさ。これ、捨てるわけにはいかないらしいんだ」

 「らしい」だけどな。この腕章が無くなると、多分俺の頭が吹っ飛ぶ。
 流石にそんな死に方は、あんまりしたいもんじゃない。

 女が見る連中は、俺もさっきから眺めていた。
 隙を見せたら殺す、くらいの殺気を向けて来たような連中だ。……それくらい、しっかりと自我があるような連中だ。

「撃たれていい人間、なんてもんはいないと思うけどな。好き好んでいるやつばかりじゃないだろ?」

 それを自己責任だ、なんて言って撃ち殺すんじゃ、戦争ですらない。ただの虐殺……殺すって意識があるならマシだ。それじゃあ害虫の駆除、に近いだろ。
 人間を人間として扱っていない。それだけで反吐が出る。

「ああ、俺もそんなふうに「キレイゴト」を聞いてたんだけどな。実情はどうも、そうじゃないらしい。一応、規則も一通り眺めて来たけどな……少しどころじゃなく基準が厳しいね。ほんとに助けるつもりがあるのかよ、って思っちまう」

 規則、この島じゃ「校則」っていうのか?そいつもどうも胡散臭い。
 もしその「校則」がここにいる連中を救える手段なら、この街はここまで大きくはならない――なるはずがない。

「はは」

 犯罪者と言って肩を竦める女に、俺も笑って両手を挙げた。

「そいつは残念だ。あんたが正規の学生なら、さぞ愉快だっただろうにな。
 好きだぞ、そういう個性的(ユニーク)なところ」

 見た目から性格から、言動からにじみ出る、隠しきれない個性ってやつ。そういうのは、濃い方が面白いだろ?

「しかし、やっぱそういうもんなんだな。どうも誰かさんが大事にしてる「ルール」ってやつが、救うつもりがない仕組みみたいだ。が……そんな中でも、なんとかしようって先輩方がいるのは、まあ、少なくともマシに思えるな」

 誰もが「ルール」を大事にして何もしないような奴らだったら、冗談抜きで俺は腕章を捨てて自爆してただろうさ。
 それくらいには、この島の「ルール」に違和感を覚えてる。……覚えたから何ができるわけでもないんだが。
 

ノーフェイス >  
「フフ。 さあ、それでも"助けたい"なら。
 やってみたらどう? 案外、うまくいくかもしれないぜ。
 その憐れみや義憤が、格好つけだけでないのなら」
 
正規学生だったら?――肩を竦める。
たらればの話だ。どうせやることは変わらなかっただろう。

「それでもって、そういう弱者に手を差し伸べる"優しい風紀委員"が、
 "救うつもりの先輩方"が……
 ……あいつのせいで割を食ってる、ってカラクリかな?」

殺気と砲火舞う場所に視線を向けて、可笑しそうに笑う。
彼が"風紀委員である"というだけで睨まれたというのは、そういうことだ。
害意ではなく善意で、優しさで触れようとして。
殺された者もきっといるのだろう、と。

「ま、警察が腐敗してるなんてどこもかしこもじゃない?
 お金持ちの坊っちゃんが好き勝手して、権威があるから周りは何も言えない。
 実情はどうか知らないけど、落第街《こっち》から見ると。
 風紀委員会、って組織はそう視えてさ……だからこそ」

少しだけ丸くなったロリポップを離して、闇のなかでくるり。

「彼を正すなら、風紀委員会の自浄作用であるべきだね。
 風紀委員が、誤った風紀委員を正すべきだ。
 "それぞれ正義がある"なんて馴れ合いと疵の舐めあいなんかナシでな。
 ただでさえ監視対象が逃げた―だかでドタバタしてる今、
 看板にドロ塗り続けるヤツを雪ぐのは、真面目な風紀委員でなければいけない。
 散々言われても改まらなかったのか誰も言わなかったのかなんて知らないケド。
 ――あ、そうそう、"ルール"といえば」

この発言は、利敵行為である。
風紀委員会が、より強く正しく是正されるための。
あの委員ひとりで何が変わるわけでもない。この女が何かを変えるわけでもない。
意図は読ませぬまでも――そう。悪意では、ない。

「年功序列とかキャリアとか気にせずにやんなよ。
 それでキミをシメる奴は存在しない。
 この島にいる誰もがいち個人しかないんだ。
 ……上下関係なんて存在しやしないのさ。
 その時いちばん輝いてたヤツが王様だ、その時だけな」

ドン、と彼の胸を叩いて、歩き出す。
そろそろおうちに帰る時間、雨風が強いが、いつものこと。

「――そーいうワケだ!
 このお優しい風紀委員さんに助けてほしい人がいるなら、一列に並びなよ!」

――と。
よく通る声で、大きく叫び――隠れ潜むもの、身を寄せる者たちの視線が。
"お優しい風紀委員"にむいたところで。
女はその群衆に逆らうように、するりと紛れ込み――消えた。 

ご案内:「落第街 路地裏」からノーフェイスさんが去りました。
ジョン・ドゥ >  
 憐れみや義憤……そうか、そう見えるのか。

「俺自身は「優しい風紀委員」さんじゃないけどな……手を伸ばそうとした人が馬鹿を見るなんてのは、やっぱ気分が良くないだろ」

 肩を竦めて見せるが、わざとらしく見えるかもな。俺が口にしてるのも、聞いてるやつからすれば、ただの「キレイゴト」だろ?
 そこに説得力ってもんがくっついてこない。今の俺にはなんの実績もないからな。

 ……叩かれた胸は、少し重くなった気がする。

 去っていく女を見てる場合じゃなくなった。そこらに潜んでた連中が、俺がどうするのかと睨んでくる。困ったことに、そこに期待はない……そりゃそうだろ、期待なんてとっくに出来ないくらい、ボロボロにされてきたんだろうから。

 自浄作用か……確かにそうかもな。この街の連中が止めたところで、結果として残るのは「違反者が風紀委員を傷害した」っていう犯罪記録だけ。
 何も変わる事がない……むしろ、より危険性が高いとして弾圧されかねない。だからこそ、今までこの街の連中は耐えるしかなかったんだろ?

 だけど、年功序列もキャリアも関係なく――新米の俺がやっていいんだとすれば。もしかしたら一人くらいなら、何とか出来るんじゃないか?
 なんてよ。
 その気にさせるんだから、ああいう女は手に負えない。

「あー……なんだ」

 集まった視線に、なんて言ったらいいかわからなくて、とりあえず頭を掻いてみる。……こういう時、気の利いたセリフでも言えたら、きっとモテるんだろうな。

「俺はあの女が言ったみたいに「優しい風紀委員さん」じゃないし、それこそ正義の味方とか、そんなもんでもない」

 正義だ悪だ、なんてもんは、所詮はそれを見たどっかの誰かが、後から評価するもんだ。だから人間の行動そのものに「善も悪もない」はずだ。

「だからなんだ、今からするのは良い事でも悪い事でもなくて、ただ、俺がやりたいからするだけ。俺の自己満足だ。……それでもいいなら少し、話を聞いて行けよ」

 路地に隠れていた何割かは、とっくに興味を失ったのかいなくなっていた。それでも、残りの何割かは、俺の言葉に耳を貸す気があるらしい。
 それなら……まあ、少しは力になれる。

「あー……この街から出たいやつは、俺について来い。詳しい事は言えないが、お決まりの「ルール」以外で外に出してやれる、「かもしれない」」

 絶対とは言えないのが哀しいね。なにせ、俺にそういう権限があるわけじゃないし。

「学生としての身分も、生活も、「契約」を守ってさえいれば命も保証してやれる。当然、無制限じゃないが、自由だってある」

 俺がその証拠だ。と言っても、ここの連中にそれを示す方法はないけどな。

「条件は一つ、実験動物(モルモット)になること。安心しろ、とりあえず、死にはしない」

 「俺も実験動物(モルモット)だからな」って笑ってやると、少しだけざわついた。

「ただ、死なない、以外は保証してやれない。……どうだよ、胡散臭い話だろ?
 だから、それでもってやつだけだ。俺に出来るのはこれと、学生になってからのサポートだな。
 ほら、「優しい風紀委員さん」だからな?」

 肩を竦めたら、失笑が聞こえて来た。そりゃそうだ。風紀委員が自ら、反則行為を唆してるんだから、そういう反応にもなる。

「……今の生活に満足できてないやつ、命を掛け金に(ベット)してもいいやつだけついて来い。ああ、もちろん、「ルール」の範囲で出られるやつは来るなよ?ちゃんと真っ当に行けるならその方が、ずっといいに決まってるんだ」

 そう言いたい事だけ言って、俺は路地の奥に進んでいく。今の今で、表の通りは流石に歩きづらい。裏道から帰るつもりだ。
 一応、腕章を着けてるわけだし、多少妙な連中を連れて歩いても、言い訳くらいは通るだろうさ。

 ……なんて。

 大してノってくるとは思ってなかったんだが。着いてきたのが一人や二人じゃなかったのには、流石に驚かされた。

 あーあ、やっちまった。
 あとで怒られないといいんだけどなあ……。
 

ご案内:「落第街 路地裏」からジョン・ドゥさんが去りました。