2022/11/22 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に挟道 明臣さんが現れました。
■挟道 明臣 >
古びた廃ビル同士の隙間。
僅かに月明りだけが差し込む暗がりの中、
静かに地面に触れて、己が異能を巡らせる。
拭われもしないで乾いた血。
人が訪れ、争い、そして死ぬ。
その中で何があったのかを探って情報とし、
切り売りするのが自分の副業と言えるだろう。
「……跡も残らないってか」
答えはその血に、あるいは地に残った記憶が持っていた。
行方不明者の捜索、これにて打ち切りである。
■挟道 明臣 >
遺体は見つからず。
その状態で捜索対象の死亡を断言する事の難しさを、自分の異能は覆す。
嘘をつかないし、無駄な希望的観測も述べない。
それこそがこの街で"信用"できる情報屋として成り立つ条件でもあった。
事細かに伝えるつもりも無いが、遺体が残らないというのはそれだけの惨事だ。
高出力のレーザー兵器に焼かれて、文字通り消えた。
遺品くらいは残っていたのだろうが、この街にはゴミ拾いが得意な連中も多い。
二日も経てば碌な物は残りやしない。
「また、パラドックスか」
乾いた喉の奥から這い出る独り言。
その響きに少しだけ胸の奥がチリチリと痛んだ。
■挟道 明臣 >
宍倉 扇。
端末に表示されたリストから、その名前をグレーアウトさせる。
そのスジでは名の知れた"洗浄屋"だったが、惜しい人を亡くしたとは思う。
リストの中から明るい文字が消えるたびに、また一つ自分のアテが失せたのだと実感する。
ひとつずつ上からスクロールする指先がページの中ほどで止まる。
――紅龍。
違反部活『病原狩人』の頭であり、自分の主治医の兄。
その名の背景色は白。死んでこそいないが瀕死の重傷のまま。
「……あぁ」
胸中にある僅かな痛み。それがジクジクと強くなっていく。
知り合い、友人、依頼者に委託先。
自分に縁のある人が喪われた事への理解と共に強まるこれは、
きっと喪失感というものなのだろう。
■挟道 明臣 >
鉄くずに混ぜて時折掘り出しものを持ち込んできた男は死んだ。
パラドックスの破壊の余波で転がって来た瓦礫に巻き込まれて、あっさりと。
もう安酒を片手にゴミを異国の宝だとふかす姿を笑ってやる事も出来ない。
同じようにパラドックスとやりあったあの男が目を覚まさなければ?
そう思うと、抑えようのない寂しさのような物が襲ってくる。
その感覚がどこか懐かしい。
懐かしくて、熱くて、冷たくて――痛い。
■挟道 明臣 >
物思いにふけっていたのは、せいぜい数分程度だっただろうか。
現実に意識を引き戻したのは着信を告げる端末の振動。
着信元は――紅龍。
あの野郎、ちゃっかり生きてやがったか。
怪我の程度は伝え聞いていた。
それでもこの島の中でも指折りの医療技術を充てられた以上、万が一は無いと踏んでいた。
アイツらは死んでいなけりゃあらゆる手段で人を生かす。
ともあれ、連絡寄こしてくる程度に回復するのはもっと先だと思っていたが。
まぁ、開口一番で無茶しやがってと灸でも据えるか。
そんなことを思いながら取った通話から聞こえてきたのは、冷たい合成音声。
「……は?」
薄暗がりの中、呆けた声が洩れる。
『繰り返します。
登録に従い、緊急連絡先各位に通達。
紅特務准佐は――殉職致しました』
「おい、待てよ!」
通達は以上です。
その一言と共に一方的に通話は切れた。
ご案内:「落第街 路地裏」にジョン・ドゥさんが現れました。