2023/06/27 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」にスティールバイソンさんが現れました。
スティールバイソン >  
俺様が赤の複合合金製のスーツ。
バイソンスーツを着てこんなところに来ているのには理由がある。

俺様の金を金庫から盗んだ不届き者の制裁に来ている。
多少、手先が器用なようだが。

命乞いも器用にこなせられるといいなぁ……?

スティールバイソン >  
既に俺様の部下が盗人のガキを捕まえている。
随分と痛い目を見たようだが………

本番はこれからだぜ。

「おい、そこのボロクズ……」
「俺が汗水垂らして働いた金をギってどこに行くつもりだったんだァ?」

「ちょっと話してみろよ……俺様の気が変わるかも知れねぇ…」

日が落ちてきた。
こいつが見る最後の日かも知れないのに、哀れなもんだ。

少年 >  
「み、見逃してくれよ……」
「姉さんが病気なんだ………」

「金さえあればまともな医者にかかれるんだ、だから」

スティールバイソン >  
「だからなんなんだクソガキッ!!」

ガキを蹴り飛ばす。
想像よりしょうもない言い訳だったなぁ……

俺様の怒りに火を注いだだけだぜ!!

「何の異能者だお前……あの鍵には金かけてたってのによォ」
「いや、いや。焦んなくていいぜ」

「お前の骨でも折りながらたっぷり話は聞かせてもらうからよぉ」

拳を鳴らす。

「盗んだ、逃げた。そこまでは良かった、順調だった」
「だが月に叢雲花に風………良いことってのは続かないもんだ」

部下たち >  
「えー、そいつ殺すんスかバイソンさん」

ニヤニヤしながらこれから起きるショーを見ている。
いやバイソンさんが人殺したところ見たことねーけど。

スティールバイソン >  
「こいつの態度次第ってところだなァ………」

ガキの頭を引っ掴んで。

「こいつがどうやって鍵を開けたか自発的に喋ってくれてよォ」
「俺様たちのために誠心誠意働きますって言うなら…」

「半殺しで済ませてやろうってかぁ?」
「ガハハハハ!! 俺様って本当に慈悲ってもんがあるからなぁ!!」

少年 >  
畜生。姉さんは今頃、苦しんでいるのに。
僕は何もできない。
盗みは悪いことだとわかっていた。

だけど僕にはどうすることもできない。
姉さんを治すことも、金を用意することも。

スティールバイソン >  
「何だんまりを決め込んでんだ?」
「黙ってる、じっとしてる。それすらテメェに許されちゃいねぇぜ」

「そもそも何が姉さんだ、実在すら怪しいぜ」
「仮にいたとしても二級学生が娼婦稼業でビョーキになったくれぇだろ?」

「オイオイ、まぁだ黙ってるってことは図星かよォ?」

周囲の仲間と共にゲラゲラと嘲笑った。

少年 >  
急に立ち上がって鋼鉄を纏う巨人に掴みかかった。

「姉さんをバカにするなッ!!」

ボロボロで、あちこち痛くて。
勝てそうになくて、辛くて。

でも、それだけは許せない!!

ご案内:「落第街 路地裏」に挟道 明臣さんが現れました。
挟道 明臣 >  
か細くて、弱くて。
それでも確かに聞こえた少年の叫声。

「よく吼えたよ、お前」

誰に言うでもなく小さく呟き。
トン、と。少年を取り囲むように集まった人垣の上から、ひとつの影が降りてくる。

「この街の全ては自己責任、口出すつもりは無かったんだが」
「こうもうるさくされると眠れもしなくてな」

どうした、ちいせぇ事で騒いでんじゃん、と。
金色の瞳であたりをねめつけるようにして、ヘラヘラと男は笑う。

スティールバイソン >  
掴みかかってくる少年を殴り飛ばそうとして。

その時、舞い降りる影。

「なんだテメェは……!!」

金色の瞳………!!
最早、常世学園では伝説だ。
特殊な異能を持つ者、その証左だと。

だが、関係あるかッ!!

「見世物じゃねぇぞ、失せやがれ!!」

茶髪の男に掴みかかる!!

挟道 明臣 >  
「まぁ落ち着けって、旦那」

赤の合金に包まれた丸太の如き太腕。
それを軽々と左腕一つで受け止めて、顔色一つ変えずにそう告げる。
衝撃と摩擦で縫製の破れた手袋の内から暗い色、異形の色がちらりと覗く。

「アンタにも面子ってもんがあるんだろうが、周りで騒がれて迷惑してるのに変わりは無くてな」

ヒラヒラと振って見せる指先には痺れ。
パフォーマンスとして受け止めた衝撃は生身の肉体にまで浸透して、
闘争の気配に身体の内側でナニかが騒ぐ。
平静を装う内で駆け上がる心拍を抑え込んで、気だるげに笑う。
落第街の男の、やせ我慢。

「それに――開けんのに数分とかからねぇようなオンボロ使ってるのもどうかと思うぜ」
「掴まされたんならご愁傷様としか言えねぇが、俺ならソイツにアタるね」

なんせガキを叩くよか金になる。

スティールバイソン >  
「ヌウ!!」

左腕一本で……だと!?
こいつの手袋の内側にあるのは……!!

「なんだ……ワカってんじゃねぇか…………」
「面子ってのは大事だぜ……何に置いても優先される…」

拳を振り上げて。

「テメェみたいな兵六玉にッ!!」
「あれこれ指図されてハイそうですかと従ったら!!」

「それこそ面子が丸潰れなんだよォォォォ!!!」

そのまま右拳を振り下ろした。
剛腕の一撃、受ければ重傷コース。

挟道 明臣 >  
振り上げられた拳。
さすがに避け――られない。
割って入るようにしたのだから当然だから、背後には少年。

「……ッ!」

轟音。
木の幹を割ったような、乾いた破砕音。

「っ痛ぇ……落ち着けっつった端からこれだ」

メキメキと、木々の擦れあうような音を立てて男は其処に居る。
その左腕は既に人の形を成さず、二つに割れたそのままに一呼吸の間に成長を繰り返していく。
ザワザワと。爆ぜた左腕の破片から急速に、ナニかが育つ。

「なぁ旦那。
俺は我儘を聞いてくれって頼みに降りて来ただけなんだよ」

木々が育ち、枝分かれして行く。
面子が丸つぶれ、ってのはその通りだ。
金庫破りをしたような輩を何もせずに逃したとなれば、示しが付かない。

「頼みに来たんだよ、そこのガキを買わせてくれってさ。
 もちろん相応の金額くらいは出すつもりでな」
「駄目だって言われりゃ、そりゃあ――落第街のやり方でやるつもりだけどさ」

ザワザワと、伸びた枝葉の先で拳大の実が実る。
縦に長い瞳孔を携えたそれは、むき出しの人の眼球にも似たグロテスクな黄色。

「話、聞いちゃくれねぇか」

割けた肩口。
その内側から覗く無数の瞳と共に双眸をスティールバイソンに向け、男は改めて問う。

スティールバイソン >  
材木の擦れるような音……!?
完全に俺様の剛腕は入ったはずだ!!

入院コースだ、完全に完全に完全にィッ!!

左腕が砕けた後に魔が顔を見せていた。

「ヴ………」

言葉にならない言葉と共に後退り。
ダメだ、これは……相手にしちゃいけねぇやつだ…!!

ヤツの無数の瞳に射竦められた時、俺様は……
リアルに死をイメージしていた。

どんな死に方も相手の意思次第。
そんなデス・イメージだ。

「ク………ハハハ……ガァーッハッハッハッ!!」

高笑いをして。
「いやぁ、その少年がお姉さんを助けたいって言ってさ…」
「俺、ちょっと感動しちゃったんだよね……」

「お金、持っていきなよ」

「お姉さんの病気、治るといいねッ!!」

半泣きでそれだけ言葉を放ると、部下たちを引き連れて逃げていった。

面子がどうとか。
金がどうとか。

もう考えてはいなかった。